薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.10.16公開日:2024.04.18 薬剤師のスキルアップ

居宅療養管理指導とは?薬局薬剤師が行う場合の算定要件や流れを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

居宅療養管理指導を行うと、介護保険制度における「居宅療養管理指導費」を算定できます。介護報酬での算定となるため、薬剤師は調剤報酬だけでなく介護報酬についても理解しておく必要があるでしょう。今回は、居宅療養管理指導の概要や対象者をお伝えするとともに、居宅療養管理指導費の算定要件や単位などについて解説します。

1.居宅療養管理指導とは

居宅療養管理指導とは、介護が必要な状態となった患者さんが、できる限り自立した生活を送れるよう管理や指導を行い、療養生活をサポートすることを指します。
 
居宅療養管理指導を行ったときには、介護報酬の「居宅療養管理指導費」を算定できます。薬剤師だけでなく医師や歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士が管理や指導を行った場合にも算定できる指導料です。
 
参照:社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)資料5 居宅療養管理指導|厚生労働省

 

1-1.居宅療養管理指導の対象者

居宅療養管理指導の対象者は、介護保険の適用を受けている患者さんで、要介護・要支援の認定を受けた人が該当します。要介護者と要支援者の定義は以下のように定められています。

 

【要介護者の定義】
● 要介護状態にある65歳以上の者
● 要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(特定疾病)によって生じたもの
 
【要支援者の定義】
● 要支援状態にある65歳以上の者
● 要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたもの
 
※政令で定めるもの(特定疾病):施行令第2条
参照:要介護認定に係る法令|厚生労働省

 

要介護者と要支援者の定義に多少の違いはありますが、どちらも65歳以上の人、もしくは特定疾病に該当する40歳以上65歳未満の人が対象となっています。なお、政令で定めるもの(特定疾病)は、介護保険法施行令第2条に明記されています。
 
特定疾病とは、厚生労働省のWebサイトにて、以下の要件を満たすものとされています。

 

【特定疾病の定義】
● 65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められるなど、罹患率や有病率(類似の指標を含む)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。
● 3~6カ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。
 
参照:特定疾病の選定基準の考え方|厚生労働省

 

介護保険法施行令では、特定疾病の範囲について具体的に示されています。

 

【特定疾病の範囲】
● がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)※
● 関節リウマチ※
● 筋萎縮性側索硬化症
● 後縦靱帯骨化症
● 骨折を伴う骨粗鬆症
● 初老期における認知症
● 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病※【パーキンソン病関連疾患】
● 脊髄小脳変性症
● 脊柱管狭窄症
● 早老症
● 多系統萎縮症※
● 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
● 脳血管疾患
● 閉塞性動脈硬化症
● 慢性閉塞性肺疾患
● 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
 
(※印は2006年4月に追加、見直しがなされたもの)
参照:特定疾病の選定基準の考え方|厚生労働省
参照:介護保険法施行令|e-Gov法令検索

 

介護保険の対象者は、基本的に65歳以上の高齢患者さんです。ただし、上記の疾患によって、要介護状態または要支援状態となっていると認められた40歳以上65歳未満の患者さんも、介護保険の対象となります。

2.居宅療養管理指導における薬局薬剤師の役割

居宅療養管理指導における薬局薬剤師の役割には、患者さんへの服薬指導や服薬管理、オンライン服薬指導を行うためのサポート、ケアマネジャーや医療従事者との連携などがあります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

 

2-1.服薬指導・服薬管理

薬局における居宅療養管理指導では、服薬指導や服薬管理を行います。患者さんが服用薬を管理しやすいように一包化したり、一包化したパックに用法・用量を記載したりするのが主な業務です。
 
文字での確認が難しい患者さんに対しては、マーカーやシールで目印をつけたり、お薬カレンダーを使用したりといった提案を行い、安全・安心な薬物治療ができるようサポートします。
 
加えて、残薬や副作用の有無などを確認し、服薬アドヒアランスが向上するよう管理・指導を行います。

 
🔽 アドヒアランスについて詳しく解説した記事はこちら

 

2-2.オンライン服薬指導

2024年度の介護報酬改定では、情報通信機器を使った居宅療養管理指導について、算定要件や実施回数が見直されています。オンライン服薬指導は、患者さんの自宅に訪問することなく薬学的管理や服薬指導を行えるため、移動にかかる時間やコストの削減、感染リスクの軽減といった点でメリットがあるでしょう。
 
