「薬剤師はいらない」という声を耳にしたことはあるでしょうか。厚生労働省の推計では、将来的に薬剤師の供給が需要を上回る可能性が指摘されており、将来の働き方に不安を感じる人もいるかもしれません。しかし、医療を取り巻く環境は大きく変化しており、業種や分野によって薬剤師のニーズは高まっているため、ただちに薬剤師が必要とされなくなることはないでしょう。本記事では、薬剤師が「いらない」といわれることがある理由や薬剤師の需要についてお伝えするとともに、今後の薬剤師に必要とされることについても解説します。

- 1.「薬剤師はいらない」といわれることがある理由
- 1-1.「薬を渡すだけの仕事」というイメージがある
- 1-2.「AIによって代替できる仕事」と思われている
- 1-3.将来的に供給が需要を上回るという予測がある
- 1-4.非薬剤師へのタスクシフトが進みつつある
- 2.「薬剤師はいらない」って本当?
- 2-1.医薬分業によるメリット
- 2-2.高齢化に伴う医療ニーズの増加
- 2-3.医師から薬剤師へのタスクシフティング
- 3.今後の薬剤師に必要とされることとは?
- 3-1.対物業務から対人業務へシフト
- 3-2.かかりつけ薬剤師としての継続的な関わり
- 3-3.専門資格取得による高度な薬学的支援の提供
- 3-4.IT・AIを活用した業務効率化とデータ活用能力
- 3-5.在宅医療に対応できる地域密着型のスキル
- 3-6.患者さんと医療チームをつなぐコミュニケーション力
- 4.「薬剤師はいらない」といわれないために
1.「薬剤師はいらない」といわれることがある理由
「薬剤師はいらない」といわれることがある理由には、薬剤師業務の特性から必要性を感じにくかったり、AIによって医療環境が大きく変化していたりすることが影響しているといえます。ここでは、薬剤師がいらないといわれることがある理由について詳しくお伝えします。
1-1.「薬を渡すだけの仕事」というイメージがある
薬剤師の仕事は本来、処方内容の確認や副作用リスクの評価、患者さんの生活背景を踏まえた服薬指導など多岐にわたります。しかし、一般の患者さんからは「薬を渡す」という部分だけが見えやすく、専門性が十分に伝わっていない場合もあるでしょう。
調剤過程の多くがバックヤードで行われるため、リスク管理や疑義照会といった高度な専門性に基づく業務が見えにくいことも、誤解が生まれる要因のひとつかもしれません。こうした認識のズレが、「薬剤師はいらない」といわれてしまう理由になっていると考えられます。
1-2.「AIによって代替できる仕事」と思われている
調剤ロボットやAIが普及しつつあることで、「薬剤師の仕事はいずれ機械に置き換わる」と考える人もいるでしょう。確かに、錠数の確認や処方箋の入力などの作業は自動化が進んでいますが、以下のような業務はAIがただちに代替することは難しいと考えられます。
● 医師への提案
● 複雑な薬物相互作用の評価 など
こうした業務をAIで完全に代替することは困難ですが、薬剤師にしかできない業務を支える補助ツールとしてAIを上手に活用することで、対人業務により集中できるようになるでしょう。
参考:第1章 第1節 AIによる職業・タスクの補完と代替:世界経済の潮流 2024年 I|内閣府
1-3.将来的に供給が需要を上回るという予測がある
厚生労働省の需給推計によると、薬剤師国家試験の合格者数が今後も同程度に維持される場合、薬剤師の人数は2020年の約32.5万人から2045年には約45.8万人へ増加すると示されています。一方で、薬剤師の需要は2045年時点で約33.2~40.8万人と推計されており、供給が需要を上回る可能性が指摘されています。
参考:薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会とりまとめ|厚生労働省
