インタビュー 公開日:2022.12.20 インタビュー

これからの薬剤師に求められるコミュニケーションとは?倉田なおみ先生が解説

患者さんに正しく服用してもらうために重要なコミュニケーション。かかりつけ薬剤師の必要性がますます高まる中、これからの薬剤師に求められる患者コミュニケーションのあり方について、「服薬支援」を提唱し、思いやりのある医療を実践してこられた倉田なおみ先生にお話を伺いました。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」2018年8月号P.3-6巻頭インタビューを再構成したものです。

お話を聞いたのは……
 

昭和大学薬学部 社会健康薬学講座 社会薬学部門 教授
医学博士 心理カウンセラー
倉田なおみ先生


<プロフィール>
昭和大学薬学部卒業、昭和大学病院薬剤部入部
1996年5月 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院 薬局長
2000年に錠剤やカプセルを温水にそのまま崩壊させる簡易懸濁法を確立
2006年1月 昭和大学薬学部薬学教育推進センター実務実習推進室 助教授
2009年6月 昭和大学薬学部薬剤学教室 准教授
2014年4月 昭和大学薬学部社会健康薬学講座地域医療薬学部門 教授
2018年4月 講座再編により社会薬学部門となり現在に至る

 

薬が患者さんの体の中に入るまでを確認することが、服薬支援

Q.先生が提唱を始めた“服薬支援”は、“服薬指導”とどう違うのでしょうか。

倉田先生 1988年の診療報酬改定で入院調剤技術基本料が新設され、診療報酬点数100点を請求できるようになりました。それまで、私をはじめ病院薬剤師は調剤室にこもって調剤業務を中心に行っていましたが、算定要件の1つに入院患者に対する月1回以上の服薬指導が盛り込まれたことで、薬剤師が病棟の患者さんの元へ出向くようになりました。これが薬剤師による「服薬指導」が広まったきっかけとなったと思います。
 
服薬指導は、薬を正しく服用してもらうために、薬剤師が患者さんに説明することです。病棟に服薬指導に行くようになって間もなく、薬をお渡しした脳卒中片麻痺の患者さんからこんなことを言われました。



 

「片手では袋を開けられない。開けてもらわないと飲めません」。
 
それまでたくさん服薬指導をしていましたが、片手では薬の袋が開けられないということにそのとき初めて気が付きました。薬を正しく服用してもらうためには薬を渡すだけでは駄目で、患者さんの体の中に入るまでをしっかり確認しなければいけない。このことを広く薬剤師に知ってもらうために、「薬が体の中に入るまでを確認し、支援すること」を「服薬支援」と呼ぶことにしたんです。

 

患者さんができないことを想像して、自助具の提案や剤形の変更を行う。

Q.服薬が困難な患者さんに対して、どのような服薬支援をしていけばよいでしょうか?

倉田先生 脳卒中片麻痺の患者さんのように、運動障害があるために服薬に苦労されている患者さんは、我々薬剤師が思っている以上にたくさんいらっしゃいます。脳卒中片麻痺のほかには、関節リウマチやパーキンソン病、抗がん剤の副作用による爪の変形・痛み、頚椎損傷などが運動障害の要因となります。
 
運動障害のある患者さんに対しては、何ができないかを想像したうえで現在の服薬の仕方を聞き取り、服薬に苦労しているようであれば、有効と考えられる自助具をご紹介します。
 
分包紙が開けられない患者さんには封筒を開けるのに使うレターオープナーを、PTPシートから薬を取り出せない患者さんには片手でも簡単に使えるよう開発した錠剤用自助具「トリダス」(大同化工)をおすすめします。頭部を後ろに傾けるのが困難な患者さんの場合、鼻側をカットしたコップを使うようにすると楽に水を飲むことができるようになります。
 
また、運動障害のほかに服薬が困難になる大きな要因として、嚥下障害があります。嚥下障害があるとサラサラした液体は飲み込みにくいため、一般的に薬をゼリーやプリンに包む、お粥と一緒に食べるなどの服薬上の工夫がされています。
 
ですが、薬を潰し服用する場合は、薬の味やにおいに注意が必要です。薬剤師は製剤設計について学んできているので、薬剤には製薬会社の精緻な技術が凝縮されており、味やにおい、刺激をマスキングする工夫が施されていることを知っています。
 
しかし、薬剤師以外の医療職は製剤の仕組みを学ぶ機会がないため、製剤特性や味やにおいなどを意識せずに薬を潰してしまいます。薬を潰すことでマスキングされていた苦味やにおいが現れるだけでなく、効果に影響し副作用も出やすくなることを薬剤師が他職種にしっかり伝え、連携していくことも服薬支援の一環だと思います。




 

口腔内崩壊錠は口腔内ですぐに壊れ、口に含んだときに味やにおいが出ないように製剤設計されているので、安心して投与できる剤形です。

 

大切なのは、患者さんの尊厳を尊重するユマニチュードの姿勢

Q.認知症の患者さんに対する服薬支援のあり方については、どのようにお考えですか?

