”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.17公開日:2023.01.17 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第88回  乳腺炎や化膿、炎症などのトラブルの味方!
「タンポポ(蒲公英・ホコウエイ)」の効能【雑草シリーズ】

ありふれた雑草でも、秘めたる効能を持っているものがいくつかあり、タンポポもそのひとつ。たんぽぽコーヒーに使われる「タンポポ」は、漢方の本場・中国で行われる伝統医療=中医学(中国伝統医療)ではれっきとしたクスリ(中薬)として扱われていて、色々な炎症や化膿に使われます。タンポポの中医学的な効能や、状態による向き不向きなどを解説します。

1.一番身近な野花「タンポポ」

タンポポは茎をとっても根が残っていればまた伸びてくるほど、生命力の強い植物です。タンポポを使った飲食物として一般的に知られているのは「たんぽぽコーヒー」でしょう。味はコーヒーに近く、「コーヒーと麦茶の間」とか、「土っぽさのあるコーヒー」といった感想を見かけます。

 

 

焙煎したタンポポの根から作られる飲料で、「代用コーヒー」として色々な国で親しまれ、「たんぽぽ茶」と呼ばれることもあります。カフェインレスなので、不眠症・妊娠中・授乳中など、「コーヒーが飲みたいけど飲めない!」というときにも重宝されます。

 

 

中薬では、タンポポのことを、「蒲公英(ホコウエイ)」と呼びます。中医学では花、葉、茎、根など植物全体(=全草)を薬に用いるのが本来ですが、日本では根だけを乾燥させたものを「蒲公英」とか「蒲公英根(ホコウエイコン)」として取り扱うことが多いようです。

2. 蒲公英(ホコウエイ)のはたらき

蒲公英(=タンポポ)は中薬学の教科書において「清熱薬(せいねつやく)」に分類されています。解毒・消炎・抗菌・抗真菌・利水などの作用があります。

清熱薬はさらに以下の5つに分類され、蒲公英は「清熱解毒薬」のうちのひとつです。ちなみにウィルス性の感染症対策に活用される「板藍根(ばんらんこん)」や、細菌性の下痢や皮膚トラブルに使われる「五行草(スベリヒユ)」も清熱解毒薬です。
 
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・清熱瀉火薬(せいねつしゃかやく)
・清熱燥湿薬(せいねつそうしつやく)
・清熱涼血薬(せいねつりょうけつやく)
・清熱解毒薬(せいねつげどくやく)
・清虚熱薬(せいきょねつやく)

 

■生薬や食べ物の「四気(四性)」

生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」といいます。蒲公英は「寒性」です。

五行草の四気五味(四性五味)は「寒性、苦味・甘味」なので、次のような作用があることが分かります。また、蒲公英は、「肝のグループ」「胃のグループ」に作用します。これを中医学では「肝経・胃経に作用する(帰経する)」などと表現します。

 

・寒性=冷やす性質。冷ます性質。
・苦味=冷ますイメージ・下に降ろすイメージ。
・甘味=「補(ほ)・和(わ)・緩(かん)」のイメージ。


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3.蒲公英はどんな時に用いられるのか(使用例)

蒲公英の使用例として、代表的な4つの症状を紹介します。具体的な例を見ていきましょう!

 

(1) 化膿があるトラブル①乳腺炎に
(2) 化膿があるトラブル②皮膚化膿症・肺化膿症など
(3) 尿路感染症や黄疸に
(4) 目の充血・炎症に

 

(1) 化膿があるトラブル①「乳腺炎」に

蒲公英の代表的な使用例の1つ目は、乳腺炎です。乳腺炎の初期のしこり・腫れ・熱感・赤みに対して、単品で、あるいは他の解毒作用がある生薬と用います。たんぽぽコーヒーは、タンポポの根を焙煎したものなので、単にタンポポの根を乾燥させたものより、冷ます作用は減少していると考えられます。

 

 

また、乳腺炎初期の女性が、助産師さんからゴボウの種である牛蒡子(ごぼうし)を毎日食べるようにアドバイスされて、漢方薬局に来局なさることがあります(ちなみに、中医学では基本的には煎じて飲むことが多いです)。牛蒡子だけでは効きがイマイチなとき、炎症が強いときは、蒲公英など他の清熱解毒薬も一緒に使うと良いでしょう。
 
さらに言えば、蒲公英にしても牛蒡子にしても、ただ炎症や化膿を抑えるだけです。漢方薬局に相談にいらっしゃる日本女性の中には、乳汁が詰まりやすい体質的な原因が大元にある方が多いようです。
 
例えば、乳汁の色や質が薄く、量も少ないケースでは、乳汁が少ないために乳汁の流れが悪くなって、乳腺が詰まりやすかったりします。その場合は、ただ蒲公英や牛蒡子で清熱解毒するだけでなく、母乳の原料である「血(けつ)」をしっかり補うことが大切です。このケースは、血の不足・腎精の不足などを中心とした色々な不足がありますので、これらの不足を補いつつ、清熱解毒薬していくのが基本的な治し方です。
 
