1. ドラッグストア薬剤師の仕事内容
日本チェーンドラッグストア協会の「日本のドラッグストア実態調査」(2018年度版業界推計)によると、約7兆2744億円にのぼり、ベビー用品、日用雑貨、医薬品から介護用品まで、すべての世代に必要な商品を扱う社会インフラとしての役割を担っているといえるのではないでしょうか。
主な取り扱い商品は、軽いケガに対処する絆創膏や包帯、消毒液などの衛生用品をはじめ、栄養ドリンクやサプリメントなどの健康食品、風邪や頭痛、膝痛など傷病時の一般用医薬品など。近年では化粧品やシャンプーなどの美容ケア関連商品も定番商品として定着してきました。その他に洗剤や歯ブラシなどの消耗品、離乳食やオムツなどのベビー・マタニティグッズ、転倒防止の杖やシルバーカーなどの介護福祉用品、体温計や血圧計、ネブライザーなどの医療機器まで、幅広い商品が展開されています。
店舗によっては、菓子パンや飲料水、アルコール飲料などの食料品に注力するドラッグストアもあるほか、調剤併設型のドラッグストアでは調剤業務も担います。
取り扱う商品の幅広さからわかるように、ドラッグストア薬剤師の業務は多岐に渡ります。
<ドラッグストア薬剤師の主な業務>
① 一般用医薬品の販売・提案
② 品出し、レジ対応、POP作成
③ 調剤業務
④ マネジメント業務
① 一般用医薬品の販売・提案
メイン業務は一般用医薬品の販売です。特に第一類医薬品や要指導医薬品は、薬剤師にしか販売することができない医薬品であり、来店者に医薬品の使用方法や注意点を説明する必要があります。
また、来店者のニーズや病状に合わせて適切な医薬品を提案するのも大切な仕事です。求めている機能を持つ商品を提案するのは当然ですが、価格やブランドといった、機能以外にも意識を払う必要があります。来店者の言語外にある商品へのニーズを引き出すことができれば、さらに価値の高い提案ができるでしょう。もちろん、治療中の病気や服用中の医療用医薬品がないかを確認し、禁忌や相互作用を含めて幅広く丁寧に指導を行います。
② 品出し、レジ対応、POP作成
一般用医薬品のみならず、サプリメントや栄養補助食品、機能性表示食品などの健康食品や化粧品・美容ケア商品の販売や在庫管理、販売促進業務にも携わります。日常業務として商品の品出しや陳列、レジ対応、POP作成、売り場のレイアウト作成、季節商品の選定といった販売促進にまでかかわる業務を行うのはドラッグストア薬剤師ならではの特徴といえます。
③ 調剤業務
調剤併設型のドラッグストアの場合、調剤薬局と同様に、処方箋にしたがって調剤、服薬指導を行います。店舗によっては、調剤のみを担当する薬剤師と市販薬を担当する薬剤師でフロアが分かれるケースもあります。服薬指導中に健康相談を受けた場合、提案できる商品の数が多いことは、ドラッグストアの利点のひとつです。
④ マネジメント業務
店長など店舗管理者になればマネジメント業務にも従事します。売上管理や、大口の購入先への営業、スタッフの販売スキル向上などの仕事も増えます。ドラッグストア勤務は、薬剤師や販売士としてのスキルアップのほかに、リーダーとしてのビジネススキルを磨くこともできる職場です。
2. ドラッグストア薬剤師のやりがい
病院や調剤薬局とは異なり、ドラッグストアは一般の消費者が多く立ち寄る場所です。そのため、接客が好きな人にはとてもやりがいがある職場といえるでしょう。
薬の話だけでなく個人的な悩みを打ち明けられるなど、頼りにされて嬉しく感じることもあります。また、自分のおすすめした商品を購入してもらえたり、リピートしてもらえたりすると、やりがいを感じられるはずです。仲良くなった来店者から、口コミで他の顧客を紹介されることもあります。自身の知識や経験、そして接客スキルの成果を実感しやすい職場ではないでしょうか。
能動的に提案できるのもドラッグストア薬剤師の魅力でしょう。病院に行くほどでもないほどの不調を感じる来店者に対し、親身になって提案できるのも薬剤師ならではです。問診で健康状態を聞き、適切な一般用医薬品の提案をして「症状が改善しました」と言われれば、モチベーションの向上にもつながります。
医薬品だけでなく健康食品やサプリメント、介護用品や衛生用品の販売や健康相談などを通してセルフメディケーションを支援できる環境は、来店者の健康を支えている実感を得られるはずです。