倉田先生 錠剤とスイカの種、どちらも同じように小さくて硬い粒ですが、もし私たちが自分の口の中に入れられたとしたら、錠剤は飲み込みますが、スイカの種は吐き出すと思います。それは、口の中に入れられたものが何かを認知できているからです。
 
認知症の患者さんの場合も、口に薬を入れて飲み込むように促しても患者さんがそれを薬だと認知できなければ、スイカの種と同様で吐き出してしまいます。これは当たり前のことなんです。
 
ではどうすればいいかというと、介護者が認知症の患者さんに薬を飲んでもらう際には、「お薬を飲みましょう」と話しかけ、薬であるとわかってもらうことが大切です。口腔内崩壊錠や口腔内崩壊フィルム製剤を使う場合でも、薬の成分は口腔粘膜からは吸収されないので、きちんと飲み込んでもらうための声掛けが必要です。




 

お粥に苦い薬の粉をふりかけて食べさせるなど、ただ薬を口に入れたら良いという考え方はよくありません。高齢者や認知症の患者さんへの服薬支援で必要なのは、患者さんの尊厳を尊重するユマニチュードの姿勢だと思います。

 

 

オープンクエスチョンで問いかけ、患者さんの実際の服薬状況をしっかり把握。

Q.適切な服薬支援をしていくために、薬剤師は患者さんとのコミュニケーションでどんなことに配慮すべきでしょうか?

患者さんができないことを見極め、服薬支援の方法を考えるには、実際に患者さんが薬を服用する様子を見るのが一番です。リウマチやパーキンソン病の患者さん達は、PTPシートをハサミでくり抜いたり、歯で薬剤を押し出したり、苦労しながら服薬しています。
 
服薬シーンを見るのが難しいなら、何ができないかをイメージして、患者さんがどのように服薬しているのかを十分に聞き取ることが必要です。その際、「お薬は飲めていますか?」とクローズドクエスチョンで聞くと、どんなに苦労している患者さんでも薬を飲めていれば「はい」と答えることになり、実際の服薬の様子はわかりません。



 

私たちから見ると大変な苦労をされていると感じるケースでも、患者さんにとってはそれが当たり前になってしまっていて、自分で薬が飲めていると自慢げにお話しされる方もいらっしゃいます。ですので、服薬が大変でないかを知るには、「どのようにお薬を飲んでいますか?」などとオープンクエスチョンで聞くことが大切です。患者さんの実際の服薬状況を知ることは、適正な薬物療法を行ううえでも重要です。
 
新しい薬が処方された際には、副作用の発現にも留意したいところです。例えば、副作用として口渇や嚥下障害が現れるおそれのある薬剤は数多くあります。『疾患別に診る嚥下障害(藤島一郎監修、医歯薬出版)』にリストをまとめましたが、嚥下機能を低下させる副作用の可能性がある薬剤は、嚥下障害65件、味覚異常223件、口渇624件などたくさんあります。
 
そういった薬が処方された際に、患者さんが口渇で飲み込めないということはないか、しっかりごはんが食べられているかということを、薬剤師には気にかけてほしいと思います。適切な服薬支援のために何より大事なのは、患者さんのことを思う気持ちです。

 

 

患者さんに親身になって接することで、自然と信頼される薬剤師に

Q.患者さんから信頼される薬剤師になるために、求められるコミュニケーションのありかたとは?

倉田先生 一番大切なのは「親身」になることだと思います。例えば強い痛みを訴える患者さんがいたとして、その患者さんが親や恋人など自分の一番大切な人だったら、たとえ医師に言いづらい状況だとしても痛み止めを出してあげてほしいと言うはずです。目の前の患者さんがじぶんの一番大切な人だったらどうするか、そういう考え方のできる薬剤師になれたら、きっと患者さんからの信頼も得られると思います。




 

普段からそういう考え方ができたら一番ですが、そこまではできなくても、自分の心が迷ったときに患者さんを自分の肉親だと思って行動できるようになってほしいですね。
 
認定薬剤師の資格取得のために一生懸命勉強するのも大事なことですが、自分の大切な人を助けたいという思いで薬物療法を勉強していけばおのずとやれることは変わってきますし、スキルアップにもつながるはずです。
 
いま、薬剤師には未病対策、疾患予防に貢献することが期待されていますが、親身になって患者さんに接していけば、ポリファーマシーの予防や認知症の早期発見、専門医への受診勧奨といった考え方が自然とできるようになるのではないでしょうか。
 
新オレンジプラン(認知症患者が暮らしやすい社会の実現を目指し、厚生労働省と関係部省庁によって平成27年に策定された認知症施策)にも認知症対策における薬剤師の役割が盛り込まれましたが、薬局が不安に思うことを気軽に相談できる場所にならなければいけないと思います。
 
いつも薬局に来ている患者さんの処方薬が1つ増えたとき、「お薬増えちゃったけど、心配ないですか?」と声をかけてあげられる。ちょっとしたことですが、患者さんの苦しみや気持ちを想像しながらコミュニケーションをとれる薬剤師になってほしいと思います。

 

服薬が困難な患者さんへの服薬支援一例
 
■運動障害
<薬を取り出せない>

脳卒中片麻痺、関節リウマチ、パーキンソン病、抗がん剤の副作用による爪の変形・痛みなど

①レターオープナー(アスカ)
※動かないように、下に滑り止めのゴムを敷くことがポイント。

②トリダス(大同化工)
片手で使え、薬剤がカップ内に入るのでそのまま服用できる。

<水をうまく飲めない>頚椎損傷、老人性円背など

飲み口の一部がカットされたコップ鼻が当たらないので、頭を後ろに傾けなくても水が飲める。※紙コップなどを加工して代用が可能。

■運動障害
●服用方法を工夫する

・ゼリーやプリンに包む
・お粥と一緒に食べる
・オブラートに包む

●剤形を工夫する
・飲み込みやすい小さな錠剤に変更する
・味やにおいが出ない口腔内崩壊錠を選ぶ
・咽頭や食道に残留しやすいカプセル剤は避ける

 
 

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2018年8月号

 
 

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