第79回 道下 太英子先生
薬局にも個の医療を提供する時代がやってきた!?
遺伝子検査を通し、患者さん一人ひとりに適した最良の薬物療法、運動療法、食事療法を提供できる薬局を目指す「ハーティ薬局」。
今回は、ハーティ薬局を経営する女性薬剤師、道下太英子社長に薬局と遺伝子検査のコラボレーションによる患者さんへの新しい服薬指導の在り方についてうかがいました。
スタートは思ったより順調でした。
大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学の名誉教授である荻原俊男先生に遺伝子検査のことを相談したときに「これからの時代は遺伝子をみて、リスクを考え相手にあわせた個別の医療を提供することは大事になってくる」と背中を押されたこと。遺伝子検査を受注してくれるパートナーとなる会社がすぐに見つかり、厚生労働省が生活習慣病予防に力を入れだして、特定検診がはじまったことなど、社会的に予防医療の推進を後押しする追い風があったのです。
そこで、まずは2007年にダイエット遺伝子検査キットを発売しました。
このダイエット遺伝子検査キットでは、現在では5種類の肥満遺伝子を調べます。
脂肪量及び肥満関連の遺伝子。
この遺伝子が変異していると、食べ物の選択、特に高脂肪食高カロリー摂取に影響します。
エネルギー消費効率も低く太りやすい体質です
脂肪量及び肥満関連の遺伝子。
この遺伝子が変異していると過食傾向が強いです。BMIにもっとも関与しています。
インスリン抵抗性と関与する遺伝子。
この遺伝子が変異していると、糖質の代謝が低くなります。また、糖分を摂りすぎるとお腹周りに脂肪が付きやすくなります。『内臓脂肪型肥満』発症の遺伝因子です。
熱産生たんぱくの遺伝子。
この遺伝子が変異していると、脂質の代謝が低くなります。
また、脂肪分の摂り過ぎや低体温傾向の人は、特に下半身に脂肪が付きやすくなります。
『皮下脂肪型肥満』発症の遺伝因子です。
この遺伝子が変異していると、基礎代謝が高くなります。
また、カロリー消費が多くて、普通は太りにくいタイプです。
しかし、筋肉が付きにくく、一度太りだすとやせにくくなります。
そして、遺伝子検査に基づき、243種類の肥満のタイプに分類(大きく分けて10種類)し、タイプ別に、最適な食事、運動法などをレポートするという内容になっています。
次いで、葉酸代謝遺伝子検査キット、そして安全に運動をして頂きたいという想いからDNA EXERCISE エクササイズ遺伝子検査キットを開発しました。
遺伝子検査事業は順調に立ち上がったのですが黒字転換はなかなか果たせずにいました。そのうえ、2009年頃に提携していた検査機関が閉鎖してしまったのです。
赤字が続いていたこともあり、遺伝子検査事業を撤退しようと考えたこともありました。それでも、事業継続を選択したのは、アウトソーシングは思った以上にコストと時間がかかっていたことがあり、これを自社で引き受ければコストと時間を大幅にカットできるのではないかということが脳裏をよぎったためです。例えば、新しいキットを開発する場合、自社だと1日の会議で済むところが、パートナーの会社ではいくつもの会議を通し、承認を得るというステップを踏まないとならない事情がありました。また、ゴールデンウィークや年末年始は検査がストップしてしまうので、患者さんをお待たせしてしまうことも解決しなければならない問題でした。こうした事情があったため、検査を外注に頼らずに自社で実施できるようにしたらこれらの問題を解決できると考えたのです。
こうした判断の結果、私自身も薬剤師ですが検査機関に遺伝子検査の仕方を習いに行き、内容を把握した上で衛生検査所を立ち上げるに至りました。遺伝子検査事業開始から8年。1年前になって、ようやく事業が黒字転換しました。
「調剤薬局事業」と「遺伝子分析事業」が効果的に結びつくことで、一人ひとりの患者さんが安心して、自分自身の体質に基づいた薬を服用することができるテーラーメイド医療の確立を目指す。また、自分の体質を正確に把握することで、健康で快適な生活を一日でも長く続けるためのサービスの提供に尽力している。