第70回 藤本 和子先生
2011年の東日本大震災以降、災害医療の現場は支援する側・支援される側ともに大きく変化してきました。今回は、日本災害医療薬剤師学会の理事を務め、災害医療支援薬剤師の養成に尽力している藤本和子先生に再度ご登場いただきます。
現在の災害医療現場の仕組みや体制、今後災害医療に携わることを希望する薬剤師が活躍するための方法などについてうかがいました。
災害医療救援活動へ参加するためには、基本の活動期間である【2泊3日分の衣食住】を確保するための物品が必須です。被災地に送られてくる水や食料などの支援物資は被災者のもの。救援者がそれらの支援物資を横取りするようなことになっては、せっかくの救援活動が本末転倒ですね。寝袋や着替え、食料は自分で準備しましょう。
キャンピングカーで移動ができると便利ですが、被災地の中心までは車が入れないこともありますから、そうした場合の移動手段や宿泊施設はどうするか、同じ薬剤師班のメンバーとも話し合っておきましょう。
そのほか、現地で役に立ったものには以下のようなものがあります。
○輪ゴム
調剤に使えるのはもちろんですが、キッチンペーパーなどの紙を折りたたみ、輪ゴムをつければ即席マスクとしても利用できます。
○ビニール袋
ゴミ袋、雨よけなどに使用できます。
○油性ペン
医薬品を仕分けたときのラベルや注意書きなどに使ったり、被災者に向けたポスターを作成するなど、何色かあると便利です。
また、被災地に救援活動に入った場合はその様子を記録しておき、次回に活かすことが大切です。写真や映像を記録できるデバイスも可能なら持参したいですね。もちろん、スマートフォンでもOKです。その際には予備のバッテリーもきちんと準備して、こまめに記録をとり、学会などの発表の場で経験や知識を共有できるようにしましょう。
避難生活は日常生活とは大きく異なるので、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を有する患者さんへの投薬にも平時とは異なった注意が必要です。
高血圧の患者さんは、避難所生活によるストレスでいつも以上に血圧が高い状態が続いているかもしれません。頭痛などの自覚症状を確認して、必要があれば受診を促すことが必要になります。
また、糖尿病の患者さんの場合には、避難所生活で食事を十分に摂れていない可能性も考え、食生活に関する聞き取りが必要です。食事が不十分な状態で糖尿病の薬を服用すると、低血糖を起こしやすくなります。
このように、よくある生活習慣病の病態と留意すべき生活上の注意について日頃から身につけておくと、有事の場合に患者さんの健康を守ることができるでしょう。
大規模災害では、救援する側にも肉体的・精神的に大きな負荷がかかります。見過ごされがちですが、救援活動に携わった人にもメンタル面でのケアは必要です。無理をせず、心身の休養をしっかり取ってから日常生活に戻るように心がけてくださいね。