また前述の通り多岐にわたる業務に携われることは、自己成長を促す環境といえます。健康支援(セルフメディケーションの相談、OTC販売)や対人業務(接遇スキル、服薬指導)、医療知識とスキル(病気や薬の知識、在宅)、マネジメントスキル(薬局管理、業績管理、リスクマネジメント)など幅広い知識と経験が得られます。薬剤師のスキルと同時に、経営やマネジメントなどのビジネススキルを磨けるため、幅広く医療業界を見る視野を養えるのも、ドラッグストア勤務の大きな特徴です。
3. ドラッグストアの薬剤師の厳しさ
ドラッグストア勤務には厳しさもあります。前述の通り、調剤のみならず、レジ打ちや値段付けや品出し、POP作成や売り場作りなど販売員としての細かい仕事が多いため、そうした作業に苦手意識があったり、興味がもてなかったりする薬剤師はつらく感じるかもしれません。
また調剤薬局と異なり、ドラッグストアは土日祝日や連休中も勤務する場合があります。「年中無休」や「24時間営業」を行う店舗の場合、自分が希望する日に休暇をとりにくい勤務環境かもしれません。全国展開をしているドラッグストアは転勤などで勤務地が変わる可能性もあります。
加えて、病院や調剤薬局と比べると、医療用医薬品の取り扱いが少ない店舗もあります。臨床現場から離れるために最先端の医療に携わっている感覚が薄れ、薬剤師の専門性を高めるといった観点では、物足りなく感じるかもしれません。
4. 求められるドラッグストア薬剤師
どの業界もそうですが、時代の変化に柔軟に対応できない薬剤師は淘汰されていきます。ドラッグストアでは物流や在庫管理などのオートメーション化が進んでおり、商品管理が得意なだけでは自身の価値を高めていくことはできません。
同様に、一般医薬品や化粧品などのカウンセリングも、来店者自身がタブレット型の端末を利用して適した商品を選択できるようになるなど効率化が進んでいます。AI化が進めば、来店者の細やかなニーズに対し最適な商品を提案することも、機械でできるようになるかもしれません。
売上管理や人的管理もAIによってビッグデータの集積が可能です。そのため数値管理が得意なだけでは物足りない人材になっていきます。今後は機械、データ、AIなどをうまく活用して実務に活かせる薬剤師が求められると考えられます。
またコミュニケーション能力を含めた人間性の魅力は大切です。信頼できる、知識が豊富、誠実など魅力的な薬剤師から商品を買いたいという気持ちは今後も変わることなく求められるため、キャリアアップを考える際にも重要なポイントとなります。
5. ドラッグストアの薬剤師の年収
現役薬剤師500人に聞いたマイナビ薬剤師のアンケートによると、ドラッグストアの平均年収は512.5万円。病院薬剤師(434.6万円)や調剤薬局(488.3万円)よりも高水準です。
ドラッグストア薬剤師は転勤の可能性があることや、複数の店舗を束ねる管理職の求人ニーズも高いことから給与水準が高い傾向になると考えられます。上記の数字はあくまで平均ですので、年収水準は勤務地域や年齢、キャリア、スキルなどの要素によっても影響されます。
6. ドラッグストア薬剤師のキャリア
ドラッグストア薬剤師は、一般薬剤師から店長や薬局長などの店舗管理者へと役職のステップアップをすることが一般的です。担当店舗の売上実績や人員マネジメント面で成果を出すと、複数店舗を管理するエリア長やブロック長などへと昇進していくことになります。
一方で、役職によるステップアップではなく、OTC販売のスペシャリストを極めるキャリアアップの方法もあります。POP作成や売り場レイアウト、商品知識、販売スキルを磨くことで、販売員として店舗に欠かせない存在になれるでしょう。サプリメントアドバイザーやサービス接遇検定などの資格取得もキャリアアップに役立ちます。
店舗で経験を積み、実績が認められると、本部業務にキャリアアップすることもあるでしょう。たとえば人材育成や教育などの人事部、広報部や店舗開発の営業部などの経営幹部として活躍することも可能です。
ドラッグストアは多様なスキルを身につけたり、経験を積んだりできる職場です。薬剤師として知識を深めることもでき、社会人としてもステップアップが期待できます。働き方や業務内容は企業ごと、店舗ごとで異なりますが、薬剤師の経験と自身の能力を生かす働き方のひとつといえるのではないでしょうか。
執筆/加藤鉄也
薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。
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