NST専門療法士になるには、静脈栄養や経腸栄養について一定以上の知識やスキルを修得する必要があります。通常業務でもある程度の栄養療法の知識は得られますが、より広く深い知見を得て、患者さんの治療に役立てたい場合には、NST専門療法士の資格取得を目指すのがおすすめです。本記事では、NST専門療法士の概要や資格取得のメリットを解説するとともに、受験資格や認定試験などについてお伝えします。加えて、基本問題集や過去問題集などのテキストを活用した勉強方法や、資格の更新方法、上位資格の栄養治療専門療法士についても見ていきましょう。
1.NST専門療法士とは?
NST専門療法士とは、日本栄養治療学会(JSPEN)が実施する認定制度です。NSTはNutrition Support Teamの略称で、栄養サポートチームと呼ばれています。日本栄養治療学会のNST専門療法士認定資格制度では、静脈栄養や経腸栄養を用いた臨床栄養学について優れた知識と技能があることを認定します。認定を受けられるのは、以下の国家資格取得者に限定されています。
● 管理栄養士 | ● 臨床検査技師 | ● 作業療法士 |
● 看護師 | ● 言語聴覚士 | ● 歯科衛生士 |
● 薬剤師 | ● 理学療法士 | ● 診療放射線技師 |
参考:NST専門療法士認定資格制度 申請方法|日本栄養治療学会
認定者の一覧は、日本栄養治療学会のウェブサイトで公開されています。
参考:NST専門療法士資格 保持者一覧|日本栄養治療学会
なお、医師や歯科医師については、NST専門療法士とは別に、認定医・指導医制度、認定歯科医制度を設けています。
2.NST専門療法士の資格を取得するメリット
NST専門療法士の資格を取得することには、以下のようなメリットがあります。
2-1.知識やスキルが向上する
NST専門療法士の資格を取得するメリットとして、薬学関連以外の知識が得られる点が挙げられます。栄養評価方法や経腸栄養などの知見を広げられるため、患者さんが本当に必要としている栄養療法について、薬物治療と合わせて総合的に考えられるようになるでしょう。
薬剤師の視点から患者さんの栄養状態や治療効果の評価を正しく行うことは、適切な栄養療法へとつながります。
2-2.NST関連の診療報酬の算定につながる
医科診療報酬の栄養サポートチーム加算(200点)は、NSTに関連する項目です。栄養状態の悪い患者さんや栄養管理をしないと栄養状態が悪くなる可能性のある患者さんに対して、栄養サポートチーム(NST)が診療をすることを評価したものです。
医師や看護師、薬剤師、管理栄養士などが共同して患者さんの栄養管理を実施することが求められています。また、歯科医師がチームに参画することで、歯科医師連携加算(50点)が算定可能です。
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
🔽 栄養サポートチーム加算について解説した記事はこちら
このように、患者さんの栄養管理のために、さまざまな医療関連職種が連携することは、診療報酬でも評価されています。薬剤師は患者さんの栄養療法に貢献するためにも、NST専門療法士の資格取得を通して、栄養管理についての知識やスキルを身に付けるとよいでしょう。

