”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.12.15公開日:2022.06.09 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第81回 スーパーフード「桑の実(マルベリー・桑椹)」の秘めたる効能

桑の実(マルベリー)を召し上がったことはありますか? 本シリーズでは、山芋黒ゴマクルミ枸杞(クコ)白きくらげ黒豆など「アンチエイジングにもってこい」な薬食を紹介してきましたが、桑の実(マルベリー)もそのひとつ。さまざまな効能をもつ桑の実について紹介します。

目次

1.食用でもあり、薬用でもある「桑の実(マルベリー)」

中医学において桑の実は、食品としても薬としても使われる「はざま的存在」な薬食です。中薬学では「桑椹(そうじん)」と呼ばれます。食用と中薬で用いる桑の実では、細かな品種の違いはあるかもしれませんが、大まかに同じものとして説明していきます。

近年スーパーフードとして欧米や日本でも知名度が上がったので、「マルベリー」の名前を耳にしたことがある人もいらっしゃるかもしれません。中国伝統医学(中医学)では、かなり古くから食用・薬用として重宝されてきた果物のひとつで、その効能・使用の仕方が古典医学書に記されています。

2. 桑椹のはたらき:潤いを生み、 熱を冷ます

中薬学の教科書において桑椹は、「補陰薬(ほいんやく)」に分類されています。補陰薬は「滋陰薬(じいんやく)」「養陰薬(よういんやく)」とも呼ばれ、陰虚(いんきょ)や津虚(しんきょ)(※)」を改善します
(※津虚とは潤い不足のこと)

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ちなみに桑椹は、「補血薬」に分類されていることもあります。これは桑椹が「補血作用」と「補陰作用」の両方を持ち合わせるためです。
 
また、桑椹は「寒性」であり、これは冷たい性質・冷やす性質・冷ます性質があるという意味です。生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平」といいます。

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

桑椹の四気五味(四性五味)は「寒性、甘味」なので、次のような作用があることが分かります。

・寒性=冷たい性質。冷やす性質。冷ます性質。
・甘味=補う作用 

また、「寒性・甘味」は潤いを生む組み合わせで、これを「甘寒生津」と言います。薬膳でもよく登場しますから覚えておくと便利です。

<潤い(津液、液体、陰)を生み出す組み合わせは3つ>
・酸甘化陰(さんかんかいん)…酸味と甘味を組み合わせる
・甘寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…寒性と甘味を組み合わせる
・鹹寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…鹹味(しおからい)と寒性を組み合わせる

また、桑椹は、「心のグループ」「肝のグループ」「腎のグループ」に作用します。これを中医学では「心に帰経する」「肝に帰経する」「腎に帰経する」などと表現します。

3.桑椹はどんな時に用いられるのか(使用例)

桑椹は心・肝・腎に帰経して、さまざまな効能を発揮します。桑椹の作用は、おおまかに次の3つが挙げられます。

(1)滋陰・補血(じいん・ほけつ)作用
(2)生津(しょうしん)作用
(3)潤腸通便(じゅんちょうつうべん)作用

(※「滋陰」・「補陰」・「養陰」などの用語は、どれも「潤いをおぎなう」ことを意味します。中国文化では同じ用語を繰り返さず、わざと同じ意味の違う用語に言い換えて説明する傾向があります)
 
具体的な例を見ていきましょう。

(1)桑椹の「滋陰作用」「補血作用」でアンチエイジング

桑椹は、「陰(=潤い)」を滋養し、「血(≒血液)」を補います。これを、中医学用語では、滋陰作用、補血作用といったりします。

心・肝・腎にアプローチして陰血を補うので、めまい・眼のかすみ・耳鳴・不眠・病的な早期白髪などに応用されます。

ただし、これらの症状すべてに桑椹が良いわけではないことに注意が必要です。あくまでも、「陰血不足」の方でこうした症状がある場合に、桑椹が応用されるというだけです。

肝・腎を補い、陰血を補うこと、また、上述の症状に良いことから、桑椹にはアンチエイジング作用が期待されています。実際、桑の実の抗酸化性に関する研究が実施されているようです。

