薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.03.22公開日:2021.07.29 薬剤師のためのお役立ちコラム

「薬剤師はいらない」と感じるのはなぜ?存在意義を高める方法

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

「薬剤師はいらない」と薬剤師自身が感じてしまうことがあります。薬剤師のなかでも、特に薬局薬剤師に多いかもしれません。病院薬剤師は薬局薬剤師に比べると医療従事者と関わる機会が多い分、やりがいや存在意義を見出しやすい傾向にあります。しかし、薬局薬剤師は時間に追われながら調剤・鑑査・投薬の一連の業務をこなすことに注力するため、患者さんや医療従事者と深く関わりを持ったり、業務のなかでやりがいを感じたりしないかぎり、存在意義を見失いがちです。今回は薬局薬剤師の役割を再確認するとともに、薬剤師がいらないと感じてしまう理由と薬剤師の存在意義を示すポイントについてお伝えします。

1. これまでの薬剤師の役割

これまで薬剤師は、医薬分業により薬物療法の安全性や有効性を向上させる役割があり、医療費削減への貢献が求められていました。その結果、1975年頃から医薬分業率は徐々に上昇し、2014年度には処方せん受取率は68.7%となっています。

 

また、厚生労働省が公表している「患者のための薬局ビジョン 参考資料」によると、2013年度のデータでは薬局が受け付ける年間7.9億枚の処方せんのうち約4300万枚相当(約5.4%)の処方せんにおいて疑義照会が実施されています。

 

同省の「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~」によると、疑義照会によって約9割の薬局は交付する医薬品の減量に成功。薬剤師から後発医薬品の使用を働きかけることで約7割の患者さんが変更を承諾しています。2013年4月では46.5%だった後発医薬品の使用割合が、2015年3月には58.4%まで上昇していることからも薬局薬剤師の医療経済への貢献度が伺えます。

 


2. 薬剤師はいらないと感じてしまう理由

前述したように、これまで薬剤師は安全性・有効性の確保や医療費削減に努め、結果を出してきました。成果を出しているにもかかわらず薬剤師自身が「薬剤師はいらない」と感じてしまうことがあります。ここでは、その理由について考えてみましょう。

 

2-1. IT化できる業務が増えている

薬剤師の業務は正確さが求められる一方で、ヒューマンエラーを完全に避けることはできません。薬剤の錠数を数え間違えたり、入力間違いに気が付かなかったり、それが原因でアクシデントに発展したりすることがあります。これらの業務がIT化できれば、このような単純ミスは減るでしょう。処方せんの電子化や、処方せんの入力や計数調剤、一包化などのIT化を進めた方がよいように考える人も多いのではないでしょうか。

最近では、日本薬剤師会のアプリ「電子お薬手帳」などを使用すると、スマホのカメラで処方せんを撮影し、問診票を入力して送信するだけで薬局への受付を済ませることができます。厚生労働省が電子処方せんの運用ガイドラインや本格運用に向けた実証事業を行っていることもあり、今後、医療業界のIT化はますます進むことが予測されます。

 

処方せんの自動入力機能や、データをもとに計数調剤や一包化する自動調剤機、一包化された薬剤の識別コードをチェックできる分包機による自動鑑査などの開発も進んでいくでしょう。自身が関わる業務が減っていくことに危機感を持ち、薬剤師がいらなくなるのも時間の問題ではないだろうかと感じることがあるかもしれません。

 

 

2-2. 調剤鑑査はAIの方が有利

相互作用のある薬の確認が漏れてしまったり、一包化不可の薬剤を一包化してしまったりするなどの、ヒューマンエラーも少なくありません。一包化不可の薬剤や相互作用が多い薬剤などの医薬品のチェックをAIがフォローしてくれたら、調剤トラブルを避けられる可能性が高まります。すべてを完全にAI任せにすることは難しいかもしれませんが、一部を任せることで鑑査作業を効率化できるでしょう。

 

さらに、今後AIが進化することで、ほとんどの鑑査をAIが行う日が来るかもしれません。薬歴の記録も音声入力になることが予想され、服薬指導と同時に薬歴入力を済ませることもできるようになるでしょう。薬剤師の業務の多くがAIに変わっていき、残る業務は直接人と接する服薬指導だけになるかもしれません。そうした状況も、「薬剤師がいらない」と感じてしまう要因といえます。

 

2-3. 単純作業に見えられるのがつらい

患者さんから待ち時間が長いことへのクレームを受けるたびに、薬剤師の仕事を理解してもらえないように感じることもありえます。薬の相互作用や併用薬のチェックなど、薬剤師が調剤を行ううえで確認する項目は非常に多く、慎重な対応が求められます。

しかし、薬を見ながら薬歴をチェックしている姿はほとんど動きがないため、待合室からは何をしているのか分かりにくいでしょう。同様に他の医療従事者からも薬剤師の仕事が見えにくく、薬剤師は薬を集めて渡すだけというイメージがなかなか払拭できないのも残念なことです。
 

高度な知識と経験を使った業務をしているのに患者さんや医療従事者から認めてもらえないと、薬剤師の存在意義を見出せず、「薬剤師はいらない」と感じてしまうことがあるでしょう。

