”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2024.03.07 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

 第100回 「蜂蜜(ホウミツ・ハチミツ)」の効能 胃腸虚弱・ノドの乾燥・コロコロ便秘に

蜂蜜はただの甘味料かと思いきや、漢方薬でもあります。砂糖よりも滋養があり、古くから仙人の養生食でもありました。今回は、中医学的な「蜂蜜(ホウミツ・ハチミツ)」の効能や使われ方を紹介しましょう。

1.薬膳にも頻繁に登場する、蜂蜜のはたらき

蜂蜜は、薬でも食べ物でもある「はざま的存在の中薬」のひとつです。おいしい・効能が強め・入手しやすいため、薬膳にも頻繁に登場します。クセがある蜂蜜もありますが、三杯酢などは砂糖より蜂蜜で作った方がおいしかったりしますし、お菓子作りにも重宝します。
 
中医学では、「ハチミツ」ではなくて「ホウミツ」と呼ぶらしいですが、私はハチミツと呼んでいます。あくまでも個人的な感覚ですが、漢方薬局の人もハチミツ呼びの人が多いような気がします。

中医学において、蜂蜜は「補気薬(ほきやく)」に分類されます
 
補気薬とは補薬(ほやく=補う系の薬物)のひとつで、気を補う薬物のことです。「甘味」の本質は、体内のあらゆるものを「止めること」「滞らせること」とイメージしてください。
 
止めてそこに留まる、だから、補われます。留まって補うという利点がある一方で、留まってよどませるという不利益もあります。我々中医学の専門家が「甘いものは不要な『湿』の滞り(湿邪)を生むから注意するように」とお話しするのはそのためです。
 
第98回で話した「生姜」が持つ「辛味」は、辛味が体内を走り抜けることで「通す」作用・「巡らせる」作用・「発散する」作用を発揮しますが、「甘味」はその真逆です。

 
🔽 生姜の効能やレシピを紹介した記事はこちら

 

生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。蜂蜜は「平」です。

 

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

生薬や食べ物の「四気(四性)」

蜂蜜の四気五味(四性五味)は「平性、甘味」なので、次のような作用があることがわかります。

 

● 平性=温めも冷ましもしない性質。そのため、寒熱という観点では体質を選ばない。
● 甘味=「補う」「止める」「よどませる」のイメージ。

 

また、蜂蜜は「脾・肺・大腸のグループ」に作用し、これを中医学では「脾経・肺経・大腸経に作用する(帰経する)」と表現します。

2 蜂蜜はどんな時に用いられるのか(使用例)

蜂蜜の代表的な効能は、「補中緩急(ほちゅう・かんきゅう)」「潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)」「潤腸通便(じゅんちょう・つうべん)」などです。具体的な使用例を見ていきましょう!

 

(1) おなかの働きを助け、痛みを和らげる作用:補中緩急
(2) ノドを潤し咳を止める作用:潤肺止咳
(3) 腸壁を潤し乾燥による便秘を改善する作用:潤腸通便
(4) 毒性をもつ薬物の解毒・薬性を緩和する作用:解毒・緩和薬性
(5) “蜜炙”により、似た効能を持つ薬物の効果を増強する作用:効能増強
(6) 風味つけや賦形剤としての働き

 

(1) おなかの働きを助け、痛みを和らげる作用:補中緩急(ほちゅう・かんきゅう)

「補中」の「中」とは、人体をざっくり上・中・下に分けたときの「中」で、おなかあたりを指します。したがって、補中とはおなかを補う(=補益する)ことを意味します。
 
中医学でよく使う用語に、上焦(じょうしょう)・中焦(ちゅうしょう)・下焦(げしょう)があり、3つ合わせて「三焦(さんしょう)」です。

 

<三焦>
上焦:横隔膜から上。胸から上あたりを「上」とする。
中焦:おなかあたり。横隔膜からおへそまでを「中」とする。
下焦:おへそから下を「下」とする。

 

