薬剤師の働き方 公開日:2023.08.29 薬剤師の働き方

薬剤師が独立開業するには?独立方法のメリットや流れ、難しさについて解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師が独立開業を考えるタイミングは、薬剤師としての経験を積み、理想の薬剤師像や薬局像を描いたときが多いかもしれません。独立開業は、資金を用意したり、開業場所を探したりとさまざまな準備が必要です。そのため、独立開業に踏み切れない薬剤師もいることでしょう。今回は、独立開業を目指す薬剤師の独立方法を解説するとともに、独立開業のメリットや難しさについてお伝えします。

1.独立開業を目指す薬剤師に需要がある?

薬剤師の独立開業には、一定の需要があるようです。その背景として、代表的な2つのケースを見てみましょう。

 

1-1.既存薬局の後継者がいないケース

個人薬局の経営者が、後継者を見つけられず困っているケースがあります。例えば、自身の子どもに店舗を譲りたいと考えていても、子どもが薬剤師ではなかったり、薬局経営の知見がなかったりすると、引き継ぎは難しいでしょう。そういったケースでは、大手調剤薬局に譲渡する方法もあります。しかし、大手調剤薬局の立場からすると、黒字経営の個人薬局を譲り受けたとしても、昨今の診療報酬を考えると利益を維持できるとは限りません。
 
こうした理由から、大手調剤薬局への譲渡が難しい場合もあるでしょう。その点、独立開業を目指す薬剤師への譲渡であれば、そのあたりの不都合が少ないと考えられます。独立開業を目指す薬剤師は、こういった悩みを持つ薬局に、需要があるといえるでしょう。

 

1-2.調剤チェーン薬局の赤字店舗に対応するケース

主に小規模の調剤チェーン薬局では、規模を拡大していく中で、採算の取れない店舗が出てしまうことがあります。手を尽くしても利益が出ない場合は、閉局または譲渡を検討せざるを得ません。閉局にかかるコストと比較して、譲渡した方が撤退コストを削減できるため、まずは譲渡先を探すことになるでしょう。

しかし、同業他社への譲渡は、採算が取れないといった理由で売却できないこともあり、新たに譲渡先を探すことになります。そういった場合、独立開業を目指す薬剤師も、譲渡の対象として需要が生まれます。

2.薬剤師の独立開業パターン

薬剤師の独立開業パターンは、大きく3つに分かれます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

2-1.事業承継

事業を承継する相手には大きく分けて「親族」「従業員」「第三者」の3パターンがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

 

・親族からの事業承継
親族が経営していた薬局を承継する場合、社内のスタッフや社外の関係者に理解を得やすく、実施しやすい
方法でしょう。ただし、ある程度の知識や経験がないと、経営を維持できないとして、承継を受け入れてもらえない可能性があります。親族から薬局を譲り受ける予定の薬剤師は、薬剤師免許取得はもちろん、その後は病院や他の調剤薬局で知見を広げておくことが大切です。

・働いている職場からの事業承継
働いている職場から承継されるケースは、経営者の親族に適任者がいない場合などに行われることが多いでしょう。薬局のことをよく理解しており、適任と考えられる人に任せるため、スタッフや取引先との理解が得やすい点がメリットです。

このケースでは、企業ごと譲渡される場合と、利益率が高くない店舗を譲渡される場合があります。複数の薬局を経営している企業を承継される場合、現社長が引退を決意するまでに、相応の役職についている必要があるかもしれません。店舗を譲り受ける場合は、独立の意思をあらかじめ企業へ伝えておく必要があるでしょう。

働いている職場から事業承継を受ける場合、タイミングも重要なため、確実に独立開業ができるわけではありません。ハードルの高い方法といえるでしょう。

・第三者として事業承継
親族や社内スタッフへ承継できない薬局を譲り受けるケースで、M&A仲介会社を通して薬局の売買が行われる場合
などが当てはまります。独立開業を目指す薬剤師は、自分に合った薬局を仲介会社に探してもらうことになるでしょう。

 

2-2.医師と協力してクリニック&薬局を新規で開設

医師と協力して開業する方法もあります。この場合、新規でクリニックを立ち上げる予定のある医師を探すところから始まります。知り合いの医師やMS、MRなどと積極的に情報交換を行いながら、独立開業予定の医師を探すことになるでしょう。同時に、自身も資金の準備や経営の知識といった独立準備を進めておく必要があります。

ただし、基本的に受け身となるため、独立の情報を得るまで辛抱強く待ち続けなければなりません。少しでも情報を得られるよう、自身が独立開業を目指していることを伝えて、協力してくれる仲間を集めることが重要でしょう。

 

2-3.独立支援のある薬局に就職後、独立

事業継承や医師との協力が難しい薬剤師の場合、独立支援を行っている企業に就職するのが確実でしょう。経営者としてのノウハウを働きながら学ぶことができる上、自分に経営者としての適性がないと感じた場合は、そのまま社員として働き続けることもできます。「独立開業を考えているがどのように準備したらよいのか分からない」「自分に適性があるのか不安」という薬剤師に向いている方法です。

 
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ただし、独立支援制度がある薬局から独立する場合には、独立までに時間がかかってしまう可能性があることを念頭に置いておきましょう。独立開業を考える薬剤師は、薬剤師としての知識や経験が豊富で、マネジメント力があるなど、向上心が強い傾向にあります。そうしたスキルの高い薬剤師を確保するために、あえて独立支援をうたっている可能性も考えられます。過去に独立支援の実績があるかどうか、事前の確認が必要です。

