薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2021.12.23 薬剤師の働き方

CRAとは?仕事内容や役割、薬剤師がCRAに転職する方法を紹介

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

新薬の開発において重要な役割を担うCRA(臨床開発モニター)。医師や看護師など、治験に関わる医療従事者を対象に、治験についての情報提供や、法律やルールに沿って実施しているかを確認するのが主な仕事です。また、CRAは被験者の人権や安全を守るという大切な役割もあります。今回は、CRAの役割や仕事内容、年収事情や薬剤師から転職する際の注意点についてお伝えします。

1.CRA(臨床開発モニター)とは

CRAとはClinical Research Associateの頭文字を取った略称で、日本語では「臨床開発モニター」と呼ばれます。主に治験の企画や運営、報告を行う仕事です。
 
治験を行う際、新薬の信頼性や安全性を保障するために、国が定めた治験ルール「GCP(Good Clinical Practice)」を順守しなければなりません。GCP第一条の冒頭には、被験者の人権の保護と安全の保持について記載されています。CRAは被験者の利益を最優先とし、その延長線上に新薬の開発があることを念頭に置く必要があります。

2.「CRA」と「CRC」、「CRO」と「SMO」の違い

治験に関わる職業には、「CRA」のほか、「CRC」「CRO」「SMO」などがあります。それぞれの特徴は下記の通りです。

 

・CRA(臨床開発モニター)
治験の進行をモニタリングする職種。

・CRC(治験コーディネーター)
治験業務全般をサポート。被験者への治験内容の説明や、治験のスケジュール管理・資料作成、製薬企業やCRAとの調整などを行い医師の業務をサポートする。

・CRO(開発業務受託機関)
製薬会社や医療機器メーカーから委託を受け業務を代行する企業。新薬の開発には長期間にわたり多大な労力がかかるため、治験の一部をCROへ委託することがある。CROは治験に関するあらゆる業務を代行し、開発のスピードや品質を高める。

・SMO(治験施設支援機関)
医療機関において治験の実施に関する業務の一部を受託又は代行する企業。院内CRC(病院所属の治験を行うスタッフ)がいない病院が治験を行う場合に治験業務の委託を受け、SMO所属のCRCを派遣する。


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3.CRA(臨床開発モニター)の仕事内容

CRAは、被験者の安全を守るとともに、薬の安全性と有効性を証明するデータを収集しながら、GCPやプロトコル(治験実施計画書)に違反がないかをチェックする役割があります。CRAの仕事内容について、治験開始前から治験終了後までの時系列に沿って詳しく見ていきましょう。

 

3-1.医療機関や医師の調査

治験開始前にCRAが行うのは、治験を実施する医療機関や医師の調査です。厚生労働省が定めている基準を守り、適切に治験を実施できるかを確認します。治験審査委員会の運営状況や、治験責任医師の経験などが調査対象です。
 
基準を満たしていると判断した場合、医療機関へ治験を依頼します。その際、治験をするうえで必要な事項を説明する勉強会を開催し、治験の費用や補償、賠償費用などについて医療機関と話し合いを行います。

お互いが納得できる条件を決める必要があり、CRAには交渉力が求められます。

 

3-2.治験薬の交付

治験が開始されると、治験薬の交付や血液データなどのモニタリング、報告書の作成などを行います。GCPでは医療機関との契約後に治験薬を交付できるとされています(第十一条 治験薬の事前交付の禁止より)。しかし、プロトコルにおいて、治験薬の交付タイミングが契約成立前になるケースがあります。例えば、特定の遺伝子を持つ患者さんを対象とする治験で、被験者が決定してから治験薬を交付する場合もあります。
 
治験薬の交付タイミングは基本的に契約成立後ですが、プロトコルによって異なるため、一度に複数の試験を担当する場合は、治験ごとにプロトコルをしっかり把握しておく必要があるでしょう。


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3-3.モニタリングと報告書の作成

CRAは、治験がプロトコル通りに行われているか、症例報告書に必要事項が記載されているか、用法用量や投与量を守っているかなどを定期的に訪問してモニタリングしながら、必要に応じて指導を行います。また、治験中に発熱や嘔吐などの有害事象が現れた場合は、薬との因果関係を調査し、程度によって治験審査委員会へ報告します。
 
なお、有害事象は治験薬との因果関係と関係なく挙げられるため、有害事象が起こったとしても治験薬が中止されるとは限りません。例えば、治験期間中に下痢が起こった場合、通常時の排便回数と比較してどのくらい回数が増えているかで下痢の程度を判断します。プロトコルには、下痢の程度に合わせて治験薬の中止や継続が決められており、医師はプロトコルに沿って治験薬の継続の可否を判断します(有害事象共通用語規準v5.0より)。

また、検査データや医師の記録内容から、有害事象と思われる症状が有害事象としてあげられていない場合は、治験担当医師へ確認をとることもCRAの大切な仕事です。

 

