薬剤師会

クエチアピンの高血糖軽減‐ビタミンDの事前投与に効果

薬+読 編集部からのコメント

京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学・金子周司教授らの研究グループが、「クエチアピン」など非定型統合失調症治療薬の副作用である高血糖の発現をビタミンDの併用で抑えられる可能性があるという研究結果を発表しました。金子教授は「クエチアピンによってPI3Kの機能は抑制されるが、ビタミンDを予め投与しておくとPI3Kが産生され、クエチアピンによって減少した分を補っている」と語っています。

ビッグデータ解析、動物実験で実証

金子氏
金子氏

 

京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学金子周司教授らの研究グループは、クエチアピンなど非定型統合失調症治療薬の副作用である高血糖の発現をビタミンDの併用で抑えられる可能性があることを、有害事象のビッグデータ解析から見出した。その仮説をもとにビタミンDの作用を動物実験で実証したほか、副作用発現メカニズムの一部も解明。これまで未知だったビタミンDの意外な作用を明らかにした。それだけでなく、臨床データの解析から仮説を導き出して基礎研究を行い、その結果を再び臨床にフィードバックする新たな研究モデルを示すこともできたとしている。

 

京都大学 金子教授ら

 

研究者向けの電子的なライフサイエンス辞書の作成を主導するなど情報処理技術に長けている薬理学者の金子氏は以前から、大量のデータの中から知見を得るデータマイニングを薬理学領域の研究に活用したいと考えていた。そこで、世界中から収集された数百万件の有害事象事例が蓄積されている米国食品医薬品局(FDA)のビッグデータ「FARES」に着目。動物実験のしやすさなども考慮して、クエチアピンやオランザピンなど非定型統合失調症治療薬の副作用に的を絞り、約1年前から研究を開始した。

 

FARESを解析し、クエチアピン服用者と他薬剤服用者で高血糖や糖尿病の発現率を比較したところ、他薬剤服用者での発現率は0.8%だったのに対し、クエチアピン服用者では16.5%と高かった。その上でクエチアピン服用者のデータをもとに併用薬の影響を1剤ずつ解析。高血糖や糖尿病を抑制する効果をビタミンDに見出した。

 

実際に、クエチアピンを服用する6万5453人のうち偶然ビタミンDを服用していた1171人では66人(5.6%)にしかこれらの副作用は発現しなかった。ビタミンD以外の薬を併用する6万4382人では発現率は16.7%だった。

 

クエチアピンなどの非定型統合失調症治療薬は、重篤な糖尿病につながる高血糖を起こすことがよく知られている。一方、ビタミンDがその副作用を抑制することは知られておらず、「意外な組み合わせだった」と金子氏は語る。ただ、「ビタミンD欠乏症患者は糖尿病になりやすいという臨床研究結果が報告されており、関係があることも考えられた」という。

 

メカニズムの一部を解明

クエチアピンはPI3Kを阻害し、ビタミンDは活性化する(金子氏提供)
クエチアピンはPI3Kを阻害し、ビタミンDは活性化する(金子氏提供)

 

FARES解析で得た仮説を実証するため、金子氏らは動物実験を実施。クエチアピンの直前投与によって、マウスにグルコースを与えた時の血糖値の上昇幅は大きくなるが、活性ビタミンD誘導体を1週間前から投与しておくと、その上昇幅を通常レベルに抑えられることを明らかにした。

 

また、クエチアピンによる高血糖はインスリン抵抗性に基づくことが動物実験で分かったため、既知のデータベースを活用し、クエチアピンによって変動する遺伝子と、インスリン受容体の下流にあるシグナル伝達経路を照合。共通する作用点として酵素であるホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ(PI3K)を見出した。この知見をもとに、PI3Kの遺伝子発現量の変化をマウスで調べたところ、活性ビタミンD誘導体の事前投与によって、クエチアピン投与時のPI3K遺伝子発現の減少を抑えられることが分かった。

 

さらに、別の実験系で、インスリン投与時に骨格筋細胞がグルコースを取り込む量を解析。クエチアピンを投与するとグルコースの取り込み量は減るが、活性ビタミンD誘導体の事前投与によって取り込み量は回復することや、PI3K阻害薬の投与によってその効果は消失することを明らかにした。

 

「クエチアピンによってPI3Kの機能は抑制されるが、ビタミンDを予め投与しておくとPI3Kが産生され、クエチアピンによって減少した分を補っている。それによってグルコースの取り込み量を維持でき、高血糖にならずに済むのではないか」と金子氏。副作用予防目的でクエチアピン投与時にビタミンDを併用することは「臨床にも応用できるはずなので試してみる価値はある。研究費をどう確保するかという問題は大きいものの、臨床研究や治験が実施されてほしい」と期待を語る。

 

今回の研究成果は、臨床データの解析から仮説を構築し、それをもとに基礎実験を行ってその結果を臨床に戻すという新たな研究モデルを例示することにもつながった。今後も、副作用を悪化させる薬の組み合わせなどをビッグデータから解析して基礎実験を行い、副作用回避や副作用メカニズムの解析に役立てたい考えだ。

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出典:薬事日報

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