「緩急」とは、「急(痙攣・収縮・緊張など)」を「緩める」ことを意味し、「緩急止痛=急を緩めて痛みを止める」の4文字で表現されることが多い用語です。
 
蜂蜜にはこの急激な痛みを緩める作用があり、こむらがえりなど骨格筋の筋痙攣や、胃腸の痛みとして現れる内臓の平滑筋の痙攣などが含まれます。
 
蜂蜜は、脾胃虚弱(≒消化器系が弱い)のため食欲がない・疲れやすい・おなかが痛む…などの症状に用いられ、おなかが弱い体質の人の消化機能を助ける作用があります。また、おなかの働きが低下しているために引き起こされるおなかの痛みを和らげる作用があります。

 

(2) ノドを潤し咳を止める作用:潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)

中医学でいう肺(はい)は、西洋医学でいう肺とは異なります。中医学の肺は、五臓六腑(ごぞうろっぷ)の内のひとつです。
 
からだ全体にふかーく染み渡る感じを「五臓六腑に染み渡る」と表現したりしますよね。五臓六腑は言うなればからだ全体を意味し、からだを以下のように内訳しています。

 

五臓
 ● 肝(かん)
 ● 心(しん)
 ● 脾(ひ)
 ● 肺(はい)
 ● 腎(じん)
六腑
 ● 胆(たん)
 ● 小腸(しょうちょう)
 ● 胃(い)
 ● 大腸(だいちょう)
 ● 膀胱(ぼうこう)
 ● 三焦(さんしょう)

 

五臓六腑はなんと! 解剖学的な分類で名付けられたわけではありません。
 
中国は儒教的倫理観が色濃く、親からいただいたからだをナイフで切り刻むことはできないという事情がありました。それゆえ、今まさに生命活動を営み内部がうごめいている人体を外側から観察し、どのような仕組みになっているのか、内部と外界の繋がりはどのようになっているのかを洞察していました。五臓六腑はその概念を表したものです。
 
なぜ西洋医学と中医学で、名前は似ているのに違うものを指すのか? それには、日本の医学が歩んだ道のりが関係しています。
 
江戸時代の日本に伝わったオランダ語の医学書「ターヘル・アナトミア(解体新書)」には、詳細な人体の解剖学図が書かれていましたが、翻訳しようにも対応できる日本語がありませんでした。そこで杉田玄白らは、中医学から五臓六腑などの部位名を拝借し、翻訳したわけです。これが、混乱を招く事態を引き起こしています。
 
中医学の五臓六腑は概念的な名称ですから、例えば「中医学の“肝”は肝臓のこと?」と質問されると少し困ります。西洋医学でいう肝臓と似ている生理機能もありますが、中医学の肝にはそれ以外の生理機能もかなりあるからです。
 
西洋医学では「肝臓は沈黙の臓器」などと呼ばれますが、中医学の肝はちょっと不調があるとあっという間に全身そこらじゅうに症状が現れるので「肝は最もうるさく主張する臓器」と言えます。このことからも、生理・病理に関する理解が異なるとわかりますよね。

蜂蜜の話に戻します。「潤肺止咳(じゅんぱいしがい)」の肺も、西洋医学で指す肺とは異なります。西洋医学の肺も含めて、中医学では呼吸に関する部位、空気の触れる部分・空気が出入りする箇所すべてを含みます。たとえば、気管支・ノド・鼻・粘膜・皮膚なども、中医学では肺です。ひとつの臓器ではなく、ひとまとまりのグループというイメージです。
 
「潤肺」とは肺グループを潤すこと、「止咳」は咳を止める・鎮めるという意味ですから、ここでは主に気管支への効能を言っているのだとわかります。(その他の肺グループや、肺と表裏関係にある大腸も、おそらく潤すんだろうな…と即座に想像をめぐらせるまでが中医学的思考のワンセットです)
 
