薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2023.11.21 薬剤師のためのお役立ちコラム

【薬剤師向け】TDMとは?医療での重要性と薬剤師の役割、必要なスキルを解説

文:篠原奨規(薬剤師)

薬物治療において、副作用をコントロールしながら、望ましい治療効果を得ることは重要な課題の一つです。この課題解決に向けて、有用な分析手法として活用されているのが「TDM」です。この記事では、TDMとはどのようなものなのかを解説するとともに、その重要性やTDMにおける薬剤師の役割、求められるスキルについて解説します。

1.医療における「TDM」とは?

TDMとは、医薬品投与後の薬物血中濃度を測定し、臨床効果や副作用を評価する手法のことです。Therapeutic Drug Monitoringの略称で、治療薬物モニタリングとも呼ばれます。多くの薬物治療の場合、その効果を評価する方法として、対象としていた自覚症状がどの程度緩和したかや、血圧や血糖値などの臨床検査値を基に効果判定をします。
 
一方、TDMは、服薬後の薬物血中濃度を指標として医薬品の効果判定を行うため、より最適な投薬計画の提案が可能となり、治療効果を高められるのが特徴です。また過量投与の場合でもTDMにより早期発見ができるため、投薬量(薬物血中濃度)と相関のある副作用をコントロールしやすいといえます。
 
TDMは保険点数化されており、要件を満たすと「特定薬剤治療管理料1」を算定できます。算定できる対象薬剤は限られているものの、診療報酬改定で徐々に算定できる薬剤は増加傾向にあり、国の方針としてもTDMの実施が推進されると考えられています。
 
このように、薬物治療において重要視されつつあるTDMですが、中小病院では検査機器にかかる導入費用やランニングコストなどの負担の問題から、施設内で薬物血中濃度測定を行えない場合もあります。しかし、検査結果が得られるまでに時間はかかるものの、薬物血中濃度測定を外部委託することで、設備のない医療機関でもTDMを実施できます。

 

1-1.TDMの対象となる薬剤とガイドライン

TDMでは薬物血中濃度を指標とするため、薬物血中濃度と医薬品の効果や副作用に関連がある薬剤が対象となります。免疫抑制剤や抗てんかん薬など、薬効や副作用の判定が難しい医薬品や、体内動態の個人差が大きい医薬品に対して、TDMは有用です。その他にも、感染症やがんなど、疾患の急激な変化が予想される場合や、患者さんが指示通りに服薬していない可能性があるときに使用されることもあります。
 
抗菌薬や循環器薬など、TDMの実施が推奨される薬剤については、TDMを実施する上での注意点や検査結果の解釈などの指針が示されたガイドラインが作成されています。実際にTDMに従事するときには、ガイドラインを参照しましょう。
 
※参照:抗菌薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン|日本TDM学会
※参照:循環器薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン|日本TDM学会

2.TDMはなぜ重要なのか?

続いてTDMの重要性について、患者さん視点、医療費視点、経営視点から見てみましょう。

 

2-1.患者さん視点

TDMを実施する第一の目的は、薬物治療の有効性と安全性を確保することにあります。治療の中心である患者さんにとって、TDMは薬物治療の効果を高められる手法として重要だといえます。
 
一部の自己免疫性疾患やてんかんといった病気は、症状が起きないことが治療目標となるため、医薬品の効果判定が難しいとされています。TDMを用いると、薬物血中濃度を指標として処方内容の妥当性を判断でき、適切な治療につながります。
 
年齢や身長・体重の違いや、肝機能、腎機能などの状況など、患者さんのプロファイルによって、服薬効果には個人差が生じます。薬剤の代謝や排せつが悪く、副作用が起こりやすいとされる高齢者や腎障害の患者さんでも、TDMを用いることで、適切な薬物血中濃度を維持でき、効果的かつ安全に治療ができます。
 
また、抗MRSA薬は薬剤に対する耐性菌の発現が問題とされており、MIC(最小発育阻止濃度)を基準に、薬剤の投与量が不十分だと耐性化を助長する可能性があります。薬物血中濃度を測定するTDMは、耐性菌発現の対策としても有用だといえるでしょう。
 
その他、服薬コンプライアンスの確認もできるため、医療者が服薬管理をできない外来診療においては、コンプライアンスを重視した処方設計を考えるきっかけになります。

 

2-2.医療費視点

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢社会を迎えます。そこで喫緊の問題となっているのが、医療費の増大です。TDMを実施し過量処方による副作用を防ぐことで、医療費の抑制効果を期待できるでしょう。
 
例えば、海外では、血液がんの患者さんにバンコマイシンを投与する事例に対してTDMを行うことで、腎機能障害の発生率が減少し、副作用を回避した症例ごとに435ドルの医療費削減につながったことが報告されています。
 
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行う医薬品副作用被害救済制度の実績によると、医薬品による副作用の治療に要した医療費支給額は年間1億円以上とされています。TDMを行い、副作用を適切にコントロールすることが、副作用の治療にかかる医療費の削減につながるのではないでしょうか。
 
※参照:令和4事業年度業務実績(数値データ集)|医薬品医療機器総合機構(PMDA)

 

2-3.経営視点

TDMは、医療機関の経営においても重要といえます。「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」において、全体の半数近くの医療機関が赤字経営であることが示されています。
 
※参照:第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)|厚生労働省

 

厚生労働省が定める対象疾患の患者さんに対して、対象薬剤の血中濃度を測定(TDM)し、その結果に基づいて薬剤の投与量を管理すると「特定薬剤治療管理料1」を算定できるため、医療機関の収益アップの一助となります。
 
