薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2024.01.18 薬剤師のためのお役立ちコラム

保険薬剤師の登録方法とは?氏名・住所の変更時や紛失時の対応も解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

日本では健康保険への加入が義務付けられていることから、薬剤師が働く医療機関の多くは保険制度を用いた医療を提供しています。薬剤師が保険制度を扱う場合、保険薬剤師としての登録が必要な場合とそうでない場合があります。今回は、保険薬剤師の登録について必要性の違いをお伝えするとともに、登録方法や役割について詳しく解説します。

1.保険薬剤師とは

他店舗へのヘルプや副業で働くケースを除き、調剤薬局に勤める薬剤師は、その職場の保険薬剤師として登録されています。一方、病院や調剤を併設していないドラッグストアで働く薬剤師は、保険薬剤師として働くケースは少ないものです。まずは、その違いを理解しておきましょう。

 

1-1.保険薬剤師の登録義務は業種によって変わる

薬剤師法で「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と定められています。

 

参照:薬剤師法|e-Gov法令検索

 

一方、保険薬剤師は健康保険法で「保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた薬剤師(保険薬剤師)でなければならない」と規定されています。

 

参照:健康保険法|e-Gov法令検索

 

薬剤師が保険薬局で保険制度を利用する患者さんに向けて医療を提供する場合、健康保険法に基づいて保険薬剤師の登録が必要です。

 

一方で、調剤を併設していないドラッグストアで働く薬剤師は登録の必要がありません。また、保険制度が利用可能な病院では医師が保険医として登録を行うため、医師の指示の下に調剤業務を行う薬剤師は、保険薬剤師の登録が不要です。

 

薬剤師法での薬剤師は、医療や薬事衛生、公衆衛生などに関わる役割を定めているのに対し、健康保険法によって保険薬剤師の登録を行った薬剤師は、保険制度についての知識を十分に身に付け、調剤に当たらなければならないことが法律で定められています。

2.保険薬剤師の仕事内容

保険薬剤師は、薬剤師の業務である調剤に加え、保険薬剤師としての役割があります。ここでは、調剤業務における役割と保険薬剤師としての役割について見ていきましょう。

 

2-1.調剤業務における役割

調剤薬局で働く薬剤師は、処方箋に基づいて調剤を行い、医薬品を交付することが主な業務です。さらに高齢化社会を迎え、健康サポート薬局機能とかかりつけ薬剤師としての役割も求められています。

 

健康サポート薬局とは、国民の病気の予防や健康に貢献することを指します。そこで働く薬剤師は、要指導医薬品など処方箋なしで販売できる医薬品に関して、専門的な知識やスキルによって、患者さんに健康に関するあらゆるアドバイスを行います。

 

加えて、患者さんが病院を受診する前に薬剤師に健康相談するなど気軽に尋ねられる地域の相談役として活動します。

 
🔽 健康サポート薬局について解説した記事はこちら

 

一方、かかりつけ薬剤師・薬局は、処方薬を一元的・継続的に把握し、24時間患者さんをサポートできる体制を整えます。

 
さらに、医療機関と連携をとり、かかりつけ薬剤師を持った患者さんが、安心してより充実した医療サポートを受けられるような環境づくりが求められます。

 
🔽 かかりつけ薬剤師について解説した記事はこちら

 

2-2.保険制度への関わり

保険薬剤師として働いていると、患者さんからの薬に関する質問に加え、保険に関する質問や相談を受けることがあります。そのため、保険薬剤師は保険についての知識を身に付けていなければなりません。

 

日本の医療制度は自由診療と医療保障に分かれ、医療保障は健康保険法、共済組合法、船員保険法といった被用者保険や国民健康保険、後期高齢者医療制度、公費負担医療に分類されます。

 

公費負担医療には、生活保護法や障害者総合支援法、精神保健福祉法などがあり、非常に複雑です。保険薬剤師は、健康保険法や薬剤師法などに加え、これらの医療保障に関する法律を順守しながら、調剤報酬点数表に基づいて調剤報酬を算定します。

 

また、調剤薬局に就職した薬剤師は、自動的に保険薬剤師になるわけではありません。保険薬剤師として働くためには登録が必要です。保険薬剤師として登録することで、「保険者との間で公法上の契約に基づく調剤を行う」という意思表示を行います。

 

保険薬剤師は、保険調剤や調剤報酬の請求が適正に行えるよう、法改正や調剤報酬の改訂などがあれば確認を行わなければなりません

 
🔽 調剤報酬について解説した記事はこちら

 

3.保険薬剤師の登録方法

上述したように、保険薬剤師として活動するためには、登録を行う必要があります。ここでは、新規で保険薬剤師として登録する場合の手順についてお伝えします。

 

まずは勤め先の管轄の地方厚生局を確認しましょう。地方厚生局は北海道厚生局、東北厚生局、関東信越厚生局、東海北陸厚生局、近畿厚生局、中国四国厚生局、四国厚生支局、九州厚生局の8カ所です。勤務地によっていずれかの地方厚生局の(支)局長に申請書を提出することになります。

 

参照:地方厚生(支)局所在地一覧|厚生労働省

 

申請書に記入する際には、氏名は姓と名の間を1文字あけ、戸籍簿に記載されている漢字を必ず用いなければなりません。読みにくい名字などであれば、フリガナをふることも忘れずに。添付書類は薬剤師免許証の写しのみです。

