”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.16公開日:2021.04.13 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第67回 龍眼肉(リュウガンニク)の効能~
気血を補い、穏やかに気持ちを落ち着ける

日本薬局方にも収載され、医薬品として用いられる龍眼肉(リュウガンニク)。生のフルーツとしても、ドライフルーツとしてもおいしく、漢方処方の中でもいい仕事をします。穏やかな精神安定作用といった現代人にうれしい効能が多く、見た目も味も食感も楽しい薬食(中薬・食物)です。

目次

1.龍眼肉は老若男女問わず滋養強壮におすすめ!

日本では「リュウガンニク(龍眼肉・竜眼肉)」「リュウガン(龍眼)」「ロンガン」などと呼ばれているこの果物を、中国、タイ、ベトナムなどへ旅行したことがある方は見たことがあるかもしれません。

「龍の眼の肉」という強そうな字面ですが、実際にはライチをひとまわり小さくしたようなコロンとした丸い果物です。乳白色の果肉の中に大きな黒い種が透けて見えることから、「まるで龍の眼みたい」ということでこの名がつきました。「肉」とは、果肉・実のことをあらわしています。


ちなみに、ライチの外皮はゴツゴツしていますが、龍眼肉は比較的スベスベです。外皮の色も違うので店頭に並んでいる時は見た目が異なりますが、皮をむくとウリふたつです。

龍眼肉は滋養強壮作用のある漢方薬・食材として老若男女問わずおすすめです。中医学では補血薬(ほけつやく)に分類されており、一般的な虚弱体質のほか、貧血傾向、病後・産後といった気力・体力が弱っている時の回復に用いるのもよいでしょう。

2.龍眼肉の穏やかな安神作用

龍眼肉は、気血両虚証(気と血のどちらも不足している)の人の気血を補い、胃腸虚弱で疲れやすい人の胃腸を丈夫にします。

そしてとくに注目すべき作用が、安神作用(あんじんさよう・あんしんさよう:精神安定作用)です。龍眼肉は精神安定作用のある漢方処方に配合されており、神経の興奮を鎮めリラックスさせ、心を平安にしてくれます。

そのため、龍眼肉は「気血不足が原因」で不眠(眠りが浅い、多夢など)、心配性、不安感、動悸、もの忘れしやすいなどの症状があるときによく用いられます。これらの症状がある方のほかにも、思いわずらうことが多い、頭脳労働、心身の疲れ……などがある方の食養生としてもおすすめです。


思慮過度(思い悩み過ぎ・考え過ぎ)は、「心血(心にある血)」を消耗し、「脾気(消化器のチカラ)」を弱らせます。脾が弱ると飲食物から気血を生み出すことができなくなり、ますます気血が衰弱します。このような「心血」も「脾気」も充分ではない状態を「心脾気血両虚証(しんぴきけつりょうきょしょう=心脾両虚証)」といいます(※心脾両虚証になる原因は、この他にも色々あります)。

心と身体はつながっていますから、「心脾気血両虚証」を改善する際には、漢方薬や睡眠・運動・食事(薬膳)などの養生とあわせて、思い悩みやすい思考回路のパターンを意識して変えていくのも改善の一助となるでしょう。

3.龍眼肉の効能

ここでは中薬学書籍で紹介されている龍眼肉の効能を見ていきましょう。龍眼肉は中薬学では補血薬(ほけつやく:血を補う薬)に分類されています。ただし、すでに紹介したように、気を補うチカラもあります。

また、下記【使用上の注意】の項目に“湿阻中焦・停飲・痰火には禁忌”とあるように、用いる際には注意も必要です。

ほかの甘味(補う作用)と同様に、龍眼肉は「よどみを生みやすい」という性質があります。そのため、もともと湿邪(湿気・水のダブつき)や湿熱邪(湿邪+熱邪)のある人や、お腹が脹ったりもたれていたりする時には適しません。温性(温める性質)ですので、熱がこもっている人は食べ過ぎないようにしましょう。これらの症状がない人でも、龍眼肉を食べ過ぎるとお腹が脹ったり、もたれたりします。

効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味からイメージを掴むのに役立ちます。

龍眼肉(りゅうがんにく)

【処方用名】
竜眼肉・桂円肉・桂円・円肉・桂元肉・元肉・リュウガンニク

【基原】
ムクロジ科Sapindaceaeのリュウガン Euphoria longan STEUD.の仮種皮(果肉)

