本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年5月号特集「わたしの在宅医療の取組~薬剤師が在宅医療に参画する意味~」)P.9-10を再構成したものです。
在宅医療への移行をいかにスムーズに実現するか
――在宅医療のクリニックでの薬剤師の役割とは?
大須賀先生 桜新町アーバンクリニックの院内薬剤師として勤務して5年目になります。それ以前は病院や保険薬局にも勤務していました。病院勤務のときには、担当した方が退院されたあとどのような生活をされているのか、渡した退院時のお薬は飲めているのか、わからない状況が歯がゆくもありました。
薬局に転職するとそれまで当たり前だった「カルテで患者の情報を確認できる」状況が一変し、情報が少ない中コミュニケーション能力と臨床推論で日々の業務をこなしていかねばならない難しさにも直面しました。このクリニックに入ってから初めて在宅医療に触れましたが、病院薬剤師とも薬局薬剤師とも連携するこの立場は、どちらの難しさも理解しなければできなかった仕事であり、これまでのご縁に感謝する日々です。
桜新町アーバンクリニック 薬剤師 大須賀悠子先生
ここでの院内薬剤師の役割は多岐に渡ります。院内薬局は有していないため調剤業務は一切ありません。特に力を入れているのは、退院前カンファレンスへの参加と初回往診の同行です。どちらも、その方の飲んでいる薬の全容把握や、その方の生活に添った処方設計の支援ができる絶好のチャンスであり、病院主治医や病院薬剤師から入院中の情報を聞いたり、在宅医療に適した形を提案し入院中に処方変更をお願いしたり、患者や家族に訪問服薬指導の紹介や説明をしたり、必要であれば地域の訪問をする薬剤師につないだりと、薬に関わる調整が必要なことは盛りだくさんにあります。
在宅医療に移行する時期は患者も家族もたくさんの不安を持っています。安心できる在宅医療を受けられるように心がけて取組んでいます。
薬を中心に在宅医療をコーディネート
――様々な職種が関わる在宅医療で心がけていることは?
大須賀先生 クリニックの中に専門性を持つプロフェッショナル達が集まっているのでそれぞれの職務を理解しやすく、「薬のことは薬剤師に」という文化が浸透しているように感じます。ほとんどの患者がなんらかの薬物治療を受けているので、その方に合った連携が必要です。
例えば1日の服用回数が多くてアドヒアランスを保つのが難しい方であれば、ケアマネジャーから1週間のサービス一覧などの情報をもらうことでヘルパーの入っている時間帯だけの服薬回数に減らしてもらう処方変更依頼をかけることができます。その方にいまどんな支援が必要なのか、どの職種がどういう関わりを持ってくれているのかを把握しみんなで支えていく環境を構築していくことが在宅医療の第一歩です。薬剤師がどう関わっていくと患者さんが助かるのかを、地域の薬剤師さんと常に相談しながら院内と地域の連携役を担うようにしています。
在宅医療の充実には地域の薬局の参画こそ不可欠
――近隣の薬局と連携する重要性とは?
大須賀先生 当院に入職した当初、訪問服薬指導を受けている患者の割合は全患者の中でたったの17%にとどまっていました。その大多数が1つか2つの薬局に集中している状況を見て、今後在宅医療を推進していかないといけない中この薬局だけに負担がかかることで疲弊してしまったら地域が回らないであろうこと、地域全体の力を上げていくために私たちにできることはなんなのか真剣に考えました。地域のどの薬局が在宅医療に関わろうとしているのか、どんな想いの薬剤師たちがいるのかの情報を集め、地域の薬剤師との連携の会を始めました。
処方箋の情報からでは推察できない患者の状況などを事前に共有することで、訪問する薬剤師の手間や不安を取り除くことができてきており、また地域の薬剤師からの医師へのフィードバックも充実してきています。薬剤師が在宅医療に関わることで治療の質が上がっているのを肌で感じています。
在宅医療の現場で高まる薬剤師への期待
――全国の薬剤師にメッセージを。
大須賀先生 当薬剤師の在宅医療への進出が叫ばれて久しい中、どのように携われば良いか、連携をとっていけばいいか、悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。薬剤師は医療者として「患者のために役に立ちたい」という気持ちが強い職種のように感じます。在宅医療はその想いを包括的に形にできる現場です。まず「薬を届けること」に踏み出してみてください。薬剤師への期待がますます集まってきています。力合わせてその可能性を広げていきましょう。
「患者に寄り添った」薬剤師を目指して
――桜新町アーバンクリニックと関わったきっかけは?