 

2-4.自分のスキルを生かして新規薬局を立ち上げる

上記の方法以外にも独立開業できる方法があります。例えば、漢方専門薬局や在宅専門薬局といった専門性の高い薬局は、立地条件にかかわらず一定の需要があります。こうした場合には、あらかじめ専門スキルを身に付けるだけでなく、綿密な事業プランを立てる経営スキルや営業力が必要です。

 
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3.薬剤師が独立開業するメリット

薬剤師が独立開業するメリットについて見ていきましょう。

 

3-1.理想の薬局を実現できる

独立開業を目指す薬剤師の多くは、自分のやりたいことができる点をメリットに感じているのではないでしょうか。薬剤師として働いていると、店内の装飾にこだわりたかったり、もっと患者さんの要望に応えたかったりするときもあるでしょう。
 
しかし、企業で働いている以上、勤務先のルールを守る必要があり、なかなか思うようにはできないものです。自身が経営する薬局であれば、思い通りの薬局像をそのまま実現することができます。OTCを充実させたり、介護系用品を取りそろえたりと、自分が力を入れたいことを実現できるのが独立開業するメリットです。

 

3-2.景気に左右されにくい

薬局は景気に左右されにくい業界でもあります。医療業界はインフラであるため、倒産するリスクは他の業種に比べると低いでしょう。また、薬局の経営者は、自身の努力次第で売り上げアップが見込めます。ある程度、経営が軌道に乗れば薬局をスタッフに任せ、店舗を増やしたり新たに事業を始めたりといったことも可能です。努力次第で収入アップが期待できるでしょう。

 
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3-3.人脈を広げられる

薬剤師が独立開業をすると、会社員のころと比べて人脈が広がるのも特徴です。会社員で築ける人脈は、主に同僚や患者さん、近隣の医療従事者などでしょう。薬局の開設者となれば、これらの人脈に加え、銀行や地域の薬剤師会、税理士、医薬品卸、MRなどさまざまな人と交流する機会が増えます。自分一人では難しいことも、多くの人に支えられながら経営しているという実感を持てることでしょう。相手への感謝の気持ちを持つことは、人としての成長へとつながります。

 

3-4.スキルアップにつながる

薬剤師は経験年数を積み重ねるほど、薬剤師としての経験や知識、スキルを高めることができます。自身が経営する薬局なら、定年のタイミングを自分で決められるため、年齢を気にせずスキルアップが継続できます。また、独立開業することで、事業を成功させるためのスキルやノウハウを身に付ける機会も必然的に多くなります。薬剤師の独立開業は、薬剤師・経営者としてのスキルアップが期待できます。

 

3-5.自分の裁量で働き方を選べる

「一人薬剤師で薬局を運営したい」「経営者としてスキルやノウハウを身に付けたい」など、独立開業する薬剤師によって目指す姿や目標は異なります。経営方針や働き方などを自身の裁量によって選べる点は、独立開業のメリットといえるでしょう。

 
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4.薬剤師が独立開業するのは難しい?

薬局の立地条件や近隣の病院・クリニックの状況だけでなく、診療報酬の改定によっても売り上げは左右されるため、独立開業後は必ずしも収入が安定する保証はありません。また、責任の重さは会社員のときとは比べものにならないでしょう。独立開業するとトラブルがあったときも、自身で解決する必要があります。裁判になるようなトラブルが起こる可能性も覚悟しながら、日常の業務と向き合わなければならないでしょう。
 
また、初期費用として融資を受けた場合、売り上げの有無にかかわらず借入金の返済を負うことになります。スタッフを雇えば、給与や保険料などの支払いなど負担が生じます。自分だけでなくスタッフの生活を考えるため、独立開業は軌道に乗るまで大きな不安やプレッシャーがあるでしょう。
 
さらに、薬剤師を雇うときも、薬剤師としての意識が高い人材を見極める力が求められます。薬剤師としてのモラルに欠けた人材を雇ってしまうと、のちに大きなトラブルに発展しかねません。独立開業すると、資金繰りも人材雇用もすべて自身の責任となります。さまざまな重圧に耐えられるメンタルを持つ人でなければ、独立開業をするのは難しいかもしれません。

5.将来独立開業したい薬剤師が準備すべきこと

まずは、どこに開局して、どのように集客するのかなどを考えるために情報収集を行うことが大切です。現在の職場に出入りするMSやMRから情報を得たり、知り合いに独立を考える医師がいたりする場合は、積極的にコンタクトを取りましょう。そういったツテがない場合は、独立支援を行う薬局やM&A仲介会社についてリサーチするのがおすすめです。

また、現状で独立可能かを判断することも大切でしょう。人手不足が深刻な職場の場合、いざ独立しようと思っても、退職できないという可能性があります。独立することを快く受け入れてもらうためにも、あらかじめ伝えておくことも重要でしょう。
 
さらに、薬剤師としての知識だけでなく経営者としての知識も必要です。事業計画や独立に必要な資金、資金の調達方法などについて知識を得ておきましょう。

6.薬剤師が独立開業するためには情報収集が大切

独立開業を成功させるためには、どういったビジョンで独立開業するのかを考えながら情報収集を行いましょう。自身に経営者としての適性があるのか、さまざまな重圧に耐えるだけのモチベーションはあるのか、じっくりと考えることも必要です。納得して独立開業できるよう最善を尽くすことが成功のカギといえます。

 


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。