特に産後の女性は、妊娠・出産によって全身の気・血・陰・陽・精を使い果たしたうえ、母乳の材料はまさに血ですから、「血」の不足=血虚が顕著になりがちです。
 
さらに、精神的に浮き沈みしやすい、イライラする、落ち込む、涙が止まらない、産後の悪露が残留する…などの症候があるときは、気血の巡りが悪くなっています。
 
気の巡りが悪い状態である「気滞(きたい)」や、血流が悪い「瘀血(おけつ)」の症候があるケースでは、気を巡らせる「理気薬(りきやく)」や血行を良くする「活血薬(かっけつやく)」などを、清熱解毒薬と一緒に用います。
 
また、乳汁の質が濃くて粘っこいがために乳腺が詰まりやすいケースでは、体質的に「湿熱(しつねつ)」を持っている可能性もありますので、湿熱をとりのぞく漢方を合わせて用います。
 
金銀花・野菊花・蒲公英などが含まれる「五味消毒飲(ごみしょうどくいん)」という処方は苦寒薬だけでなく甘寒薬も配合されており、なおかつ、お花系の生薬で配合されているため上体部に効きやすい傾向(詳しくは、第22回「生薬の性質~四気、五味、帰経、昇降浮沈~」内「昇降浮沈」の項を参照。第22回の菊花は杭菊花のお話なので、野菊花とまた少し効能が異なります)があり、乳腺炎などにもうってつけです。
 

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(2) 化膿があるトラブル②皮膚化膿症・肺化膿症など

蒲公英には、抗菌作用・抗真菌作用があり、黄色ブドウ球菌や皮膚真菌を抑制する作用が確認されています(『漢薬の臨床応用』より)。中国ではニキビ・ふきでもの・アトピー性皮膚炎などの各種皮膚病(皮膚の炎症・化膿がある状態)にも蒲公英を用います。代表的な処方は前項で述べた「五味消毒飲」などです。蛇や虫に咬まれた傷にも、蒲公英をつぶしたものを外用することもできます。
 
蒲公英を含んだ生薬の煎じ汁やエキス顆粒剤は、内服するほかに、水で溶かして湿布としても使います。他の清熱解毒作用を持つ生薬と組み合わせると効果がよりアップします。たとえば、アトピー性皮膚炎・湿疹・ニキビなどの赤み・痒み・膿・腫れ・痛みなどの皮膚病に、赤ちゃんから大人まで、他の漢方薬とあわせて内服・外用ともに非常によく用いられます。

 

 

蒲公英は肝に帰経するため、肝経絡の炎症・化膿や、特に、肝鬱(かんうつ)による炎症に適しています。我慢や緊張の多い毎日を送っていると、自律神経系や精神情緒系をつかさどり全身の気の巡りを調節している肝の気(=肝気)の巡りが悪くなり、肝気が鬱結(うっけつ)します。これは「肝気鬱結(かんきうっけつ)」という状態で、我々は略して「肝鬱(かんうつ)」と呼びます。
 
「気」は “身体を温めるエネルギー”です。特に、肝気のパワーはとても強いため、肝鬱が長引いたり強かったりすると暴発(=肝鬱化火(かんうつかか))します。「気が詰まり過ぎて熱に化す」といったイメージです。
 
肝にこもった熱のことを「肝火(かんか)」とか「肝熱(かんねつ)」とかいいます。要するにメンタルの炎です。蒲公英はこういった肝に熱がこもった状態に向いているため、精神的なストレスが関係する乳腺のトラブル・眼の炎症・充血・眼が脹るなどのトラブル・皮膚病・その他の様々なトラブルに対して、体質に合わせて他の生薬と組み合わせて用いられます。そのほか、肝火が原因の炎症や症状に応用されます。
 
また、肺化膿症で、膿または膿血性の痰・咳・胸の痛みなどがある状態に、他の中薬(生薬)と組み合わせて用います。

 

(3) 尿路感染症や黄疸に

尿路感染症の排尿困難や排尿痛に、ほかの中薬と組み合わせて用います。また、湿熱タイプの黄疸の際に、蒲公英を茵蔯蒿(いんちんこう)・山梔子(さんしし)・柴胡(さいこ)・板藍根(ばんらんこん)などと共に用います。
 
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(4) 目の充血・炎症に

先述したような「肝火」による目の充血・腫脹・痛みなどに、蒲公英単味で、あるいは、黄芩(おうごん)・野菊花(のぎくか)・夏枯草(かごそう)などとともに用います。例えば、急性結膜炎・眼瞼炎などです。

 

 

全身の不調の相談で、漢方専門薬局に相談にこられる方のなかには、ストレス・過労・睡眠不足などが原因で霰粒腫(まぶたの中にできた小さな固い腫瘤。「ものもらい[麦粒腫]」と似て非なるもの)が炎症・化膿している人もいます。

 
そのような場合には、全身の不調も視野に入れた漢方薬と共に、蒲公英を含むエキスを組み合わせて用いるとよい結果が得られることが経験的に多いです(あくまでも私の経験です)。