名越先生 地域の保険薬局の在宅医療部に所属しています。もともとは製薬会社に10年近く勤務していたのですが、徐々に薬剤師として「患者に寄り添う」仕事がしたくなり、在宅訪問の薬剤師になりました。現在、勤務している調剤薬局での担当エリアが世田谷区ということで、桜新町アーバンクリニックと関わるようになりました。
桜新町アーバンクリニックでは大須賀さんの働きかけで、毎朝行われるカンファレンスのうち毎週水曜日は地域の保険薬局も参加させてもらい発表の機会もいただいています。クリニック自体がフレンドリーな雰囲気なのでカンファレンスの後には先生や看護師の方々に気軽に話しかけることができ顔がみえる関係を築けています。
日本調剤株式会社 東京第一支店 在宅医療部 薬剤師 名越 円先生
また、桜新町アーバンクリニックでは毎回の往診時の情報を地域の保険薬局も含む関わっている全ての職種にむけてファックスで提供してくださっています。処方箋1枚だけの情報しかもらえないクリニックが多い中非常にありがたいです。最初は提供される情報があまりにも多いので、そのことにとても驚きました。タイミングによっては退院前カンファレンスや初回の訪問、往診にも同行させてもらえます。患者のことを考えたときに、薬剤師として知っておくべきことを知り、患者に寄り添った薬剤師になりたいという理想を実現できていると感じています。
薬だけでなく患者の暮らしにも目を向けて
――在宅の薬剤師としての仕事は?
名越先生 普段の業務は1日に6・7件から多いときには10件くらいの患者を訪問しています。在宅の薬剤師として心がけていることは、患者の自宅にまで訪問できるので、できる限り薬に関することだけでなく、その患者の普段の暮らしに関わること、生活や体調の変化にも心を配るようにしています。
訪問服薬指導は月4回、がん末期の方で月8回までの算定が可能で、安定している患者さんだと2週間に1度程度の訪問になることが多いです。ヘルパーさんや訪問看護師さんの方が訪問頻度が高いことがよくあるので、薬がしっかり飲めているか、新しい薬がでたときは特に副作用のような症状が出ていないかなどを確認していただくようお願いしたり、逆に食事の状況、嚥下機能、ADLなどの情報を教えてもらったりもしています。
在宅医療では地域の多職種が連携することが重要だと感じています。桜新町アーバンクリニックでは地域の多職種の方たちと連携をとり情報共有がしっかりできているのでチームで患者を支えていると実感できています。
薬剤師にとって本当に必要な情報を伝えてもらえる
――クリニックに薬剤師がいることのメリットは?
名越先生 在宅の薬剤師にとっては、処方する薬が変わることは非常に重要な情報です。薬が変わることだけでなく、変更する理由は何なのか、いつから変更するのかといった情報は、患者訪問するタイミングにも関わってきます。クリニックの中に薬剤師がいると、「薬剤師にとって重要な情報」をきちんと伝えていただけるのでとても助かります。
また、薬剤師は処方箋に疑義があった場合に処方した医師に確認しますが、医師に疑義照会をするのは意外に「ハードルが高い」のです。クリニックによっては医師と直接に話せないこともあります。クリニックに薬剤師がいることで、薬剤師が疑問に思うことについては、あらかじめ処方箋の備考欄に記入するように医師に伝えていただいています。
薬局の垣根を越えて連携し地域医療に貢献
――在宅の薬剤師として今後、目指すことは?
名越先生 在宅の薬剤師として自分に期待されている役割は、やはり薬に関する専門的な知識を在宅医療の現場で提供することです。例えば、患者のことを考えて「もっと減らせる薬があるのではないか」といった処方提案をしたり、副作用など薬に関連した専門的な情報を提供することが求められています。そのためには、日々新しく専門的な知識を身に付けることも、とても大切です。
そこで、桜新町アーバンクリニックを中心に、地域の保険薬局の薬剤師が集まる勉強会を定期的に開いています。地域にある保険薬局や薬剤師は「横の連携」が意外になくて他の薬局がどう在宅医療や地域医療に関わっているのか知らないことも多いのです。そこで勉強会を開いて薬局や企業の垣根を越えて連携し、地域の医療に貢献していきたいと考えています。
出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年5月号
桜新町アーバンクリニックで活躍する医療者へのインタビュー、第1回の遠矢純一郎院長に続き、今回は薬剤師の声をお届けしました。次回は看護師・ケアマネジャー・社会福祉士の視点で見た、薬剤師との連携についてお届けします。
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