処方監査とは、薬剤師が処方箋の内容を確認し、患者さんに安全で適切な薬物療法が行われるようにするための重要な業務です。医療の高度化や多剤併用の増加により、処方監査にはこれまで以上に幅広い知識と判断力が求められています。本記事では、処方監査の手順や課題、調剤鑑査との違いについて解説するとともに、ポイントや注意点、処方監査に関するヒヤリハット事例をお伝えします。

- 1.処方監査とは?
- 1-1.処方監査と調剤鑑査の違い
- 2.処方監査の手順
- 2-1.患者さん情報の分析・評価
- 2-2.形式的監査
- 2-3.薬学的監査
- 2-4.疑義照会
- 2-5.監査結果の記録と共有
- 3.処方監査における課題
- 3-1.ヒューマンエラーのリスクが避けられない
- 3-2.医療現場の変化による複雑化・情報不足・業務負担の増大
- 3-3.システム・ツールの限界
- 4.処方監査を行うときのポイントと注意点
- 4-1.患者さんの情報の収集と更新を怠らない
- 4-2.医師や患者さんとの円滑なコミュニケーションを築く
- 4-3.システムやツールに依存しすぎない
- 5.処方監査に関するヒヤリハット事例
- 5-1.事例1:残薬調整後の薬剤が処方から漏れたケース
- 5-2.事例2:禁忌薬が処方されかけたケース
- 6.薬剤師が処方監査をより確実に行うために
1.処方監査とは?
処方監査とは、薬剤師が処方箋の内容を薬学的観点から確認し、患者さんにとって安全かつ適切な治療が行われるようチェックする業務を指します。調剤の最初のステップとして位置づけられ、薬剤師が果たすべき重要な役割の一つです。
薬剤師法第24条では、処方箋中に疑わしい点があるときは、処方医に問い合わせて確認しなければ調剤してはならないと規定されています。これは、薬剤師が処方内容をそのまま受け取るのではなく、疑義があれば必ず確認し、患者さんの安全を守る責務があることを明確に示した条文です。
処方監査では、薬の用法・用量、相互作用、重複投与、禁忌、患者さんの年齢・腎機能、処方意図との整合性などを多角的に確認します。これにより、処方ミスや薬物有害事象の発生を未然に防ぎ、適正な薬物療法を支えることができます。
参考:薬剤師法 | e-Gov 法令検索
1-1.処方監査と調剤鑑査の違い
処方監査と調剤鑑査は、いずれも薬剤師が行う重要な確認業務ですが、目的とタイミングが異なります。処方監査は調剤の最初に行う工程で、処方箋の内容が患者さんにとって適切かを薬学的にチェックし、疑義があれば医師へ照会します。
一方、調剤鑑査は調剤後に行う最終チェックで、調製した薬が処方内容どおりに正確に調剤されているかを確認する工程です。薬剤の取り違えや数量ミス、ラベル表示の誤りなど、調剤過程でのヒューマンエラーを防ぐ目的があります。両者を適切に実施することで、薬物療法の安全性と信頼性が高まります。
2.処方監査の手順
処方監査では、患者さんの安全な薬物療法を実現するために、段階的に確認を行います。ここでは、薬局・病院で用いられる基本的な処方監査の手順を解説します。
2-1.患者さん情報の分析・評価
処方箋を確認する前に、まずは患者さんの情報を把握します。お薬手帳や薬歴、問診、検査値などから、以下の点を総合的に分析・評価します。
● 現在服用中の薬(併用薬・サプリ含む)
● 妊娠・授乳、生活習慣、職業など
● 腎機能・肝機能などの臨床検査値
これらの情報は、薬学的監査で処方が患者さんに適切であるかを判断する基盤となります。
2-2.形式的監査
次に、処方箋が法的に有効であり、必要事項が正しく記載されているかを確認します。形式的監査では、以下の点をチェックします。
● 医療機関名、医師名、署名または押印
● 交付年月日と使用期限
● 医薬品名、規格、用法・用量、処方日数
● 後発医薬品変更可否の記載
これらを確認して、調剤可能な処方箋であるかを判断します。このとき、処方箋としての形式を成していない場合には、疑義照会を行います。
2-3.薬学的監査
形式的監査で調剤可能である処方箋と判断したら、次は薬学的観点から以下の点について処方内容を精査します。
● 用法・用量が承認情報に合致しているか
● 重複投与、相互作用、併用禁忌の有無
● 散剤・シロップなどの配合変化の可能性