ただし、薬剤師の過不足の状況は地域や職場によって異なります。文部科学省の資料によれば、特に都市部では薬局薬剤師が充足している傾向にあるものの、2036年時点でも病院薬剤師はほとんどの地域で不足するという予測が示されています。
参考:資料1 薬学教育及び薬剤師に関する状況|文部科学省
また、厚生労働省の資料「薬剤師の需給推計(案)」では、在宅医療や地域包括ケアの分野で薬局薬剤師の関与が拡大していくことを見込み、在宅業務は2045年までに約2倍に増えると仮定した推計も示されています。需給の変化をキャッチアップし、需要が拡大する領域の専門性を高めることが今後のキャリア形成において重要といえるでしょう。
1-4.非薬剤師へのタスクシフトが進みつつある
厚生労働省の「0402通知(調剤業務のあり方について)」では、薬剤師が最終責任を負うことを前提に、一定の条件下で非薬剤師が担える調剤関連業務が明確化されました。PTP包装の薬剤の取り揃えや一包化後の数量確認など、判断を伴わない機械的作業は、薬剤師の指示と目の届く範囲であれば実施可能とされています。
これにより、薬剤師は対物業務の負担を軽減し、服薬指導や副作用モニタリングなどの対人業務に時間を割きやすくなります。調剤機器やICTの活用も推進されており、タスクシフトは薬剤師の専門性をより発揮するための重要な要素となっています。
参考:調剤業務のあり方について 薬生総発0402第1号 平成31年4月2日|厚生労働省
2.「薬剤師はいらない」って本当?
「薬剤師はいらない」といわれることには上記のような理由があるものの、薬剤師が必要とされなくなるわけではありません。ここでは、改めて薬剤師の存在意義についてお伝えします。
2-1.医薬分業によるメリット
医薬分業は、医師の処方と薬剤師の調剤を分けることで、患者さんの安全性を高める仕組みです。薬剤師が第三者の立場から処方内容をチェックすることで、重複投薬や相互作用のリスクを減らせます。加えて、患者さんの服薬状況を継続的に把握し、生活習慣や症状などの相談に応じることで、治療効果の最大化にも貢献します。
参考:医薬分業とは|日本薬剤師会
また、院外処方箋の発行によって、患者さんが自身の服用薬について知ることができるため、服薬アドヒアランスの向上も期待できるでしょう。病院薬剤師の外来業務が軽減され、入院業務に集中できる点もメリットといえます。医薬分業は単なる役割分担ではなく、医療の質を高める重要な安全装置として機能しているのです。
2-2.高齢化に伴う医療ニーズの増加
日本では多剤併用が必要な高齢患者さんが増えており、薬剤師の専門的な薬学管理が欠かせません。複数の医療機関を受診する患者さんは、薬の重複や飲み合わせの問題が起こりやすく、薬剤師による一元管理が薬物治療の安全性を大きく左右します。
また、高齢による認知機能の低下は服薬ミスにつながる可能性があるため、服薬支援や家族への説明など、対人業務の重要性が増しています。在宅医療のニーズも高まっていることから、超高齢社会において薬剤師が担う役割は拡大していくでしょう。
2-3.医師から薬剤師へのタスクシフティング
医療現場では、医師の業務負担軽減と薬物治療の質向上を目的に、薬剤師へのタスクシフティングが進んでいます。
例えば、病院薬剤師であれば、周術期や病棟での薬学的管理、プロトコールに基づく投与量調整、薬物療法の説明、処方提案など、主体的に関与できる領域は拡大しています。糖尿病患者さんへの自己注射や血糖測定の実技指導など、患者支援の幅も広がっています。
薬局薬剤師においても、地域医療と連携して在宅で薬物治療を行う患者さんの体調・服薬管理を行い、必要に応じて情報共有することで、医師の負担軽減に貢献しています。
薬剤師の役割は、臨床判断の一部を担い医師と協働して薬物治療の最適化に貢献することです。対人業務の価値が高まる中、薬の専門家である薬剤師は医療チームに不可欠な存在といえます。
3.今後の薬剤師に必要とされることとは?
