“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2022.10.20 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第85回 仙人の妙薬! 潤いとアンチエイジングをかなえる「松の実」の効能

「松の実」を食べたことはありますか? 身近なところでは、パスタのジェノベーゼソース・月餅などの材料として使われていたりします。松の実は、中医学(気功・漢方薬・鍼灸・推拿・薬膳など)の専門家の間では「意識して摂取するといいよね」と思う、手軽に手に入る薬食のひとつです。

1.松の実は「不老長寿の仙人食」!?

本シリーズでは、山芋黒ゴマクルミ枸杞(クコ)白きくらげ黒豆桑の実など「アンチエイジングにもってこい!」な薬食を紹介してきました。今回は、アンチエイジングはもちろん、さまざまな効能をもつ「松の実(松子・海松子・松子仁)」についてお話しします!
 
私たちが食べている「松の実」は、「五葉松」であるマツ科マツ属のチョウセンゴヨウ(P. koraiensis)の種子の胚乳の部分。松ぼっくりの中にある種の殻をむいたものです。
 
松の実は、「仙人の食べもの」「不老長寿の仙人食」「仙人の妙薬」などと言われます。私が師事する気功師(中医師)の先生も、普段から松の実などのナッツ類をよく召し上がるそうですし、古来より山の修行者達が食べるものでもあります。
 
実際、松の実はビタミン・ミネラル・たんぱく質・良質なオイル(不飽和脂肪酸)を豊富に含み、小さな子どもからお年寄りまで養生食として適しています。個人的な感覚ではありますが、同じナッツ類のクルミと比べて、松の実はあまりクセがなく食べやすいので、普段のお料理にも取り入れやすい薬食です。

中医学において松の実は、薬のような食べ物のような、はざま的な存在です。例えば、唐の時代の医者・道士(気功師)である孫思邈(そんしばく)が記した中医学書『千金要方(せんきんようほう)』では、益寿延命のための処方「琥珀散(こはくさん)」に松の実が配合されていると記載されています。
 
ちなみに孫思邈(そんしばく)は神がかった医術を施す名医で、中国では「医神(いしん)」として祀られるほどです。琥珀散には、松の実以外にも、過去に本コラムで紹介した「クコの実・黒胡麻」などの補腎作用のある生薬が含まれています。
 
歴代の医学の本に記載される益寿延命の方剤の多くは腎を補うものです。本コラムでも、“「いかに腎精(じんせい)を守るか」は中医の養生の核心であり、中医学の永遠のテーマといっても過言ではありません“と、補腎の重要さをお伝えしたことがありましたね。ちなみに、処方中で用いる「松子・海松子・松子仁(しょうし・かいしょうし・しょうしにん)」と、私たちがふだん食用としている「松の実(まつのみ)」は同じものです。

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2.松の実の性質は「温め&補う」

「中医飲食営養学」の教科書において、松の実は「果品類」に分類されており、四性(四気)は「温性」と書かれています。生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平」といいます。

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

松の実の四気五味(四性五味)は「温性、甘味」なので、次のような作用があることが分かります。

・温性=温かい性質。温める性質。
・甘味=補う作用 

 

そして松の実は、「肝のグループ」「肺のグループ」「大腸のグループ」に作用します。これを中医学では「肝・肺・大腸に帰経する」などと表現します。

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3.松の実の「潤いパワー」に注目!

松の実はそのオイリーさゆえ、とにかく潤す作用があります。「肺ファミリー(肺経と大腸経は表裏関係にあるため、同じファミリー)」に所属する【鼻・ノドの粘膜・気管支・肺・皮膚・大腸】や、肝腎と関係の深い【髪の毛】などの乾燥による症状に、松の実はその潤い効果を発揮します。
 
松の実の作用は、おおまかに次の3つが挙げられます。具体的な例を見ていきましょう。

(1) 呼吸器系を潤して乾燥による咳を改善:潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)作用
(2) 腸を潤して便を出す:潤腸通便(じゅんちょう・つうべん)作用
(3) アンチエイジング・髪や肌を潤す:補腎養血(ほじん・ようけつ)・沢膚(たくふ)作用

 

(1) 呼吸器系を潤して乾燥による咳を改善:
松の実の「潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)作用」

松の実の「肺(はい)」を潤す作用は、肺グループの潤い不足(=肺燥[はいそう]といいます)が原因の、いわゆる「から咳」に効果があります。反対に、痰や鼻汁が多く出るなどの「湿痰(しつたん)」タイプの方は、咳の有無に関わらず向かないので気をつけましょう。