● 患者さんの腎機能・肝機能に応じた投与量か
● 生活習慣や職業による注意点の有無
これらについて薬学的監査を行い、問題ないと判断した場合に、薬剤の取り揃えを行います。疑わしい点がある場合には、疑義照会を行います。
2-4.疑義照会
形式的監査・薬学的監査の結果、処方箋に疑わしい点がある場合は、薬剤師法第24条に基づき、医師へ疑義照会を行います。疑義照会が必要と判断されるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
● 相互作用や併用禁忌が疑われる
● 患者情報と処方意図が一致しない
● 記載漏れ・記載誤りがある
疑義照会は、患者さんの安全を守るための重要なプロセスであり、処方監査の最終ステップとなります。
2-5.監査結果の記録と共有
処方監査で得られた情報や判断内容は、薬歴や電子システムに正確かつ時系列で記録します。記録には、単に「問題なし」と残すのではなく、どの情報を確認し、どのように評価したかを明確に残すことが重要です。
疑義照会を行った場合は、照会理由、医師からの回答、処方変更の有無、患者さんへの説明内容まで一連の流れを記録します。これにより、他の薬剤師が患者さんの対応を行うときにも、判断の背景を正しく理解できます。
3.処方監査における課題
処方監査は薬物療法の安全性を支える重要な業務ですが、現場ではさまざまな課題が存在します。ここでは、薬剤師が直面しやすい代表的な課題をいくつかの観点から解説します。
3-1.ヒューマンエラーのリスクが避けられない
処方監査は高度な判断を伴う業務であり、人の認知特性に依存する以上、ヒューマンエラーのリスクはゼロにはできません。特に以下のような状況では、誤認や見落としが起こりやすくなります。
● 類似薬名・類似規格の存在
● 複雑な併用薬や高齢者の多剤併用
● 検査値や病態の変化を踏まえた難しい判断
監査の質は薬剤師個人の経験や知識に左右されやすく、標準化の難しさが課題といえます。
3-2.医療現場の変化による複雑化・情報不足・業務負担の増大
近年、医療の高度化や患者さんの高齢化により多疾患・多剤併用が増えており、処方監査で確認すべき項目は大幅に増加しています。新薬や個々の患者さんに合わせた投与設計が必要な薬剤も増え、薬剤師にはより専門的な判断が求められています。
一方で、監査に必要な情報が十分に揃わないケースもあり、医療機関間の情報共有不足、お薬手帳の未提示、システム仕様の違いによる情報の抜け・漏れなどが課題です。
さらに、薬剤師の業務は服薬指導、在宅訪問、多職種連携などへ拡大し、時間的制約が強まっています。こうした複数の要因が重なることで、処方監査の負担は増し、ヒューマンエラーのリスクも高まりやすくなっています。
3-3.システム・ツールの限界
電子薬歴や相互作用チェックシステムは監査を支援しますが、以下のような限界もあります。
● 病態・検査値を踏まえた高度な判断はシステムだけでは難しい
● 新薬情報やガイドライン更新への反映にタイムラグがある
システムに依存するだけでは安全性を担保できないため、最終的な判断が薬剤師に委ねられる点は、処方監査における課題のひとつといえます。
4.処方監査を行うときのポイントと注意点
処方監査は、薬剤師が患者さんの安全を守るために欠かせない業務です。ここでは、処方監査の質を高めるために押さえておきたいポイントと注意点を解説します。
4-1.患者さんの情報の収集と更新を怠らない
患者さんの情報が不足したまま監査を進めると、相互作用や禁忌の見落としにつながる可能性があります。そのため、処方監査では患者さんの最新情報を正確に把握することが欠かせません。
お薬手帳や薬歴、問診内容、検査値などから得られる情報をもとに、併用薬やアレルギー歴、腎機能や肝機能の状態、生活習慣や服薬状況を丁寧に確認し、患者さんの情報を最新のものに更新しましょう。
4-2.医師や患者さんとの円滑なコミュニケーションを築く
処方監査を確実に行うためには、医師や患者さんと日頃から情報共有しやすい関係を築いておくことが重要です。例えば、処方意図や状況を正確に把握するために、患者さんから追加の確認が必要になることがあります。普段から患者さんと信頼関係が築けていれば、必要な情報をスムーズに得ることができるでしょう。
