インタビュー 公開日:2020.09.18 インタビュー

薬局と薬剤師の働き方を変える「ピッキングコンパス」とは?

カラフルな薬棚に据え付けられたディスプレイの指示に従うだけで、誰でもミスなく薬剤を取り出せる……。そんな画期的なピッキング支援システム「PickingCompass(ピッキングコンパス)」(特許第6757081号)をご存じでしょうか。2020年9月1日に販売されたばかりの同システムの開発元である株式会社シルバコンパスの井本健太郎氏(代表取締役)と安田晴彦氏(取締役)に、開発の経緯や魅力について伺いました。

ピッキング支援システム「ピッキングコンパス」と井本健太郎代表取締役(右)、安田晴彦取締役(左)。

 

ディスプレイ技術を応用した調剤業務ナビゲーションシステム

――医療分野の出身ではないおふたりが、ピッキング支援システム「ピッキングコンパス」の開発・販売を手がけることになったきっかけについて教えてください。

 

安田取締役(以下、安田):もともと私は、2005年に立ち上げた有限会社クロマニヨンという会社で、映像ディスプレイのソフト・コンテンツ開発に携わってきました。例えば、商業施設や映画館の案内ディスプレイで、より人を魅了する表示の仕方や、人の行動をデザインすることに挑戦してきたのです。

 

あるとき、薬局から「店内を案内するためのディスプレイを導入したい」というリクエストがありました。現場を訪れると、薬剤師の方々が決して広くないスペースの中で行き来しながら薬剤を取り出している姿を見て、「調剤業務をナビゲーションする仕組みが作れないだろうか」という発想が浮かんだのです。医療については門外漢でしたが、ちょうど「0402通知」※が出されたこともあり、今後必要になる技術に違いないと確信して開発をスタートしました。

 

※0402通知:2019年4月2日、厚生労働省が通知した「調剤業務のあり方について」と題された文書で、ピッキングや一包化した薬剤の数量確認などについて、一定の要件を満たせば非薬剤師による補助を認めることとしたもの。

 

株式会社シルバコンパス代表取締役の井本健太郎氏。外資系計測器メーカーでのキャリアを活かし医療分野に参入する。

 

井本代表取締役(以下、井本):安田と私は小・中学校の同級生です。彼の発想や開発の苦労を聞くうちに、その熱意に打たれ、外資系の計測器メーカーから当社に移りました。「情報を見える化して分かりやすく表示する」という手法は、計測器とも共通するものがあるように思います。その後、システムがかたちになったところで、2019年10月に開催された「第2回地域包括ケアEXPO」内の薬局フェアへ出展しました。薬剤師や関係者の皆さんにご覧いただいたところ非常に反応が良く、自分たちのコンセプトは間違っていなかったと実感できました。

「自分のカラー」を追うだけのシンプルな仕組み

――実際に「ピッキングコンパス」を使用するときの流れを教えてください。

 

井本:まず、処方箋のバーコードなどを読み取ると、患者さんや薬剤の情報が当社独自のシステムに取り込まれ、PC端末に一覧で表示されます。そして、ピッキングを行うスタッフがリングマウスを装着してシステムを起動すると、薬棚の上に設置されたディスプレイの表示で「何色の棚から、どの薬剤を、いくつ取ればいいか」がわかるのです。ディスプレイに従って棚から薬剤を取る度にリングマウスをクリックすると次に取る棚が示され、表示に従ってピッキングを行っていきます。

 

安田:リングマウスは最大10個まで使用可能(2020年7月時点)なので、つまり最大10人のスタッフが同時にピッキング作業を行えます。リングマウスにはそれぞれキーカラーがあるので、その日出勤したスタッフがひとつずつ装着すると、「Aさんは青」「Bさんはオレンジ」というようにマイカラーが決まります。自分の色が表示されたディスプレイの指示に従っていくだけなのでピッキングの際に迷いません。処方箋を手に持って、五十音順などに並べられた薬剤を探していく従来の方法と比べると、非常にシンプルで分かりやすいはずです。

