薬剤師の働き方 公開日:2020.09.10 薬剤師の働き方

薬局薬剤師の役割、責任とは?仕事内容を含めて薬剤師が解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師など地域で求められる薬剤師像とは?

薬剤師の仕事は、調剤や服薬指導が基本です。しかし、地域医療が推進される中、これからは、ますます「患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供する」という役割と責任が求められるでしょう。患者さんの処方薬や疾患の情報だけでなく、生活習慣などを把握するのも大切な仕事。地域の信頼を得て、気軽に相談できる「かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師」として認められるために、薬局薬剤師に求められる役割や責任について詳しくお伝えします。

1. 薬局薬剤師に求められる役割とは?

厚生労働省は国民にかかりつけ薬局を持つことを呼びかけており、同時に薬局側に対しても、地域に密着した医療提供施設としてあるべき姿を提示しています。そして、その多くが薬剤師の対応に関わるものです。調剤や服薬指導、OTC医薬品の販売だけでなく、健康相談への対応、健康づくりに関する情報提供など、地域住民全体の健康意識向上につながる活動を行うことが望まれています。さらには在宅医療への参入によって、ときには家庭内の除菌、害虫の駆除相談への対応など服薬指導の範囲を超えた活動を行うシーンが出てくるかもしれません。

 

こうした働きを通して、自分の薬局を地域に密着した、かかりつけ薬局に育てていくことが薬局薬剤師の重要な役割です。

 

1-1. かかりつけ薬局とは

薬をもらう薬局を1カ所に決めてもらうことで、患者さんが使用する薬の重複処方や相互作用が起こることを防ぎ、個々の健康相談に対応するのがかかりつけ薬局の役割です。患者さんにとっては、顔なじみの薬剤師がいることで、服薬に関する疑問などを気軽に相談しやすいというメリットもあります。

 

1-2. かかりつけ薬剤師とは

特定の患者さんの担当薬剤師となって健康状態を把握し、個別の状況にも柔軟に対応するのがかかりつけ薬剤師です。患者さんのライフスタイルを把握することで、「朝食を食べないので薬を飲まない」「お酒を飲んだ日は夕食後の薬を飲まない」といった細かい服薬の状況がわかります。それぞれの状況に合わせて、改善を促したり、対応策を提案したりするのもかかりつけ薬剤師の役割です。

また、かかりつけ薬剤師は、担当患者さんに24時間電話対応できる体制を整えているのが大きな特徴です。救急車を呼ぶほどの緊急性はないものの、健康について心配ごとがある時の相談役として対応します。そのほか、医療機関と連携して情報を共有したり、症状によっては患者さんに受診を促したりするなど、個々の状況に応じてサポートを行います。。

2. 薬局薬剤師の責任

薬剤師には、患者さんの健康を守るにあたり、法的責任と社会的責任があります。具体的にどのようなことに注意すればよいのでしょうか。

 

2-1. 薬局薬剤師の法的責任

薬剤師の法的責任は、以下のように定められています。

 

薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。(薬剤師法 第二十五条の二)

 

医師、歯科医師、薬剤師、獣医師その他の医薬関係者は、医薬品等の有効性及び安全性その他これらの適正な使用に関する知識と理解を深めるとともに、これらの使用の対象者(動物への使用にあっては、その所有者又は管理者。第六十八条の四、第六十八条の七第三項及び第四項、第六十八条の二十一並びに第六十八条の二十二第三項及び第四項において同じ。)及びこれらを購入し、又は譲り受けようとする者に対し、これらの適正な使用に関する事項に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならない。(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第一条の五)

 

薬剤師は調剤した薬を患者さんに渡す時、薬に関して必要な情報提供をするだけでなく「指導」を行うことも法律でも定められています。患者さんの服薬状況や生活習慣を聞き取ったうえで、患者さん一人ひとりに合わせた最新情報の提供や適切な指導を行う役割があります。

 

2-2. 薬局薬剤師の社会的責任

薬剤師に求められている社会的責任は、「地域医療の実現」や「医療費の削減」を推進することです。そのためにも、薬局薬剤師は患者さんの服薬情報を一元的に把握することが大切です。

 

患者さんが受診するすべての医療機関の処方情報を一元的かつ継続的に把握し、薬学的管理・指導を行うことによって、患者さんのアドヒアランスを向上させていくことが求められています。また、減薬や残薬調整による医療費削減も薬局薬剤師に求められる役割のひとつ。日本の医療費問題においても薬剤師の役割が問われています。

3. 薬局薬剤師の仕事内容

薬局薬剤師の主な仕事内容には以下のようなものがあります。

 

3-1. 処方せんに基づいた薬の調剤

医療機関から発行された処方せんに基づいて調剤を行います。調剤においては、処方せんとして不備がないか、用法用量、相互作用に誤りがないかを慎重に確認します。不備や疑問点があれば、疑義照会を行うことも薬剤師の仕事です。

 

3-2. 服薬指導、薬についての相談

服薬指導では、処方薬の説明だけでなく、医師の処方意図について確認します。定時薬であれば、症状や副作用、服薬状況などを聞き取り、必要に応じてアドヒアランス向上のためのアドバイスを行います。

 