桑椹は、単味(単品)で用いるケースと、他と組み合わせるケースがあります。例えば「白髪」に対しては、黒胡麻・地黄(じおう)・製何首烏(かしゅう)・旱蓮草(かんれんそう)・女貞子(じょていし)などと一緒に用いられます。

味の相性が良い「黒ゴマ×黒豆」「桑の実×枸杞(クコ)」などは、アンチエイジングの薬食の組み合わせで美髪にもってこいです! 女性は35歳を過ぎたら意識的に摂取していきましょう。更年期になったら尚更です。

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黒豆は、腰痛・耳鳴り・糖尿・むくみ・白髪・若白髪などのうち腎虚が由来するケースや、腎虚や陰血不足による不妊症・月経過少・月経不調・妊娠時の腰痛などに応用されます。たいていは他の中薬や食材と共に用い、例えば白髪に対しては、黒胡麻・地黄(じおう)・製何首烏(かしゅう)・旱蓮草(かんれんそう)などと一緒に用いられます。
 
(※上述の疾患や症状すべてに黒豆が良い、という意味ではありませんので、ご注意ください。あくまでも、「腎虚や陰血不足が原因であるタイプ」に黒豆が応用されるというだけです。)

(2)桑椹の「生津(しょうしん)作用」でノドの乾きを止める

桑椹には、潤いを生んで(=生津)、ノドの渇きを止める(=止渇)、「生津止渇(しょうしん/せいしん・しかつ)作用」があります。糖尿病にも用いられます。
 
「生津」の「津(しん)」とは、「津液(しんえき)」の「津」のこと。「津液」は、人体の正常な水液すべてのことで、飲食した水分から脾胃(ひい:消化器系)の運化(消化・吸収etc.)から作り出されます。津と液はどちらも水液を指しており、転化するので生理でも病理でも影響し合うため、たいていは「津液」とペアで呼ばれます。

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(3)桑椹の「潤腸通便作用」

桑椹は、腸壁を潤して便の通りを良くします。そのため、陰血不足により、腸壁が乾燥しコロコロした便や硬い便に悩まされて便秘がち、という状態に有効です。寒性なので、熱がこもりがちなタイプの便秘によいでしょう。
その反対の「胃腸が冷えている人の便秘」「胃腸が弱い人の便秘」「便がゆるい人」など、冷えて消化器系の機能が低下したタイプには向きません。

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4. 桑椹の効能は? 中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている「桑椹(そうじん)」の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

桑椹(そうじん)

【分類】
滋陰薬

【処方用名】
桑椹・桑椹子・黒桑椹・桑椹膏

【基原】
クワ科MoraceaeのカラグワMorus alba L.の成熟した集合果

【性味】
甘、寒

【帰経】
心・肝・腎

【効能】
滋陰補血(じいん・ほけつ)・生津(しょうしん)・潤腸(じゅんちょう)

【効能】
1.陰血不足(いんけつぶそく)による眩暈・かすみ目・耳鳴・不眠・早期白髪に用いられる。桑椹は滋陰補血(じいんほけつ)の効能がある。単味を水で煎じ詰めて蜂蜜を加えて膏として服用するか、乾燥した桑椹を粉末にして蜂蜜を加え丸剤にして服用する。何首烏(かしゅう)・女貞子(じょていし)・旱蓮草(かんれんそう)などの滋補薬と一緒に用いる。
処方例)首烏延寿丹(しゅうえんじゅたん)

2.津傷(しんしょう)の口渇あるいは消渇(しょうかつ)に用いる。
桑椹は、滋陰(じいん)・生津止渇(しょうしん・しかつ)の効能がある。多くは,
麦門冬(ばくもんどう)・生地黄(しょうじおう)・天花粉(てんかふん)などと一緒に用いる。