【出典】
神農本草経

【性味】
甘、温 

【帰経】
心・脾 

【効能】
補心脾(ほしんぴ)、益気血(えききけつ)

【応用】
1.心脾両虚(しんぴりょうきょ=心脾気血両虚)における、驚きやすい、動悸、不眠、健忘に用いる。
龍眼肉は、心と脾を補うが、しつこくなくて、気の流れをじゃましないため、滋補良薬(潤して補う良い薬)である。思慮過度(思い悩み過ぎ)により、心・脾を消耗し引き起こした上述の症候に対してよく用いる。単味でも効果がある。黄耆(おうぎ)・人参(にんじん)・当帰(とうき)・酸棗仁(さんそうにん)などの補気・養血・安神薬とともに用いて、効果を増強することができる。
例)帰脾湯(きひとう)

2.気血不足証に用いる。
本品は、気と血を補う効能がある。例えば、玉霊膏(代参膏)は、龍眼肉に白糖を加え、蒸してお湯で服用する。気血不足証を治療する。

【用量・用法】
6-12g。煎服。

【使用上の注意】
湿阻中焦・停飲・痰火には禁忌。

※【処方用名】【基原】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【性味】【帰経】【効能】【応用】は『中医学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの/【用量・用法】【使用上の注意】は『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より抜粋

4.龍眼肉はどこで手に入る?

龍眼肉は、中国、台湾、タイ、ベトナム、インドネシアなど温暖な地域で収穫されます。日本では鹿児島県産や沖縄県産があるようです。これらの地域では、生のリュウガンを食べられます。

私は普段はあまり生の果物を食べませんが、海外で生のリュウガンを見るとうれしくなってしまい、ミネラルウォーターで洗って食べたりしました。生の龍眼肉は食感も味もライチによく似ていますので、ライチが好きな人は龍眼肉も好きなのではないかと思います。

日本で手に入りやすいのは、ドライフルーツの龍眼肉(干し龍眼肉)です。中国食材店や漢方薬局などで通年取り扱われています。保存料・漂白剤などの添加物や砂糖などを一切使っていないものがおすすめです。漢方薬局で扱っている龍眼肉は老舗の生薬問屋さんから仕入れたものなので、品質・安全性が高く、乾燥させただけなのにとても甘くておいしいです。

干し龍眼肉には色が黒っぽいもの(褐色)と、白っぽいもの(薄茶色)があります。老舗の生薬問屋さんの話では、おおまかにいえば、果皮をむくタイミング・乾燥の方法によって色の違いがうまれる、ということでした(メーカーによって諸説あり)。色が黒っぽいリュウガンは、ただ乾燥させたバージョンだけでなく、燻製の香りがするバージョンも存在します。

5.こんな時に龍眼肉を食べよう!

老若男女問わず、滋養のある漢方薬・食材としておすすめの龍眼肉ですが、特に月経時・妊娠時・出産時・授乳時には意識的に摂るとよいでしょう。女性の健康と美容は血の状態に大いに左右されますから、補血する竜眼肉は向いています。

子宝を望む夫婦が体質改善の漢方薬を飲みながら、おやつに食べることもよくあります。ナツメとともに龍眼肉はとても人気のドライフルーツです。


ちなみに、私の祖母(90歳)は祖父が亡くなった後は、すごい勢いでドライフルーツの龍眼肉を食べていました。おやつ代わりの色々なお菓子と一緒に龍眼肉も置いておいたところ、食の細い祖母がよく食べるので私も母も驚いたほどです。悲しみがあまりに深くて心血虚になるときは、心血を補うものをからだが欲するのだなぁと思いました。祖母は心疾患・貧血も持っているため、からだが必要としているときは、特においしく感じるのでしょう(漢方薬も服用しています)。

私の漢方薬局の患者さん達(特に女性)は、会社で小腹が空いたときや、エネルギー切れしかける夕方にナツメと一緒に龍眼肉も食べているそうです。

干し龍眼肉はそのまま食べてもおいしいですし、蒸しパンやカップケーキにレーズンの代わりに入れたり、クコの実・ナツメ・白きくらげなどと一緒に煮てホットデザートにしたりしてもよいでしょう。ちなみに、わたしはお手軽カンタンなそのまま食べる派です!

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/