薬剤師のお悩みQ&A 公開日:2015.10.19 薬剤師のお悩みQ&A

第40回 赤瀬朋秀 先生

現在、調剤薬局の店舗数はコンビニエンスストアをしのぐといわれています。処方箋獲得競争の激化、2014年度診療報酬の改定での調剤報酬引き下げなど、これまでと同じように業務を行っているだけでは経営を安定化させることが難しくなってきました。
年々、調剤薬局を取り巻く環境の厳しさが増していくなかで、生き残る薬局となるにはどうすればよいのでしょうか。
今回は薬剤師でありながらMBAを取得し、数々の薬局や病院の経営立て直しやコンサルテーションを実践してきた赤瀬朋秀先生にお話をうかがいました。全5回のシリーズです。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)

Q
近所の薬局とは規模も立地条件もさほど変わらないのに、私の薬局は患者数が少なく、薬剤師もすぐに辞めてしまいます。何が原因なのでしょうか。
近所の薬局とは規模も立地条件もさほど変わらないのに、私の薬局は患者数が少なく、薬剤師もすぐに辞めてしまいます。何が原因なのでしょうか。
負のスパイラルに陥っている可能性あり バランスト・スコアカードを導入してみよう

 

バランスト・スコアカードとは?

 
バランスト・スコアカード(Balanced Score Card 以下、BSC)は、マネジメントツールの一つで、組織のビジョンを「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」という四つの視点のバランスをとりながら実行するマネジメント手法です。1992年にハーバード大学のキャプラン教授とコンサルタントのノートン氏によって、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されました。
 
BSCを活用することにより、企業のビジョンや戦略を実現するために必要な成功要因が具体的にみえてきます。それを元に目標を定め、さらに目標達成度を評価するための指標として成果に直結する指標を設定しましょう。月次、四半期、上半期ごとに目標の達成状況を把握でき、経営戦略目標の達成状況を管理することが可能になります。
 
企業の健全な成長には、前述した四つの視点のバランスが整っていることが重要です。しかしいずれかのバランスが崩れると、そこから負の影響が他の視点にも波及し、負のスパイラルに陥ってしまうことがあります。
 
たとえば利益確保に走りすぎ、「財務の視点」に問題のあるA薬局の場合。
A薬局では利益を追求するため、従業員の教育・研修費を削って支出を抑えました。その結果、いつまで経っても従業員の成長はみられず、患者さんに対するサービスの質も向上しません。すると患者さんの顧客満足度は徐々に低下し、それは顧客離れに結びつきます。患者さんが来なくなると、ますます利益を得づらくなり、A薬局が当初打ち立てていた「利益の追求」という目標の達成も、遠ざかっていきます。
 
この場合は「財務の視点」のバランスが崩れていたことが「顧客の視点」「学習と成長の視点」の二つに波及しています。各視点のバランスが次第に崩れていき、負のスパイラルに陥ってしまったのです。
 

負のスパイラルを断ち切るために

 
この負のスパイラルを断ち切り、患者さんを確保するためにはどうしたらいいのでしょうか。その対策の一つは、従業員教育の充実を徹底させることです。
医療機関における従業員への教育は、顧客である患者さんに対するサービスの質の向上に直結し、それは顧客満足度の引き上げにつながります。
 
上記の例では利益を確保し、収入を抑えるために従業員への教育・研修費をカットしていました。しかし中長期的にみると、顧客満足度向上のためにも従業員教育をしっかり行うべきです。そして、「あの薬剤師さんの話をまた聞きたい」「薬をもらうなら、あの薬剤師さんじゃないと」と思ってくれる患者さんを増やし、自身の薬局で勤務する薬剤師の固定客になってもらう、すなわち“かかりつけの薬剤師”を育成するのです。そうすることで患者さんの来局頻度は上がり、薬局の将来の利益へと結びついていくでしょう。
 
利益が低下しているときに従業員教育に投資するのは、リスクが高いかもしれませんし、勇気のいる決断になるでしょう。しかし、BSCを実践し、自分の薬局の弱点を見つめ直してみると、将来の利益確保のためには、現在の従業員教育への投資が必要だと思えるようになってくるのではないでしょうか。
それでも経営状況が好転しないときには、もう一度スタート地点に立ち戻り、当該地域におけるポジショニングの策定やマーケティングからやり直してみることをおすすめします。
 

負のスパイラルに陥っている可能性あり バランスト・スコアカードを導入してみよう

 

バランスト・スコアカードとは?