4.蒲公英の効能を、中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている「蒲公英(ホコウエイ)」の効能を見ていきましょう。
 
効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

蒲公英(ホコウエイ)

【分類】
清熱解毒薬

【処方用名】
蒲公英・公英・黄花地丁・婆婆丁

【基原】
キク科CompositaeのモウコタンポポTaraxacum mongolicum HAND.-MAZZ.またはその他同属植物の根をつけた全草。
日本では、根のみを乾燥したものを蒲公英根と称し、これが流通している

【性味】
苦・甘、寒

【帰経】
肝・胃

【効能】
(1)
清熱解毒(せいねつ・げどく)・消腫散結(しょうしゅさんけつ)。
乳廱・腸廱・庁毒・廱腫・肺廱などの化膿性疾患などに用いる。
乳腺炎(乳廱)の初期の発赤・腫脹・硬結に、金銀花(きんぎんか)・連翹(れんぎょう)・炒穿山甲(しゃせんざんこう)・栝楼仁(かろにん)・牛蒡子(ごぼうし)・天花粉(てんかふん)などと使用する。鮮品を搗(つ)きつぶして外用してもよい。

廱腫庁毒(皮膚化膿症)(ようしゅちょうどく)には、金銀花・野菊花(のぎくか)・紫花地丁(しかじちょう)などと用いる。
方剤例)五味消毒飲(ごみしょうどくいん)

熱毒壅盛(ねつどくようせい)の腸廱(急性虫垂炎など)には、金銀花・大黄(だいおう)・桃仁(とうにん)などと使用する。
方剤名)闌尾清化湯

肺廱(肺化膿症)で膿血性の痰を排出するときは、魚腥草(ぎょせいそう)・芦根(ろこん)・桃仁などと使用する。

急性熱病にも、単味であるいは大青葉(だいせいよう)・板藍根(ばんらんこん)・金銀花などと用いる。
蛇虫咬傷に、搗きつぶして外用する。

(2)
利水通淋(りすい・つうりん)・清利湿熱(せいり・しつねつ)
熱淋(ねつりん)の排尿困難・排尿痛に、黄柏・車前子・茅根などと用いる。
湿熱の黄疸には、茵蔯蒿・板藍根・柴胡・山梔子などと使用する。

(3)
清肝明目(せいかんめいもく)
肝火上炎による目の充血・腫脹・疼痛(急性結膜炎・眼瞼炎など)に、単味であるいは黄芩・菊花・夏枯草などと用いる。単味の煎液で洗眼してもよい。

【用量】
6~30g。大量で60g。煎服。

【使用上の注意】
実熱火毒にのみ用いる。過量に使用すると下痢をきたすことがある。
 
※『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に抜粋

このように、蒲公英は、さまざまな炎症や化膿に用いられます。特に、乳腺炎・皮膚病・眼の充血や炎症・ストレスが関係する炎症などが得意分野です。

5.蒲公英の注意点と蒲公英を含むエキス顆粒剤

蒲公英は清熱解毒薬なので、実熱があるときに用います。身体を強く冷やすので、冷え性の方、特に冷えてお腹が痛い・冷えて下痢をするタイプの人には、実熱があったとしても単品では用いません。また、蒲公英は量が多すぎると下痢をします。蒲公英を飲んで下痢をした場合は、冷やし過ぎている可能性もあります。
 
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もともと脾胃虚弱(ひいきょじゃく≒消化器系が弱い)で、慢性的にお腹が弱く軟便傾向にある人の、胃もたれ・胃痛・食欲不振・泥状便~下痢等の症状があるときは、蒲公英のような強く冷やす薬の使用は特に注意しましょう。
 
もし、脾胃虚弱の体質だけれども、乳腺炎・皮膚病などの「実熱」があり、蒲公英を使わざるを得ない場合は、胃腸に負担がかからないよう、補気健脾薬(ほき・けんひ・やく)や消食薬(しょうしょくやく)などの胃腸をケアする漢方薬を必ず併用します。
 
蒲公英は中国では薬ですが、日本では法律的に食品扱いです。日本の漢方薬局では、蒲公英の根を乾燥させて細かく刻んだ状態のもの(煎じてお茶として飲む※)が入手できます
 
※煎じる、とは水を加えて煮ること。量や時間は購入先の漢方薬局に相談するとよいでしょう。

 

 

また、先述した「五味消毒飲」は中国では薬ですが、日本でも似た構成の蒲公英を含むエキス顆粒剤が各メーカーから発売されており、健康食品として扱われています
 
引っこ抜いても枯れないような生命力の強い植物は、そのものが宿す力が強い分、確かな薬効があるのだなぁ…と筆者もしみじみ思いました。蒲公英として用いる際は、中医学の専門家にご相談ください。

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参考文献:
・小金井信宏(著) 『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪 (著), 小金井 信宏 (翻訳) 『中薬の配合』 東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
ウチダ和漢薬『生薬の玉手箱 蒲公英(ホコウエイ)』

 

 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/