“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第62回 捨てないで! ミカンの皮も立派な薬「陳皮」

柑橘類は生薬として使われています。例えば、陳皮(ちんぴ)、橘皮(きっぴ)、橘紅(きっこう)、橘白(きっぱく)、橘絡(きつらく)、橘核(きっかく)、橘葉(きつよう)、青皮(せいひ)、枳実(きじつ)、枳殻(きこく)、香櫞(こうえん)、仏手(ぶしゅ)、仏手花(ぶしゅか)……、漢方薬の配合生薬のなかに見かけたことがあるかもしれませんね。どれも気を巡らせてリラックス作用がありますが、温性・寒涼性の違いや、帰経、効能にそれぞれ持ち味があります。

品種(ウンシュウミカン・ブシュカン・ダイダイ・イチャレモンなど)、部位(皮・白いスジ・種・葉・花・果実)、収穫時期(完熟・未熟)、さまざまなものが使われます。私はこれらを「かんきつシリーズ」と読んでいますが、今回は身近で薬膳にも取り入れやすい「陳皮(橘皮)」についてお話します。

目次

1.そもそも陳皮って?

陳皮とは古いミカンの皮のこと。陳皮の「陳」は「古い」という意味で、古いものほど効能が優れています。たとえば漢方薬の「二陳湯(にちんとう)」には「半夏(はんげ)」と「陳皮」が配合されていて、2つの「陳(古いもの)」が含まれるためそう呼ばれます。

同じミカンの皮でも長期間保存されていないものは、「橘皮(きっぴ)」と呼び、日本で用いられるのはこちらが多いようです。ちなみに「橘皮」のうち、白い部分を取り去ったオレンジ色の部分を「橘紅(きっこう)」、白い部分を「橘白(きっぱく)」といいます。

2.陳皮(橘皮)は理気薬のひとつ

中医学の書籍を紐解くと、陳皮は「行気薬(こうきやく)・理気薬(りきやく)」に分類されます。「理気薬」は気を巡らせて隅々まで流れるようにしたり、気の流れを整えたりする薬のことをいい、気の流通が悪くなって停滞した状態や、気の昇降出入が乱れた状態に対して用います。気の働きについて詳しく知りたい方は連載第34回をご覧ください。

陳皮は五味のうち「辛」と「苦」を持ちます。「辛」はよく動く・よく通す性質があるため、発散性があり、気を通す作用「理気作用」があります。「苦」には乾燥させる「燥湿作用(そうしつさよう)」があります。強く気を通しながら燥湿することで体内の湿邪(=余分な水分の停滞)がこびりついていられないイメージです。

3.加陳皮(橘皮)の効能とは

効能は中医学の文献で次のように表現されています。効能には四字熟語のような文字が並んでいて、一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の「意味」と「効能」が端的に結びついており、イメージを掴むのにとても役立ちます。

四字熟語は、大抵は【前2字+後2字】に分けられます(たまに、ミックスされていることもあります)。例えば「理気健脾」は「理気」と「健脾」に分かれます。中国語は「動詞+目的語」の文法ですから、「理気」は、「調理する→(何を?)→気を」となります。「気を調理する」とは「気を整える・巡らす」といった意味です。

陳皮(ちんぴ)、橘皮(きっぴ)

【基原】
ミカン科Rutaceaeのオオベニミカン Citrus tangerine HORT.ex TANAKA,コベニミカンC.erythrosa TANAKAその他同属植物の成熟果皮。正名は橘皮。日本市場のものはウンシュウミカンC.unshiu MARCOV.およびコウジ C.leiocarpa HORT.ex TANAKAに由来するものである。

【性味】
辛・苦、温

【帰経】
脾・肺経

【効能と応用】
(1)理気健脾(りきけんぴ)
・脾胃気滞(ひいきたい)の腹満・悪心・嘔吐・下痢などに、木香(もっこう)・縮砂(しゅくしゃ)・半夏(はんげ)・枳殻(きこく)などと用いる。

・痰湿阻滞(たんしつそたい)による痞え・腹満・悪心・嘔吐・舌苔が膩などの症候には、蒼朮(そうじゅつ)・厚朴(こうぼく)などと用いる。
方剤例)平胃散(へいいさん)

・脾胃虚弱の食欲不振・少食・腹満などには、人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)などと使用する。
方剤例)六君子湯(りっくんしとう)

(2)燥湿化痰(そうしつかたん)
・痰湿壅肺(たんしつようはい)による胸苦しい・咳嗽・多痰などの症候に、半夏(はんげ)・茯苓(ぶくりょう)・炙甘草(しゃんかんぞう)などと用いる。
方剤例)二陳湯(にちんとう)
(中略)

【使用上の注意】
温燥に偏するので、津虚・実熱には用いない。また、耗気するので、気滞・痰湿がない場合は使用せず、気虚や吐血には慎重に用いる。

※以上、『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より

陳皮(橘皮)は、辛散苦燥(しんさんくそう:辛味により発散し、苦味により乾燥させ)、温性が体内の熱を強めてしまうため、舌赤少津(舌が紅くて潤い不足のもの)、実熱をもつものは慎重に用いること