 
バランスト・スコアカード(Balanced Score Card 以下、BSC)は、マネジメントツールの一つで、組織のビジョンを「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」という四つの視点のバランスをとりながら実行するマネジメント手法です。1992年にハーバード大学のキャプラン教授とコンサルタントのノートン氏によって、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されました。
 
BSCを活用することにより、企業のビジョンや戦略を実現するために必要な成功要因が具体的にみえてきます。それを元に目標を定め、さらに目標達成度を評価するための指標として成果に直結する指標を設定しましょう。月次、四半期、上半期ごとに目標の達成状況を把握でき、経営戦略目標の達成状況を管理することが可能になります。
 
企業の健全な成長には、前述した四つの視点のバランスが整っていることが重要です。しかしいずれかのバランスが崩れると、そこから負の影響が他の視点にも波及し、負のスパイラルに陥ってしまうことがあります。
 
たとえば利益確保に走りすぎ、「財務の視点」に問題のあるA薬局の場合。
A薬局では利益を追求するため、従業員の教育・研修費を削って支出を抑えました。その結果、いつまで経っても従業員の成長はみられず、患者さんに対するサービスの質も向上しません。すると患者さんの顧客満足度は徐々に低下し、それは顧客離れに結びつきます。患者さんが来なくなると、ますます利益を得づらくなり、A薬局が当初打ち立てていた「利益の追求」という目標の達成も、遠ざかっていきます。
 
この場合は「財務の視点」のバランスが崩れていたことが「顧客の視点」「学習と成長の視点」の二つに波及しています。各視点のバランスが次第に崩れていき、負のスパイラルに陥ってしまったのです。
 

負のスパイラルを断ち切るために

 
この負のスパイラルを断ち切り、患者さんを確保するためにはどうしたらいいのでしょうか。その対策の一つは、従業員教育の充実を徹底させることです。
医療機関における従業員への教育は、顧客である患者さんに対するサービスの質の向上に直結し、それは顧客満足度の引き上げにつながります。
 
上記の例では利益を確保し、収入を抑えるために従業員への教育・研修費をカットしていました。しかし中長期的にみると、顧客満足度向上のためにも従業員教育をしっかり行うべきです。そして、「あの薬剤師さんの話をまた聞きたい」「薬をもらうなら、あの薬剤師さんじゃないと」と思ってくれる患者さんを増やし、自身の薬局で勤務する薬剤師の固定客になってもらう、すなわち“かかりつけの薬剤師”を育成するのです。そうすることで患者さんの来局頻度は上がり、薬局の将来の利益へと結びついていくでしょう。
 
利益が低下しているときに従業員教育に投資するのは、リスクが高いかもしれませんし、勇気のいる決断になるでしょう。しかし、BSCを実践し、自分の薬局の弱点を見つめ直してみると、将来の利益確保のためには、現在の従業員教育への投資が必要だと思えるようになってくるのではないでしょうか。
それでも経営状況が好転しないときには、もう一度スタート地点に立ち戻り、当該地域におけるポジショニングの策定やマーケティングからやり直してみることをおすすめします。
 

赤瀬朋秀プロフィール
赤瀬朋秀先生プロフィール
日本経済大学大学院教授。図書館・情報センター長。
1989年に日本大学理工学部薬学科卒業後、慶應義塾大学病院薬剤部を経て北里大学病院薬剤部に入局。その後、経営学大学院に進学し経営学を学ぶ。MBA取得後9年間にわたって2つの病院において薬剤部門長を務め、2012年4月より現職。