1.薬歴(薬剤服用歴)とは
薬歴とは、「薬剤服用歴」の略称です。『保険調剤の理解のために(令和5年度)』によると、「同一患者についての全ての記録が、必要に応じ直ちに参照できるよう患者ごとに保存及び管理するもの」と定義されています。つまり、薬歴は、患者さんの疾患や服薬に関わる情報を一元的かつ継続的に管理し、いつでも確認できるよう保管しておかなければなりません。
これまで薬歴への記録は、「薬剤服用歴管理指導料」の算定要件でしたが、2022年度の診療報酬改定で、「調剤管理料」の算定要件となりました。ここでは、薬歴の目的と必要性について解説するとともに、薬歴に記載する項目や管理の仕方についてお伝えします。
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1-1.薬歴の目的と必要性
薬歴を記録する目的は、患者さんの薬物治療を安全に行うことにあります。患者さんの治療に関わるさまざまな情報を記録することで、治療の背景や治療方針に合わせた服薬管理・服薬指導ができるようになります。
また、薬歴は、調剤報酬を請求する際の根拠になります。服薬指導や患者情報だけでなく処方薬や調剤内容、手帳活用の有無などの適切な記録によって、調剤報酬を請求できるため、薬局を経営する上で重要な記録といえます。
1-2.薬歴に記載する項目
薬歴に記載する項目として、次の点を記載することとされています。
項目 | 詳細 | |
患者さんの基礎情報 | 氏名、生年月日、性別、被保険者証の記号番号、住所、必要に応じて緊急連絡先 | |
処方及び調剤内容等 | 処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、調剤日、調剤した薬剤、処方内容に関する照会の要点等 | |
患者さんの体質、薬学的管理に必要な患者さんの生活像及び後発医薬品の使用に関する患者さんの意向 | アレルギー歴、副作用歴等を含む。 | |
疾患に関する情報 | 既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患に関するものを含む | |
オンライン資格確認システムを通じて取得した患者さんの薬剤情報又は特定健診情報等 | ||
併用薬等の状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況 | 要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及び健康食品を含む | |
服薬状況 | 残薬の状況を含む | |
患者さんの服薬中の体調の変化及び患者さん又はその家族等からの相談事項の要点 | 副作用が疑われる症状など | |
服薬指導の要点 | ||
手帳活用の有無 | 手帳を活用しなかった場合はその理由と患者さんへの指導の有無。また、複数の手帳を所有しており1冊にまとめなかった場合は、その理由 | |
今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点 | ||
指導した保険薬剤師の氏名 |
1-3.薬歴の管理の仕方
先にもお伝えしたとおり、薬歴は、同一の患者さんの全ての記録が必要なときにすぐに参照できるように保存・管理する必要があります。また、薬歴は最終の記入の日から起算して3年間保存しなければなりません。
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2.電子薬歴について
以前は、紙を使った薬歴が一般的でしたが、現在では電子薬歴を導入している薬局が多いのではないでしょうか。ここでは、電子薬歴のメリット・デメリットと電子薬歴を運用する上での注意点について、改めて振り返ってみましょう。
2-1.電子薬歴のメリット
電子薬歴のメリットの一つに、薬歴を探す時間が短縮される点が挙げられます。紙の薬歴の場合、間違った場所に収納してしまったり、多くの書類に紛れ込んで見落としてしまったりすることで、薬歴が見つからないことがあります。そのため、薬歴を見つけ出すために患者さんを待たせてしまうこともあるでしょう。電子薬歴であれば、こういったトラブルを回避できます。
また、過去の薬歴や添付文書、相互作用の確認や、長期処方の患者さんの次回来局日などもスムーズにチェック、確認できる点も大きなメリットです。
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2-2.電子薬歴のデメリット
電子薬歴はシステムを導入・維持するためのコストがかかります。また、薬歴ソフトによって入力方法や仕様が異なるため、取り扱いに慣れるための時間が必要です。加えて、ある程度のタイピングスキルやパソコン操作スキルが求められる点で、デメリットに感じる人もいるかもしれません。
2-3.電子薬歴運用時の注意点
厚生労働省の資料「保険調剤の理解のために(令和5年度)」では、電磁的方法で薬歴の記録を保存する場合について、次のような留意事項を提示しています。
真正性、見読性、保存性が確保されていること。 | ||
改変または消去及びその内容が確認できる。記録の責任の所在が明らかになっている。 | ||
記録事項を直ちに明瞭かつ整然と機器に表示し、書面を作成できる。 | ||
記録事項を保存すべき期間中、復元可能な状態で保存する。 | ||
システム管理者及び監査責任者等を定め、個人情報保護及び情報セキュリティ等に留意した、運用管理規程を定めること。 | ||
患者のプライバシー保護に留意すること。 | ||
個人情報を入力、参照又は保存している端末や情報媒体等の盗難や紛失防止も含めた物理的な保護や措置に加えて、盗難や覗き見などへの対策を行うこと。また、同端末等の設置場所の入退管理等を行うこと。 | ||