蜂蜜はその潤肺止咳作用により、ノドの乾燥感を除いたり、乾燥からくる咳(空咳)を改善したりします。長期間続くような消耗性の空咳にも合っているでしょう。解毒したり、傷や火傷に外用したりもするので、ノドの痛みにもよいでしょう。

 

(3) 腸壁を潤し乾燥による便秘を改善する作用:潤腸通便(じゅんちょう・つうべん)

「潤腸」とは、「腸を潤す=腸壁を潤す」という意味です。腸壁が乾燥していると、便の滑りが悪くなって腸にとどまりがちになります。また、腸壁が乾燥している分、腸の内容物の水分も奪われがちです。腸に便が長く停滞すればするほど固くなって、便秘になったり、ウサギのウンチのようなコロコロした黒い便になったりします。
 
例えば、仕事中はお手洗いに行けないので水分を一切とらないというような、水分の摂取量が極端に少ない人の場合は、水分(温かいもの)をとるようにしたらコロコロが改善されるケースもあるでしょう。
 
しかし、漢方薬局にいらっしゃる方は、「水分摂取を心がけたけどダメだった」「食物繊維も摂ってみたんだけど…」と、すでにご自身で実験済みの方がほとんどです。コロコロ便は腸壁が乾燥しているのでしょうが、乾燥している根本的な原因はさまざまです。
 
中医学的に最も素直に考えると、陰虚(いんきょ)や血虚(けっきょ)による乾燥が想定されます。津液や血などの潤いが不足しているから、腸壁が乾燥しているというパターンです。いわゆる「体質的な深い渇き・清らかな潤いが不足している状態」なので、水を飲めば解決というものではなく、補陰(ほいん=陰を補う)・補血(ほけつ=血を補う)する必要があります。
 
補陰・補血すると、腸壁が潤って便も自然と柔らかくなり、腸壁の滑りがよくなり、少しずつ便通が整います。体質改善ですので時間はかかります。しつこい便秘の人は、自力で自然に便が出せるようになるまでは、良質な食物繊維などの健康食品を併用してコンスタントに排便する感覚のクセづけをしたり、かなり強い便秘の場合は下剤の助けを借りたりします。
 
そのほか、前述のパターンよりかなり少ないケースですが、潤いの不足とは真逆の「湿邪(しつじゃ)=水のだぶつき」があるせいで、結果として、腸が乾燥して便秘することもあります。
 
津液の行く手を湿邪が阻んで行き届かず、阻まれた部位が乾いてしまう状況です。つまり、水分の分布が悪くなっている状態であり、これを「水津不布(すいしんふぶ)」と言います。
 
水津不布は日常的に、とてもよくある状態です。ノドが渇いて水分をとっても胃にポチャポチャとたまるばかりで渇きは癒えず、ますます調子が悪くなる…ということを経験したことがある人もいるのではないでしょうか? これは、湿邪が体内にあるせいでノドに潤いが分配されず、ニセモノのノドの渇きが感じられている状態です。ここで、水分を飲むとますます水がダブついて調子が悪くなります。
 
そのほか慢性的な皮膚病、例えばアトピー性皮膚炎で、じゅくじゅく浸出液が出るのに、皮膚は乾燥して割れてしまって、その皮膚がなかなかくっつかないケースも臨床でよく見かけます。これも、水津不布が関係しています。

便秘に話を戻しますが、コロコロタイプの便秘は腸壁の乾燥そのものが原因とも限りません。精神的ストレスや緊張のせいで肝気の巡りが悪くなり(肝気鬱結:かんきうっけつ)、そのせいで腸管の平滑筋の運動が低下し(肝脾不和:かんぴふわ)、便が移動しないために腸に水分がとられてコロコロしてしまう人もいます。
 
そのほかに、消化器系の働きが弱い(脾気虚:ひききょ)ために、便をうまく形づくることができず、さらに便を押し出せないせいで便秘になることもあります。このタイプの便は硬いのは出始めの尖端部分だけで、途中から軟便~下痢になるケースが多いように思います。ひとだまみたいな形なので、私は「ひとだまウンチ」と呼んでいます。
 
