創薬・臨床試験

CRCの役割分担、明確化を‐データ改ざん事件を教訓に

薬+読 編集部からのコメント

2013年に発覚した肥満症を担当とする一般用薬品治験のデータ改ざん事件。この事件を題材に、2015年9月12、13日に神戸市で「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開催されました。CRCの役割分担を明確化し、再発防止策についても話し合われたとのことです。

CRCとしてやるべきこと、やらなくていいことの役割分担を明確にすべきだ――。12、13日に神戸市で開かれた「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」で業界関係者は、2013年に発覚した治験のデータ改ざん事件を題材に、その再発防止策について討議した。本来は業務ではなかった被験者募集が、あたかもCRCの担当であるかのような圧力にさらされた結果、CRCがデータ改ざんに関わったと指摘。CRCの役割分担の明確化や、業界全体での再発防止策の徹底が強調された。

 

10年に大阪市の病院で実施された肥満症を対象とした一般用医薬品の治験において、被験者の身長データが改ざんされた。被験者不足に対応するため、SMOのCRCが改ざんに関わった。SMOの管理職が適切な対応や指示を行わなかった結果、CRCが追い詰められて実行したとされている。

 

榎本有希子氏(日本大学医学部附属板橋病院臨床研究推進センター)は「治験に関わる各職種の役割分担が不明確だった。本来はCRCの業務ではなかった被験者募集が、あたかもCRCの業務であるかのような社内外の圧力にさらされ、追い詰められてしまった」と事件の背景を語った。

 

その上で「CRCとしてやるべきこと、やらなくていいこと、やってはいけないことを明確にし、CRCが全てを背負って頑張りすぎないことが重要」と指摘。超えてはいけない一線を意識し、CRCとしてのバランス感覚を養うことを求めた。

 

また、今回の事件ではCRCは社内の上司にそれぞれ相談したが、適切な対応や指示はなかったとし、「社内のマネジメントラインや責任の所在が不明確だった。誰にどう相談し、その人が今度はどこに相談するかという報告・連絡・相談の手順化が必要」と強調。相談窓口がなかったためにCRCが窮地に追い込まれたとし、CRCが安心して仕事ができるように、相談窓口の設置を呼びかけた。

 

さらに榎本氏は業界関係者に対して、▽SMOの業務範囲の明確化と認識▽契約の流れの適正化と透明化▽選択基準設定根拠の妥当性の検討▽治験責任医師の責務に関する教育の徹底▽管理職を含む社員や職員の研修の実施――などを要望した。

 

SMOのCRCの立場から池田江里氏(フェアリーベン)は「誰でもいろいろなプレッシャーによって心理的視野狭窄に陥ってしまうことはあり得る」とし、「相互の責任範囲は様々な規定の中で明確化されている。要望に応える努力は重要だが、できないことはできないという勇気も必要」と語った。

 

他職種に対するコミュニケーションスキルも重要になるとし、▽GCPやヘルシンキ宣言など既存の権威を盾に各職種が担う責任や役割を改めて意識してもらう▽発生した問題をチーム全体の問題として捉え、その場しのぎの対応は結果的に個々の責任が問われる事態を招くだけと認識してもらう――などの方法を提示した。

 

池田氏は「最も避けたい逸脱は、不適格症例の組み入れに尽きる」と指摘。「全てのデータが使えなくなり、関係者全ての努力、被験者の協力、かけた経費が水泡に帰すだけでは済まず、製薬会社、SMO、医療機関、試験のそれぞれの信頼性の喪失という大きなつけを払わなければならなくなる」として、このような事件が二度と起こらないよう、関係者の意識の徹底を求めた。

 

このほか中野重行氏(大分大学・臨床試験支援財団)は「この事件を他山の石として、失敗から学ぶ研修会を各施設で実施し、自分ならどうするか、何ができるかを考えてほしい。研修会は、多職種による参加体験型のワークショップ形式のスタイルが望ましい」と提案した。

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出典:薬事日報

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