3.陰血不足(いんけつぶそく)による腸燥便秘(ちょうそうべんぴ)に用いる。
桑椹には、滋陰養血(じん・ようけつ)・潤腸(じゅんちょう)の効能がある。生何首烏(しょうかしゅう)・黒胡麻(くろごま)・火麻仁(ひまにん)などを配合して用いる。
薬物中毒・熱毒などに、単味であるいは生甘草などと用いる。

【臨床使用の要点】
桑椹は甘寒で清補し、滋陰補血(じいん・ほけつ)・生津(しょうしん)・潤腸通便(じゅんちょうつうべん)の効能をもつ。陰血不足(いんけつぶそく)の眩暈・目暗・耳鳴・鬚髪早白、津傷(しんしょう)の口渇(こうかつ)あるいは消渇(しょうかつ・しょうかち)、および腸燥便秘(ちょうそうべんぴ)に適する。

【参考】
桑椹は阿膠(あきょう)・塾地黄(じゅくじおう)ほどの滋陰養血(じいん・ようけつ)の力はなく、寒性で清補に働く。

【用量】
39-15g。煎服。

【使用上の注意】
(1)薬性が和平で少量では効果がないので、大量を持続服用する必要がある。煎熬した膏(桑椹膏)を1日15~30g湯に溶いて常服するのがよい。
(2)脾胃虚寒(ひい・きょかん)の便溏(べんとう)には禁忌。

 
※【分類】【処方用名】【基原】【性味】【帰経】【参考】【用量】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【出典】【効能】【応用】は『中医学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

このように、桑椹は心・肝・腎に働きかけて、陰血(潤いや血)を補い、陰虚や血虚が原因で起こる色々な症状(眩暈・耳鳴・不眠・髪の毛やヒゲなどの病的な白髪・かすみ目・のどの渇き・腸燥便秘)を改善します。

寒性のため、胃腸虚弱の方(特に、胃腸が弱く、冷えて、軟便・下痢傾向のもの)は控えましょう。中医学の効能効果をもとに使用する際は、中医学の専門家にご相談のうえ、ご利用ください。
 
桑は薬として用いられる部位がとても多い植物としても有名です。葉、枝、根、根皮、実、寄生している木耳、樹液、灰、さらには桑の葉を食べて育ったカイコの幼虫、カイコの幼虫の糞など……それぞれ、まったく効能が異なり、個性的な働きをします。ご興味のある方はぜひ調べてみてください!

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5. 桑の実(マルベリー)の食べ方・簡単レシピ

フレッシュな桑の実(マルベリー)は都会ではあまり目にしませんが、地域によっては庭先や近場の山や道端の木に実っています。もしかしたら道の駅などで手に入るかもしれません。「イチゴ狩り」ならぬ「桑の実狩り」も聞いたことがあります。
 
収穫時期は4〜6月と限られていますので、続けて食べるなら冷凍品やジャム、ドライフルーツが良いでしょう。入手先はインターネット販売・自然食品を取り扱うお店・地方の農作物を取り扱うお店・中国系スーパーなどがあります。
 
中国などでは桑の実を煮詰めたもの(桑椹膏)が売られていて、お湯に溶いて手軽に服用することができますが、日本では作られていないかもしれません。ちなみに、私の冷凍庫には一年中桑の実(マルベリー)の冷凍品が入っていて、ホットデザートにして飲んだり食べたりしています。
 
ここでは、桑の実(冷凍品を使用)のホットデザートの簡単レシピを紹介します。
 
桑の実(マルベリー)・バナナ・豆乳を別々に電子レンジでしっかり加熱して火を通し、アツアツにします。配分はお好みでOKです。それからミキサーに全部入れて、ハチミツ、ココナッツシュガー、メープルシロップ、黒糖などの甘みを加えて撹拌したら出来上がり。

出来上がりはドロッとしていて、ガラスのカップに入れて放置するとプリンみたいに固まるので、スプーンですくっていただきます。豆乳の量を増やしたり、お湯を追加したりして、飲料としてもいただけます
 
ぜひ、お試しください!

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年
桑樹が有する抗酸化性の評価と利用|農研機構

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/