コロコロうさぎ便タイプの人は、食事・睡眠・運動を見直すのは大前提ですが、水分摂取量が圧倒的に少ない自覚があるのなら、温かい水分をとるようにするとよいでしょう(前述の湿邪タイプは水分摂取を増やすと、湿邪が悪化するので要注意)。
 
「冷たい飲食物をとって、わざと下痢して便秘を解消させています…」と告白してくださる方が結構いらっしゃいますが、将来、ほんとうに自分自身の首を絞めることになりますので、即刻やめることをおすすめします。
 
また、「植物性の便秘薬だから安心」という宣伝文句に惑わされて、安易に通下作用をもつ漢方薬やハーブティーに手を出さないようにしてください。負荷をかけて無理矢理に出す便は、本来なら出てはいけない「気」や「陰(潤い)」も一緒に漏れ出てしまいます。漫然と下剤を使用すると、腸壁が硬くなってますます機能が低下します。下剤に頼る前に、勇気を出して漢方薬局の門をぜひ叩いて下さいね。
 
蜂蜜は、「潤腸=腸を潤す」作用と、「補益=補う」作用があること、そして、脾・肺・大腸に帰経することから、おおざっぱに言えば、「陰虚タイプ(血虚タイプ)」「脾気虚タイプ」のコロコロ便秘によいでしょう。つまり、体液の乾燥や虚弱タイプの便秘に合っています。

 

(4) 毒性をもつ薬物の解毒・薬性を緩和する作用:解毒・緩和薬性

蜂蜜は、毒性をもつ薬物の「解毒」を目的に用いられます。例えば、「附子(ぶし)」や「烏頭(うず)」などの「トリカブト」の解毒に使われます。また、他の薬の薬性を和らげ、刺激性や味を矯正する「緩和薬性(かんわやくせい)=薬性を緩和する(中国語なので、動詞+目的語の順番)」作用もあります。
 
この蜂蜜の作用は、甘草ととてもよく似ています。日本の漢方薬のエキス顆粒剤にも、「カンゾウ(甘草)」が含まれていることをご存知の方も多いかと思いますが、この甘草も補気薬で、蜂蜜と同じく「解毒」「緩和薬性」「補益(気や潤いを補う)」作用を持ちます。

 

(5) “蜜炙(みっしゃ)”により、似た効能を持つ薬物の効果を増強する作用:効能増強

「甘草(かんそう)」や「黄耆(おうぎ)」などの一部の補気薬は、蜂蜜で炒める=「蜜炙(みっしゃ)する」ことで作用を増強させます。

 

(6) 風味つけや賦形剤としての働き

蜂蜜の甘さや香りは漢方薬の風味つけに活用されます。また、蜂蜜の粘性は賦形剤としてとても便利なため、丸剤や膏剤の賦形剤に利用されます。風味つけや賦形剤として使う際には、(1)~(5)の効能も求めて配合しています。
 
例えば、補薬である「八味地黄丸」や「杞菊地黄丸」などの丸剤は、生薬の粉末と蜂蜜を混ぜ合わせて練り、球形に成型するのが伝統的な製法です。

 

はちみつの効能

 

 

3.蜂蜜の効能を、中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている蜂蜜の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

蜂蜜(ハチミツ・ホウミツ)

【分類】
補気薬

【別名】
白蜜(『中薬学』上海科学技術出版社)

【基原】
ミツバチ科の中華蜜蜂 Apis cerana Fabricius またはイタリア蜜蜂 A. melijera L. によって生成される糖物質。中国の全国各地で生産されており、主に湖北省、四川省、雲南省、河南省、江西省、広東省、江蘇省、浙江省などで生産されている。生の蜂蜜には、水、ほこり、幼虫、ワックスの破片などの不純物が含まれていることが多いため、処理する必要がある。通常、水で希釈し、煮沸し、濾過して不純物を除去し、その後、濃縮する。