オンライン服薬指導にはさまざまなメリットがある反面、セキュリティ対策やプライバシー保護については慎重に対応する必要があります。薬局内の通信環境を整えるだけでなく、患者さん側の通信環境についても助言や説明などが求められるでしょう。
 
オンライン服薬指導を行う上で、患者さんの状況やITリテラシーに合わせた対応をすることは、薬剤師の重要な役割といえます。

 
🔽 オンライン服薬指導について詳しく解説した記事はこちら

 

2-3.ケアマネジャーなどとの連携

居宅療養管理指導を行う薬剤師は、ケアマネジャーや医療機関との連携も担います
 
ケアマネジャーは、要介護者や要支援者の相談に乗ったり、患者さんが訪問介護やデイサービスなどを受けられるように支援したりする業務を担い、介護支援専門員とも呼ばれます。患者さんが適した介護サービスを受けられるよう、ケアプランの作成や各機関と連携をするのが主な仕事です。
 
ケアマネジャーのサポートがある患者さんは、ケアプランに沿って介護サービスを受けます。居宅療養管理指導を行う上で不明点などがある場合には、ケアマネジャーに詳細を確認し、ケアプランに沿った服薬管理や服薬指導などをする必要があります。
 
また、薬学的管理や服薬指導などによって得られた患者さんの情報について報告書を作成し、ケアマネジャーや医療機関と情報共有しながら、患者さんに適した医療を提供するよう努めるのも薬剤師の大切な役割といえます。
 
参照:介護職員・介護支援専門員|厚生労働省
参照:サービス利用までの流れ|厚生労働省介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」

 
🔽 在宅医療における薬剤師の役割を詳しく解説した記事はこちら

3.薬局における居宅療養管理指導費の算定要件と単位

介護報酬にあたる居宅療養管理指導費は、調剤報酬でいうところの「点数」を「単位」として表しています。算定要件と単位について見ていきましょう。

 

3-1.算定要件

医師の指示に基づき、薬剤師が薬学的管理指導計画を策定し、患者さんの居宅にて指導を行います。指導内容は患者さんや家族に文書などで提出するよう努めることとされています。
 
指導後は、なるべく早く薬歴に指導内容を記録するとともに、医師への報告とケアマネジャーへの情報提供を行います。このとき、ケアマネジャーへの情報提供を行わなかった場合は、居宅療養管理指導費を算定できません。
 
ただし、ケアマネジャーによるケアプランの作成が行われていない患者さんについては、居宅療養管理指導費を算定できることになっています。

 

3-2.単位と加算項目

居宅療養管理指導費は、薬局薬剤師または病院薬剤師によって、単位や1カ月の実施回数の上限が異なります。2024年度の介護報酬改定により、1回あたりの算定単位が以下のように見直されます。

 

居宅療養管理指導の基本報酬と月の実施回数
区分 単一建物居住者 月の実施回数
1人 2~9人 10人以上 情報通信機器を使用
病院薬剤師 566単位 417単位 380単位 なし 2回まで
薬局薬剤師 518単位 379単位 342単位 46単位 4回まで

参照:2024年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
 
情報通信機器を使った居宅療養管理指導について、2021年度の介護報酬改定では月の実施回数が1回までとされていましたが、2024年度の改定からは4回までとなります。実施回数以外の算定要件については、以下に変更されます。

 

● 初回から情報通信機器を用いた居宅療養管理指導の算定を可能とする。
● 訪問診療において交付された処方箋以外の処方箋に係る情報通信機器を用いた居宅療養管理指導についても算定可能とする。

 

また、2024年度の介護報酬改定により、患者さんの状態に合わせた在宅薬学管理を推進するため、新たに以下の加算項目が新設されます。

 

● 医療用麻薬持続注射療法加算 250単位/回
● 在宅中心静脈栄養法加算 150単位/回

 

薬局の薬剤師において、現行の介護報酬では「がん末期の患者さん」「中心静脈栄養を使用している患者さん」に対して、1週に2回かつ1カ月に8回を限度として居宅療養管理指導費を算定することができます。2024年度の介護報酬改定では、これらに加えて「注射による麻薬の投与を受けている患者さん」についても対象となります。
 
