1.緩和薬物療法認定薬剤師とは?
緩和薬物療法認定薬剤師とは、緩和ケアの専門家としての知識と技能を有する薬剤師であることを認定する資格です。
日本緩和医療薬学会が運営する認定制度で、緩和医療に携わる他職種の緩和薬物療法に関する知識と技術の向上や、がん医療の均てん化に対応できる薬剤師の育成を目指し、緩和薬物療法に貢献できる知識・技能・態度を有する薬剤師を認定しています。
参照:緩和ケアチームの薬剤師の育成|厚生労働省
緩和薬物療法認定薬剤師の認定者一覧は日本緩和医療薬学会のウェブサイト上に掲載されており、2024年5月時点における認定者数は870名です。
参照:緩和薬物療法認定薬剤師名簿|日本緩和医療薬学会
なお、WHO(世界保健機関)では、緩和ケアを以下のように定義しています。
参照:「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳|日本緩和医療学会
2.緩和薬物療法認定薬剤師の仕事内容
緩和薬物療法認定薬剤師は、主に緩和ケアチームの一員として、患者さんの身体的・精神的な苦痛を軽減するために、薬物療法の専門知識を生かした支援を行います。
とくに患者さんやそのご家族は、疼痛管理に使用される医療用麻薬に対して不安を抱えがちです。そのため、医療用麻薬に関する豊富な知識を有する緩和薬物療法認定薬剤師が、服用上の注意点や副作用への対処法について丁寧に説明を行い、患者さんが前向きに治療に臨めるようにサポートします。
また、適切に疼痛コントロールを行えるように、医薬品に関する最新情報を収集した上で処方設計・提案などを行います。
さらに、緩和ケアは多職種によるチーム医療が不可欠です。医師や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、栄養士などと連携を取りながら、薬学的視点だけでなく多角的な視点で患者さんのケアをサポートします。
加えて、緩和薬物療法認定薬剤師は病院内に限らず、調剤薬局にも活躍の場があります。近年では、経口剤の抗がん剤や医療用麻薬が開発されており、外来診療を利用してがん治療を受ける患者さんも少なくありません。
がん治療の処方箋を持参された患者さんに対して、薬に対する不安や、仕事と治療の両立に関する悩みなどに寄り添った服薬指導を行います。副作用と思われる症状や疼痛の悪化が見られたときには、病院と連携して緊急対応をすることもあります。
参照:資格認定|滋賀医科大学 医学部附属病院 薬剤部
参照:通院治療センター|国立がん研究センター中央病院
🔽 緩和薬物療法認定薬剤師の仕事に関するインタビュー記事はこちら
3.緩和薬物療法認定薬剤師の取得方法
緩和薬物療法認定薬剤師になるには、書類審査を通過した後、CBT試験(受験者が各地のテストセンターに足を運び、パソコンの画面に表示される問題を見て、マウスなどを用いて解答する試験)に合格しなければなりません。
ここからは、緩和薬物療法認定薬剤師の申請条件や試験問題などについて解説します。
3-1.申請条件
緩和薬物療法認定薬剤師を受験するにあたっては、以下の条件をすべて満たす必要があります。
● 申請時点で、薬剤師としての実務経験が5年以上あり、日本緩和医療薬学会の会員であること
● 申請時点で、「日病薬病院薬学認定薬剤師」「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」「日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師」「薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師」のうち、いずれか1つ以上の資格を持っていること
● 申請時点において、緩和ケアチームまたは緩和ケア病棟のある病院や診療所で3年以上継続して緩和医療に従事している、もしくは麻薬小売業者免許を取得した上で、がん診療を行っている在宅療養支援診療所などの医療機関と連携している保険薬局において、3年以上継続して緩和医療に従事していること(病院・診療所で従事している場合には所属長の証明、調剤薬局に従事している場合には依頼する医師と薬局開設者による証明が必要)