【性味】
甘、平

【帰経】
脾・肺・大腸

【効能】
補中緩急(ほちゅう・かんきゅう)、潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)、潤腸通便(じゅんちょう・つうべん)

【応用】
1. 脾胃虚弱(≒消化吸収力が弱い)・倦怠感・食事量が少ない・胃腸の痛みに用いられる。蜂蜜は、補中(ほちゅう:おなかの働きを補う)・緩急止痛(かんきゅうしつう:急激な痛みを和らげる)の効能がある。例えば、大烏頭煎(だいうずせん)のように、烏頭(トリカブト)の煎じ液と一緒に蜂蜜を配合し、濃縮して数回に分けて服用することで、ヘルニア、腹痛、手足の冷えなどに効果を発揮する。おなかの働きを補い、薬性を緩和する作用があるため、風味づけや粘度だけでなく、滋養強壮と薬性緩和の作用を目的として、滋補する丸剤・膏剤の賦形剤としてよく使用される。このほか、甘草(かんぞう)や黄耆(おうぎ)などの特定の補気薬は、蜂蜜と一緒に炒めた(蜜炙した)後に服用すると補益効果を高めることができる。

2. 肺虚による慢性咳嗽、肺の乾燥による空咳、喉の乾燥などの症状に用いられる。蜂蜜は、肺に潤いを与え、咳を和らげ、かつ補益作用がある。蜂蜜を単独で使用することも、配合して方剤として使用することもできる。たとえば、瓊玉膏(けいぎょくこう)には、蜂蜜と生地黄(しょうじおう)、茯苓(ぶくりょう)、高麗人参(こうらいにんじん)が配合されており、消耗性干咳、喀血などの症状を治療することができる。肺を潤して咳を鎮める作用があるため、款冬花(かんとうか)・紫苑(しおん)・百部(びゃくぶ)・枇杷葉(びわよう)などの化痰止咳薬を使用する際に、蜂蜜で蜜炙して効果を増強する。

3. 腸燥便秘(腸の乾燥による便秘)に用いる。蜂蜜は潤腸通便の作用があり、かつ補益するため、体力低下や体液の乾燥による便秘に特に適する。蜂蜜は30~60gを単独で服用するか、傷寒論の蜜煎導法のように製剤して使用する。また、慢性便秘に、当帰(とうき)・黒胡麻などの養血潤腸薬を配合して治療する。

このほか、蜂蜜には解毒作用がある。傷や火傷に外用したり、烏頭や附子の解毒に内服することもできる。

【用量】
15~30g。冲服あるいは丸剤・膏剤に用いる。外用は、患部に適量を塗布。

【使用上の注意】
湿邪を増やし満腹感を与え、腸を滑らかにする作用があるため、湿熱、痰の滞り、胸悶不寛(胸がすっきりしない)、軟便、下痢のある人は服用しない。

 
※【分類】【処方用名】【性味】【帰経】【効能と応用】【参考】【用量】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用(【臨床使用の要点】は省略しています)

このように、蜂蜜は、甘くて(=補益する、補う)、平性(=温めも冷やしもしない)なので、比較的に体質を選ばずに使いやすい補薬です。また、脾・肺・大腸に帰経してこれらを補います。「補気薬」なので補気するのはもちろんですが、「潤肺」や「潤腸」といった潤いを補う効能もあります。
 
蜂蜜は、脾(≒消化器系)が弱い人の脾の働きを補い、痛みを和らげ、消化器系の働きを助けます。さらに、肺・大腸経のグループの働きを補って潤いを与えるので、ノドの乾燥・空咳・乾燥性の便秘の解消にもってこいです。
 