そのほか、居宅療養管理指導費には、以下のような加算項目があります。

 

● 特別地域加算:所定単位数の15%
● 中山間地域等における小規模事業所加算:所定単位数の10%
● 中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算:所定単位数の5%

 
参照:社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)資料5 居宅療養管理指導|厚生労働省

 

さらに、2024年度の介護報酬改定では、かかりつけ医連携薬剤調整加算についても見直されます。
 
かかりつけ医連携薬剤調整加算とは、ポリファーマシーの解消を推進するための項目です。2024年の介護報酬改定では(I)~(III)のうち、(I)について以下のように区分されます。

 

● かかりつけ医連携薬剤調整加算(I)イ 140単位/回
● かかりつけ医連携薬剤調整加算(I)ロ 70単位/回

 
🔽 ポリファーマシーについて詳しく解説した記事はこちら

4.薬局における居宅療養管理指導費を算定できる事例

居宅療養管理指導費が算定できるのか、疑問に思うことがあるでしょう。ここでは、いくつかのケースを紹介します。

 

4-1.処方箋1枚につき2回以上の居宅療養管理指導を行う場合

居宅療養管理指導費は処方箋1枚につき1回だけ算定するものではありません。処方薬の服用期間中であれば、1回に限らず算定できるため、投与日数に応じて指導することが可能です。ただし、算定日の間隔は6日以上空けなければなりません。

 

4-2.同居する同一世帯に居宅療養管理指導を行う患者さんが2人以上いる場合

夫婦で介護サポートを受けているケースでは、居宅療養管理指導を行う患者さんが同じ建物に2人以上となります。この場合、患者さんごとに「単一建物居住者が1人の場合」として算定できるとされています。
 
参照:『保険調剤Q&A 令和4年版(調剤報酬点数のポイント)』じほう

5.薬局における居宅療養管理指導を算定できない事例

続いて、薬局における居宅療養管理指導が算定できないケースについて見ていきましょう。

 

5-1.患者さんの通院が困難と認められない場合

居宅療養管理指導の対象となる患者さんについては、「居宅療養管理指導における通院が困難なものの取り扱い」にて以下のように明確化されています。

 

「例えば、少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者などは、通院は容易であると考えられるため、居宅療養管理指導費は算定できない」
 
参照:2021年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

 

居宅療養管理指導は、「定期的に患者さんの元に訪問して服用薬の管理と指導を行うこと」に対する評価です。継続的な管理や指導が必要ない患者さんや自身で通院できる患者さんに対して、安易に算定してはいけないとされています。

 

5-2.処方箋の交付と関係のない指導の場合

居宅療養管理指導費は「当該保険薬局で調剤した薬剤」を服用している患者さんについて、その服用期間中に対して算定するものとされています。他薬局や院内調剤された薬剤について医師の指示に基づき実施したとしても、居宅療養管理指導費は算定できません。
 
また、在宅患者訪問薬剤管理指導料または居宅療養管理指導費を算定する医療機関は、患者さん1人につき、同一月に1施設しか認められていません。
 
そのため、居宅療養管理指導を行う薬局は、自薬局で調剤した薬剤の他に、他薬局や院内調剤により交付された薬剤を使用しているか確認し、場合によっては、その他の薬剤についても管理・指導を行う必要があります。

6.薬局薬剤師が居宅療養管理指導を行うための流れとポイント

薬局薬剤師が居宅療養管理指導を実施するためには、算定に必要な手続きや要介護認定を受けていない患者さんの対応法などについて把握しておく必要があるでしょう。
 
また、居宅療養管理指導の依頼を受けやすい環境づくりも大切です。ここでは、居宅療養管理指導を行うための流れとポイントについてお伝えします。

 

6-1.居宅療養管理指導の算定に必要な手続き

保険薬局の指定を受けている薬局は、介護保険法における居宅サービス事業者の指定があったものとみなされます(みなし指定)。そのため、保険薬局については居宅療養管理指導を算定するために必要な手続きはありません。
 
