”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.12.25公開日:2021.03.11 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第66回 女性にうれしいドライフルーツ「ナツメ」の魅力と効能

日本薬局方にも収載され、医薬品として用いられる一方で、おやつやお料理など食品としても便利なナツメ。サムゲタンに浮かんでいるのを見たことがあるのではないでしょうか? 女性にうれしい効能が多く、見た目も味も食感も楽しめます。“ナツメ”の秘めたるパワー・効能についてお話しします。

目次

1.ナツメのここがスゴイ!

中国には「1日に3個のナツメを食べれば、生涯若く見える」ということわざがあるほど、ナツメは栄養価が高く滋養がある薬食として知られています。女性にうれしい効果が詰まっているため、中国の女性は幼い頃から好んで食べます。中国のスーパーに行くと、いろいろな品種・産地のナツメがそろっています。

ナツメは、気と血を補う作用があり、気血両虚(気と血のどちらも不足している)の人のからだを丈夫にします。また胃腸虚弱で疲れやすい人の胃腸を丈夫にし、穏やかな安神作用(あんじんさよう・あんしんさよう:精神安定作用)があります。


女性は毎月の生理によって大量の血を失うため、健康と美容は血の状態に大いに左右されます。それゆえ、特に月経時・妊娠時・出産時・授乳時には、ナツメを養生として意識的に摂るとよいでしょう。


2.ナツメとナツメヤシ

「ナツメはナツメヤシの仲間ですか?」といった質問をたまに受けますが「ナツメ(大棗:たいそう)」と「ナツメヤシ(デーツ)」は、名前も見た目も似ているのに、まったく違う果物です。以下にざっくりと両者の違いを書いておきます。

【ナツメ(棗)】
クロウメモドキ科の果実。乾燥ナツメの赤い外皮はすこし硬く、中の黄色い果実はフワフワした食感。生のナツメはリンゴのような食感です。ほんのり甘いやさしい味。中国、韓国でよく食べられるフルーツ。

【ナツメヤシ(デーツ)】
ヤシ科の果物。乾燥デーツは茶褐色の実。干し柿やプルーンに似たネットリした食感。しっかりした強い甘味が特徴。北アフリカや中東でよく食べられるフルーツ。


ナツメ(棗)



ナツメヤシ(デーツ)

どちらもビタミンやミネラル・食物繊維などが豊富です。私が調べた限りでは、ナツメの中医学的な効能は明らかでしたが、ナツメヤシ(デーツ)は見つかりませんでした。

3.ナツメ(大棗)の効能

ナツメは中薬学では補気薬(ほきやく:気を補う薬)に分類されていますが、血を補うチカラもあります。

しかし、次に紹介する引用文中の【使用上の注意】に“助湿生熱し中満をひきおこしやすい”とあるように、注意も必要です。ナツメは他の甘味の薬食と同じく補う作用があり、補う作用=動きを止めてよどみを生みやすい、ということになります。それゆえ、食べ過ぎるとお腹が脹るので気をつけましょう。

また、もともと、湿邪や食積(しょくしゃく・消化能力以上に摂取した飲食物が、停滞した状態)のある人には適しません。また、温性(温める性質)ですので、熱がこもっている人は食べ過ぎないようにしましょう。

中薬学の書籍を紐解くと、効能は次のように表現されています。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味と効能が端的に結びついており、イメージを掴むのにとても役立ちます。

大棗(別名:紅棗、大紅棗、タイソウ、なつめ)

【基原】
クロウメモドキ科Rhamnaceaeのナツメ Zizyphus jujuba MILL.var.inermis REHD.またはその品種の果実。

【性味】
甘、温

【帰経】
脾・胃

【効能】
補中益気(ほちゅうえっき・ほちゅうえきき)、養血安神(ようけつあんしん・ようけつあんじん)、緩和薬性(かんわやくせい)。

【効能と応用】
1.補中益気
中気不足(中気=お腹の気)、脾胃虚弱、倦怠無力、食欲不振、泥状便に用いる。本品(=大棗)は、補中益気(お腹の気を補う)の効能がある。よく、党参(とうじん)・白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)などと用いることで治療効果が高められる。
方剤例)四君子湯(しくんしとう)・六君子湯(りっくんしとう)

