第76回 岡村 祐聡先生
「薬歴を書く時間がない」「毎回同じことしか書けない」「薬歴に書けるような話を患者さんから聞き出せない」……。
薬剤師の業務には欠かせない薬歴管理ですが、実はこのような悩みを抱えながら仕事を続けている方も多いのではないでしょうか。
今回は、薬剤師の担うべき医療を質高く実践するための理論と方法論である「服薬ケア」を構築し、その普及に尽力している岡村祐聡先生に、患者さんを中心とした「質の高い服薬指導」と「薬歴記載の方法」をうかがいました。
ここまでの内容を踏まえながら、服薬ケアを実践するための具体的な流れをみていきましょう。「服薬ケア」には「服薬ケアステップ」という、7つのステップで服薬指導の進捗状況を把握する方法論があります。大まかな点をご紹介します。
今日のプロブレムがまだわからないので、プロブレムにつながりそうな情報を引き出すという段階です。何かしらの気付きポイントがないかどうかを探していきます。
プロブレムを探している段階です。いくつか質問していくと、会話をする前には見えてこなかった「気付き」があります。これを「気付きリスト」に追加(業務中は頭の中でリストアップします)して、掘り下げてみるのが、「気付き・掘り下げ」の段階です。掘り下げてみた結果、「気付きポイント」が、その後のプロブレムに発展することもありますし、今回は取り上げるまでもない……という場合もあります。
もし、プロブレムとして取り上げるまでもなかった場合には、再び1.に戻り、行ったり来たりをしながら、プロブレムを探していきます。
1.と2.の過程を繰り返して患者さんへの質問をいくつか重ねていくうちに、「これが、今日のプロブレムだ。これを服薬指導しよう」と、ある程度までプロブレムを絞り込めた段階です。つまりは、プロブレムがほぼ見つかった段階です。
「プロブレムが見つかった」のに、なぜ「推定」なのか。それは、このプロブレムは薬剤師が心の中で「プロブレムはこれだ!」と思っただけで、まだ情報収集が不十分だからです。「プロブレムだと考えた理由」がアセスメントになりますが、その根拠となる事実、つまりプロブレムが正しいという証拠となる事実は、多くの場合まだ聞き出せていないはずなのです。
ここではプロブレムを確定してしまわずに、次の4.のステップで、そのアセスメントの根拠を聞き出しましょう。また、もしかしたら患者さんは「話したくない」と思っているなど、気持ちとのずれがあるかもしれません。患者さんが「話題にしてほしくない」ことは、プロブレムとして取り上げることはできません。その場合は前のステップに戻り、他のプロブレムを探します。
プロブレムを確定していく応対のなかで、もっとも大切なステップです。3.で推定したプロブレムを確定へと絞り込むため、アセスメントの根拠となる情報を患者さんから聞き出しましょう。このステップで聞き出した情報は、多くの場合O情報となります。これがアセスメントの根拠ですので、SOAPとしては絶対に欠けてはいけない情報です。通常の服薬指導では、このステップを抜かして「プロブレムはこれだ」と思ったらすぐに指導を始めてしまうことが多いのではないでしょうか。すると、それは「本当にそのプロブレムで合っているのか」を確認していないため、「はずした服薬指導」になってしまう可能性がありまし、またアセスメントの根拠となるO情報が抜けているため、SOAPがうまく書けなくなります。根拠が抜けているので、アセスメントもうまく書けません。多くの皆さんが「SOAPは難しい」という理由の多くは、この4.のステップが抜けているからなんですね。アセスメントを意識し、この「情報の追加と確認」のステップを必ず行ってください。
アセスメントがかたまり、この日行う服薬指導が確定したので、プロブレムの確定となります。この時点で、その患者さんへ実施すべきケアプランもおのずと確定するでしょう。
服薬指導をする段階です。
5.で確定したプロブレムに対して立てたケアプランに基づき、プロブレム解決に向けたアプローチを実施します。薬歴へ記載する情報も、実施したケアの内容(薬剤師の場合は患者さんへ伝えた・指導した内容)をそのまま記載すればOKです。
6.で行った指導に対する患者さんの理解を必ず確認しましょう。
服薬ケアステップの流れを見ればわかる通り、プロブレムが確定したときには、すでにSOAPはすべて揃った状態になっているはずです。つまり、薬歴に書くときになってSOAPを考えるのではなく、服薬指導を始める前、薬剤師の心の中でプロブレムが確定した時点で、実はSOAPは揃っているのです。あとは、それを忘れないうちに薬歴に記録すればよいだけになります。
- S:主訴(患者さんからうかがった話)
- O:所見(薬剤師の目から見た患者さんの様子や認識)
薬剤師が見て取った「患者さんにとっての事実」を書きます。アセスメントの根拠となる事実が、このOに来ます。例えば、血圧に関わるプロブレムの患者さんの場合、診察室で血圧が135/80だったなら、血圧数値の記載とともに「先生から『今回の数値はよかったね』と言われた」など、患者さんにとっての事実や認識を記載します。 - A:アセスメント(S、Oから導き出された薬剤師としての判断や考えたこと)
- P:薬剤師が患者さんへ伝えたこと
医師の場合にはこの部分に「次回検査」などの指導内容も含まれますが、薬剤師の場合には患者さんへ話したことがここに入ります。プロブレムとイコールになる部分ですから、単語だけでもいいので必ず記載しましょう。
ところで、「『P』はプランだから、今後実行したい計画を記載するもの」と考えている薬剤師さんもいるのではないでしょうか。しかし上記のフローをご覧いただくとわかる通り、Pをプランニングしたのは、服薬指導の直前ですが、薬歴を書く段階ではすでにケアとして服薬指導を実施済みです。したがって、「P」にはその日に「話したこと」「行ったこと」を書くようにしましょう。
また次回への引継ぎ事項に関しては、「Pn(P next)」として申し送りだと明記しておくとわかりやすくなります。