ただし、国民健康保険団体連合会に対しては、「介護給付費等の請求及び受領に関する届」が必要です。
 
また、県によっては、みなし指定を受けている薬局であっても届出が必要な場合があるため、詳しくは地域の介護保険課などに確認しましょう。
 
そのほか、居宅療養管理指導を行うためには、重要事項説明書や契約書、個人情報保護に関する確認書などの書類を用意する必要があります。
 
参照:介護保険法|e-Gov法令検索
参照:「介護給付費等の請求及び受領に関する届」等のご案内|介護事業所等の皆様|東京都国民健康保険団体連合会
参照:居宅サービス関係の手続きについて|群馬県
参照:『保険調剤Q&A 令和4年版(調剤報酬点数のポイント)』じほう

 

6-2.居宅療養管理指導の依頼を受けやすい環境づくり

薬局薬剤師が居宅療養管理指導の依頼を受けるためには、地域の医療関係者と信頼関係を構築することが大切です。
 
地域包括支援センターの交流会に参加したり、地域の医療機関と連携をとったりしながら医療関係者とのつながりを作り、相談されやすい環境を整えましょう

 

6-3.居宅療養管理指導の実施

居宅療養管理指導は、医師から直接依頼を受ける場合や、ケアマネジャーや訪問看護師から依頼を受ける場合などがあります。医療関係者から依頼を受けるケースでは、事前に詳しい情報が得られるため、より細やかなサポートができるでしょう。
 
服薬指導を通して、薬剤師が在宅医療の必要性を認めた場合や患者さん・家族から希望があった場合には、要介護認定の有無を確認した上で、処方医に対して居宅療養管理指導の提案を行います
 
実施手順をホームページで公開している病院もあるため、事前に確認してから問い合わせましょう。

 

6-4.要介護認定を受けていない患者さんへの対応

介護認定を受けていない患者さんへの訪問指導については、居宅療養管理指導を算定することができません。このケースでは、在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定します。
 
患者さんがデイサービスや訪問入浴といった介護サービスを希望する場合には、市町村の窓口で要介護認定の申請をするように伝えましょう。

 
🔽 在宅患者訪問薬剤管理指導料について詳しく解説した記事はこちら

7.薬局で居宅療養管理指導を受ける患者さんのメリット

居宅療養管理指導は、薬剤師だけでなく医師や歯科医師、管理栄養士などの医療関係者が連携して行います。そのため、患者さんは自宅にいながら、複数の専門家の知見によるサポートを受けられるという利点があります。
 
ここでは、患者さんやその家族が得られる居宅療養管理指導のメリットについて詳しくお伝えします。

 

7-1.患者さんや家族の負担が軽減できる

要介護者の中には、公共交通機関を利用するのが難しいため、医療機関の受診にタクシーや介護サービスを利用する人もいます。医療機関にかかるたびに家族の付き添いを必要とする人もいるでしょう。
 
居宅療養管理指導は、医療機関を受診せずに体調管理や栄養管理ができる点がメリットです。医師や薬剤師、管理栄養士などの医療従事者が居住場所に訪問するため、通院の手間が省けます。患者さん自身だけでなく家族の身体的・精神的・金銭的な負担が軽減する点もメリットといえるでしょう。

 

7-2.複数の専門家が連携して支援する

ケアマネジャーが介入している患者さんの場合、さまざまな医療従事者がそれぞれ専門的な視点でケアマネジャーへ情報提供を行います
 
ケアマネジャーは、医療従事者からの情報を総合的に考えて、患者さんにとって最善のケアプランを組み立てるため、複数の専門家が連携して患者さんをサポートできます。

 

7-3.必要なサポートが明確になる

居宅療養管理指導では、患者さんの自宅に訪問するため、生活環境や服薬状況について詳細に把握することができます。薬局での服薬指導よりも詳しい情報が得られるため、より患者さんの状況に合わせたサポートができるでしょう。
 
患者さんの状態や状況の変化も察知しやすいため、その都度、必要な支援を評価し対応することが可能です。

8.薬局薬剤師が居宅療養管理指導を行う意義は大きい

薬局薬剤師が在宅医療に関わることで、残薬の管理や服薬アドヒアランスの向上が期待できます。また、副作用の早期発見にもつながるため、薬局薬剤師が居宅療養管理指導を行う意義は大きいでしょう。薬局薬剤師は、患者さんがより自立した生活をサポートできるようスキルアップを図りましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。