また、薬剤師がTDM業務をはじめとする薬物治療の管理を適切に行うことで、治療の質向上や、患者さんの満足、信頼につながることが期待できます。

3.TDMにおける薬剤師の役割は?事例も紹介

TDMは、薬剤師の中でも病院薬剤師が行う業務です。ここからは、病院薬剤師がどのようにTDM業務に携わっているのか、事例を見ながら解説します。

 

3-1.薬物血中濃度の測定

測定装置や専用キットを用いて、薬物血中濃度を測定します。測定装置を導入していない医療機関では、薬物血中濃度の測定を民間の検査センターへ依頼することもありますが、解析結果を早期に患者さんの治療に生かすためには、施設内で薬剤師が薬物血中濃度を測定する必要があります。代表的な医薬品の血中濃度測定法として、免疫学的測定法と分離分析法が挙げられます。

 

3-2.得られた検査結果を解析し、薬物の効果・副作用をモニタリング

測定した薬物血中濃度データに加え、体重や性別、腎機能などの患者さんの情報を用いて解析を行います。現在の投与設計では適切な薬物血中濃度とならない場合に、投与量や投与間隔を見直し、薬物血中濃度が治療域(最小有効血中濃度と、最小中毒濃度の幅)におさまるようにデザインします。
 
解析結果から適切な処方設計をするためには、薬剤の特性を理解しておく必要があるため、一連の作業は薬剤師ならではの仕事といえるでしょう。

 

3-3.医師へ共有

電子カルテなどを通じて、TDMの解析結果や処方設計を医師へ共有します。薬剤師がTDMを行い、医師へ処方提案した結果、医薬品の適正使用につながった事例がいくつか報告されています。
 
例えば、ある医療機関では塩酸バンコマイシン、硫酸アルベカシンを投与している患者さんにTDMを行ったところ、バンコマイシンでは119例中72例が用法・用量の変更を推奨することとなり、そのうち80.4%が実際に処方変更に至った、という事例が確認されています。
 
薬の専門家である薬剤師がTDMを通して処方介入することで、薬物治療の有効性と安全性の確保につながることがよく分かる事例ではないでしょうか。

 
🔽 薬剤師と医師のコミュニケーションのポイントを解説した記事はこちら

4.TDM業務において薬剤師が活躍するために必要な知識やスキル・資格は?

上述したように、患者さんが適切な治療を受ける上で、TDM業務は薬剤師の専門性を生かせる業務といえます。では、薬剤師がTDM業務で活躍するためには、どのような知識やスキルが必要なのでしょうか。また、必要な資格はあるのでしょうか。

 

4-1.薬学や血液検査に関する専門知識(薬局薬剤師との違い)

得られた薬物血中濃度から薬物の効果や副作用を解析、評価するためには医薬品の特徴や臨床検査値、薬物動態についての専門知識が必要です。医薬品が投与されてから、実際に効果を発現するまでにはさまざまな過程があります。
 
「いつ薬物血中濃度が最大になるのか」「有効血中濃度はいくらなのか」「併用薬による相互作用はどうか」など、多角的に治療を評価するスキルが必要です。多くの医薬品を取り扱う薬局薬剤師とは異なり、TDMの対象薬剤は少ないものの、各薬剤の特性をより深く理解しておく必要があります。

 

4-2.コミュニケーション力

近年、薬剤師の働き方が見直され、薬中心の「対物業務」から患者さん中心の「対人業務」へのシフトが求められています。TDMにおいても、患者さんとのコミュニケーションが必要となるため、伝える力や聞く力といった、コミュニケーションスキルは必須といえるでしょう。
 
例えば、患者さんからコンプライアンス不良を聞き取らずに「薬物血中濃度の低下は用量が少ないことが原因だ」と判断してしまうと、過量処方につながってしまう可能性もあるでしょう。「飲み忘れを伝えると怒られる」と思っている患者さんもいるため、治療をする上でコンプライアンスも必要な情報だと納得してもらい、情報を聞き出す必要があります。
 
また、質の高い医療を提供するためには、チーム医療の考え方も重要です。TDMの分析結果や処方設計、投与計画について医師へ伝達するため、情報を整理して分かりやすく伝える力が必要となるでしょう。他職種である検査技師や看護師との連携も必要なため、日ごろから他職種とのコミュニケーションを心がけましょう。

 
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4-3.持っていると有利な認定資格

TDM業務を実施する上で必須の資格はなく、薬剤師免許を持っている方であれば従事できます。ただし一部の認定資格を持っていると、有利になる可能性があります。例えば「抗菌化学療法認定薬剤師」は、抗菌化学療法のスペシャリストであり、抗菌薬をモニタリングするTDMにおいて高度な専門性を発揮できるでしょう。
 
また資格を持っていなくてもTDMに携わることで、「抗菌化学療法認定薬剤師」をはじめとする認定資格の取得を目指すこともできます。「自身の専門性を生かしたい」「知識やスキルを身に付けたい」といった前向きな姿勢や向上心を持っている方は、積極的にTDM業務を行うとよいでしょう。

 
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5.TDMは薬剤師の職能を生かせる業務の一つ

TDMは治療域の狭い薬剤や、個体内変動の大きな薬剤を使う上で、有効性・安全性を確保するために重要な業務です。保険点数化されており、各種ガイドラインが整備されていることから、今後も必要とされる業務であるといえます。医薬品の特徴や臨床検査値、薬物動態など幅広い専門知識が必要となるため、薬剤師の職能を十分に生かせる業務です。
 
医師への処方提案を通して患者さんの治療に貢献したい方や自身の専門性を生かしたい方、専門知識を身に付け認定薬剤師を取得したい方は、積極的にTDMに携わってみてはいかがでしょうか。


執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。

  

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