薬剤師のお悩みQ&A 公開日:2017.02.21更新日:2023.04.27 薬剤師のお悩みQ&A

第69回 藤本 和子先生

2011年の東日本大震災以降、災害医療の現場は支援する側・支援される側ともに大きく変化してきました。今回は、日本災害医療薬剤師学会の理事を務め、災害医療支援薬剤師の養成に尽力している藤本和子先生に再度ご登場いただきます。
現在の災害医療現場の仕組みや体制、今後災害医療に携わることを希望する薬剤師が活躍するための方法などについてうかがいました。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)

Q
医療救護所や避難所で薬剤師が活動するうえで、おさえておくべきポイントにはどのようなことがありますか。
現地で役立つ具体的な情報があったら教えてください。
災害処方箋の取り扱い方法や、衛生管理の仕方をおさえておこう
災害処方箋の取り扱い方法や、衛生管理の仕方をおさえておこう
災害処方箋の取り扱い方法を確認しよう

 

医療救護所や避難所で発行される災害処方箋。私たちが普段、保険薬局で取り扱う保険処方箋とはどのような点が異なるのでしょうか。

 

災害処方箋とは
1.根拠法:災害救助法
2.処方箋の発行場所:救護所や避難所・救護センターなど、保険医療機関以外の場所
3.調剤の場所:保険薬局以外の医療救護所や避難所など
4.記載事項:
災害医療に関わる処方箋であることを示す「災」などの記号、患者名、処方医、処方場所、処方内容など。
書式や用紙の定めはなく、医師の指示を記した文書などでも良い。医師が口頭で出す指示を、横で薬剤師が書き記したものを処方箋として扱うこともある。
5.患者負担:
県市町と県薬剤師会との災害協定による。ただし、過去の例では患者負担のないケースがほとんど。
6.費用請求先:処方場所の自治体

 

以上が災害処方箋の概要です。
平時に薬剤師が扱う保険処方箋とは異なる点が多いことがわかります。一度相違点を確認しておけば、いざというときに慌てなくて済みそうですね。
なお、上記にもあるように災害処方箋による医薬品の交付には、患者側の自己負担金がありません。災害処方箋から保険処方箋へ切り替えるタイミングは、被災者の状況と自治体が負担する医療費を天秤にかけて検討されますが、対応に苦慮することが多いようです。

 

災害医療の現場における衛生管理

 

学校薬剤師などの活動に参画している薬局では、衛生管理を薬剤師の業務として身近に感じる機会があるかもしれませんが、多くの薬局では衛生管理を薬剤師の仕事だと実感する経験は少ないのではないでしょうか。

 

自治がきちんとしている避難所では、掃除当番を決めて地元の方が自らトイレ掃除を行っていることもありますが、被災直後はなかなかそこまで意識が回らないこともあります。そのようなときこそ、薬剤師の出番。被災地では知見を活かし、トイレ掃除など避難所の衛生管理で活躍している薬剤師がたくさんいます。

 

そこで、衛生管理業務に携わったことのない薬剤師が現場で慌てることがないように、災害医療の現場で役に立つ衛生管理の知識を2つご紹介しましょう。

 
消毒液の簡単な希釈法

災害医療の現場では、メスシリンダーやスポイトなどの器具が使用できない状況にある可能性もあります。
そこで、たとえば消毒液の蓋1杯分を500mLにメスアップすると1%に薄めた消毒液が作れる……といった簡単な希釈法を把握しておくと便利です。「薬+読」にも参考になる記事がありますので、ぜひ読んでみてください。
参考:橋村先生の仕事に活かす! 薬剤師国家試験過去問題  第3回「災害時は薬剤師の知識が公衆衛生を守る!」

 
「スフィア・ハンドブック」による衛生管理の基準

このあとに掲載する第71回の記事でも紹介しますが、「スフィア・ハンドブック」は、被災者が尊厳を守られた状態で回復までの期間を過ごせるよう、援助活動に必要な環境の整え方や方針が記載されたものです。
避難所を衛生的に保つために必要なトイレの数、水道の数などが示されており、被災地では参考になるでしょう。例えば、
・水道の蛇口は250人に1つ
・洗濯場は100人につき1ヵ所
・災害時の受け入れ、一時滞在センターのトイレは50人につき1つ(男女比=1:3)
などの基準が示されています。

藤本和子先生プロフィール
共立薬科大学薬学部卒、薬学博士。共立薬科大学薬理学講座助手、生体内物質の微量測定を中心に脳内物質の研究に従事。2005年より薬剤師卒後教育の生涯学習センター専任教員、2009年より現職の慶應義塾大学薬学部生涯学習センター助教に就任し、既卒薬剤師に必要な学習提供の場を推進している。また、災害医療支援薬剤師の養成、およびSports Pharmacist活動を行っている。

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