そのほか、他薬の薬性の緩和や矯味(味を矯正し服用しやすくする)にも役立つ、縁の下の力持ち的な心強い存在でもあります。

4.蜂蜜の使用上の注意

ただし、補ってくれるからと言って、美味しいからと言って(笑)、むやみやたらに蜂蜜を使いまくっていいわけではありません。
 
【使用上の注意】に、

 

「湿邪を増やし、満腹感を与え、腸を滑らかにする作用があるため、湿熱、痰の滞り、胸悶不寛(胸がすっきりしない)、軟便、下痢のある人には使用しない」

 

とあるように、扱い方にほんのすこし注意も必要です。
 
蜂蜜は糖分(果糖とブドウ糖など)が主成分ですから、当然ながら糖尿の心配がある人も気をつける必要があります。それから、1歳未満の赤ちゃんは、乳児ボツリヌス症にかかる恐れがあるため避けましょう。

5.意外と便利な蜂蜜の使用法

思えば、筆者の祖父母宅には、いつも大瓶に入った蜂蜜がありました。植物や食品が専門である祖父に「蜂蜜はからだにいいから食べなさい」と言われたことを思い出します。私は、若かりし頃に蜂蜜のよさに目覚めてから、家に常備するようになりました。
 
酢の物に、炒め物に、煮物に、お菓子にと、料理に蜂蜜を使うとやけにおいしい!という嬉しいビックリ体験を繰り返したことが原因の気もしますし、小さな頃に西日に照らされてキラキラ光る蜂蜜の大瓶をボーっと眺めていたからのような気もします。
 
鍋パーティーでおつゆに蜂蜜を加えたら友人にビックリされたり、職場で「酢の物を作る時は蜂蜜を使います」と言ったら「えぇー蜂蜜臭くてやだわぁ」と引かれたり…、そのたびにショボンとした20代前半だったことを今思い出しましたが、今日ではいろんなレシピに蜂蜜が登場しますし、コーヒー屋さんにも蜂蜜が置いてあります!

話は変わりますが、糖尿の心配がない方で、寝たきりや食欲がない高齢者の食養生にも、蜂蜜はとてもおすすめです。食事量が少ないため便秘がちで、食欲がなくて栄養が摂取しづらく、からだが弱って咳が出やすい…といった状況に陥るご高齢者は多いと思います。
 
これは私の祖母の経験談です。いろいろな栄養補助食品を活用しつつ、毎日、ティースプーン1~2杯分くらいの蜂蜜と黒豆きな粉と豆乳を混ぜて練ったものをお口に入れていました。細かな粒々が嫌でなければ、すり黒胡麻を混ぜるとなおよいです。補腎薬を飲ませつつこんな薬膳ばかりしていたら、80代後半から黒髪が増えたりして、嬉しくて笑えました。

 

補腎と髪の関係は、以下の記事も参考にしてみてくださいね。

 

空咳がひどい時は、白きくらげをトロトロに煮て蜂蜜をかけて食べたり、梨の時期には梨のすりおろしを茶こしで濾したフレッシュジュースに蜂蜜を混ぜて飲んだりするとよいでしょう。甘すぎると今度は痰が出たりもたれたりするので、消食作用のある「焦三仙(しょうさんせん)」や「山査子(さんざし)のおやつ」も合わせて食べます。どれも薬膳で、子供から高齢者までどの世代にもおすすめです。

 
🔽 白きくらげの効能やレシピを紹介した記事はこちら

 

さて、身近な存在である蜂蜜の、意外な底力を感じていただけたでしょうか?
 
炒め物にも、煮物にも、酢の物にも、お菓子作りにも、とても便利な蜂蜜。いろいろなお花の蜂蜜があって、香りも味も色もさまざまです。
 
私は海外に行った際にも、日本では見かけない珍しい蜂蜜を見つけると、重いのについつい買ってしまいます(笑)。お試しあれ!

 
 
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪 (著)、小金井 信宏 (翻訳)『中薬の配合』 東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健 (編集) 『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年

 
 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/