
知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第124回 「玫瑰花(マイカイカ)」の効能 バラの香りでリラックス&血流改善、イライラ・憂鬱・生理痛・月経前症候群などに
玫瑰花はいわゆるバラの花のことで、個人的には良い香りランキングで上位の中薬です。ハーブティーにすると高貴な良い香りがして、うっとり癒されますよ。今回は、玫瑰花の中医学的な効能についてお話しします。
1. 高貴な香りのバラの花「玫瑰花」とは?
玫瑰花とは、バラ(バラ科のハマナス)の蕾のこと。見た目も可憐で、きれいなローズ色をしています。良質な玫瑰花は、うっとりするくらい、ほんとうに良い香りがします。
『中医臨床の中薬学』(東洋学術出版社)によると、玫瑰花は「バラ科 Rosaceae のマイカイ Rosa rugosa THUNB. var. plena REG. の花蕾」とあります。
玫瑰花の四気五味(四性五味)とは
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。玫瑰花は「温性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」

玫瑰花の四気五味(四性五味)は「温性、甘味・微苦味」なので、次のような作用があることがわかります。
・甘味=動きを止める→補う作用。(→よどみを生む、よどませる)
・苦味=「瀉」「降」「堅」「燥」のイメージ。「解毒する」「排出する」などの作用。熱や停滞した邪気、体内に停滞した不要なものを体外へ追い出す、など。
また、玫瑰花は「肝・脾のグループ」に作用し、これを中医学では「肝経・脾経に作用する(帰経する)」と表現します。
玫瑰花の分類: 理気薬(行気薬)
中薬学の書籍では、玫瑰花は「理気薬(行気薬)」に分類されます。気を理する、気を行かせるといった意味です。その多くは芳香性を持ち、温性で、味は辛味か苦味です。
理気薬(行気薬)には、
・気の在り方を整え(調理:調整・整理)
・気の流れをふさぐものを切り開いて通し(疏)
・気をのびやかに滞りなく巡らせ(暢)
・気を行かせる(行)、通す(通)、順番にスムーズに進ませる(順)
といった働きがあります。
【理気薬(行気薬)の働き】
調気健脾(ちょうき・けんひ):気を調節して、脾(≒消化・吸収系)を健やかにする。
行気止痛(こうき・しつう):気を巡らせて痛みを止める。
順気降逆(じゅんき・こうぎゃく):気を巡らせて上逆している気を降ろす。
疏肝解鬱(そかん・かいうつ):肝気を巡らせて、肝気鬱結を解く(とく・ほどく)。
破気散結(はき・さんけつ):気を巡らせ(破気:理気や行気より巡らせるパワーが強いイメージ)結んでしまったもの(かたまり)を散らしてなくす。
【理気薬(行気薬)が用いられる証】
気機不暢(きき・ふちょう)による気滞や気逆の証に用いられる。
気機不暢:気機(気の昇降出入:正常な気の流れのこと)がのびやかに滞りなく巡っていない状態。詳しくは後述。
気滞:気が滞っていること。よく、「悶(もん):スッキリしない」「脹(ちょう):脹った感じ」「痛:痛み」などの症状があらわれる。
気逆:気が上逆していること。よく、「嘔吐」「悪心(吐き気)」「咳」「呼吸困難」などの症状があらわれる。
気機不暢(※)とは…
気機(気の昇降出入)は、特に肺・肝・脾・胃といった臓腑と関わりが深く、これらの臓腑の調子が悪いと気機にも問題が起きます。理気薬(行気薬)は気の流れの異常を解消して、症状を改善していきます。
【気機不暢による症状の例】
■肝の気滞(肝の疏泄がうまくいかない:肝気鬱結[かんき・うっけつ])
いらいら・怒りっぽい・憂鬱・胸脇部が脹って苦しい・月経不順・月経前に胸が脹る…など
■脾胃の気滞(脾胃の気の昇降がうまくいかない:脾胃気滞[ひい・きたい])
腹満・腹痛・食欲不振・胃が脹る・胃痛・暖気・吞酸・悪心・嘔吐・下痢・テネスムス・おなら…など
■肺の気滞(肺の宣発・粛降がうまくいかない:肺気壅滞[はいき・ようたい])
呼吸困難・胸苦しい・咳…など
行気薬のなかでも、中薬によって、どの気滞を、どのように解消するのか、どの程度に通す力があるのか、それぞれに個性がありますので、適切な中薬を選択します。
また、いくつかの行気薬を併用したり、行気薬と共に他の分類の薬物を組み合わせたりして、症状や状況にフィットさせるように用います。
理気薬(行気薬)の使用上の注意
