インタビュー 公開日:2020.11.27 インタビュー

薬局に必要な冬の新型コロナ対策とは?感染症コンサルタント・岸田直樹先生にインタビュー

 

感染症の流行期ともいわれるこれからの季節、薬局ではどのような対策を講じるべきなのでしょうか。感染症コンサルタントとして活躍し、札幌市の新型コロナウイルス感染症対策にも尽力する岸田直樹先生に対策のポイントについて伺いました。
※本インタビューは2020年9月29日にオンラインにて行ったものです。

薬局でのクラスター発生を防ぐために

 

一般的な感染対策を考えるときに重要なのは、「感染した場合に致死率の高い人がどのくらいいるか」という観点から、その場におけるリスクを正しく把握することです。例えば、免疫抑制状態の患者さんが大半であるがんセンターや大きな急性期病院と、病状が落ち着いている患者さんが多い慢性期病院では、感染対策のレベルは異なります。

 

さらに新型コロナウイルス感染症の場合は、心疾患や呼吸器疾患を抱える人、そして高齢者全般の死亡率がかなり高いという特徴がありますから、高齢者の利用率が高い薬局や医療機関や介護施設においては今後も「急性期病院レベル」の感染対策が必要となるでしょう。

 

「この冬が勝負」と強調する岸田直樹先生

 

そもそも薬局は、これまでにも感染対策における「抜け穴」になってしまうケースが多かったように思います。例えば、病院ではインフルエンザが疑われる患者さんが隔離されているにもかかわらず、その患者さんが処方箋を受け取った後に薬局の待合室で高齢者や妊婦の隣に座っている、といったことが生じていたわけです。これは医薬分業の弊害のひとつで、コロナ禍をきっかけに顕在化した課題だといえます。病院は患者さんが行く薬局を指定できなかったために患者さんの情報も薬局に渡っていませんでした。今後は、病院と薬局の連携をさらに深めたり、薬剤の宅配サービスを導入したりして、感染症の患者さんが直接薬局を訪れなくて済むシステムを整えるべきでしょう。

 

ですので熱や咳のある患者さんが来局しないことが第一ですが、万が一直接来局する患者さんが現れた場合は、即座にマスクや手指消毒などの対応をしてもらい、一刻も早く薬局から離れていただくように調整をするしかない。もしも車で来局しているようなら、「〇〇さんのお車までお持ちしますから、そちらでお待ちください」と声かけをして車の中で待機してもらうのもいいですね。

 

ちなみに薬局では患者さんと薬剤師の間に透明の衝立をしているケースがありますが、衝立の下の部分が大きく空いているタイプの場合、そこから飛沫が飛散する可能性があるので効果としては疑問が残ります。

正しい個人防護具の使用と店舗内の換気を!

 

皆さんご存じの通り、新型コロナウイルス感染症は、口から出た飛沫による感染例が非常に多いという特徴があります。万が一にも自身が感染していた場合に「他者(特にハイリスク患者)にうつさない」ことが重要で、だからこそマスクの着用が効果的なのです。特に自分が医療用のサージカルマスクを着用したかどうかは、濃厚接触者の判定基準にも関わってきますから、医療機関では必ず医療用のサージカルマスクを着用しましょう。

 

医療用サージカルマスク

 

最近では、口元を透明のシートで覆ったマウスシールドも見かけるようになりましたが、顔全体が見えやすいというメリットはあるものの、すき間が大きいため一部の飛沫しか捕捉できず、効果は限定的であることを覚えておきましょう。一方、顔全体を覆うフェイスシールドは「自分を守る」ためのもので、口や鼻はもちろん、目からの飛沫感染を防ぐ目的で使用されます。患者さんがマスクを着用できないケースでは役立つでしょう。

 

マウスシールド(左)とフェイスシールド(右)。
フェイスシールドにはゴーグル付きタイプのものもある。

 

