創薬・臨床試験

教訓を残した“レンヌ事件”‐FIH試験の投与量設計に問題

薬+読 編集部からのコメント

2016年1月にフランス・レンヌの病院で実施された脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤「BIA10-2474」のファースト・イン・ヒューマン(FIH:ヒト初回投与)試験。被験者1名が死亡し、実薬投与を受けた他5名も後遺障害が懸念されることとなりました。この「レンヌ事件」の教訓を日本のFIH試験でどう活かすか。第18回臨床薬理試験研究会のワークショップのレポートです。

2016.8.25(木) 記事本文を一部訂正しました。記事中、「ポルトガルのCRO「バイアル」に委託し」とあるのは「ポルトガルの製薬企業「バイアル」から委託を受け」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

臨床薬理試験研究会で議論

臨床薬理試験研究会で議論

 

今年1月に仏レンヌの病院で実施された脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤「BIA10-2474」のファースト・イン・ヒューマン(FIH:ヒト初回投与)試験で、被験者が死亡した事件は世界中に衝撃を与えた。健常人に重篤な副作用を引き起こした抗癌剤のTGN1412事件に続く悲劇であり、その後の調査結果では非臨床データや治験の実施体制でずさんな計画が浮き彫りになった。“レンヌ事件”の教訓を日本のFIH試験でどう生かしていくか。20日に都内で開催された第18回臨床薬理試験研究会のワークショップでは、臨床試験の責任医師、薬物動態、非臨床の専門家が議論を行った。


 

「BIA10-2474」がターゲットとする酵素のFAAHは多くの生体プロセスに関与しており、これを阻害することにより、疼痛や不安神経症、摂食行動、運動障害、心疾患等など幅広い治療への応用が期待されていた。仏研究機関「バイオトライアル」が、ポルトガルの製薬会社「バイアル」から委託を受け、「BIA10-2474」の経口投与における安全性・忍容性を評価するランダム化プラセボコントロールの二重盲検試験として実施した。18~55歳の健康成人男女128人が参加し、単回投与試験、反復投与試験、薬物動態と薬動力学評価、「BIA10-2474」の薬物動態に対する食事影響評価を行うことになっていた。

 

昨年7月から単回投与試験を開始。特記すべき有害事象が認められなかったことから、反復投与試験の開始を決定した。反復投与試験では、2.5mg、5mg、10mg、20mg、50mgの5コホートに分け、各コホートで実薬6人、プラセボ2人の計8人に対し、1日1回10日間投与で実施するプロトコル。コホート4までは有害事象の発生は確認されず、今年1月6日からはコホート5の最高用量50mg/日投与を開始した。

 

事件はコホート5の投与開始5日目に起きた。10日夜、1例が脳卒中様症状でレンヌ大学病院へ転送され、翌日の11日に昏睡状態となり脳死状態になる。その日のうちに試験中止を決定。入院した被験者は17日に死亡した。

 

実薬投与を受けた残りの5人も脳卒中様症状で13~15日に入院。4人には、後遺障害が懸念される神経学的障害が認められ、1人は症状なしだった。14日に仏当局のANSMに重篤な有害事象として報告した。

 

なぜ、事件は起こったのか。FDAでは治験薬の「BIA10-2474」が、非特異的なFAAH阻害薬で、多くの薬理作用を持つ可能性があるとし、薬効に関連したオンターゲットではなく、オフターゲットによる毒性と判断した。また、単回投与の薬物動態データから、反復投与試験の20mgから50mgの間で非線形が予測される結果が示唆されており、血中半減期が高用量で増大していた。

 

医療法人相生会の入江伸氏は、「今回のレンヌ事件は(ある投与量から血中濃度が一気に上がる)非線形の薬剤なのに、最高投与量が前のコホートから2.5倍に設定しているのはとんでもない話。今後はレンヌ事件を参考に、FIH試験のプロトコル作成にあたっては、なるべく投与用量を抑えた設計にしていきたい」と話す。

 

さらに国内のFIH試験について、「最近私が経験した低分子医薬のFIH試験で、初回投与量から薬効がはっきり出ている試験が続いている。初回投与量から最大無毒性量を探索するNOAELを重視しているのではないか。製薬企業が開発を急ぐ側面も影響があるかもしれない」との実態を紹介し、インビトロとインビボから得られたPK/PD情報から初回投与量を設計するべきとした。

 

モデレーターを務めた北里大学病院の熊谷雄治氏は、単回投与試験での薬物動態データから、「レンヌ事件では、プロトコルを柔軟に変えることができるアダプティブ試験にもかかわらず、プロトコル通りにやられている。プロトコル通りにやらないといけないと思ったのではないか。プロトコルを守るよりも被験者をまず守るべき」と主張した。

 

協和発酵キリンで非臨床研究を行う鈴木睦氏は、「毒性試験で最も感受性の強いイヌを使うべきなのに、サルで試験を行っていることに違和感がある。サルだけの投与量で臨床投与量を決めている」と述べ、非臨床試験で用いた動物種を問題視。また今回は治験薬概要書に誤記が散見された事例を引き合いに、「国際共同試験での治験薬概要書で誤記があった場合に日本側が間違いを見つけても、直させてくれないケースもある」との課題を指摘した。

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出典:薬事日報

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