一般的に、理気薬(行気薬)は、辛温性で芳香性があって散らす作用を持つ「辛温香散(しんおんこうさん)」です。そのため、気を消耗して潤いを傷つけ乾燥させる性質「耗気傷陰(もうき・しょういん)」があります。したがって、陰虚や気虚には慎重に用いなければなりません。

2. 玫瑰花はどんな時に用いられるのか(使用例)
玫瑰花には、以下のような効能があります。
【玫瑰花の主な効能】
A. 疏肝解鬱(そかん・かいうつ)+止痛
肝気が鬱結している状況(肝気鬱結、略して肝鬱)に対して、肝の気の巡りをよくし、かたまってしまった気をほどいて、気の巡りを改善する。
その結果、肝鬱由来の脹りや痛みが緩和される。
B. 疏肝和胃(そかん・わい)+止痛
肝胃不和(かんい・ふわ)といって、多分に精神的ストレスなどが原因で、肝の気が滞ったせいで胃の不調があらわれたときに、疏肝和胃することで、肝気を巡らせて、胃の状態を平和・正常にする。
その結果、肝胃不和由来の胃痛や胃の脹りが緩和される。
C. 理気活血+止痛
気を巡らせると共に血流を改善する。気滞(気の滞り)と瘀血(血流が悪い)があるときに、理気活血すると、それらが解消される。
その結果、気滞・血瘀由来の痛みや脹りも緩和される。
上記のことから、玫瑰花は、主に以下の3パターンで用いられます。具体的な例を見ていきましょう!
(2)肝胃不和による胃の脹りや痛みなどに
(3)打撲捻挫など気滞血瘀の痛みに
(1)肝気鬱結と瘀血による脇腹・月経不順月経前の不調に
主に、効能A「疏肝解鬱+止痛」とC「理気活血+止痛」により、肝気鬱結と瘀血による脇腹・月経不順月経前の胸の脹りや痛み・生理不順・生理痛・イライラ・憂鬱の解消、精神的ストレス対策に用いることができます。
肝気鬱結すると、精神的にも肉体的にも全身に様々な症状があらわれます。詳しくは、以下の記事をご参照ください。
玫瑰花は、肝鬱由来の色々を解消する作用と、肝鬱によって血行まで悪くなった場合の血行改善作用があります。
脹りや痛みを、中医学では、あわせて「脹痛(ちょうつう)」と言います。「脹(ハリ・はった感じ)」なのか「痛(痛み)」なのかによって病機(びょうき:病の機序)が異なってくるので、我々中医学を学ぶ人たちは気にして問診します。そして、玫瑰花はその両方に用います。
例えば、一般的に、月経前の“胸の脹り”は気の滞りをあらわしますが、“胸が脹って痛い”となれば気血の滞りをあらわします。さらに、肝鬱気滞血瘀の症状が重くなると、月経前でなくても、普段から胸が痛くなるようになってきます。
つまり、無形である気のエリアの滞りであれば、症状は「脹」になりますが、気のエリアの滞りがより重くなって、血のエリアに滞りが及べば「痛」があらわれます。
玫瑰花は、気の滞りにも、血の滞りにも、両方に対応できます。
肝気の巡りを良くするのでメンタルの症状(イライラ・憂鬱・気分がくさくさする、など)にも良く、また、気血の巡りを良くするので脇腹や胸の脹りや痛み・生理痛などにも用いられます。
玫瑰花は疏肝理気・和血散瘀の効能を持つため(≒気と血の巡りをよくするため)、月経不調に対して、当帰・川芎・白芍・沢蘭などと用いて、調経(ちょうけい=月経を整える・調整するという意味)に活用されます。
(2)肝胃不和による胃の脹りや痛みなどに
効能A「疏肝解鬱+止痛」とB「疏肝和胃+止痛」にあるように、肝胃不和(多分に精神的ストレスによって胃が不調になる)による胃脘部の脹・痛・悶、ゲップ、食欲不振などに用います。
玫瑰花は行気解鬱・疏肝和胃・止痛する佛手・香附子・欝金・川棟子などと共に用いて、肝胃不和による胃の不調を治療します。
(3)打撲捻挫など気滞血瘀の痛みに
打撲捻挫などによる損傷・瘀痛(おつう:瘀血による痛みのこと)には、鶏血藤・延胡索・赤芍・当帰・川芎・沢蘭などと使用して治療します。
3. 玫瑰花の効能を、中医学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学の書籍で紹介されている玫瑰花の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。
【分類】
理気薬 『中薬学』(上海科学技術出版社)
行気薬 『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
【処方用名】
玫瑰花。
【基原】
バラ科 Rosaceae のマイカイ Rosa rugosa THUNB. var. plena REG. の花蕾。 『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