医師への疑義照会では、照会内容を簡潔に伝え、互いの専門性を尊重しながらやり取りすることで、協力的な関係を築くことができます。医師や患者さんとの関係性が整っていると、処方監査に必要な情報が集まりやすくなり、結果として安全で質の高い薬物療法につながります。
4-3.システムやツールに依存しすぎない
相互作用チェックシステムや電子薬歴は監査を支援する有用なツールですが、すべてを任せることはできません。システムが提示する情報は、あくまで判断材料の一部であることを念頭に置き、最終的な判断は薬剤師自身が行うという意識を持つことが大切です。
専門性を委ねるのではなく使いこなすという視点でシステムやツールを活用することが、今後の薬剤師には求められるでしょう。
5.処方監査に関するヒヤリハット事例
処方監査の質を向上させるためには、ヒヤリハット事例から学ぶのがおすすめです。ここでは、日本医療機能評価機構が共有すべき事例として掲載しているヒヤリハット事例を紹介します。
5-1.事例1:残薬調整後の薬剤が処方から漏れたケース
| 発生状況 | 70歳代の患者さんの処方箋を応需。前回の残薬調整でメトホルミン塩酸塩錠500mgMT「DSPB」が処方から削除されていた。今回の処方箋にも記載がなく、患者さんに確認すると中止指示はなく残薬もないことが判明。疑義照会の結果、処方医が継続服用を失念していたことが分かり、薬剤が追加された。 |
|---|---|
| 推定される要因 | 医師が前回処方歴に薬剤がなかったため継続服用を忘れた可能性。患者さんも診察時に必要性を伝えていなかった。 |
| 薬局での対応 | 残薬調整で薬剤を削除した際は、その理由を薬剤服用歴に明記し、次回調剤時に処方漏れがないか確認。記録が埋もれないよう電子薬歴の申し送り欄にも記載。 |
| 重要ポイント | 残薬調整で削除された薬剤はお薬手帳やオンライン資格確認に残らず、他医療機関で把握されにくい。処方漏れや重複投与のリスクがあるため、薬剤師は残薬確認と記録の徹底が必要。 |
参考:薬局ヒヤリハット事例収集・分析事業共有すべき事例 2025年 No.12|日本医療機能評価機構
5-2.事例2:禁忌薬が処方されかけたケース
| 発生状況 | 60歳代の患者さんに、整形外科からアレンドロン酸錠35mg「サワイ」が処方されていたが、胃部不快感のためラロキシフェン塩酸塩錠60mg「サワイ」へ変更された。薬剤服用歴を確認すると、数カ月前に同医療機関の内科で深部静脈血栓症と診断され、イグザレルト錠15mgとルプラック錠4mgが処方されていたことが判明。患者さんに確認すると治療は終了していたが、ラロキシフェン塩酸塩錠は深部静脈血栓症の既往がある患者さんに禁忌であるため、疑義照会を行い、エルデカルシトールカプセル0.5μg「日医工」へ変更となった。 |
|---|---|
| 推定される要因 | 処方医が同じ医療機関内の他科での治療歴を把握していなかった可能性がある。 |
| 薬局での対応 | ラロキシフェン塩酸塩錠が処方された際は、薬剤服用歴や患者さんへの聞き取りにより現病歴・既往歴を確認し、禁忌に該当しないか必ずチェックする。日頃から患者さんの病歴情報を収集し、薬剤服用歴に記録しておくことで、禁忌薬の処方を未然に防ぐ体制を整える。 |
| 重要ポイント | 他科の治療歴は医師側で把握されていないことがあるため、薬剤師による情報確認が安全確保に直結する。禁忌薬のチェックは処方監査の重要な役割である。 |
参考:薬局ヒヤリハット事例収集・分析事業共有すべき事例 2025年 No.11|日本医療機能評価機構
6.薬剤師が処方監査をより確実に行うために
処方監査は、薬剤師が患者さんの安全を守るために欠かせないプロセスです。薬剤師は、形式的な確認だけでなく、病態や併用薬、検査値など多角的な情報を踏まえた薬学的判断が求められます。医療現場の複雑化により処方監査の負担は増えていますが、患者さん情報の更新やコミュニケーションの強化、ツールの適切な活用が処方監査の質を高めるカギとなります。リスクをより確実に防げるようヒヤリハット事例から学び、薬物療法の安全性向上につなげましょう。

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。
あわせて読みたい記事



