西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!
第26回 木火土金水のバランスの崩れ方(2)相侮
前回は、五行のバランスの崩し方2種類のうち、「相乗(そうじょう)」についてお話ししました。今回はもうひとつのバランスの崩し方の「相侮(そうぶ)」についてお話しします。
前回もお話ししましたが、「相乗」と「相侮」はどちらも「相剋」の異常パターン。つまり、正常な抑制関係が壊れてしまった状態のことをいいます。おおまかに以下のような違いがあり、どちらも結果として、五行の正常な生剋関係(相生関係と相剋関係)が崩れてしまいます。
「相乗」…「相剋関係」の抑制が強くなり過ぎる・相手を抑え過ぎるパターン
「相侮」…「相剋関係」に逆方向の抑制が起きる・逆に自分が抑制されて侮られるパターン
「相侮」とは、“侮られてしまう関係”
「相侮」とは、「相剋関係」とは逆方向の抑制が起きる状態です。
五行の中のある一行が、本来ならば抑えられる(剋される)立場であるにもかかわらず、逆に相手を侮るかのように抑制してしまうことをいいます。「相侮」の「侮」は、「侮られる、バカにされる」などの意味があります。「反侮(はんぶ)」とも呼ばれます。
「相侮」を引き起こす原因としては、五行のうちの一行が「1.強くなりすぎる」「2.弱くなりすぎる」の以下の2つのケースが考えられます。
【ケース3:一方の太過による相侮】
五行の中の、ある一行が強くなりすぎたため、本来は抑制される立場であるにもかかわらず逆に相手を抑制してしまうケースです。
第24回でお話した「木火土金水」のイメージで、このケースを考えてみましょう。例えば正常状態なら木は金に剋される(樹木は斧に切り倒される)関係にありますが、木が強くなりすぎると斧では太刀打ちできなくなり、逆に斧が折れることもあります。
このように、木が強くなりすぎて、木が金を抑制してしまうことを「木侮金(もくぶきん)」といいます。
【ケース4:一方の不及による相侮】
五行の中の、ある一行が非常に弱まったため、相手を抑制するどころか、逆に反抗されてしまうケースです。
これも例でイメージしてみましょう。正常状態なら木は金に剋される(樹木は斧に切り倒される)関係にありますが、斧が刃こぼれして錆びついていると木は切り倒せず、逆に斧が折れることもあります。
このように、金が弱くなりすぎて、木が金を抑制してしまうことを「金虚木侮(きんきょもくぶ)」といいます。
相乗と相侮のつながり
相乗と相侮にはつながりがあります。相乗が起きたために相侮が起こることがあり、また、相侮が起きたために相乗が起こることもあります。
例えば「木が強すぎると、土を抑制し過ぎて弱らせる(木乗土)」だけでなく、同時に、「金が木を抑制できず逆に侮られる(木侮金)」という状態にもなります。その結果として金が弱くなれば、金は火に乗じられる状態になってしまいます。
このように、どれか一行が強くなりすぎても、どれか一行が弱くなりすぎても、相乗と相侮が同時に起こります。
ひとたび一箇所のバランスが崩れると、上記のように連鎖して他も乱れていくのは、五行のそれぞれが相生・相剋のトータルバランスの上で関わりあっているためです。
相乗 | 相侮 | |||
---|---|---|---|---|
共通点 | 相剋関係のバランスの崩れ | |||
相違点 | 相剋関係が過剰になった状態 (抑制し過ぎ) |
相剋関係が逆になった状態 (反対に抑えられてしまう) |
||
起こり方 | ある一行が 強くなり過ぎる 例)木乗土 |
ある一行が 弱まり過ぎる 例)土虚木乗 |
ある一行が 強くなり過ぎる 例)木侮金 |
ある一行が 弱まり過ぎる 例)金虚木侮 |
第9回で説明した陰陽説と五行説を合わせて「陰陽五行説」といい、私たち日本人の生活・文化の中にも知らず知らずのうちに根付いています。
例えば、曜日(七曜)は、月(陰)・日(陽)+(木・火・土・金・水の五星)に由来すると言われています。そのほか、大相撲の土俵と吊り屋根の房の色、土用の丑の日、鬼門の方角などが陰陽五行説の考えに基づいて決められているんです。
興味のある方は調べてみてくださいね!
次回からは、「五行学説の人体への応用」についてお話しします。
中医学では、五行学説を診断や治療にも活用しています。お楽しみに!