■ピッキングの流れ

①リングマウスを人差し指に装着する。

②リングマウスを装着した状態で、PCのシステムを起動。この作業時の「マイカラー」は青。

③青のディスプレイを追っていく。薬の画像が表示された縦列のなかから、画像の枠と同じ色(ここではターコイズブルー)の引き出しから、表示された個数を取り出す。画像と実物を照らし合わせてミスがないかも確認。

1つ目の薬剤を取り終えたらリングマウスをクリック。すると次に取り出す列が示されるので、③~④を繰り返す。

 

井本:ディスプレイには通常ピッキングする薬剤の名称と写真、個数が表示されますが、必要に応じて注意喚起のメッセージも表示されます。また、システムですべての薬剤の位置が管理されているので、どの順番で薬剤をピッキングすれば無駄なく動けるかも自動で判断されます。いわば、調剤室のカーナビですね。たとえ薬剤の知識がまったくないスタッフでも、業務を始める当日から最短経路でミスなくピッキングできることをめざしました。薬剤師免許を持たない調剤補助員でもピッキング作業ができるよう、「判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること」という0402通知の条件を満たすシステムになっています。

――システムの導入には、どのくらいの手間と費用がかかりますか。

 

安田:基本的には、その薬局で使用している既存の薬棚の上部に、厚さ2cm程度のディスプレイを設置するだけです。あとは、当社のソフトウェアが稼働する専用PCを設置すること、薬棚を色分けするシールを貼ることですね。

 

井本:10台のディスプレイ代を含む導入費用が約250万円(税別)と、一般的な自動調剤機と比較して初期コストが4分の1程度に抑えられることは大きな魅力だと思います。ランニングコストは月額数万円程度と想定され、消費電力もわずかです。ご興味のある方は、まずは無料モニターとして使い心地を体験してみてください。

「位置の暗記」を最小限にして薬剤師本来の業務に注力できる

――「ピッキングコンパス」を導入することで、現場の薬剤師にはどんなメリットがあるでしょうか。

 

井本:調剤補助員に薬剤の位置を説明したり一緒に探したりする時間、さらにどの棚にどの薬剤が入っているかを覚える時間を削減することができます。一つひとつのアクションに要する時間はわずかでも、積み重ねればかなりのボリュームになります。また、極めて正確なピッキングが実現できるので、監査を担当する薬剤師の負担を減らすことができます。そうして生み出された時間は、疑義照会や患者さんとの対話など、薬剤師としてより注力するべき業務に充てられるようになります。

 

安田:ピッキングに慣れているからこその思い込みによるミスを防止できる点もメリットです。さらに他店舗のヘルプに入ったときにスムーズに業務を行える点も魅力です。薬局によって取り扱う薬剤の種類や収納場所は異なるので、初めての薬局での業務は戸惑うものですが、その心配もなくなります。ちなみに、処方箋の小さい文字が読みづらく、何度も見返していた方や老眼などで苦労されていた方にも好評です。

 

株式会社シルバコンパス取締役の安田晴彦氏。映像制作やソフト開発事業を行う有限会社クロマニヨンの代表取締役も兼任する。

 

井本:データが蓄積されれば、薬棚の最適化につなげることもできます。五十音順や種類別といった従来の整理法に縛られず、最も効率的かつミスの起こりづらい薬剤の配置を実現できるわけです。また、使用頻度が低い薬剤は引き出しにしまってあったり、別室で管理していたりするケースもあるでしょう。そうした場合も「2階のAの棚にあります」というように表示されます。つまり、「薬棚の外」も同時に管理することができるのです。

 

安田:これまで各自が棚割りを頭にたたき込んで行うべきとされてきたピッキング作業ですが、それが本当に薬剤師本来の仕事でしょうか。高度な知見を有する専門家だからこそ、その力を最大限に発揮できるよう余計なことにキャパシティーを割かず、上手にシステムを活用していただきたいと願っています。

 

【企業プロフィール】
株式会社シルバコンパス
2019年9月設立。薬局向けピッキング支援システムPickingCompassをはじめとした、医療・介護分野の業務支援システム事業を中心に展開している。
企業ホームページはこちら。「ピッキングコンパス」の資料お取り寄せや無料モニターを希望する方はお問い合わせへ。

 

取材・文/中澤仁美[ナレッジリング] 撮影/山本未紗子[ブライトンフォト]

 

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