”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2026.02.10 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

 第122回 「杜仲(トチュウ)」の効能 肝腎を補う!足腰の弱りや痛み、冷え・頻尿、習慣性流産の安胎薬に

杜仲(トチュウ)と言うと、今から20年ほど前に日本でヒットした杜仲茶(杜仲の葉)を思い浮かべる方が多いかもしれません。中薬としては樹皮の部位を用いるため、我々中医学をかじった者にとっては、杜仲と言えば樹皮のことを意味します。今回は、樹皮のほうの杜仲について、中医学的な効能をお話しします。

1. 杜仲(トチュウ)って、なにもの?

杜仲は、『中医臨床の中薬学』(東洋学術出版社)によると、
 
「トチュウ料 Eucommiaceae のトチュウ Eucommia ulmoides Oliv. の掛皮」
 
とあるように、樹皮を中薬(生薬)に用います。
 
杜仲の木は、樹齢20年で樹高が20メートルにも達する落葉高木で、雌花をつける株と雄花をつける株がある雌雄異株です。はるか昔には、色々な地域で、色々な杜仲が存在していましたが、現存するのは中国原産のたった1種類のみです。
 
トチュウ目トチュウ科を構成する唯一の種ということになり、1科1属1種という、非常に珍しい存在です。恐竜が絶滅した時代をも生き延び、果てしない年月を経てきた杜仲は、「生きた化石」とも呼ばれます。

 

三大名薬(人参・杜仲・鹿茸)のひとつ

杜仲は、人参(にんじん=朝鮮人参・高麗人参)鹿茸(ろくじょう)に並ぶ中国の「三大名薬」のうちのひとつです。16世紀末の薬物書『本草綱目』によると、杜仲という名は、杜仲という人物が樹皮を煎じて飲んだことで仙人の悟りを開いたという故事に由来するとあります。
 
中国最古の薬物書『神農本草経』においては、上品・中品・下品のうち「上品(じょうほん)」に分類されています。上品とは、無毒のため長期服用が可能で、元気を補い身体を軽くし、不老長寿の養生に適した中薬とされています。

 

不思議な糸状の繊維の正体

杜仲の樹皮は、特徴的な見た目と触り心地を持っています。こげ茶色の樹皮の切れ目から、銀白色の糸状の繊維がフワフワと出ており、触り心地もフワフワです。いつまでも触っていたくなる不思議な触感をしています。
 
この糸状ものはグッタペルカ(杜仲ゴム)と呼ばれるゴム質で、固まると樹脂状に変化します。杜仲はこのグッタペルカが多いほど、良品で効果が高いとされます。しかし、約30年前に比べると、残念ながら日本のどの生薬問屋さんの杜仲も、だいぶグッタペルカの量が減っているように思います。

 

杜仲の四気五味(四性五味)とは

中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。杜仲は「温性」です。

 

■生薬や食べ物の「四気(四性)」

生薬や食べ物の「四気(四性)」

 

杜仲の四気五味(四性五味)は「温性、甘味」なので、次のような作用があることがわかります。

 

・温性=温かい性質。温める作用を持つ。熱性ほど、温め方は強くないイメージ。
・甘味=補う作用。動きを止める(よどませる)。

 

また、杜仲は「肝・腎のグループ」に作用し、これを中医学では「肝経・腎経に作用する(帰経する)」と表現します。

 

杜仲の分類:陽を補う補陽薬

中薬学の書籍では、杜仲は、「補益薬(ほえきやく)」という大きな分類の中で、さらに「補陽薬(ほようやく)」に分類されます。
 
補益薬とは気・血・陰・陽・精などが不足した虚証(きょしょう)に対して、その不足を補う薬物を指し、さらに以下の4つに分類できます。たとえば、「補気薬を気虚証に用いる」とは、平たく言えば、気が不足している状態に、気を補う薬を用いるという意味です。

 

補益薬の4分類

・補気薬…気虚証に用いる
・補血薬…血虚証に用いる
・補陽薬…陽虚証に用いる
・補陰薬…陰虚証に用いる

 

杜仲が分類されている補陽薬は、陽虚(=陽の不足)を改善する薬物です。助陽薬(じょようやく)とも温陽薬(おんようやく)とも言います。

 

そもそも陽虚とは?

