薬にまつわるエトセトラ 公開日:2024.05.09 薬にまつわるエトセトラ

薬剤師のエナジーチャージ薬読サイエンスライター佐藤健太郎の薬にまつわるエトセトラ

学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

第115回

サイエンスライターになるには?文章をまとめる力の習得方法

 

専門知識と経験は大きな強み

前回に続き、サイエンスライターになるにはどうすればよいかについて、筆者の経験をもとに述べてゆきましょう。
 
これを読んでいるみなさんの多くは薬剤師か、その志望者であると思います。すなわち、医薬について十分な専門知識を持ち、様々な経験を積んでいる――つまり、読者が知りたいと思っている事柄に答える能力があり、「医薬についてのこのような原稿を書いてほしい」という注文に対しても、かなり幅広く対応できるということです。
 
自分にはそんなことはできないよ――と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。自分の知識や能力は、つい当たり前のものと思って過小評価してしまいがちです。しかし、誰もがお世話になる医薬について、専門知識と経験を持つというのは、実のところ非常な強みです。

 

とにかく実践

であれば、あと必要なのは文章をまとめる力のみということになります。文章力アップのために必要なことは、結局のところ「書くこと」に尽きます。もちろん、よい文章に普段から触れること、書き方についての本を読んで学ぶことなども必要ですが、やはり実践に勝るものはありません。
 
幸いにして、現代ではブログやSNSなど、文章を発表する場はいくらでもあります。話題の医薬、仕事の中で起きた笑える話や不思議な話、知られていない薬の話、ふだん口にできない薬剤師の本音など、書くべきテーマもいろいろあることでしょう。
 
書いては反響を見ているうち、どのような書き方をするとわかってもらいやすいか、どう書くと誤解を受けやすいか、どういう内容がバズるかといったことがわかってきます。わかったことを次回の内容に生かして……というサイクルの中で、文章が磨かれてゆきます。
 
実際、書いてみないと何が受けるかはわからないものです。筆者のブログ「有機化学美術館」から例を挙げれば、「雨が降ったときの匂いは何なのか」「赤色はなぜ色褪せやすいか」「インドメタシンはインドと関係があるのか」といったネタに、予想を大きく上回る反響がありました。
 
反響を得やすいという意味では、X(旧Twitter)を活用する手段もありでしょう。140字という制限は厳しいようでいて、うまく使えばかなりの情報量を詰め込めます。限られた字数で必要な情報を伝える技術は書き手として必須ですから、これはよい訓練になると思います。
 
といっても、何を書いてよいかわからない、三日坊主になってしまいそうという方は、「型」を決めて書き続けるとよいでしょう。筆者の場合、「#今日の構造式」というハッシュタグをつけて、毎回3~4ツイートで化合物を毎日ひとつずつ紹介することを続けていました。その期間に、それまで7千人程度だったXのフォロワーが1万8千人にまで増えましたから、やはり継続は力です。
 
こうして継続的なアウトプットを行うためには、インプットをしっかり行う必要がありますので、必然的に勉強をしなければなりません。また、こうして情報を出していくことで、「こういう方法もある」「最近の論文ではこうなっています」といった新しい情報が寄せられ、さらに深く知ることにつながります。書くことは、最も優れた勉強法であるといえます。

 

「伝える」ために

といっても、どう書いていいかわからない、書いてはみたがどうも伝わった気がしない、という方もおられるでしょう。筆者の見るところ、伝わらない文章の多くは、「何を」「誰に対して」伝えるかが絞りきれていないのだと思います。
 
往々にして、知識のある人ほど、あれもこれもと詰め込みたくなってしまう傾向があります。多少の寄り道はいいでしょうが、あまり余分なエピソードを入れると言いたいことがボケてしまいます。
 
書き始める前には、軸となるメッセージをしっかりと決め、それを支える題材をいくつか用意します。そして用意した題材を適切に配列し、メインメッセージに向けて収束するように文章を配置していくのが、筆者の場合のやり方です。
 
また、誰に対してメッセージを伝えたいのか、きちっと絞っておくことも重要です。その相手は何を知っていて何を知りたがっているか、どのようなたとえ話を使えば理解してもらいやすいか、あらかじめ考えた上で書き出すのです。
 
「理解する」とは、単に新しい知識が脳に入るということではありません。すでに脳内にある知識に新しい知識が結びつき、定着することをいうのだ、と筆者は考えています。とすれば文章を書く際には、すでに相手の頭の中にあるであろう知識を見通し、それに結びつけるように書かねばなりません。もし子供が相手なら、流行っているゲームにたとえて解説するなどがその一例です。
 
こうしたことに気をつけつつ、とにかく文章を書いてみること。ライターへの道は、実践のみが開いてくれます。

🔽 サイエンスライターの仕事について詳しく解説した記事はこちら

 
 


佐藤 健太郎(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

佐藤 健太郎
(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

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