1.そもそも薬機法とは。2021年に改正薬機法が施行された理由
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)で、以前は「薬事法」と呼ばれていました。人体に使用する医薬品や化粧品、医療機器などの製造や販売、広告について適切なルールを定めることで健康被害を防ぐほか、保健衛生の向上を目的としています。
2021年に施行された改正薬機法は、国民のニーズに沿った優れた医薬品、医療機器などをより安全・迅速・効率的に提供するほか、住み慣れた地域で患者さんが安心して医薬品を使用できる環境を整備することを目的に見直されました。
2.2021年施行の改正薬機法で薬剤師業務はどう変わった?
2019年に薬機法の一部を改正する法律(以下、改正薬機法)が公布され、2020年から2022年にかけて順次施行されることとなりました。すでに、対人業務の充実を目指して継続的服薬指導(フォローアップ)の義務化やオンライン服薬指導が導入されています。
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2021年8月1日に施行された薬剤師業務に直接関わる主な改正内容は、認定薬局制度の導入と添付文書の原則電子化、そして薬局などに対する法令遵守体制整備の義務化です。また、トレーサビリティ(製品追跡)向上のためのバーコード活用は、2022年12月1日施行に向けて取り組みが進んでいます。
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要|厚生労働省
3.2021年施行の改正薬機法のポイント①「認定薬局制度の導入」
患者自身が自分に適した薬局を選択できるよう、「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」といった機能別の認定薬局制度が導入されました。認定薬局となるには都道府県の承認が必要です。それぞれの特徴と求められる業務内容について見ていきましょう。
3-1.地域連携薬局とは
地域連携薬局とは、外来受診時の調剤・服薬指導だけではなく、入退院や在宅医療を受ける時に病院などと情報を連携し、一元的・継続的に対応できる薬局を指します。厚生労働省の発表によると、2023年7月末時点で全国にある地域連携薬局は3,876軒です。病院や他薬局の医療従事者とスムーズに連携して、患者さんへのよりよい医療提供のために適切な対応を取ることが求められています。また、医薬品の提供や情報発信、研修を通じて、地域にある薬局同士でサポートし合う取り組みも期待されています。
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3-2.専門医療機関連携薬局とは
専門医療機関連携薬局は、病院などと連携して特定の傷病の専門的な薬学管理に対応できる薬局です。2023年7月末時点で166軒が登録されています。専門医療機関連携薬局には、専門性の認定を受けた薬剤師の配置が必須です。2022年9月現在、定められている傷病の区分はがんのみです。がんの専門医療機関連携薬局となるには次の認定を持つ薬剤師が常勤しなければなりません。
■がんの専門医療機関連携薬局に必要な薬剤師
認定 | 認定団体 |
地域薬学ケア専門薬剤師(がん) | 日本医療薬学会 |
外来がん治療専門薬剤師 | 日本臨床腫瘍薬学会 |
参照:薬剤師及び薬局に関する改正薬機法の施行状況及び最近の状況|厚生労働省
がんの専門医療機関連携薬局では、がん診療連携拠点病院などと密に連携して、より高度な薬学管理や高い専門性が必要な調剤を行います。また、抗がん剤などの医薬品の提供、 がん薬物療法についての専門的な情報発信、高度な薬学管理のための研修を通じて、専門的な薬学管理ができるようほかの薬局の業務をサポートする取り組みも期待されています。現在はがんのみが対象となっていますが、今後はほかの傷病の区分が追加されることも考えられるでしょう。
▶ 専門医療機関連携薬局とは?概要から認定要件まで幅広く解説
4.2021年施行の改正薬機法のポイント②「添付文書の原則電子化」
医薬品の適正使用の最新情報を医療現場に速やかに提供するため、添付文書の電子的な方法による提供が原則化されました。従来の添付文書は製品の箱などに同梱されており、常に最新の情報とは限りませんでした。また、全ての箱への同梱は、紙資源の浪費にもつながります。
この改定で、添付文書の同梱が廃止され、電子的な方法による提供が基本となりました。製品の箱に記載されたバーコードもしくは二次元コードをスマートフォンやタブレットのアプリケーションを利用して読み取り、インターネットを通じて最新の添付文書にアクセスします。これにより、薬剤師は常に最新の情報を入手することが可能です。
今後は電子的な情報提供が原則となりますが、医薬品の初回納品時や改定時には製造販売業者は必要に応じて紙媒体での情報提供を行います。ただし、OTC医薬品などについては、すぐに情報を確認できるようにこれまでどおり紙の添付文書が同梱されるため、OTC医薬品の購入者には支障がないでしょう。
バーコード表示はあくまでも製造販売業者への義務ですが、薬局や病院で業務を行う薬剤師としてはバーコードを読み取るために、対応アプリケーションをインターネット接続可能な端末にダウンロードしておくことが必要です。