3-4.被験者登録の促進

CRAは被験者登録の促進も行います。治験は被験者が登録されないと実施できません。治験対象となる患者さんがいたとしても、医師やCRCが積極的に患者さんへ治験への協力を促さなければ、治験を行うことができないのです。CRAは治験の重要性を周知するという大切な業務も担っています。

すべての被験者への投与が終わり、治験が終了したら、症例報告書や治験薬を回収します。この時、症例報告書に記載漏れや間違いがないことなどを確認し、治験実施責任医師に治験終了の報告をします。

4.CRA(臨床開発モニター)の魅力

CRAは魅力的な仕事です。やりがいと働きやすさについて見ていきましょう。

 

4-1.やりがい

CRAは新薬の開発に関わることができる、やりがいの大きい仕事です。特に画期的な新薬は医療業界でのインパクトが大きく、自分が開発に携わった薬が発売される達成感もあります。新薬によって多くの人が救われることを考えると、喜びもひとしおではないでしょうか。
 
また、モニタリング業務を通して、被験者が治験薬を使用することで病気が軽快していく様子を目の当たりにすることがあります。治験薬で救われる人がいることを肌で感じられる点はCRAの魅力といえるでしょう。

 

4-2.働きやすさ

CRAは、パソコンや電話を使って行う業務が多いため、インターネットが使える環境であれば場所を選ばず働けます。

フレックス制を採用している企業もあり、自由度の高い働き方ができるでしょう。外勤業務と内勤業務があるため、出産を機に外勤業務から内勤業務に変更するなど、仕事と家庭を両立させやすく、ライフスタイルに合わせた働き方ができます

5.CRA(臨床開発モニター)の大変さ

大きなやりがいがある一方で、大変な面もあります。有害事象のなかでも重篤な症状が発生した時は、ただちに実施医療機関の長と、治験依頼者に報告しなければなりません(第四十八条 治験中の副作用等報告より)。
 
治験による重篤な有害事象は、いつ発生するか予測不可能ですが、万が一確認された際には迅速な対応が求められます。休暇中や深夜などに、治験担当医師やCRCと連絡を取ったり、治験依頼者へ報告したりする必要が生じるかもしれません。
 
重篤な有害事象が起こる頻度は治験薬によって異なりますが、いつ起こっても対応できるよう心掛ける必要がある点は、CRAの大変なところといえます。

6.CRA(臨床開発モニター)の年収事情

マイナビ薬剤師の求人情報を見ると、CRAの年収は、年齢や経験にもよりますが、目安として380~450万円からスタートする企業が多いようです(2021年12月時点)。
 
また、CRAには外勤と内勤があり、外勤のあるCRAは外勤手当によって年収が上がりやすい傾向があります。努力や成果が評価される職種なので、キャリアを重ねて管理職になるとさらなる収入アップも見込めます。


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7.薬剤師がCRAに転職するには

薬剤師がCRAへの転職するうえで、知っておきたいことをお伝えします。

 

7-1.CRAになるために必要な資格やスキル

CRAになるために必須の資格はありません。しかし、GCPや疾患についての理解や、治験や医療に関する専門知識が求められます。中には日本CRO協会が実施している「CRA認定試験」に合格することを課している企業もあり、入社後に認定試験に向けた勉強が必要になるでしょう。

 

また、医師と対面で治験薬についての説明を行うため、コミュニケーションスキルも必要です。さらに、検査データなどを正確に収集する能力やスケジュール管理能力も求められます。薬局や病院などで働いている薬剤師は、医師と接したり検査データを見たりする機会が少なからずありますので、CRAに転職後も経験を生かすことができます。

 

7-2.薬剤師はCROへの転職がおすすめ

CRAとして働くためには、製薬企業に就職する方法とCROに就職する方法の2つがあります。
 
どちらの場合も業務内容に大きな違いはありません。ただし、マイナビ薬剤師によると、製薬企業のCRAは募集が少なく倍率が高い傾向にあり、経験者が有利です。一方、CROは、薬剤師や看護師、臨床検査技師など医療関連の業種からの中途採用者が多い傾向にあります。

 

転職を狙うなら、CROに応募するほうが採用される可能性が高いでしょう。CRAへの転職は、医薬品の知識や医療現場の経験がアドバンテージになるので、医療現場の経験を持つ薬剤師は転職に有利です。


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8. CRAは新薬開発に関わるやりがいの大きい仕事

CRAは被験者の安全を第一に考えながら、新薬の開発をサポートする重要な役割を担っています。新薬を開発することで、病気に悩む多くの患者さんを救いたいと考える人にぴったりの職業といえるでしょう。医薬に関する知識が豊富であり、医師とのコミュニケーションの機会が多い薬剤師は、CRAに転身後も能力を活かして活躍することができます。治験や新薬開発に興味のある薬剤師はキャリアの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。