 

免許証が発行されていない場合は、登録済み証明書の写しと生年月日が確認できる書類を用意します。保険薬剤師の登録に手数料は発生せず、更新手続きも必要ありません。

 

登録の申請書を管轄の地方厚生(支)局の事務所もしくは指導監査課に提出すると、登録票が公布されます。新規登録が受領されると、事務所や指導監査課の掲示板、ホームページに公示されます。

4.保険薬剤師登録後の各種手続き方法

保険薬剤師の登録をした後に異動や転職、結婚などによる氏名変更などがあると、届け出が必要になります。また、紛失時にも申請が必要です。

 

勤め先が代理で事務手続きを済ませるケースもありますが、自身で届け出る方法を知っておくと安心です。

 

4-1.異動や転職による住所変更があった場合

2021年2月より、保険薬剤師の登録に関する省令の改正が行われ、同一地方厚生(支)局内の異動については、「保険医・保険薬剤師管轄地方厚生(支)局内の管轄事務所等変更届」の提出が不要になりました。

 

例えば、東京都から神奈川県へ異動する場合、変更届の申請は不要ですが、東京都から大阪府への異動の場合、関東信越厚生局から近畿厚生局へ管轄が変わりますので、変更届の申請が必要です。変更届の申請は、保険薬剤師の登録票を添付し、保険薬剤師の登録を行った地方厚生(支)局へ提出します。

 

店舗間でのヘルプやダブルワークなど、複数の店舗で働くケースもあるでしょう。その場合は主に勤務する保険薬局が所在する都道府県での申請となるため、地方厚生(支)局をまたぐ場合はどちらが主となる勤務先かを明記する必要があります。

 

4-2.氏名などの変更があった場合

結婚などで氏名が変更になった場合は、「保険医・保険薬剤師氏名変更届」を提出します。その際に必要な添付書類は、保険薬剤師の登録票と変更前後の氏名、変更年月日が確認できる戸籍抄本です。

 

また、薬剤師免許に旧姓併記をしていたとしても保険薬剤師の届け出は必要です。保険薬剤師として旧姓を使用したいのであれば、保険医・保険薬剤師氏名変更届の「変更事由」欄に変更事由を記入するとともに「旧姓使用を希望する」と記載することで、旧姓のまま登録票を使用できます。

 

4-3.登録票を紛失・棄損してしまった場合

保険薬剤師の登録票を紛失・棄損してしまった場合は、「登録票再交付申請書」を保険薬剤師の登録を行った地方厚生(支)局に提出します。このとき、氏名変更が伴う場合は、「登録票再交付申請書」ではなく「保険医・保険薬剤師の氏名変更届」と「登録票紛失届」を合わせて提出します。

 

登録票の再交付申請は、登録票の紛失時と棄損時で対応が変わるので注意しましょう。紛失時の再交付申請では必要な添付書類はありませんが、登録票が発見された場合は「発見された登録票」を返納しなければなりません。棄損による再交付申請は、棄損した登録票を添付して申請します。

 

保険薬剤師の登録票は、次にお伝えする事項の届け出時に必要ですので、紛失・棄損した場合は登録票再交付の申請を行うか、登録票紛失届を合わせて提出します。

 

4-4.保険薬剤師が死亡または失そうした場合

保険薬剤師が死亡または失そうの申告を受けたときは、戸籍法による死亡または失そうの届出義務者が地方厚生(支)局長に「保険医(保険薬剤師)死亡・失そう届出」を行わなければなりません。手続き対象者は、死亡または失そうの申告を受けた保険薬剤師の親族などになるでしょう。

 

また、死亡または失そうした保険薬剤師が保険薬局を個人開設していた場合は、「保険医(保険薬剤師)死亡・失そう届」と同時に「保険医療機関・保険薬局廃止・休止・再開届」の提出が必要になります。

 

添付書類は保険薬剤師の登録票のみです。登録票を紛失している場合は、「登録票紛失届」を提出します。

 

4-5.登録を抹消する場合

保険薬剤師が登録の抹消を求める場合は、地方厚生(支)局長に「保険医・保険薬剤師の登録抹消の申出」の手続きを行います。この申し出は薬剤師として働いている間は必要ないですが、薬剤師として働くことは今後ないと判断したときに申し出を行うケースが考えられます。

 

前述した通り、保険薬剤師が死亡または失そうした場合、戸籍法による死亡または失そうの届出義務者が届け出なければなりません。事前に届け出ることで親族などの手間を省くことができます。

 

また、登録の抹消手続きは、申し出の翌日から1カ月以上の予告期間を設けることが健康保険法第79条2で定められており、予告期間の終了後、10日以内に管轄している地方厚生(支)局長へ「登録票」を返納しなければなりません。

 

保険薬剤師の登録抹消を申し出る場合は申し出と登録票を提出するタイミングが異なりますので注意しましょう。

5.保険薬剤師は薬と法律の情報収集が必須

保険薬剤師は健康保険法に基づいた調剤をしなければなりません。医薬品に関する知識に加え、保険制度の知識も必要です。

 

日々の業務の中で薬や法律の情報にも敏感に察知し、知識を高めることも大切な業務といえます。保険薬剤師としての役割を果たし、活躍の場を広げましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

  

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