そもそも、陽虚とはどういう状態を言うのでしょうか。

 

陽虚とは

【気虚+顕著な冷え】
or/and
【気虚+顕著な水のダブつき】
 
つまり、気虚証の中でも、「冷え」と「水のダブつき」の程度が重い場合に、陽虚と呼び変えます。

 

気虚と陽虚との間には、はっきりした境界線はなく、グラデーションを持ちます。一人の人間でも季節やその時々の状況によって変化しうるものであり、当然その変化によって薬を調整する必要があります。
 
多くの補陽薬は、「甘」と「温」の性質を持つ甘温薬で、補真陽(ほしんよう)・温腎壮陽(おんじんそうよう)・強筋骨(きょうきんこつ)などの効能を備えていることが多いです。
 
また、一般的に、助陽薬は温燥性(おんそうせい)と言って、温めて乾燥させる性質を持つものが多いため、陰虚火旺( “陰虚”によって“熱”が生じ、その熱(火)が旺盛であること)に対しては、基本的には禁忌となります。

 

補陽薬はさまざまな陽虚に用いる

補陽薬は、腎陽虚(じんようきょ)などに適しており、心陽虚(しんようきょ)・脾陽虚(ひようきょ)にも用います。
 
難しい言葉が並びますが、ざっくり言うと「いろいろな箇所の陽虚に使う」といった意味です。

 

■腎の陽が不足している…腎陽虚(じんようきょ)

腎陽虚による、元気がない・寒がり・冷え性・低体温・手足の冷え・勃起障害・不妊(男性も女性も)・遺精(精液漏れ)・遺尿(尿漏れ)・頻尿・舌淡・脈沈無力(脈が沈んで触れにくく弱々しい)などの症候があらわれます。

 

■脾の陽が不足している…脾陽虚(ひようきょ)

脾陽虚による、食欲不振・おなかの冷え・泥状~水様便などの症候があらわれます。

 

■心の陽が不足している…心陽虚(しんようきょ)

心陽虚による、脈の乱れ・脈の弱り・胸痛・自汗などの症候があらわれます。
 
たとえば以上のような陽虚による症候があらわれた際に、補陽薬を用います。

 

杜仲 肝と腎を補う ・足腰の弱りや痛みに ・冷え、頻尿に ・習慣性流産に

2. 杜仲はどんな時に用いられるのか(使用例)

杜仲は、肝と腎を補う「補肝腎(ほかんじん)」が効きの中心です。おおまかに、以下の3つの肝腎不足(かんじんふそく)に用いられます。具体的な例を見ていきましょう!

 

(1)肝腎不足による足腰の弱りや痛みに:「補肝腎・強筋骨」
(2)腎陽虚による冷え・頻尿・勃起不全に:「補肝腎」
(3)肝腎不足による不正出血や習慣性流産に:「固経安胎」

 

(1)肝腎不足による足腰の弱りや痛みに:「補肝腎・強筋骨」

杜仲は、肝と腎を補って(補益肝腎:ほえき・かんじん)、筋骨を強く(強筋骨:きょう・きんこつ)します。
 
したがって、杜仲は、肝腎不足による腰膝酸痛(ようしつさんつう)、あるいは酸軟無力(さんなんむりょく)の証に用います。
 
腰膝は、日本でよく用いる「足腰(あしこし)」を指す表現です。
 
・肝腎不足…肝と腎のパワーが弱って不足している
・腰膝酸痛…腰と膝が、だるくて(酸)、痛い
・酸軟無力…だるくて力が入らない
 
つまり、肝と腎の弱りによる、腰や膝のだるさ・腰や膝の痛み・腰や膝に力が入らない…といった状態に、杜仲を用います。杜仲は補益肝腎・強筋骨の作用を持つため、足腰のこれらの状態の要薬です。
 