2.養血安神
営血不足による心神不安の不眠・不安感・悲しい・じっとしていられない・驚きやすいなどの症候に、竜眼肉(りゅうがんにく)・当帰(とうき)・酸棗仁(さんそうにん)・小麦(しょうばく)・炙甘草(しゃかんぞう)などと用いる。
方剤例)甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)・苓桂朮甘湯(りょうけじゅつかんとう)

3.緩和薬物
薬力が猛烈な薬物に配合し、性質を緩和するとともに脾胃の損傷を防止し、また味を矯正する。
方剤例)葶藶大棗瀉肺湯(ていれきたいそうしゃはいとう)・十棗湯(じっそうとう)

【参考】
大棗は生姜と配合することが多く、生姜は大棗によって刺激性が緩和され、大棗は生姜によって気壅致脹の弊害がなくなり、食欲を増加し消化を助け、他薬の吸収を促進する。解表薬に配合すると、生姜が衛気を助けて発汗し、大棗が営血を益して発汗による傷労を防止し、営衛を調和することができる。補益薬に配合すると、生姜が和胃調中し大棗が補脾和胃し、滋補の効能を強めることができる。

【用量・用法】
3-9g。煎服。

【使用上の注意】
助湿生熱し中満をひきおこしやすいので、湿盛の脘腹脹満・食積・虫積齲歯・痰熱咳嗽などには禁忌。

※【基原】は『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【性味】【帰経】【効能】【効能と応用】1は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの/【効能と応用】2、3【参考】【用量・用法】【使用上の注意】は『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より抜粋

4.ナツメはどこで手に入る?

中国では生のナツメが売られています。もし機会がありましたら食べてみてください。とってもおいしくておすすめです。中国には本当にさまざまな品種・産地のナツメがあります。

私は生の果物はあまり食べないのですが、生のナツメは大好きです。特に小さいリンゴのような形をしたナツメが好きで、味もリンゴに似ていますがもっと爽やかで上品な甘味があって、リンゴより好きなくらいです。日本で売り出せば大人気になりそう!と思っていますが、ほぼ見かけることがなくてとても残念です。日本でも生のナツメや鉢植えが、ホームセンターやインターネットで販売がされていますので、ご興味のある方は是非。

日本では原形そのままのナツメ(ドライ~半ドライ)は俵型をしていて、漢方薬局・中華食材店・高級スーパー・百貨店・食料品店の健康食品コーナーなどで購入できます。乾燥ナツメは皮をむかずにそのまま食べられますが、中央に細長くて硬い種がありますので、高齢の方や小さなお子さんは気をつけてお召し上がりください。

5.こんな時にナツメを食べよう!

ある女性は葛根湯でお腹の調子が悪くなる方でしたが(日常生活では胃腸症状無し、疲れると胃がムカムカする)、藿香正気散・田七人参生脈散などを頓服しつつ、1袋500gのナツメを月に1~2袋、約2年間食べ続けたところ、葛根湯を飲んでも胃腸の調子をくずさなくなったと報告くださりました。

しかし、体質に合っていても、「症状が進んでいる」「悩んでいる月日が長い」「ほかに色々波及している」などの状況から総合的に判断して、ナツメ単品よりも複数の生薬を配合した漢方薬の方が適切なケースもあります。このように、ナツメだけではチカラ不足だったり、控えめにしたほうがいい時期だったりすることがあるので、悩んだら中医学の専門家に聞いてみてください

また、試食してナツメ(半ドライ)のおいしさに目覚めた私の患者さん達は、会社にも持って行って小腹がすいたときなどに食べているそうです。コンビニ菓子よりもずっと体に良く、美容にも健康にもプラスになります。小さなお子さんのおやつ代わりにするのもいいでしょう。

ナツメはけっこう満腹感があります。ストレスで暴飲暴食してしまいがちな人も、上述したように体質に合うならばおすすめです。私は小腹が空いたときや仕事後に夜の勉強会に行くときなど、「食事ができないけど、すこしはお腹に何か入れておきたい」というときにナツメに助けられています。

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・惠木弘(著)、戴銘錫(著)、(株)東洋薬行(監修)『地道薬材』樹芸書房 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/