薬剤師会

コールセンターは“宝の山”~通話データから製剤改良

薬+読 編集部からのコメント

正当なクレームもありますが、とかく“ノイズ情報”なども耳にしがちなのが企業のコールセンター。そんな中、コールセンターにかかってくる電話を製薬企業にとっての“宝の山”と捉えて成功例を見せているのが、ノバルティスフーマ(本社・スイス)です。同社のコールセンターには病院などでの勤務経験者、研究者、薬剤師など医療資格を持つオペレーター24人が月5000件の問い合わせに応対しています――。

患者の声が集まるコールセンターは製薬企業にとって“宝の山”――。ノバルティスファーマのコールセンターでは、24人のオペレーターが月5000件の問い合わせに対応しているが、集積した通話内容を分析して、自社製品の品質改善点をエビデンスとして収集し、日本からスイス本社に製品改良を提案している。緑内障治療薬については、日本の患者に対応した形で4月から点眼薬容器を変更することを実現した。様々な業種で、人工知能を活用したコールセンター業務にシフトする中、オペレーターの丁寧な応対から患者の不安を取り除くだけではなく、自社製品の価値を高めることに成功した。リアルワールドエビデンスの時代を迎え、大山尚貢メディカル本部長は、「MRやメディカルサイエンスリエゾンでは収集できない情報を手に入れることができる」とコールセンターから生まれるエビデンスに高く期待を寄せる。
24人のオペレーターが月5000件の問い合わせに対応
24人のオペレーターが月5000件の問い合わせに対応

丁寧な応対からエビデンス創出‐感情の指数“EQ”を上げる

同社のコールセンターに寄せられる問い合わせ全体のうち、医師・薬剤師など医療従事者が65%、社内からの問い合わせが20%、患者が5%の内訳となっている。病院などでの勤務経験や、研究者、薬剤師など医療資格を持つオペレーター24人が対応する。

 

オペレーターが強く意識するのが、1件1件の問い合わせへの応対だ。顧客の気持ちに寄り添えるオペレーターを目指し、知能指数であるIQではなく、感情や情動を表す知能指数(Emotional Intelligence Quotient:EQ)を伸ばすトレーニングを実践している。

 

「患者さんが『心配ないです』と答えても本当に心配ないのかを確かめる必要がある」とメディカル本部メディカル情報・コミュニケーショングループマネージャーを務める藪野浩氏は語る。月に2回、5000件の通話データからいくつかの通話録音を抽出し、オペレーター全員で討議する。通話内容を聞いてオペレーターの対応の仕方を討議するのではなく、問い合わせした患者の感情が怒っているのか、悲しんでいるのか、不安なのかを話し合い、一人ひとりのレベルアップにつなげている。

 

一つひとつの通話で通話開始時の問い合わせ者の感情を「怒り」「不安」「好感」「正常」に区分。重要業績評価指標(KPI)には、受電数や応答率ではなく、終話時の顧客満足度を設定した。5段階で評価し、終話時に「有難うございます」と感謝の言葉があれば「5」、相手が怒って切電した場合は「1」、その中間が「3」と一つひとつの通話にオペレーターが自己評価する。4、5をつけた場合に、なぜ高評価をつけたかを検証し、顧客満足度4以上が全体でどの程度の割合に達しているかを達成目標の目安にする。

 

通話開始時の患者の感情が、オペレーターの対応によって、終話時に顧客満足度としてどう結びついたかをビッグデータとして解析。その結果、患者が怒って電話をかけ、オペレーターが対応しても顧客満足度が1か2で終話するパターンが一定数見つかり、原因を分析すると、応対者の技術では解決できない製品の品質クレームに起因していることが分かった。

点眼薬容器の改良に成功

患者の声から品質改善が必要な製品として浮上したのが、緑内障治療薬の点眼薬。通常、各製品に寄せられるクレーム比率は1%程度だが、この点眼薬では10%と明らかに高かった。「ボトルが硬くて押しづらい」「押しすぎると液が出すぎる」「蓋を閉めても液漏れがする」とのクレームが相次ぎ、特に患者からの怒りの感情項目として最も多かったのが、「容器の先端が尖っていて怖い」というもの。電話だけではなく、手紙でも製品の改善要望が届いた。

 

点眼薬では通常、眼から少し離れた位置で薬をさすが、高齢患者は指の震えなどで目と近い位置で点眼する場合があり、容器の先端が尖っているために薬をさすときに目を傷つけてしまい、出血する事例も報告された。グローバルで販売している製品だが、こうしたクレームは日本だけ突出して高かったという。

 

安全性にかかわる問題で早めに手を打たないといけない――。2017年10月に日本のコールセンター側からノバルティス本社に提案。日本の要望をスイス本社に理解してもらうことは簡単なことではないが、「通話記録を集積したビッグデータからのエビデンス」「一定期間クレームが続いている」「改善項目となるメッセージが一貫している」などが決め手になり、点眼薬容器の先端部分については尖ったタイプから、別に販売している点眼薬で使われている丸みを帯びたタイプに代替し、4月から改良品として供給できるようになった。

患者の声を収集する場

コールセンターは製薬企業が唯一、患者の声を聞くことができ、医師に相談しづらい患者が頼りにする場所だ。ただ、コールセンターの外部委託が加速し、自社で保有する企業も少なくなってきた。

 

藪野氏は、コールセンターの果たすべき役割について、「製品の適正使用情報を提供すること、医療従事者や患者の要望を吸い上げ、社内に伝達すること」と述べ、重要な機能であると強調する。

 

コールセンターで集積される情報はノイズ情報も多いが、その中から副作用情報の兆候となるシグナルや製品改良のニーズとなるエビデンスが生まれているのも事実。医師とコミュニケーションが取れずに、コールセンターに問い合わせした患者が、電話を終えると解決できているのはオペレーターの応対スキルによるもの。コールセンターで実践しているEQトレーニングも、17年には同社メディカル本部の全社員に対するトレーニングとして導入され、コールセンターの知を社内で活用する動きが進んできた。

 

コールセンターの位置づけや方向性は固まっていないが、将来的には、電話やウェブ、郵便に加え、作業を自動化するロボット技術なども活用し、マルチチャネルで患者や医療従事者の要望に対して効率的に対応していく体制を構築する構想を持つ。ただ、人からシステムに置き換えていくという運営は取らずに、オペレーターの生産性を高める補助的手段にしていく考えだ。

 

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出典:薬事日報

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