バラ科の植物である玫瑰 Rosa nugosa Thunb. の花蕾。主に江蘇省、江西省、福建省、山東省、四川省、河北省で生産される。4月から6月にかけて、蕾が開きかけの時期にまとめて収穫し、花茎と茎を取り除き、弱火で素早く乾燥させてから薬用とする。 『中薬学』(上海科学技術出版社)
【性味】
甘・微苦、温。
【帰経】
肝・脾。
【効能】
行気解鬱(こうき・かいうつ)・和血散瘀(わけつ・さんお)。
【応用】
1.肝胃不和による脇痛脘悶・胃脘脹痛などの証に用いる。玫瑰花は行気解鬱・疏肝和胃する。佛手・香附子・欝金などと共に用いる。
2.月経不調・経前乳房脹痛および損傷瘀痛などの証に用いる。玫瑰花は疏肝理気また和血散瘀の効能を持つ。調経においては、当帰・川芎・白芍・沢蘭などと用いる。損傷瘀痛においては、鶏血藤・延胡索・赤芍などと配合する。
【臨床使用の要点】
玫瑰花は甘苦で芳香があり、柔肝理脾して行気活血・硫肝止痛に働くので、肝胃不和の胃部や脇部の悶痛・脹満に適する。また。理気活血の効能により、月経不順・損傷瘀痛・心校痛などにも有効である。
【用量・用法】
3~6g 『中薬学』(上海科学技術出版社)
3〜9g 煎服。 『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
※【分類】【処方用名】【基原】【臨床使用の要点】【用量・用法】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【分類】【基原】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量・用法】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの
玫瑰花は気血の巡りを良くし、特に、肝と脾胃にアプローチします。婦人科系の気血の巡りが悪いトラブル——例えば、月経前の胸の脹り・痛みや、気血の滞りによる月経痛などにハーブティーとして活用できます。
また、女性・月経に関係なく、気分がスッキリしない・憂鬱・イライラする・気分がくさくさするなどのメンタル症状をスッキリさせるのにも良いでしょう。多分に精神的な負荷による胃の脹り・痛みにも効果的です。
メンタル症状に効かせる場合は、良い香りだと自分が感じるかどうか(好みの香りかどうか)も大切です(苦手な香りなら嫌な気分になりますから)。
打撲捻挫などにより瘀血が生じて痛い状況にも用います。

4. 玫瑰花の注意点(理気薬の使用上の注意)
玫瑰花は理気薬に属しますから、理気薬の使用上の注意が当てはまります。理気薬は、散らす作用を持つため、気を消耗し、潤いを傷つけ乾燥させます。したがって、潤いが足りていない陰虚や、気が足りていない気虚には慎重に用いなければなりません。
行気薬(理気薬)という分類は同じでも、中薬によって理気する力に強弱があるため、慎重の度合いにも差が出ます。
玫瑰花は理気(気を巡らす)だけでなく、活血(血流を良くする)も効能として持ちますが、ハーブティーとしてたまに飲むくらいの普通の飲み方であれば、そこまで神経質になる必要はありません。
ただし、玫瑰花を単品で多めで毎日飲むなどの場合は、体質に合っているかどうか(1.気滞や瘀血が体質にあるかどうか、2.虚証があるならどの程度か、など)を確認しましょう。虚証なら飲んではダメというわけではなく、虚証をカバーするもの(補薬)と併用しつつ、気滞や瘀血を改善するために飲んでみても良いでしょう。
5. 香りの良いハーブティーとしても楽しめる!
玫瑰花は他の中薬とともに煎じて飲むほか、ハーブティーとしても楽しめます。漢方薬局やお茶専門店や中国食材店などで販売されています。ハーブティーとして楽しむなら、紅茶と同じいれ方で良いと思います。玫瑰花をティーポットなどに入れてお湯をさし、しばらく待ってから飲みます。
プーアール茶・烏龍茶・紅茶・枸杞の実・なつめ・竜眼肉などと組み合わせてブレンドティーにするのもおすすめです。陰虚があれば、枸杞の実とや桑の実と組み合わせて、気血虚があれば、なつめや竜眼肉と組み合わせると良いでしょう。
ちなみに私は、プーアール茶と玫瑰花を組み合わせるのが好きです。お茶うけに、ドライフルーツの桑の実・刺梨・竜眼肉・なつめを気分でいただきます。
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年







