第74回 岡村 祐聡先生
「薬歴を書く時間がない」「毎回同じことしか書けない」「薬歴に書けるような話を患者さんから聞き出せない」……。
薬剤師の業務には欠かせない薬歴管理ですが、実はこのような悩みを抱えながら仕事を続けている方も多いのではないでしょうか。
今回は、薬剤師の担うべき医療を質高く実践するための理論と方法論である「服薬ケア」を構築し、その普及に尽力している岡村祐聡先生に、患者さんを中心とした「質の高い服薬指導」と「薬歴記載の方法」をうかがいました。
どうして「頭の中がPOSになっている」と、患者さんのためになるケアを提供できるようになるのでしょうか。
「POS」とはProblem Oriented Systemのこと。患者さんが抱えている「問題(プロブレム)」に焦点を合わせ、適切なケアによって問題の解決を目指すシステムです。患者さんが「今、困っていること」を明らかにした上で、一つ一つの問題に対する解決策を見出し、最良な医療を提供するための方法です。
もし、あなたが服薬指導の結果「今日も、“DO”しか薬歴に書くことがない」「世間話に終始してしまった」と感じることがあるなら、“患者さんの変化に気づく力”を育てていただきたいと思います。患者さんの薬歴やその日の処方箋、患者さん本人の様子から気づいたことを、いくつ挙げられますか。
「いつもと来局される時間が違っていた」
「なんだか顔色が悪い」
「○○の薬が□□に変更になっている」
など、ささいなことでもいいので、気づいたことをすべてリストアップしてみましょう。これを「気付きリスト」といい、この作成はPOSの実践に不可欠な手順といえます。
POSを実践する際には、こうして作成したリストから、患者さんの「プロブレム」を推定します。ここで推定した「プロブレム」は、実際に患者さんが「困っていること」なのか。それを確認する場が服薬指導というわけです。
練習では、実際に紙に書きながらリストアップしていくのですが、実務の中では、頭の中でリストアップします。慣れてくると、すぐにいくつも思い浮かぶようになりますので、ぜひ意識してやってみてほしいと思います。
推定したプロブレムは複数出てくることもあるでしょう。POSではプロブレムに優先順位をつけ、プロブレムごとに問題解決を図ります。
薬局薬剤師であるならば、「1回の服薬指導で焦点を当てるプロブレムは1つ」とし、そのプロブレムの解決の過程を薬歴に記録します。実はこれが薬歴記載の時間を短縮するポイントです。いくつか出てきたプロブレムの中でも、特に重要と思われるものを1つに絞り込み、患者さんへは「今から、大切なことを1つだけお話しします」と“宣言”してから話し出します。
患者さんとの話が進むうち、他にも確認しておきたいことや、新たなプロブレムが発見されることもあるでしょう。しかし患者さんも、一気にたくさんのことを言われては覚えきれません。ですから「1回の服薬指導につき、プロブレムは1つまで」と決め、さらにそれを「1つだけ」と“宣言”して話すことが重要なのです。
ちなみに“宣言”とは、「コミュニケーション全般で大切なことを宣言してから述べる」という技法です。コミュニケーション全般のすべての場面に使用できますから、ぜひ積極的に使ってみてください。
こうすることで、1つひとつのプロブレムを着実に解決することができます。その結果、指導効果も高まりますし、薬歴の記載量も減ることになります。そして次回以降のプロブレムになりそうな項目は、その日の薬歴の最後にまとめて箇条書きにしておきましょう。残ったプロブレムは優先順位に従い、次回以降に確認・解決するようにします。こうしてプロブレムを1つに絞り、継続的に指導するためには、“かかりつけ薬剤師”として患者さんから信頼していただくことが、最も重要であることは、言うまでもないことですね。
このようにPOSに基づいた服薬指導とその過程を薬歴に記すことは、患者さんがそのとき抱えている問題を一つずつ解決していくことになります。
プロブレムについても一言申し添えておきますと、真のプロブレムは、患者さんの“人生の中”にあります。患者さんの生活、人間関係などに着目して、患者さんの人生の質(QOL)に思いを寄せましょう。処方箋の中ばかり探していると、大切なプロブレムは見つけられません。