 

3. 薬剤師の役割は対物業務から対人業務へ

医療機関の近くにある薬局で薬を受け取る患者さんが多く、薬局薬剤師の役割が充分に発揮されていないと指摘されるようになりました。また、医薬分業により患者さんの医療費負担が増えているにもかかわらず、それに見合うサービスの向上や分業による効果を患者さん自身が実感できていない点も課題です。

 

そうした背景をふまえ、厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~」のなかで新たな薬剤師の役割を提示しています。手軽に薬がもらえる薬局から、患者さんや地域住民に必要とされる存在へ変わること。対物業務から患者さんや地域住民への関わり合いを重視する対人業務へのシフトを図り、かかりつけ薬剤師・薬局としての機能や在宅医療へ参画することで、より地域に密着した存在となることが示されています。

 
>>>薬局薬剤師の役割、責任とは?仕事内容を含め解説

 

3-1. 薬剤師でなくてもできる対物業務とは

2019年4月に厚生労働省が公表した「調剤業務のあり方について」において、軟膏剤・水剤・散剤などの医薬品を直接計量・混合する行為を除き、薬剤師以外のスタッフによる調剤が正式に認められました。そのため、薬剤師が調剤に最終的な責任を負うことを前提に、薬剤師の目が届く範囲にかぎり、薬剤師以外のスタッフが対物業務を担うことができます。

 

3-2. 薬剤師にしかできない対人業務とは

患者さんや医療従事者とコミュニケーションをとりながら連携を図るといった薬剤師が行う対人業務は、IT化・AI代替ができない業務です。業務のほとんどがIT化されたとしても、人とのコミュニケーションや相手の考え方・価値観に配慮したやり取りは、人である薬剤師が行う業務といえます。

また、相手の雰囲気やしぐさ、言葉のトーンから本当の気持ちを察知し、対応することはAIにはまだまだ難しい場合もあるでしょう。人は、「わかりました」という言葉ひとつでも、心の底から納得しているのか、妥協したうえでの了承なのか、うわべだけの返事なのかを判断できます。

 

薬剤師は対人業務に集中することで、今以上に専門性を生かしたクオリティの高い医療を提供することができるでしょう。それに伴い、患者さんから感謝の言葉をもらったり、医療従事者から頼りにされたりすることも増えるのではないでしょうか。そういった経験を積み重ねていくことで、薬剤師の必要性を再認識するきっかけになるはずです。

 

4. 薬剤師の存在意義を高める取り組みを

薬剤師の存在意義を患者さんや医療従事者に示したり、薬剤師自身が存在意義を感じたりするためには、対人業務を充実させることが大切です。ここでは、薬剤師の存在意義を高める取り組みについて見ていきましょう。

 

4-1. かかりつけ薬剤師としての活動を増やす

患者さんに対して同一薬剤師が複数回の服薬指導を行うことで、患者さんの生活習慣や価値観、服用コンプライアンスなどさまざまな情報を得ることができます。情報が増えるほど患者さんそれぞれに合わせた服薬指導が可能になり、医療の質の向上が望めるでしょう。かかりつけ薬剤師になると、一元的・継続的な服薬管理により患者さんの状態や考え方に合わせた服薬指導ができ、患者さんの満足度向上につなげることも可能になります。

 
>>>かかりつけ薬剤師の要件とは?必要な研修や活動をチェック
 

4-2. 認定薬剤師・専門薬剤師の資格取得で信頼が高まる

認定薬剤師や専門薬剤師の資格を取得し、薬剤師としての専門性を高めることは、患者さんや医療従事者からの信頼を高めることにつながります。例えば、がん患者さんが初めて薬物治療を行う際、担当する薬剤師が外来がん治療認定薬剤師がん薬物療法認定薬剤師などの資格を取得していれば、安心感が高まります。

 

また、がん患者さんは、薬物治療に対する不安だけでなく、仕事や日常生活が今まで通り続けられるか心配になっていたり、病気のことを考えると何も手がつかなくなってしまったりすることがあります。がんに関する専門知識をつけると、そういった心の変化に合わせて服薬指導ができるようになるでしょう。

 

その時々で必要な情報を提供する薬剤師は患者さんから信頼されます。そして頼りにされる機会が増えれば、自信にもつながります。相手の知りたい情報を状況に合わせて提供し、「あの薬剤師に聞けば大丈夫」と思われることが、薬剤師の存在価値を向上させるのではないでしょうか。

5. 対物業務から対人業務へシフトすることで薬剤師の存在価値は高まる

薬局薬剤師は薬局のなかで調剤をするだけの仕事ではありません。医療従事者へ薬剤の情報を提供するなど薬物療法へ参画し、これからますます患者さんや地域住民へ薬や健康に関する情報を提供するといった存在になり、地域に密着した活動を行うことが求められています。対物業務から対人業務へシフトすることで薬剤師の存在価値は高まるはずです。こうした自分自身の業務への取り組み方、求められている役割を考えて行動することで、「薬剤師はいらない」と思う感情が薄れていくのではないでしょうか。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。