創薬・臨床試験

【臨試協・熊谷会長に聞く】深刻なBE試験の二重登録‐後発抗癌剤、被験者安全を問題視

薬+読 編集部からのコメント

北里大学病院臨床試験センター長、臨床試験受託事業協会の熊谷雄治会長が、治験の被験者の状態について警鐘を鳴らしました。
被験者がいくつもの治験に参加し、重複した薬の投与を受けることで、健康被害が見えないところで起きているのではないかと危惧し、二重登録を回避する必要があるとしています。

「日本でも死亡事件あり得る」

 

 

ジェネリック医薬品(GE薬)メーカーによるジェネリック抗癌剤の開発が加速する中、臨床試験受託事業協会の熊谷雄治会長(北里大学病院臨床試験センター長)は、治験に参加する被験者の多試験重複参加をめぐる問題について、「被験者の安全性を守るという意識が日本全体で薄れてきている」と危機感を募らせる。特にジェネリック抗癌剤の生物学的同等性試験(BE試験)では、二重登録のデータ照合作業が行われていないのが現状で、水面下において健康被害が発生しているのではないかと懸念されている。負担軽減費を得る目的で参加する被験者も存在する中、大半の医療機関では被験者の二重登録を防止する手立てが取られておらず、“被験者の安全性は守られて当然”という安全神話は崩壊してきている。熊谷氏は、仏レンヌの医療機関で実施されたファースト・イン・ヒューマン試験(FIH試験)で健康成人ボランティアが死亡した“レンヌ事件”に言及し、「日本でも起こる可能性は十分あり得る。国全体で被験者の二重登録を回避する仕組みを整えるべき」と警鐘を鳴らす。


臨床試験における被験者の多重登録は、安全性の評価やその効果が認められていない化合物をヒトに投与する治験の特性から不測の事態が起こる可能性や、薬物相互作用が確認されていない複数の薬剤を同時期に服用することによる安全性リスクが指摘されている。

 

臨試協では被験者の安全性を守るために、臨床試験の参加を控えるべき期間(休薬期間)として、新薬の治験で通常4カ月以上、GE薬などのBE試験で3カ月以上とする基準を設定している。さらに、同時期に多施設で臨床試験に重複登録するのを防止する「被験者照合システム」を運用し、全体の照合件数に対しておよそ2%前後の二重登録を発見してきた。

 

ただ、日本で被験者の安全性を守るための取り組みは浸透していない。熊谷氏は、「臨試協のシステムを利用する医療機関で被験者の二重登録の割合が2%に上るとすれば、非登録機関だともっと恐ろしい結果になっている可能性がある」と話す。

 

経済的理由から治験に参加する一部の医学ボランティアの中には、休薬期間をチェックする臨試協のシステム利用機関を避けて、非登録機関での参加を志願する心ない被験者もいる。これを反映してか、臨試協のシステム利用機関は近年減少傾向にあり、「システム利用会員になると、被験者を集められなくなる」とリスクを回避するよりも被験者組み入れを優先する施設すらあるという。

 

さらに深刻なのが、GE薬のBE試験では、二重登録の照合作業が行われていない現状だ。熊谷氏によると、「BE試験に参加する施設数、被験者数に関するデータがなく、分からないからこそ大変なことが起こっているかもしれない」と話す。

 

特にGE薬メーカーによる抗癌剤開発が問題だ。過去は患者対象でBE試験が実施されていたが、特許切れを控える「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)などの分子標的薬では、データのばらつきが少ない健康成人を対象とするようになっている。試験は、BE試験専門施設で実施され、新規有効成分ではないため当局への治験届が不要で、実施企業も治験に不慣れなGE薬メーカーが主体と、新薬の治験に比べると被験者の安全性に対する監視網は弱くなる。熊谷氏は、「イレッサを投与した被験者が、同時期に別の治験に参加した場合に被るリスクを想像するだけで恐ろしい」と指摘する。

 

患者対象の早期試験でも、被験者の二重登録が見つかっているという。「被験者の個人名はケースカードに載らず、患者IDや生年月日も、個人情報保護の観点から報告しない方向になっており、二重登録を見つけるのは難しい。非常に厄介な問題になっている」と話す。

 

早期臨床試験のリスク‐分かる人増やすことが大事

 

アカデミア発創薬が加速する中、基礎から臨床を橋渡しするトランスレーショナルリサーチが行われているが、治験実施計画(プロトコル)を策定できるアカデミアは限られ、FIH試験を科学的・倫理的に審査できる機関も少ない。FIH試験であれば慎重を期すべきところも、最小限の費用、最短の期間で最大限の成果を生み出そうと、「プロトコルが勇敢になっている」との声もある。

 

第I相試験での重篤な副作用が報告された治験といえば、英国でのTGN1412事件と仏レンヌ事件の二つが挙げられるが、熊谷氏は「TGN1412事件については日本で同じような悪夢は起きないと思ったが、レンヌ事件は用量を刻んで試験を実施しても防げなかった可能性があり、対岸の火事ではない。だからこそ、早期臨床試験のリスクが分かっている人を一人でも多く増やしていくことが大事」と治験にかかわる全ステークホルダーが被験者の安全性に配慮し、高い意識を持つ必要性を強調する。

 

治験で重篤な健康被害が起これば、製薬企業は日本の治験から一斉に撤退し、医薬品開発の停滞を招きかねない。韓国では昨年から規制当局がデータベース内に被験者を登録し、安全性確保に向けた施策に着手している。日本でも臨床研究法の施行を契機に、「被験者の安全性確保を考えるいい機会にしなければならない」と熊谷氏。

 

国主導によるデータベースを活用した安全対策や、製薬企業や医療機関、アカデミアに対する啓発・教育を行うべきと訴える。

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出典:薬事日報

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