医療

「宇宙創薬」は官から民へ~結晶化で成功事例を創出

薬+読 編集部からのコメント

宇宙空間で創薬研究を行う「宇宙創薬」は2030年頃から民間主体の活動にシフトし、今後の拡大に向けて、製薬企業による主体的な取り組みが重要になりそうです。

宇宙空間で創薬研究を行う“宇宙創薬”は、2030年頃から民間主体の活動にシフトし、今後の拡大に向けては製薬企業による主体的な取り組みが重要になりそうだ。高度約2000km以下の地球低軌道活動拠点「国際宇宙ステーション」(ISS)は30年頃に運用を終了し、その後の「ポストISS」では日本も運営主体を宇宙航空研究開発機構(JAXA)から民間事業者への移行を予定する。微重力環境下で地上で行えない創薬研究を可能にする一方、国内製薬企業は「研究成果が限られ、莫大な投資が難しい」と動きが鈍く、業界軸での環境整備が必要になる。

 

 国内製薬はまだ様子見

ISSは、日米欧など15カ国共同でのプロジェクトで高度400kmの軌道上を周回する常時滞在型有人施設だ。ライフサイエンス分野における地球低軌道活動では、蛋白質結晶実験などの創薬研究でいくつか事例が出ている。微小重力環境では地上より高品質な結晶生成が可能で、代表的事例として米メルクが抗癌剤「キイトルーダ」について微小重力環境で均一な結晶を得ることで物性を改善し、地上でのプロセス開発に役立てた。そのほか、米イーライリリーや米ブリストルマイヤーズスクイブ、英アストラゼネカが宇宙実験での研究に着手している。

 

一方、日本は製薬周辺産業のプレイヤーが中心となって研究が進められている。1990年創業の宇宙有人システムは、東海大学工学部生物工学科の木村啓志教授や東京応化工業と連携して、ISSの微小重力環境下でヒトの細胞や組織を細胞培養上で精密に培養して生体に近い環境を再現できる「宇宙用MPS(生態模倣システム)装置」の地上品を開発・製作し、細胞を使用した実証実験に成功した。

 

同社の中手直哉氏は、「宇宙では骨、筋肉、免疫系の細胞の老化が地上よりも顕著に進行する」と話す。今後、宇宙空間の微小重力環境で骨や筋肉、免疫系をはじめとした細胞老化の加速実験を構築していく計画を打ち出す。細胞老化に起因する疾患の医薬品の効果・影響を地上より早く検証が可能になるという。27年以降には宇宙ステーションなどの軌道上実証を計画し、より小型化したフライト品の開発に関する準備を進める。

 

動物実験が縮小傾向にある中、宇宙分野ではアメリカ航空宇宙局(NASA)をはじめ、米国企業や大学がISSの微小重力環境下でMPSを構築するプロジェクトに取り組み、宇宙におけるMPS利用に注目が集まっている状況だ。

 

30年以降の地球低軌道の有人宇宙活動・利用は官から民にシフトする大きな転機を迎える。「ポストISS」における地球低軌道活動の充実・拡大が大きな課題となっており、ISS日本実験棟「きぼう」でも民間事業者のもと、今後取り組むべき研究・事業領域の特定が行われることになる。

 

民間事業者主導でISSを運用するとなると、創薬研究の環境整備に向けては製薬業界全体での取り組みやアピールが重要となる。

 

ただ、海外製薬大手が先行する一方、日本企業は依然として様子見で業界としてビジョンを描き切れていない。日本製薬工業協会も文部科学省小委員会のメンバーに名を連ねるなど意見交換の場には参加しているが、国内製薬企業が宇宙創薬に本格的に参入する可能性については「研究成果が少なく、まだ難しいのではないか」という。宇宙を拠点とした創薬競争の激化が予想される一方、日本での本格化にはハードルが多く残されている。

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出典:株式会社薬事日報社 

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