3.NST専門療法士になるには
NST専門療法士になるには、受験資格を満たした上で、認定試験に合格しなければなりません。ここでは、受験資格や認定試験、合格率・難易度についてお伝えします。
3-1.受験資格
NST専門療法士の受験資格は、以下のとおりです。
資格・経験 | ● 日本栄養治療学会(JSPEN)会員 ● 以下の国家資格取得後3年以上 管理栄養士/看護師/薬剤師/臨床検査技師/言語聴覚士/理学療法士/作業療法士/歯科衛生士/診療放射線技師 |
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実務経験 | 国家資格取得後3年以上医療・福祉施設に勤務し、その中で栄養サポートに関する業務に従事した経験(年数不問)があること |
研修単位 | 合計30単位を取得すること ただし、以下の学術集会への参加とセミナー受講は必須 ● JSPEN学術集会への参加(10単位/回) ● NST専門療法士受験必須セミナー受講(10単位/回) ※同一年度に2回以上参加した場合は1回(10単位)のみの単位付与、別年度の場合は各回ごとに単位付与(ただし、異なる開催形式の場合、各回ごとに単位が付与される場合あり) |
実務研修 | JSPEN認定教育施設における40時間の実地修練を修了していること |
参考:NST専門療法士認定資格制度 申請方法|日本栄養治療学会
申請申し込みは、日本栄養治療学会のウェブサイトからマイページにログインして行います。審査・受験料は10,000円です。書類審査に合格すれば、認定試験の受験資格が得られます。認定試験合格後、認定料20,000円を支払うと、認定証が発行されます。
3-1-1.栄養サポート業務の従事経験
NST専門療法士認定資格制度における栄養サポート業務とは、「栄養障害の状態や栄養管理をしなければ栄養障害が見込まれる患者さんに対して、生活の質の向上や原疾患の治癒促進、感染症等の合併症予防などを目的として、栄養管理に係る専門的知識を活かしてサポートする業務」のことを指します。
従事経験に年数は問われていませんが、国家資格取得後、3年以上医療・福祉施設で勤務していなければなりません。勤務施設については、同一施設である必要はなく、薬局であっても勤務先で栄養サポート業務に従事していれば申請可能です。
参考:申請要件に関するQ&A【NST専門療法士 新規申請】|日本栄養治療学会
3-1-2.実務研修
実務研修は、日本栄養治療学会が認定した施設で行わなければなりません。実務研修の申し込みは指定されたフォーマットをダウンロードし、必要事項を記入後、実務研修を受ける認定教育施設に申請します。
実施時期に規定はありませんが、申請期間までに修了している必要があります。なお、実務研修については、医療・福祉施設での勤務経験には含まれないため注意しましょう。
参考:NST認定教育施設制度 臨床実地修練について|日本栄養治療学会
参考:申請要件に関するQ&A【NST専門療法士 新規申請】|日本栄養治療学会
3-2.認定試験
認定試験は年に1回、オンラインではなく実地(1カ所)で行われています。
日本栄養治療学会のウェブサイトで出題形式や問題数、出題範囲などの試験内容は公表されていませんが、2024年度認定試験に関する公告では、試験時間は2時間となっています。
参考:【7/1~受付開始】NST専門療法士 2024年度認定試験に関する公告(第3報)申請受付開始のご案内|日本栄養治療学会
3-3.合格率と難易度
日本栄養治療学会のウェブサイトでは、NST専門療法士認定試験の難易度を測る上で参考となる合格率や合格基準などの情報は公表されていません。
合格発表は日本栄養治療学会のウェブサイト上で合格者の受験番号を公表する形で行われ、合格者には認定手続き(認定料の納入)についての通知が順次郵送されます。
参考:「NST専門療法士」 2024年度認定試験合格者の発表について|日本栄養治療学会
認定試験に不合格だった場合は、次年度以降5年間に限り、書類審査合格者となるため、書類審査が免除になります。
参考:NST専門療法士認定資格制度 申請方法|日本栄養治療学会
4.NST専門療法士認定試験の勉強方法
日本栄養治療学会のウェブサイトの「出版書籍」ページでは、『日本臨床栄養代謝学会 JSPENテキストブック』や『一般社団法人日本静脈経腸栄養学会 NST専門療法士認定試験 過去問題集I』、『日本静脈経腸栄養学会認定試験基本問題集』などのNST専門療法士認定試験の関連テキストが紹介されているため、これらを参考に試験対策をするとよいでしょう。ただし、これらの書籍には、刷ごとに正誤表があるため、書籍購入時に確認しておくことが大切です。
また、必須単位であるセミナー受講や学術集会の内容も復習しておくとよいでしょう。基本問題集は2012年、過去問題集は2016年に出版されています。最新の医療情報はセミナーや学術集会などで学べるため、問題集や過去問題集と合わせて勉強するのがおすすめです。

5.NST専門療法士の更新方法
NST専門療法士の認定期間は5年間です。資格を更新するためには、以下の要件を満たす必要があります。
資格・経験 | ● NST専門療法士資格取得後から更新申請時まで、引き続き日本栄養治療学会会員であること ● 直近の認定日から更新申請時までの期間のうち2年以上、医療・福祉施設で臨床栄養管理に関する業務に従事した経験があること ※ただし、2年に満たない場合は、1年につき10単位の取得で代替可 |
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研修単位 | 合計30単位を取得すること ただし、以下の学術集会への参加とセミナー受講は必須 ● JSPEN学術集会への参加(10単位/回) ● NST専門療法士更新必須セミナーの受講(10単位/回) |
日本栄養治療学会のウェブサイトからマイページへログインし、更新手続きを行います。更新に必要な審査・認定料は10,000円です。
参考:栄養治療専門療法士認定資格制度 申請方法|日本栄養治療学会
6.上位資格の「栄養治療専門療法士」とは?
栄養治療専門療法士とは、NST専門療法士の上位資格で、9つの専門領域から1領域を選択して資格取得の申請を行います。専門領域は以下のとおりです。
2. 肺疾患専門療法士
3. 肝疾患専門療法士
4. 腎疾患専門療法士
5. リハビリテーション専門療法士
6. 在宅専門療法士
7. 小児領域専門療法士
8. 摂食嚥下専門療法士
9. 周術期・救急集中治療専門療法士
申請要件は以下のとおりです。
資格・経験 | NST専門療法士歴2年以上かつ、1回以上の更新歴があること |
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研修単位 | 合計50単位を取得すること ただし、以下の学術集会での発表とセミナー受講は必須 ● JSPEN学術集会での筆頭発表 ● 各領域のJSPEN栄養治療専門療法士セミナーまたはJSPEN栄養マスターコースの受講 |
上記は、NST専門療法士の資格を取得した後の実績に限ります。栄養治療専門療法士の認定申請は、日本栄養治療学会のウェブサイトからマイページにログインして行います。審査料、認定料ともに5,000円です。認定期間は5年間となっているため、更新する場合には、申請期間内に手続きをしなければなりません。
参考:栄養治療専門療法士認定資格制度 申請方法|日本栄養治療学会

7.NST専門療法士を目指そう
NST専門療法士を取得すると、栄養療法についての知見が広がり、栄養サポートチームに所属している場合には、積極的に参画できるようになるでしょう。NST専門療法士の資格取得を通じて得られた知見を院内のスタッフと共有することで、患者さんの治療に貢献できます。栄養サポートチームに所属している薬剤師やこれから所属する予定の薬剤師は、資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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