薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.03.12 薬剤師のスキルアップ

糖尿病薬物療法認定薬剤師とは?認定・更新のための要件や試験について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

糖尿病薬物療法認定薬剤師になるには、前段階として糖尿病薬物療法履修薬剤師の資格が必要です。加えて、学会発表や症例報告などの要件を満たすことも求められます。本記事では、糖尿病薬物療法認定薬剤師の概要や受験要件、試験内容についてお伝えするとともに、申請方法や更新方法についても解説します。

1.糖尿病薬物療法認定薬剤師とは?

糖尿病薬物療法認定薬剤師とは、日本くすりと糖尿病学会が認定する資格です。糖尿病薬物療法認定薬剤師は、糖尿病の薬物治療について最新の医療を学び、糖尿病医療の発展に貢献することが求められます。
 
前段階として糖尿病薬物療法履修薬剤師の資格が設けられていたり、教育に携わることを活動のひとつとしていたりする点も特徴といえるでしょう。
 
参照:認定薬剤師制度について|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
 
認定者一覧は、日本くすりと糖尿病学会のウェブサイトから確認できます。2024年12月時点の名簿から確認できる糖尿病薬物療法認定薬剤師の認定者数は、以下のとおりです。

 

新規 更新
2020年認定者 13名
2021年認定者 38名 24名
2022年認定者 9名 1名
2023年認定者 29名 1名
2024年認定者 16名 22名

参照:認定薬剤師名簿|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

 

1-1.糖尿病薬物療法履修薬剤師とは?

糖尿病薬物療法履修薬剤師とは、糖尿病薬物療法認定薬剤師を取得する前段階として設けられている資格です。以前は「糖尿病薬物療法准認定薬剤師」と呼ばれていましたが、認定薬剤師と誤認されることを避けるために、2020年10月1日より名称が変更されました。
 
糖尿病薬物治療履修薬剤師は、日本くすりと糖尿病学会の教育システムで自己研鑽を積んだ薬剤師が、履修薬剤師認定審査に合格することで取得できます。
 
糖尿病薬物治療履修薬剤師の役割は、基本的な知識や技能を継続的に習得して、長期的視野に立って患者さんの薬物治療をサポートしたり、学術・研究活動を通して薬剤師やメディカルスタッフなどと協働したりすることです。また、医薬品や医療機器の基本的な特性を把握して、患者さんに適したアプローチ法を身に付けることが求められます
 
参照:履修薬剤師(旧:准認定薬剤師)とは|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

 

1-2.日本糖尿病療養指導士との違い

日本糖尿病療養指導士とは、日本糖尿病療養指導士認定機構が運営する認定資格です。薬剤師以外にも以下の資格を持つ人を対象としている点が、糖尿病薬物治療認定薬剤師との違いです。

 

● 看護師
● 管理栄養士
● 臨床検査技師
● 理学療法士

 

日本糖尿病療養指導士の大きな役割は、糖尿病治療で重要な「自己管理」を患者さんへ指導することです。認定資格を取得することは、糖尿病患者さんへの生活指導のエキスパートであることを意味します。生活指導についての知識やスキルの習得に重きを置いているところも、糖尿病薬物治療認定薬剤師と異なる点でしょう。
 
糖尿病の治療は、薬物治療はもちろん、食事療法や運動療法といった生活習慣へのアプローチが、治療効果に大きく影響します。糖尿病患者さんに関わるさまざまなコメディカルスタッフが療養のための知識やスキルを習得することは、質の高いチーム医療を提供することにつながるでしょう。
 
日本糖尿病療養指導士は、薬剤師を含めた多職種が糖尿病治療についての高度で幅広い専門知識を習得し、患者さんをサポートすることを目指しています。
 
参照:CDEJ(日本糖尿病療養指導士)とは|一般社団法人日本糖尿病療養指導士認定機構

2.糖尿病薬物療法認定薬剤師の仕事内容

糖尿病薬物療法認定薬剤師は、糖尿病患者さんの薬物治療について、患者さんの状態や状況などに合わせた指導を行うとともに、医師や看護師などの医療関係職種と連携して薬物治療をサポートするのが仕事です。また、薬剤師や医療関係職種への指導的な視点を持って協働することや、学術・研究活動をすることも求められます。
 
近年は、新しい糖尿病薬が相次いで販売されており、糖尿病の薬物治療は複雑化しています。患者さんの生活スタイルや考え方、価値観もさまざまであるため、個々の患者さんに合わせた薬物治療を長期的にサポートすることが、治療効果を維持・向上させるためには欠かせません。
 
糖尿病薬物療法認定薬剤師は、糖尿病の薬物治療について高度な知識とスキルを身に付け、医療関係職種と連携し、時には教育的な立場を取りながら、個々の患者さんに合わせた薬物治療に貢献することが大きな役割といえるでしょう。
 
参照:認定薬剤師制度について|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
参照:認定薬剤師規程・細則|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

3.糖尿病薬物療法認定薬剤師になるには

糖尿病薬物治療認定薬剤師になるには、受験要件を満たした上で、試験に合格する必要があります。

 

3-1.受験要件

糖尿病薬物療法認定薬剤師の資格を取得するための受験要件は、以下のとおりです。

 