例えば、医薬品医療機器総合機構(pmda)で紹介されている添付文書閲覧アプリケーションの一つに「添文ナビ®」があり、無償で提供されています。スムーズな薬剤師業務のためにも、必要な端末を用意し、アプリケーション利用の準備を済ませておきましょう。
5.2021年施行の改正薬機法のポイント③「責任役員の明確化」
これまで、薬局開設者が許可申請をする際に「業務を行う役員」の届け出が必要でした。こうした手続きが廃止され、代わりに「薬事に関する業務に責任を有する役員」(責任役員)の氏名を許可申請書に記載することとなりました。
責任役員の明確化は、法令遵守のために責任役員が主体的に行動する責務を自覚してもらうのが目的です。そのため、現場薬剤師に任せきりにならず法令を遵守する体制づくりや適切な運用のためにリーダーシップを発揮することが求められています。
薬局における法令違反のタイプと具体例としては以下のものが挙げられます。
■薬局における法令違反
類型 | 具体例 |
【類型①】 違法状態にあることを役員が認識しながら、その改善を怠り、漫然と違法行為を継続する類型 |
・薬剤師でない者に調剤させる事例(薬剤師でない者に軟膏の混合を行わせるなど) ・必要な薬剤師数が不足していると把握しつつも薬局の営業を継続する事例 |
【類型②】 適切な業務運営体制や管理・監督体制が構築されていないことにより、違法行為を防止、発見または改善できない類型 |
・医薬品の発注体制が構築されていなかったために、偽造医薬品を調剤し、患者に交付する事例(身分の不確かな業者から医薬品を購入して、他者への転売あるいは患者に調剤するなど) ・適切な業務運営体制が構築されていなかったために、管理薬剤師が他の店舗において業務を行う事例 |
薬局開設者が法人の場合、もし法令違反が起こったときに責任を負うのは責任役員です。日本薬剤師会の見解では、いわゆるエリアマネジャーなどの薬局開設者を補佐する者は、あくまでも薬局開設者と管理薬剤師の橋渡し役でしかないとされています。そのため、何らかの薬事に関するトラブルが生じた場合は、薬局開設者と管理薬剤師が責任を負うということをしっかり理解しましょう。
6.2021年施行の改正薬機法で薬剤師が気を付けるべきこと
薬局は、処方箋調剤やOTC 医薬品といった全ての医薬品を安全に供給する施設であるように位置づけられました。そのため、患者さんが薬を正しく使用できるように専門性の高い薬学的知見に基づく適切な服薬指導がより重要視されます。
また、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局の導入に向けて、勤務する薬剤師自身も適切な専門薬剤師の認定を取らなければなりません。2021年に施行された改正薬機法によって、薬剤師は専門知識と技術をさらに磨く必要があるでしょう。
7.2021年施行の改正薬機法のポイント④「違反広告の課徴金制度」
薬剤師業務に直接かかわるとはいえないものの、無関係ではないのが「虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設」です。医薬品の売り上げ向上のために行われる違法行為としては広告違反が最も多く、過去に刑事告発や行政処分などが行われてきました。課徴金制度の導入は、取り締まりをさらに強化することが目的です。
広告の3原則である①顧客を誘引する(購入意欲を高進させる)意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること、③一般人が認知できる状態であること、を満たすと薬機法の上では「広告」と定義され、チェックの対象となります。
つまり、薬局内に設置した店内POPやちらし、薬剤師による口頭での説明も「広告」と見なされるため、十分な注意が必要です。課徴金額は、原則違反を行っていた期間中における対象商品の売上額の4.5%。そのほか、行政処分として措置命令が取られることもあります。医薬品、医薬部外品など薬機法に関わる製品を販売する際の広告作成や店頭での説明時には、薬機法を考慮するように意識を高めましょう。
参照:課徴金制度の導入について|厚生労働省
8.2021年施行の改正薬機法は安全・安心な医療を受けられる体制づくりが目的
2021年8月1日に施行された改正薬機法では、認定薬局制度の導入と添付文書の原則電子化、薬局などに対する法令遵守体制整備の義務化がなされました。安定・安全な医薬品供給や常に最新の医薬品情報を薬剤師が把握することは、患者さんのより安心な薬物治療や地域住民の健康への貢献につながることでしょう。時代のニーズに合わせてルールは改正されるものであり、2022年12月にも改正薬機法の施行が控えています。改正点をしっかりと理解して薬剤師業務へと生かし、患者さんたちのサポートに役立てましょう。
参考URL:
■医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要|厚生労働省
■薬剤師及び薬局に関する改正薬機法の施行状況及び最近の状況|厚生労働省
■医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の 一部を改正する法律の一部の施行について(認定薬局関係)|厚生労働省
■薬事に関する業務に責任を有する役員(責任役員)について|美の国あきたネット
執筆/テラヨウコ
薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。
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