利用者が個人情報を入力・参照できる端末から長時間離席する際にクリアスクリーン等の対策を実施すること。 | ||
類推されやすいパスワードや、類似のパスワードを繰り返し使用しないこと。なお、類推されやすいパスワードには、利用者の氏名や生年月日、辞書に記載されている単語等が含まれるものがある。そして、それらを記したメモを端末に掲示、伝達等による代行入力等をさせないこと。 |
3.薬歴の書き方
薬歴の書き方については、細かい規定はありませんが、SOAP方式を採用している薬局が多いのではないでしょうか。ここでは、基本的な薬歴の書き方として活用されるSOAP方式と、それ以外の方法について、具体的な項目や書き方例を紹介します。
3-1.「SOAP方式」の項目と書き方
薬歴の記載方法として、SOAP方式を採用している薬局は多いでしょう。SOAP方式では、各項目に次のような内容を記載します。
訴えや悩みなど患者さんから得られた情報を記載します。
▶ O:Objective(薬剤師が客観的に得た情報)
副作用や残薬、検査値などを記載します。
▶ :Assessment(評価)
SとOの情報を基に問題を評価し、解決方法を考えます。
▶ P:Plan(プラン・支援計画)
問題に対する解決方法や指導内容などを記載します。
SOAP方式で薬歴を記録するには、POS(Problem Oriented System;問題志向型システム)を活用するのがおすすめです。POSとは、患者さんの薬物治療における課題や悩みなどに焦点を合わせ、「患者さんの立場になって」課題や悩みを解決できるように考える一連の作業を指します。
POSを活用しながらSOAP方式で記録する場合、Sは患者さんの言葉をそのまま記載します。患者さんが薬の名前を覚えているかどうかも重要な情報となるため、「アムロジンは……」「黄色い薬は……」など、患者さんの言葉をそのまま書くのがポイントです。
Oは、検査データ以外にも「だるそう」「口数が少ない」など、薬剤師が客観的に得た情報を記載し、Aに薬剤師の判断を記載します。Pには薬剤師の指導内容や次回にチェックした方がよい項目などを記載し、次回来局時の指導へつなげます。
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3-2.SOAP方式以外の書き方
薬歴ソフトによっては、SOAP方式で薬歴を書くよう設定されているものもあるでしょう。しかし、「保険調剤の理解のために(令和5年度)」では薬歴の書き方について言及されていないことから、必ずしもSOAP方式で記録を残す必要はありません。要点がまとまっていれば問題ないため、ポイントを絞り箇条書きで記載することも可能です。
3-3.書き方例の紹介
ここでは、薬歴の書き方例を見ていきましょう。「新規の患者さんが歯科クリニックで親知らずを抜歯したケースで、抗生剤3日分と頓用で痛み止めが処方された場合」について、SOAP方式または箇条書きで薬歴を記載する例を紹介します。
親知らずを抜歯した | |
他科受診・併用薬(-) 飲食物の摂取(-) ジェネリックの希望(-) 胃潰瘍歴・ぜんそく歴(-) |
|
胃潰瘍歴・ぜんそく歴なし→痛み止め服用NP | |
薬情を使って用法・用量・薬効・副作用について説明。 痛みが強い場合は食事をしていなくても痛み止めの服用OK。多めのお水で服用を。 |
SOAP方式では、1つの課題に対してSOAPを1つ作成することで、より分かりやすい薬歴を作成することができます。上記は「痛み止めの服用」を課題としており、「抗生剤の服用」については別のSOAPを作成することで、課題や対応方法などが明確になるでしょう。
また、SOAP方式はどこに何が書いてあるのかが一目瞭然のため、知りたい情報を確認しやすいというメリットがあります。
● 親知らずの抜歯による処方 |
● 他科受診、併用薬、処方薬に影響のある飲食物の摂取なし |
● ジェネリックの希望なし |
● 胃潰瘍歴、ぜんそく歴なし |
● 痛みが強い場合は食事をしなくても痛み止めを服用してOK。多めのお水で服用を。 |
● 抗生剤は飲み切るように |
箇条書きの場合は、課題ごとに分けず、まとめて記載することで、コンパクトな薬歴になるのがメリットです。
薬歴の記載方法については法的な規定がないため、薬歴ソフトや薬局のルールに合わせて、スタッフが情報共有できるように取り決めるとよいでしょう。
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4.薬歴の書き方の注意点
薬歴は、服薬指導や調剤報酬の点で重要な記録となります。「保険調剤の理解のために」では、薬歴に関する指摘事項として次のような点が挙げられています。
▶ 副作用や病状の悪化に関する記録が記載されているにもかかわらず、「体調の変化」が「なし」や「不変」となっている。
▶ 「服薬指導の要点」の記載がない。
▶ 薬剤服用歴の記載が、次回来局日にまとめて行われている。
参照:保険調剤の理解のために|厚生労働省保険局医療課
薬歴を記載する際は、抜けや矛盾がないように記録を残すことが大切です。また、遅くても次回来局日の前までに完了させましょう。
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5.調剤や服薬指導の内容をしっかりと薬歴に残そう
薬歴の記載は、薬歴ソフトや薬局のルールに合わせて、スタッフ全員が情報共有しやすい方法を選びましょう。また記載内容に抜けや矛盾がないようしっかりと記録を残すことも大切です。正確に記録を残すためにも、服薬指導後はなるべく早く記載するとよいでしょう。
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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