肺燥とともに虚熱や実熱の証候がある方が温性の松の実を摂るときは、冷やす薬食とあわせましょう。

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(2) 腸を潤して便を出す:
松の実の「潤腸通便(じゅんちょう・つうべん)作用」

松の実には、オレイン酸・リノール酸・ピノレン酸・ビタミンEなどの良質なオイル・脂溶性ビタミンが含まれています。松の実をはじめとした木の実や種子の薬食は、そのオイリーな成分が腸壁を潤し便の滑りを良くします。
 
したがって、潤い不足の体質・状況で、「腸壁が乾燥し、コロコロした便や硬い便に悩まされて便秘がち」という状態に有効です。その反対の「便がゆるい人」は松の実の食べ過ぎに注意しましょう。

 

(3) アンチエイジング効果・髪や肌を潤す:
松の実の「補腎養血(ほじん・ようけつ)」作用・「沢膚(たくふ)」作用

また、すべてではありませんが、ナッツ類をはじめ「タネ系(あるいはタネが含まれている系)」の薬食には補腎(ほじん)作用を持つものが多く、補腎処方に活用されます。特に、種が沢山密集しているタイプに、補腎パワーがあるイメージです。

命のおおもとである精子や卵子が腎精そのものであるように、植物のタネもこれから生まれ出てくる命のおおもとであり、命の成長を支える栄養が詰まっているものです。そのため、タネも腎精そのものといえます。

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タネ系の薬食は、例えば、ゴマ枸杞(クコ)桑の実(マルベリー)クルミ(胡桃肉)カシューナッツ・黒豆・蓮の実・けしの実・栗・女貞子(じょていし:ネズミモチの実)・車前子(しゃぜんし)・菟絲子(としし)、覆盆子(ふくぼんし)、五味子(ごみし)・沙苑子(しゃえんし)・益智仁・ブドウ・刺梨薔薇(トゲナシバラ)の果実などがあげられます。
 
タネ系の代表処方として有名なのは、「五子衍宗丸(ごしえんそうがん)」でしょう。タネ系の生薬5種類から構成され、腎の働きを補って腎の精を補う「補腎益精(ほじん・えきせい)」作用があるため、腎虚による腰痛・遺精早泄(遺精・早漏)・尿後余瀝(排尿後に尿がポタポタ漏れる)・陽痿不育(ようい:インポテンツ、男性不妊のことを中医学では不育という)などに用いられます。
 
このほか、松の実には、血(けつ)を補う「補血(ほけつ)作用」や、肌・髪を潤してツヤを与える「沢膚(たくふ)作用」や「美髪(びはつ)作用」があります。健康だけでなく美容にも最適です!

オイリーで潤いを補う性質があるため、逆に余分な水のダブつきのある「湿邪(しつじゃ)」タイプは気をつけましょう。また、松の実はオイリーな分カロリーもありますから、極端な食べ過ぎは注意しましょう。特にもともと胃腸が弱くてもたれやすい人は、もたれないように気をつけしましょう。これらの注意点は松の実に限ったことではなく、他のナッツ類と同じです。

4.松の実の効能は? 中医学の古典書籍をもとに解説

李時珍(りじちん)が編集した中国明代の代表的な本草書である≪本草綱目≫には、
松の実(海松子)について以下のように書かれています。()は、筆者の意訳です。

・主治:骨節風、頭眩、去死肌、変白、散水気、潤五臓、不飢。 (主に、骨節風・頭暈を治す。死肌を去り、白髪を変じ、水気を散じ、五臓を潤し、飢えない)
 
・逐風痹寒気、虚羸少気、補不足、潤皮膚、肥五臓。(風寒邪による関節痛・しびれ・痛みをとる。気力体力が弱って痩せてしまった時にその不足を補う。肌を潤し、五臓を滋養する)
 
・主諸風、温腸胃。久服、軽身延年不老。(諸風を主る。腸と胃を温める。長く服用すれば、身体が軽くなり、長生きして、老化を予防する)

 

古典書籍でも、松の実の潤す効果・髪や肌への効果・抵抗力や精力をつける効果・アンチエイジング効果について記載されていることが確認できます。

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5.松の実の食べ方・簡単レシピ

松の実は日本のスーパーの中華食材コーナー・豆の専門店・中国系スーパー・漢方薬局などで簡単に手に入ります。お値段はお高めですが、松ぼっくりのカサからひとつひとつタネを取って殻をむくのは大変手間がかかること、また大きな松ぼっくりから少量しかとれないことを考えると、うなずける価格です。