薬剤師として長期的に働き続けていくためには、医療ニーズを把握してスキルアップに努める必要があるでしょう。ここでは、今後の薬剤師に必要とされることについてお伝えします。
3-1.対物業務から対人業務へシフト
調剤の一部が非薬剤師でも担えるようになった現状を踏まえて、薬剤師は「人に向き合う業務」へシフトチェンジしていく必要があります。
患者さんの価値観や生活背景を踏まえた服薬指導、医師・看護師との連携、治療方針への提案などにおいて、薬剤師にしかできない専門性を発揮することが求められます。
対物中心の業務から脱却し、患者さんの理解度や不安に寄り添う姿勢を持つことで、薬剤師の存在価値はより高まるでしょう。
3-2.かかりつけ薬剤師としての継続的な関わり
同じ薬剤師が継続して患者さんを支援することで、生活習慣・服薬状況・不安の背景など深い情報を把握できます。継続的な関わりは、一元的な薬学管理を可能にし、治療の質と患者さんの満足度を高めるでしょう。
また、かかりつけ薬剤師は、患者さんの生活に寄り添いながら副作用の早期発見や残薬調整を行うなど、医療の安全性向上に大きく貢献しています。地域医療の中で信頼される存在となるためには、かかりつけ薬剤師として患者さんの治療に継続的に関わることも重要です。
3-3.専門資格取得による高度な薬学的支援の提供
認定薬剤師・専門薬剤師などの資格取得は、専門性の証明となり、患者さんや医療従事者からの信頼向上につながります。
がんや感染症、在宅医療など高度な知識が求められる領域では、薬剤師の介入が治療効果や患者さんの心理的支援に直結します。そのため、専門性を高めることで医療チーム内での役割も明確になり、薬剤師の存在価値をさらに高めることができます。
3-4.IT・AIを活用した業務効率化とデータ活用能力
電子薬歴やオンライン服薬指導、AIによる業務支援など、デジタル技術を使いこなす能力は、薬剤師の必須スキルとなりつつあります。
今後は、データを活用した服薬管理や副作用モニタリングといったエビデンスに基づく薬学的介入が必要な場面が増えるでしょう。そのため、データを読み解き臨床判断に生かす力が、薬剤師には求められます。
3-5.在宅医療に対応できる地域密着型のスキル
超高齢社会において、薬剤師は地域包括ケアの一員として重要な役割を担います。服薬状況の確認や残薬調整、生活環境の把握、訪問看護師や医師との連携など、患者さんの実際の生活環境を踏まえた支援を行うことで、治療の継続性と安全性の向上が期待できます。
地域に根ざした薬剤師の存在は、今後ますます必要性が高まるでしょう。
3-6.患者さんと医療チームをつなぐコミュニケーション力
薬剤師には、患者さんの言葉や表情、しぐさ、声のトーンから本心を読み取る力が求められます。言葉の裏にある不安や迷いを察知し、適切にフォローすることで、服薬アドヒアランスの向上につながるでしょう。
また、医師・看護師・ケアマネジャーなど多職種との連携においても、適切な情報共有や提案力は欠かせません。患者さんの状況を正確に伝え、薬物治療の最適化に貢献することで、チーム医療全体の質が高まります。患者さんの本音を引き出し、医療従事者同士をつなぐコミュニケーション力は、薬剤師の専門性を支える重要な能力です。
4.「薬剤師はいらない」といわれないために
薬剤師を取り巻く環境は大きく変化しており、対物業務の効率化やタスクシフトが進む一方で、対人業務の重要性は確実に高まっています。患者さんの本音を引き出すコミュニケーション力、多職種と連携する協働力、専門資格による高度な薬学的支援、在宅医療への対応など、薬剤師に求められる役割は広がり続けています。変化を正しく捉え、専門性を磨き続けることで、薬剤師はこれからの医療に欠かせない存在であり続けるでしょう。

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。
あわせて読みたい記事