資格 ● 日本国の薬剤師免許
● 日本くすりと糖尿病学会が認定した履修薬剤師を取得し、継続して当学会の正会員であること
学会発表 日本くすりと糖尿病学会において、筆頭発表者として1回以上の学会発表があること
症例報告 申請時に自験例を10例有すること、または糖尿病に関連した論文が3報以上(うち1報以上は筆頭者)あること
※論文は原著論文、ノート、症例報告、療養指導事例など投稿規定で複数査読審査のあるもの
※日本くすりと糖尿病学会の会員で、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)認定を受け5年以上継続している場合は、症例報告についての要件が免除される
研修単位 履修薬剤師取得後20単位以上あること
 ● 日本くすりと糖尿病学会が発行するP認定単位が15単位以上
 ● 日本くすりと糖尿病学会が開催するアドバンスト編技能研修のすべての種類(過去5年以内)に1回は参加

参照:一般社団法人日本くすりと糖尿病学会認定薬剤師制度 規程|日本くすりと糖尿病学会
 
糖尿病薬物療法認定薬剤師は、上記の受験要件をすべて満たし、認定試験(筆記試験)に合格した場合に取得できます。

 

3-2.試験内容

糖尿病薬物療法認定薬剤師の認定試験は、筆記試験と「糖尿病療養指導自験例の記録」の評価により行われます。最初の書類審査では、申請書類の不備などがないかを確認し、自験例の審査が行われます。

 

糖尿病療養指導自験例の記録
症例報告 10症例

 

自験例審査に合格すると、筆記試験の受験資格が得られます。2024年度時点の筆記試験の内容は、以下のとおりです。

 

筆記試験
出題数 75問
試験時間 120分
出題形式 以下を基本とする
● 単純な択一形式
● 五肢二択形式
出題範囲 ● 『糖尿病の薬学管理必携 糖尿病薬物療法認定薬剤師ガイドブック』(じほう)
● 『糖尿病治療ガイド2022-2023』(日本糖尿病学会)
● 日本糖尿病学会 薬剤等に関する使用指針(4つ)
● 日本糖尿病学会 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
● 日本糖尿病学会 リアルタイムCGM適正使用指針
● 糖尿病薬の各種添付文書(最新)

参照:認定試験概要(2024年9月26日現在)|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

 

3-3.申請方法

糖尿病薬物療法認定薬剤師の申請方法は、以下のとおりです。

 

1. 申請書類の準備 ● 申請書
● 薬剤師免許の写し
● 糖尿病薬物療法履修薬剤師の認定証の写し
● 単位申請書
● 日本くすりと糖尿病学会主催のアドバンスト編技能研修会の修了証3種各1部
※「症例検討」「SMBG」「自己注射手技」の原本
● 自験例 10例
2. 申請審査料の振込 申請書類を提出する前に、書類審査料を振り込む
3. 申請書類の送付方法 簡易書留で、日本くすりと糖尿病学会の事務局に申請
4. 申請審査期間 約2カ月(自験例審査を含む)

参照:認定薬剤師申請 | 一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

 

単位申請書には決まった書式があります。P認定単位申請は、原本を貼付することとされており、コピーの添付では認定単位が付与されません
 
アドバンスト編技能研修会とは、認定薬剤師や履修薬剤師のスキルアップを目的とした研修です。症例検討や自己注射の手技、血糖自己測定の手技についてディスカッションを交えた研修を行います。

 

3-4.合格率と難易度

日本くすりと糖尿病学会のウェブサイトでは、糖尿病薬物療法認定薬剤師の認定試験の合格率は公表されていません。
 
しかし、糖尿病薬物療法認定薬剤師になるには、糖尿病薬物療法履修薬剤師の資格取得が必要であり、自験例10例や学会発表も求められていることから、取得の難易度は高い資格といえます。まずは糖尿病薬物療法履修薬剤師の資格取得を目指して自己研鑽を積み、糖尿病の薬物治療に関する知識とスキルを身に付けましょう。

4.糖尿病薬物療法認定薬剤師の更新方法

糖尿病薬物療法認定薬剤師を更新するには、以下の申請要件を満たす必要があります。

 

資格 継続的に日本くすりと糖尿病学会の正会員であること
学会発表 日本くすりと糖尿病学会において、筆頭発表者または共同発表者として認定期間中に1回以上の学会発表があること
症例報告 認定期間中に行った自験例を10例有すること
自験例が提出できない場合は以下のいずれかを満たすこと
● 糖尿病関連の論文を認定期間中に3報(共著可)有すること
● 認定薬剤師として十分な活動を証明できる実績があること
研修単位 認定期間中に50単位以上(毎年最低5単位以上)あること
● 日本くすりと糖尿病学会が発行するP認定単位が35単位以上
● 日本くすりと糖尿病学会が主催するアドバンスト編技能研修のすべての種類(過去5年以内)を受講していること

参照:認定薬剤師更新|一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

 

申請に必要な書類は以下のとおりです。

 

● 更新申請書
● 糖尿病薬物療法認定薬剤師の認定証の写し
● 単位申請書および糖尿病に関する学会での発表、論文投稿などの研究実績
● 自験例または認定薬剤師として活動実績証明
● 日本くすりと糖尿病学会主催のすべてのアドバンスト編技能研修会の修了証の原本(写しは承認しない)

 

書類申請を行う前に書類審査料を振り込み、簡易書留で申請書類を提出します。

5.糖尿病薬物療法認定薬剤師の資格取得を目指そう

糖尿病薬物療法認定薬剤師の前段階として、糖尿病薬物療法履修薬剤師の資格が設けられています。そのため、糖尿病薬物療法認定薬剤師の資格取得を目指すのであれば、まずは糖尿病薬物療法履修薬剤師を取得に向けて取り組みましょう。

 
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。