「強筋骨」という用語は「補肝腎」と、ほぼ同義語のようなもので、根っこにある意味は同じです。というのも、肝が筋をつかさどり、腎が骨をつかさどるため、筋を強くするためには肝を補い、骨を強くするためには腎を補うからです。
 
補肝腎の生薬のうち、特に、筋骨の治療に使われるもの・筋骨を丈夫にするチカラを持つものには、「補肝腎」に「強筋骨」の言葉が書き足されるイメージかと思います。
 
また、腰は「腎の府」といって、腎と関係の深い部位です。腎の状態の良し悪しは、腰にも症状となってあらわれます。つまり、腰がだるい・痛い・力が入らない…といった症状は、「腎」に異常があるサインかもしれないね…といった感じです。
 
肝腎不足の腰や膝がだるく無力・腰痛に対して、多くは、杜仲とともに、破故紙(はこし、補骨脂)・胡桃肉・続断・狗脊などと配合して用います。
 
【方剤例】青娥丸・大防風湯・独活寄生湯・参茸補血丸など
 
このうち青娥丸を除いた3つは色々な日本のメーカーから製品化されており、日本でも入手できます。
 
大防風湯は附子を含むため、特に体質を選びますから注意が必要です。また、参茸補血丸は動物性生薬を含みます。参茸補血丸は方剤名がないので、商品名で表記しています。

 

(2)腎陽虚による頻尿や勃起不全に:「補肝腎(ほ・かんじん)」

杜仲は、肝と腎を温めながら補う「温補肝腎(おんほかんじん)」の効能を持ちます。
 
したがって、陽虚により冷え(寒)が生じた肝腎虚寒(かんじんきょかん)、陽萎(ようい:ED・勃起障害・勃起不全・インポテンツのこと)・頻尿などの症状を治療します。
 
杜仲とともに、山茱萸・菟絲子・破故紙などの温補固渋薬(おんほ・こじゅう・やく)と配合して用います。
 
【方剤例】十補丸

 

(3)肝腎不足による不正出血や習慣性流産に:「固経安胎(こけい・あんたい)」

肝腎虧虚(かんじんきしょ=肝腎不足のこと)は、胎児を支える母体の基盤・大元(胎元)が不安定で固まっておらず(不固)、流産しやすい状態(胎元不固・たいげんふこ)を引き起こします。
 
杜仲は補益肝腎することで安胎(あんたい)の効能を持ちます。安胎とは、流産を予防し、母体と胎児を安定させ、妊娠を継続させ、健康な出産へ導くことです。
 
たとえば、杜仲は、粉末にして単品で用いたり、大棗と丸薬にしたりして用います。
 
肝腎不足による崩湯(ほうろう:不正性器出血)・習慣堕胎(習慣性流産)・胎漏(たいろう:妊娠中の出血)・胎動不安(たいどうふあん:妊娠中に下腹部痛・腰がだるい・腹部下垂感・出血などがあって胎児が安定しない状態)などに用います。胎漏や胎動不安は、西洋医学でいう「切迫流産」のような状態です。
 
杜仲のほかにも安胎薬には色々な種類があり、体質によって必要に応じて使い分け、いくつかを組み合わせて用いることが多いでしょう。
 
たとえば、胎動不安や習慣堕胎(習慣性流産)には、杜仲に続断(ぞくだん)・山薬(さんやく)などを配合して治療します。
 
(1)~(3)のほか、肝陽上昇(かんよう・じょうしょう)による頭目眩暈に、白芍(びゃくしゃく)・石決明(せっけつめい)・夏枯草(かごそう)・黄芩(おうごん)などを配合して用います。

 

杜仲は炮製・修治すべし

杜仲は、炮製(ほうせい)したほうが補腎の効能が強くなります。
 
炮製とは、中薬の「効果を高める」「性質を変化させる」「毒性を減らす」などの目的で、薬物として用いる前に中薬の下処理をすることを指し、(日本では)「修治(しゅうち)」とも言います。
 