松の実は味にクセがないので、スイーツなどの甘い系にも、おかずなどのしょっぱい系にも、色々なお料理にマッチします。もちろん、そのままポリポリ食べてもOKです。メーカーによっては加熱するように記載されているものもあるようですから、その場合は加熱してください。
 
松の実の油分は変質しやすいので、密閉して冷蔵庫・冷凍庫で保存して、なるべく早めに食べきることをおすすめします。油が酸化したような変な匂いになった松の実は古くなっているので避けましょう。
 
ここからは松の実をよりおいしく、気軽に摂れる、簡単な方法(レシピ)を紹介します。

 

5-1.作り置くと便利! 「松の実の乾煎り」の作り方

松の実は軽く焼き色がつくまで乾煎りすると、香りがよくなっておいしくなります。
 
【方法1】 松の実を油をひかずにフライパンで乾煎りします。焦げないように揺らしながら弱火で炒り、松の実がほんのりキツネ色になったら火を止めて、予熱で焦げないうちにお皿やバットに移せば出来上がりです(私はこの方法で作っています)。
 
【方法2】 トースターに、アルミホイルかクッキングシートをひいて、松の実が重ならないように置いて焼きます。焦げないように気をつけ、途中で一度ひっくり返して、まんべんなくキツネ色になったらOK。あとは【方法1】と同じです。
 
松の実の乾煎りはいろいろな料理のトッピングに使えるので、作り置きしておくのもひとつです。粗熱が取れてから空き瓶などに入れて冷蔵保存しましょう。変質しないうちに、数日以内に使い切るようにしてくださいね(冷凍庫に保存するとすこし長めにもちます)。

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5-2.「松の実の乾煎り」のおいしい使い方

先で作った松の実の乾煎りは、次のような使い方ができます。

①スープやサラダなどにトッピングする
いつものスープやサラダに散らしていただきます。漢方の本場中国では、お粥やスープによく入れます。

②炒め物やピクルスやお漬物に
いつも通りに炒め物やピクルスやお漬物をつくって松の実の乾煎りを加えるだけです。松の実にクセがないので、マッチしますし、食感が加わって程よいアクセントになります。

③ドレッシングやタレとして
ドレッシングやタレに乾煎りした松の実を加えるだけです。松の実はそのまま入れてもいいですし、ミキサーやすり鉢でペースト状にしても美味しいです。

④クッキーやホットケーキに
クッキー・ホットケーキ・スコーン・パウンドケーキなどのお菓子のいつも通りのレシピの生地の中に、乾煎りした松の実を混ぜ込むだけです。松の実はその形のまま入れてもいいですし、刻んでから入れてもいいでしょう。第80回でご紹介した、「クルミ・黒豆きなこ・黒胡麻の補腎クッキー」にプラスするのもおすすめです。作るのがおっくうな時は、松の実入りの月餅を買いましょう!

⑤滋養たっぷりの「アンチエイジングふりかけ」を自作!
松の実をはじめ、自宅でそろえられる材料(かつお節・白胡麻・黒きくらげ・椎茸・松の実・昆布・醤油・蜂蜜など)を使って、ふりかけを自作・常備するのも良いですね。おうちご飯のお供のほか、お弁当やおにぎりの具材としても便利です。

 

松の実の「抗老防衰(こうろうぼうすい)作用」=「アンチエイジング作用」を高めるためには、同じくアンチエイジング作用があるとされる、、ゴマ枸杞(クコ)桑の実(マルベリー)クルミ(胡桃肉)黒豆・蓮の実・白きくらげ・紫河車(プラセンタ)山薬(やまいも)などとあわせて摂るとより効果的です(何種類でも)。

そのほか、抗老防衰する食材については、ほかのアンチエイジング記事(以下)をご参考ください。

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年
・国立北京中医薬大学継続教育日本分校(著)『中国高等中医院校通信教育教材《中医養生学》第二分冊 国立北京中医薬大学継続教育日本分校用テキスト』
・日本三晶製薬株式会社(著)『免疫活性作用「五葉の松の種子抽出成分」』
[http://www.matsu-kichi.com/spn.html]
・『「健康365」2020年7月号』 エイチアンドアイ 2020年

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、 医学気功整体師 、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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