● 過去5年以内に、日本緩和医療薬学会員として認定対象となる講習などを受講して毎年20単位・計100単位以上履修し、厚生労働省、麻薬・覚せい剤乱用防止センターなどが主催する疼痛緩和のための医療用麻薬適正使用推進講習会(がん疼痛緩和と医療用麻薬の適正使用推進のための講習会)に1回以上参加していること
● 薬剤師として実務に従事している期間において、日本緩和医療薬学会もしくは別に規定する学術集会で緩和医療領域に関する学会発表(一般演題)を2回以上(少なくとも1回は発表者)行っていること
● 日本緩和医療薬学会所定の様式に従って、病院や診療所に従事する薬剤師は緩和医療領域に関する薬剤管理指導の実績を30症例、保険薬局に従事する薬剤師は緩和医療領域の服薬指導などの実績を15症例提示できること
● 病院や診療所においては所属長(病院長や施設長など)、保険薬局においては開設者の推薦があること
参照:日本緩和医療薬学会緩和薬物療法認定薬剤師申請資格|日本緩和医療薬学会
なお、2024年度の認定試験については、申請期間が10月から9月(2024年9月1日10時~9月30日17時)へ変更されているほか、申請条件にも一部特例措置などが設けられています。
詳細は日本緩和医療薬学会のウェブサイトの「日本緩和医療薬学会認定 緩和薬物療法認定薬剤師 2024年度(第15回)認定試験要項」をご確認ください。
3-2.試験問題
申請期間中に審査料10,000円を支払い、申請書類を提出すると、書類審査に進みます。書類審査通過後、試験料20,000円を振り込み、CBT試験を受験します。
CBT試験は全40問の選択式で、以下に挙げる書籍の内容を基準に出題されます。ただし、書籍の情報が古い場合があるため、常に最新情報を確認することとされています。
● がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版(日本緩和医療学会編、金原出版)
● がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2018年版(日本緩和医療学会編、金原出版)
● がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン 2016年版(日本緩和医療学会編、金原出版)
● がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版(日本緩和医療学会編、金原出版)
● がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)
※発刊年が古いため『緩和医療薬学問題集』(日本緩和医療薬学会編、じほう)は出題範囲に含まれない
参照:日本緩和医療薬学会認定 緩和薬物療法認定薬剤師 2024年度(第15回)認定試験要項|日本緩和医療薬学会
3-3.合格率と難易度
日本緩和医療薬学会のウェブサイトで認定試験の合格率に関する情報は公表されていません。「CBT試験Q&A」のページには「難易度など、試験に関することは一切お答えできません」と記載があります。
また、合否が通知された後であっても、点数や試験で間違えた箇所の開示は不可とされています。
2024年度の認定試験の結果は、合否を問わず2025年2月下旬~3月初旬に郵送にて通知されます。また、通知と同時期に学会のウェブサイト上で合格者の氏名が公表されます。
参照:日本緩和医療薬学会認定 緩和薬物療法認定薬剤師 2024年度(第15回)認定試験要項|日本緩和医療薬学会
4.緩和薬物療法認定薬剤師の更新条件
緩和薬物療法認定薬剤師の認定を受けた後も、5年ごとの更新が必要です。更新申請の際には、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
● 申請時点で、「日病薬病院薬学認定薬剤師」「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」「日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師」「薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師」のうち、1つ以上の資格を持っていること