杜仲の場合は、糸状のフワフワが切れるくらいを目安にフライパンで乾煎りすると、「補腎(ほじん)」の効果が高まります。

3. 杜仲の効能を、中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている杜仲の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

杜仲(トチュウ)

【分類】
補益薬のうちの助陽薬

【処方用名】
社仲・厚社仲・綿杜仲・炙社仲・炒社仲・焦杜仲・杜仲炭。

【基原】
・トチュウ料 Eucommiaceae のトチュウEucommia ulmoides Oliv.の掛皮。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)

『中薬学』(上海科学技術出版社)

【性味】
甘、温。

【帰経】
肝・腎。

【効能】
補肝腎(ほ・かんじん)・強筋骨(きょう・きんこつ)・安胎(あんたい)

【応用】
1. 肝腎不足(かんじんふそく)による腰膝酸痛(ようしつさんつう)あるいは酸軟無力(さんなんむりょく)の証に用いる。杜仲は補益肝腎するため強筋骨することができるため、上述の病証の要薬である。多くは、破故紙(はこし)・胡桃肉(ことうにく)などと配合して用いる。
(処方例)青娥丸
 
また、肝腎虚寒・陽萎・尿頻などの証を治療する。杜仲は、温補肝腎の効能を有する。山茱萸(さんしゅゆ)・菟絲子(としし)・破故紙(はこし)などの温補固渋薬(おんほ・こじゅう・やく)と配合して用いる。
 
2. 胎動不安あるいは習慣堕胎(習慣性流産)に用いる。肝腎虧虚は胎元不固を引き起こすため、杜仲は補益肝腎することで安胎の効能を持つ。杜仲を粉末にして単品で用いたり、大棗と丸薬にする。
(処方例)杜仲丸
 
胎動不安には、杜仲に続断(ぞくだん)・山薬(さんやく)などを配合して、習慣堕胎(習慣性流産)を治療する。
(処方例)簡便単方
 
このほか、肝陽上昇による頭目眩暈に用いる。白芍・石決明・夏枯草・黄芩などを配合して用いる。

【参考】
炮製したほうが補腎の効能が強くなる。

【用量・用法】
・10~15g。炒して用いると生で用いるより効果が良い。…『中薬学』(上海科学技術出版社)
・9~15g、大量で30~60g、煎服。…『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)

【使用上の注意】
温補の品のため、陰虚火旺のものには慎用する。

 
※【分類】【処方用名】【基原】【参考】【用量・用法】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【基原】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量・用法】【使用上の注意】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

 

杜仲は、甘温で、温めつつ肝と腎を補い、筋骨を強め、胎元を固め、補肝腎・強筋骨・固経安胎の効能を持ちます。肝腎不足の腰膝酸痛に対する要薬であり、崩漏・胎漏・胎動不安にも適し、肝腎虚寒の陽萎・頻尿にも用いられます。また、杜仲は、炮製したほうが、これらの補腎の効能が強くなります。

 

4. 杜仲の注意点

『中薬学』(上海科学技術出版社)の【使用上の注意】に、
 
“温補するので、陰虚火旺には慎重に用いる。“
 
とあるように、使い方には注意が必要です。
 
温めて補う作用があるため、陰虚によって熱がこもっているタイプには、すこし注意が必要です。

5. 杜仲はどこで購入できる?

杜仲の葉は、お茶としてスーパーマーケット・ドラッグストアなど、あちこちで入手できますが、杜仲(樹皮)を含む製品は、漢方薬局以外では入手しづらいかもしれません。
 
杜仲を含む漢方製剤は他にも生薬を含みますので、上述の注意点のように、それなりに体質や状況を選びます。まずは中医学の専門家にご相談するのがおすすめです。

 
 
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・株式会社ウチダ和漢薬『生薬の玉手箱

 
 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/