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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第38回 人体をつくる気・血・津液とは(6)津液(しんえき)

前回は、気・血・津液のうち、「血の働き」についてお話しました。今回は、「津液」についてお話しします。

目次

津液とは体を潤す正常な水液

「津液(しんえき)」とは、人体を潤す正常な水液(すいえき)すべてのこと。唾液・胃液・腸液・涙液など、臓腑や組織器官にある体液や正常な分泌液をあわせて、「津液」と呼びます。むくみなど、水液が正常に代謝されなかったために体内に停滞したものは、「津液」とは呼びません。

津液は、気や血と同じように、生命を維持するために必要な、人体を構成する基本的な物質です。ここで注意が必要なのは、「津液」=「水」ではありません。分かりやすく説明するために、「水分」などと表現することはよくあります。津液は、「栄養分や“気”を含んだ清らかな潤い」のようなイメージです。

「津」はサラサラ、「液」はネバネバ


津と液はどちらも水液で、飲食物の水分から脾胃(消化器系)の働きによって作られます。
津と液は、性状・機能・分布する部位が異なりますが、津と液は転化(てんか:相互に変化する)ので、細かい話をするとき以外は、特に区別せずに「津液」とまとめて呼ぶことが多いです。

<津と液の特徴>
性状 澄んでいて、サラサラして、流動性が大きい 濁っていて、ネバネバして、流動性が小さい
機能 皮膚を潤す、養分となる 潤して滋養する、関節運動をスムーズにする
分布 皮膚・筋肉・体孔・目・鼻・口・性器など体の表面すみずみにまで行き渡る、血液に注いで潤す 骨・関節・臓腑・脳・脊髄など、特定の部位に流れ、分散しない

津液は飲食物からつくられる

津液は、飲食した水穀(すいこく=飲食物)を消化・吸収することでつくられます。飲食物は胃で消化され、小腸において「清(せい)」と「濁(だく)」が分別されます。ここでいう「清」とは、「水穀中の水液の精微(飲食物の中の液体部分の栄養分豊富な清らかなもの、というイメージ)」を指します。小腸において「清」が吸収されて脾へ運ばれ、脾によって気化(きか)されてできたものが津液です。「気化」とは、「気の作用を受けて変化すること」を意味します。

また、それ以外にも、大腸が便をつくるときに余った水分を吸収したのも、脾へ運ばれて津液となります。 これについては、今後「蔵象学説」で詳しくお伝えする予定です。

津液は脾・肺・腎・三焦の働きによって全身を巡り、排泄される

津液の運搬や代謝・排泄には、さまざまな臓腑・器官が関わっていますが、特に主体となって働くのは、「脾・肺・腎・三焦」の4つの臓腑です。

津液は、脾によってつくられた後、①脾の運化水液作用・昇清作用、②肺の宣発粛降作用・通調水道作用、③腎の気化作用によって、④三焦を通路として、運搬・排泄されます。

つまり、津液の代謝には、「脾・肺・腎・三焦」が関わっていることを理解しておきましょう。

津液は体を潤し血の原料になります。

(1)体中を潤して、滋養する

例えば、皮膚など体表に届けられる津液は、皮膚や産毛を潤し、眼や鼻・口に注がれる津液は、粘膜を潤して保護しています。内臓・組織器官のほか、関節・骨髄・脊髄・脳髄に届けられる津液は、これらを潤し栄養を与えることで正常に働くように支えています。

(2)血の原料となる

以前お話ししたように、津液は血の原料です。
そのほか、血脈に注がれる津液は、血液を構成する血漿のようなイメージで、血を栄養したり、サラサラと流れやすくしたりします。

(3)人体の陰陽バランスに関係する

津液は「潤い」なので、「陰」に属します。それゆえ、体内の津液の量は、陰陽のバランスにそのまま影響します。

次回は、人体を構成する気・血・津液とは(7)「気・血・津液の関係」についてお話しします!
お楽しみに~。

読んでなるほど 中医学豆知識
しゃっくり止めの妙薬「柿のあの部分」

収穫の秋・食欲の秋ですね! 芋栗南瓜をはじめ、食べ物がおいしい幸せな季節です。
今まさに旬の果物に「しゃっくり止めの効能」があります。その果物とは、「柿」です。しかも「ヘタの部分」。

柿のヘタは「柿蔕(してい)」という生薬名で、中薬学の教科書にもしっかり載っています。
また、柿の葉は昔から民間薬として使われており、柿の葉茶などが漢方薬局やお茶屋さんで売られています。

柿のヘタについて『中薬学(上海科学技術出版社)』には、

・柿蔕(してい)
【基原】カキノキ科EbenaceaeのカキDiospyros kaki L.f.の果蔕。
【性味・帰経】苦、平。 胃経。
【効能】降気止嘔(気を降ろして、吐き気を止める)
【応用】用于胃失和降所致的呃逆之証。(以下略)

との記載があります。

柿蔕は「呃逆(あくぎゃく:しゃっくり)の薬」として有名です。
しゃっくりは、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」といって、胃の気が上逆している状態(正常なら降りなければいけない気が、上向きになってしまっていること)であり、柿蔕は、その状態に対して気を降ろすように働きます。

代表的な処方は、「柿蔕湯(していとう)」。「柿蔕・生姜・丁子(柿のヘタ・ショウガ・スパイスのチョウジ)」のたった三味からなるシンプルな処方です。ショウガもチョウジもお腹を温めるため、胃が冷えている人向け(胃寒タイプ)のしゃっくり止めの薬になります。胃に熱がこもっている「胃熱タイプ」は、「竹茹黄連柿蔕湯(ちくじょおうれんしていとう)」などを使います。

個人的には、ヘタだけ5~10個、コトコト弱火で30分くらい煮て飲むのでもよいと思います。漢方薬局に「柿のヘタ」を指定していらした患者さんの中には、医師にしゃっくりが止まらないと相談したところ、柿のヘタを漢方薬局で求めるように教わって来局した方も何人かいらっしゃいました。通だなぁ!と漢方薬局の人間としては嬉しくなってしまった思い出があります。

ちなみに、『漢方実用大辞典(学研)』には、
「柿の葉は、風邪・動脈硬化の予防・高血圧・歯茎の出血に効果があり、病気に対する抵抗力をつけたり血管を丈夫にも。利尿作用もあります。(省略)葉にはレモンの約20倍のビタミンCが含まれており、これは加熱などによる破壊も少ない」と書かれています。夏に日焼けしたお肌のケアにもよさそうですね。

参考文献:

  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
  • 神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社2004年
  • 藤平健・山田光胤(監修)、日本漢方協会(編集)『実用漢方処方集』じほう2006年
  • 工藤毅志(編集人)『漢方実用大辞典』学研 1989年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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