感染対策としては、換気も重要です。薬局の店舗ではスペースが限られていることも多いでしょうから、十分に空気を入れ替えることが大切です。気温がさらに低下する冬場も引き続き換気は行ったほうがいいでしょう。暖房器具を活用することはもちろんですが、患者さんに厚着での来局を促すことも必要かもしれません。新しい店舗では換気システムが整っていることも多いでしょうが、排気口にホコリがたまるなどして、十分に機能を発揮できないケースも散見されますので定期的な確認と掃除も欠かさないようにしましょう。最近では、紫外線照射やオゾンによる室内環境改善も注目されています。必要十分な効果が期待できるかどうかは議論の余地が残るものの、どうしても換気が難しい部屋などでは、導入を検討してもいいかもしれません。

「持続可能な対策」で長期戦を勝ち抜こう

 

いまは厳しかった感染対策を緩和する時期にきており、2020年7月からはGo Toトラベルキャンペーンも始まりました(※編集注:2020年11月27日現在、政府は札幌市と大阪市を目的地とする旅行の新規予約を一時停止とするほか、予約済みの旅行についても12月2日~15日分を割引対象外とする発表をしている)。一部に批判的な声もありますが、個人的には、一概に旅行を「悪」ととらえるよりも、「いかに感染しないように旅行できるか」という視点を持つほうが建設的だと考えています。「食事」「会話」「移動」など、旅行にともなう行為の多くは日常生活でも必ず行うものですから、それらの場面ごとに適切な感染対策を講じることが基本です。しかし、旅行中にはつい気が緩んでしまい、人込みでマスクを外したり、食事中に大声で話してしまったりすることがあり得ます。プライベートの時間でも、医療従事者として自覚ある行動を意識したいところです。

 

多くの感染症と同様、新型コロナウイルスは冬季に流行しやすい傾向があると考えられています。今後も感染が拡大する可能性は十分にあり、感染症専門医として「この冬が本当の勝負」だと感じています。インフルエンザの同時流行も懸念されているので、手洗いやマスクの着用を徹底するほか、薬剤師の皆さんも可能な限り予防接種を受け、万全の状態で冬を迎えてほしいと思います。

 

新型コロナウイルス感染症が完全に終息する目途は立っておらず、今後も長期的な視点での対策が必要です。ここで想像してほしいのが「振り子」です。非常事態宣言が出された当初は、厳しい対策を実施する方向へグッと振り子が動きました。しかし、現在は過剰だった感染対策をうまく「引き算」する段階に入っており、振り子が逆サイドに振れつつあります。こうして少しずつ調整を図りながら、次第に対策の精度が上がっていき、一点に収束していくイメージです。こうした流れを踏まえつつ、自施設や地域の状況を把握し、最適な感染対策を模索していくことが、「持続可能な新型コロナ対策」につながるのではないでしょうか。ぜひ、適切な感染対策の情報を伝えるひとりに、薬剤師がなってほしいと思います。

 

取材・文/中澤仁美[ナレッジリング]

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岸田直樹(きしだ・なおき)

北海道科学大学薬学部客員教授
総合診療医、感染症専門医、感染症コンサルタント
Master of Public Health(北海道大学大学院医学院修士課程公衆衛生学コース)
一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事

北海道函館市生まれ。1994年函館ラ・サール高等学校卒業。1995年東京工業大学理学部中退。2002年旭川医科大学卒業。手稲渓仁会病院初期研修,同総合内科・医学教育フェロー修了。2008年静岡県立静岡がんセンター感染症科フェローを経て,2010年手稲渓仁会病院総合内科・感染症科感染症科チーフ兼感染対策室長。2014年よりSMA代表となり,感染症コンサルタントとしても活動。2017年より北海道科学大学客員教授。2018年北海道大学MPHコース修了(修士論文は人口学)後,PhDコースに進学し人口学と感染症疫学の数理モデル研究を行っている。趣味は温泉めぐり,物理学,村上春樹。※2020年9月取材時

 

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