3-3. 在宅業務

在宅業務では、処方された薬を患者さんの自宅まで届け、服薬状況を確認します。在宅医療を受ける患者さんは、身体的・精神的理由によって服薬管理ができない場合があります。薬の管理は誰がどのようにしているのか、飲み忘れはないか、新しい薬が追加されていないか、服薬で不便なことはないか、などを聞き取ることが大切です。

 

ヘルパーや訪問看護師、デイサービスなどを利用している場合は、担当者とも連携を取り、患者さんをサポートできる環境を整えなければなりません。

 

3-4. 医療機関、施設等と連携

薬局薬剤師には、地域医療との連携を密にすることが求められます。今後、高齢者の増加にともない、在宅医療を受ける患者さんが増えると予想されます。そこで重要な役割を担うのが、在宅医療での服薬管理に携わる薬局薬剤師の存在です。薬局薬剤師は退院時カンファレンスへ参加し、医師、看護師、管理栄養士、ケアマネジャーなどの医療従事者と連携することで、退院後の服薬管理を整える役割を担っています。

 

3-5. OTC医薬品などの販売

OTC医薬品を販売している薬局では、処方薬以外の知識も必要です。OTC医薬品には処方薬にはない成分を使っているケースがあるため、専門的な知識を身につけ、情報提供できるスキルを身につけておきましょう。

 

3-6. 健康に関する相談

患者さんが健康を維持・向上するためには、処方された薬をしっかりと飲むだけでなく、生活習慣を整えることも大切です。適度な運動や食事など、健康維持・向上につながる生活習慣のアドバイスをするのも、地域に密着した薬剤師の役割といえます。

4. 薬局薬剤師の専門性を高めるには

さまざまな悩みを抱える患者さんをサポートするために、地域の特徴に合わせて専門性を磨くことも大切です。特に薬剤師として、地域医療に貢献できる資格をいくつか紹介しましょう。

 

4-1. プライマリ・ケア認定薬剤師

プライマリ・ケアは、健康福祉に関わる問題に対し、総合的に解決していこうとする活動です。身近に起きた健康問題について、たとえば「こんな症状の時は何科を受診したらいい?」「認知症の親をどのように介護すればいい?」などの相談に対して、解決の糸口を見つける役目を持ちます。地域における薬剤師の役割を大きく広げる資格といえるでしょう。

 

4-2. 日本褥瘡学会認定師

褥瘡(じょくそう)の予防において、医療を施す知識と技術が認められます。褥瘡の予防となる体位変換を指導したり、スキンケアや栄養管理、褥瘡治療薬の相談に乗ったりと、寝たきりの患者さんを看護する方をサポートできるため、在宅医療に参画する薬局薬剤師にとって、活用性の高い資格です。

 

4-3. 緩和薬物療法認定薬剤師

強い痛みを持つ患者さんに対し、緩和ケアに従事できる薬剤師の認定資格。主に、がん患者さんを対象として、在宅療養中に起こる身体的苦痛を和らげるため、専門的な薬剤を扱えるようになります。がん治療後の在宅医療において、緩和ケアに欠かせない資格です。

 

4-4. 漢方薬・生薬認定薬剤師

処方せんに記された漢方薬だけでなく、OTC漢方薬のスペシャリストとして処方を提案することが認められます。たとえば、風邪の症状が気になる患者さんに対して、発熱、鼻水、喉の状態などを確認しながら、複数あるOTC漢方薬のなかから最適なものを提案できる資格です。

 

4-5. 栄養サポートチーム(NST)専門薬剤師

服薬指導に加え、日常の栄養指導により、改善に向けた手厚いサポートが可能となる資格です。また、地域住民への栄養指導を行うことで、病気予防にもつながります。

5. 地域の健康相談窓口として

薬局を利用するのは、処方せんを持っている方ばかりではありません。日用品や衛生用品の購入が目的の方もいるでしょう。健康面だけでなく、日常生活をサポートするのも薬局薬剤師の役割です。薬やサプリメントの利用相談から、家庭の食品衛生、介護に役立つグッズの紹介など、持てる知識を活かして伝えられることはたくさんあります。

 

たとえば同じOTC医薬品を短期間で何度も購入される方には、症状の改善が見られないと判断し、病院の受診を勧めるのもよいでしょう。また、サプリメント購入の相談には、病院から処方された薬との併用に注意を配ります。

 

ほかにも、何気ない体調に関する相談も貴重です。病院に行くべきか迷っている方は多く、相談役として定着すれば、頼れる存在として喜ばれるでしょう。さらには、夏休みにリトマス試験紙など自由研究に使う道具を求める子どもたちから、宿題の相談を受けることも。薬剤師の知識を活かし、“地域の相談役”として丁寧な応対をしましょう。

6. 薬局薬剤師は地域の健康見張り番

薬局薬剤師の役割は、地域住民の病気の改善や予防、健康づくりのサポートを行うことです。その務めを十分に発揮するためにも、まずはひとりでも多くの地域住民から「かかりつけ薬局」として指名してもらうことが大切。これからは、他の医療従事者と連携を取りながらその職能を発揮すること、患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供することが求められます。地域から求められる薬局薬剤師として、さらなるスキルアップを目指したいものです。

 

※2015年7月1日記事公開、2020年9月10日最終更新


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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