● 認定期間内に合計3年以上緩和ケアチームまたは緩和ケア病棟のある病院や診療所で緩和医療に従事している、もしくは麻薬小売業者免許を取得している保険薬局などで緩和医療に従事していること(病院・診療所で従事している場合には所属長の証明、調剤薬局に従事している場合には薬局開設者による証明が必要)
● 認定期間内に認定対象となる講習などを受講し、毎年10単位・計100単位以上履修すること
● 認定期間内に日本緩和医療薬学会の年会に2回以上、および厚生労働省、麻薬・覚せい剤乱用防止センターなどが主催する疼痛緩和のための医療用麻薬適正使用推進講習会(がん疼痛緩和と医療用麻薬の適正使用推進のための講習会)に1回以上参加すること
● 認定期間中に、教育研修委員会主催のpSMILEを1回以上受講していることが望ましい
● 認定期間内に、日本緩和医療薬学会の年会もしくは別に定める学術集会で緩和医療領域に関する学会発表(一般演題)を1回以上(共同演者・共同研究者でも可)行っていること
● 認定期間中に、自身が薬学的介入を行った緩和医療領域の症例について、症例数を報告し、日本緩和医療薬学会所定の様式に従って5症例を提示できること
参照:日本緩和医療薬学会緩和薬物療法認定薬剤師 更新要件|日本緩和医療薬学会
なお、正当な理由があれば、認定委員会が認めた場合に限り更新申請を保留することが可能です。保留を希望する場合は、更新申請期間内に所定の書類を提出する必要があります。
ただし、保留期間は最長3年までとなっており、保留期間中は緩和薬物療法認定薬剤師の資格名称を使用することはできません。
2024年度の更新申請については、認定試験と同じく一部特例措置などが設けられています。詳細は日本緩和医療薬学会のウェブサイトの「資格更新要項」をご確認ください。
5.緩和薬物療法認定薬剤師の上位資格
日本緩和医療薬学会では、緩和薬物療法認定薬剤師の上位資格として「緩和医療専門薬剤師」「緩和医療暫定指導薬剤師」の認定も行っています。
ここからは、緩和薬物療法認定薬剤師の上位資格について、役割や申請資格などを解説します。
5-1.緩和医療専門薬剤師
より専門性が高く、優れた実践能力を有する薬剤師を育成するために2021年に新設された専門資格が、「緩和医療専門薬剤師」です。対患者さんやチーム医療内において高いコミュニケーション能力を発揮するとともに、緩和領域に関する最先端治療の調査や研究を行い、学会や専門誌へ報告するなど医療の発展にも関われる人材であることが求められます。
その専門性の高さから申請も容易ではなく、薬剤師としての実務経験が10年以上必要で、複数査読制の国内外の学術雑誌において原著論文を過去5年間に2報以上(うち1報以上は本人が筆頭著者であること)発表しているなどの条件を満たさなければなりません。
参照:緩和医療専門薬剤師制度の今後の進め方について③|日本緩和医療薬学会
参照:日本緩和医療薬学会 緩和医療専門薬剤師 申請資格|日本緩和医療薬学会
5-2.緩和医療暫定指導薬剤師
緩和医療暫定指導薬剤師とは、緩和医療専門薬剤師研修施設において、緩和医療専門薬剤師を目指す緩和薬物療法認定薬剤師を指導する役割を担います。
緩和医療暫定指導薬剤師になるには、自施設や地域・学会において指導的な役割を果たし、緩和薬物療法認定薬剤師の資格を1回以上更新しているなど、緩和医療領域に関する豊富な経験が求められます。
参照:日本緩和医療薬学会 緩和医療暫定指導薬剤師 申請資格|日本緩和医療薬学会
参照:緩和医療暫定指導薬剤師 2024年度(第5回)募集要項|日本緩和医療薬学会
6.緩和薬物療法認定薬剤師は今後ますます注目される認定制度のひとつ
近年、がんの治療をする患者さんは増加傾向にあり、緩和医療領域の専門性が高い緩和薬物療法認定薬剤師は今後注目される認定資格といえるでしょう。
「緩和医療専門薬剤師」「緩和医療暫定指導薬剤師」といった上位資格もあることから、認定された後も臨床現場で経験を積み、スキルアップを目指せます。患者さんが安心して緩和治療を受けられるように、専門的な知識やスキルを身に付け、認定取得を目指してみてはいかがでしょうか。
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら
🔽 がん治療に関連する薬剤師の資格について解説した記事はこちら
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
あわせて読みたい記事