※上記は『中薬学』(上海科学技術出版社)より抜粋し、筆者が和訳したもの

4.気虚、陰虚、熱がこもっている人は注意

陳皮を含め、理気薬は「辛温香散」、つまり、く・かく・りがあり・らして乾燥させる性質を持つのが一般的です。

理気薬のような気を巡らせる中薬は(気を発散・動かすことで滞りを解消するので)気を傷つけます。そして、温めて乾燥させる温燥性ゆえ、陰(潤い)を傷つけます。このような「気を消耗させて、陰液を傷つける」性質を「耗気傷陰(もうきしょういん)」と言います

したがって、潤いが足りない「陰虚」「津液不足」や、気が足りない「気虚」、熱のある状態に理気薬(特に温性)を用いる際には慎重にならなくてはいけません。理気薬単品を大量に用いたり長期間用いたりすることは控え、配合にも気をつけます。

陳皮がおすすめなのは、「気滞」と「湿邪」がある状態です。例えば、暴飲暴食・消化不良・ストレスまたは薬の副作用でガス・ゲップ・おなかの脹り・吐き気・胃もたれなどがある時、痰や鼻水がたくさん出る時といったような状態です。「湿邪」があるかどうかを見分けるには、舌苔が厚いことがひとつの目安になります。逆に、舌苔が少ない〜全くない人は、潤い不足なので用いる際は注意しましょう。

5.補助薬としての陳皮

陳皮はさまざまな生薬の補助として用いられることが多いです。例えば、人参のような補益作用が強い薬は、腹脹・ガス・もたれ・消化不良など気滞の症状を起こしやすいため、陳皮などの少量の理気薬を配合することで消化をよくして滞らせないようにすることがあります。

そのほか、人参・白朮に配合すると健脾益気を助けて滋滞させず、半夏・茯苓に配合すると化痰を強め、蒼朮・厚朴と用いると燥湿を増強する……という具合に補助薬として陳皮を用います。

ちなみに、人参など補薬の多くは五味のうち「甘」をもちます。「甘」は補う作用がある一方で、動きを止めて停滞させやすく、しつこくて消化されにくい「滋滞(じたい)」傾向があります。

6.自宅で陳皮(橘皮)をつくってみよう

陳皮は自宅でも作れます。なるべく有機栽培のウンシュウミカンを用意するのがおすすめです。説明をわかりやすくするため、ここからは乾燥ミカンの皮のことを、古くても新しくても便宜上「陳皮」と表記します。

【作り方】
1.ミカンを水でよく洗い、しっかり水気を拭きとる。
2.皮をむく。ヘタ部分は汚れがたまりやすいので捨てる。
3.日当たりの良い場所で、ザルやネットに広げて天日干しする。天気の悪い日や夜は湿度が高いので室内にとりこむなどしつつ、カラカラになるまで3~7日間乾燥させる。
4.好きな形にカットする。
5.ビン・タッパーなどの容器、チャック付きのビニール袋(ジップロッ〇みたいな)などに入れて、高温多湿を避けて保存する。

カットにはいくつかの方法があります。

A:手でちぎって親指の爪~親指大くらいの、適当な好きなサイズにちぎる
B:キッチンバサミで5ミリ×5ミリの正方形や、2ミリ×15ミリの細長い棒状に切る
C:ミキサーで粉砕してパウダー状にする

キッチンバサミでカットした陳皮は、見えるようにお料理やお茶に入れるとオシャレかなと思います。

7.陳皮の使い方

自宅で作った陳皮はさまざまな楽しみ方ができます。

飲み物にプラスして
マグカップ1杯分の白湯に対して、ティースプーン1杯くらいが目安です。量は好みで調整してください。プーアール茶・緑茶・ジャスミン茶・紅茶・レモングラスティー・菊花茶などにプラスしても良いでしょう。手でちぎった陳皮は茶葉と一緒にティーポットに入れましょう。ハサミでカットした陳皮はカップにそのまま浮かべると見た目にも良いですね。

お料理にハーブやスパイスの要領で
日本の食文化に欠かせない「七味唐辛子」にも、実は陳皮が含まれています! 七味唐辛子は漢方薬をヒントにつくられた調味料で、含まれる材料の約7種類はほぼ中薬(生薬)で構成されているのです。スープや鍋物、煮物、肉料理、カレーなどに、香りづけ・臭み消し・消化を良くする意味で陳皮を用いてみましょう。

入浴剤として
大きめにちぎったものを、お茶パック・洗濯ネット・手ぬぐい・排水溝のネットなどに入れて、こぼれないように口を結びます。あらかじめ湯船に入れておいてから湯をはると、いい塩梅にふやけてほのかに香ります。

かんたんレシピ:みかんまるごとコンポート
陳皮ではないですが、皮つきの温州みかんをまるごと使ってつくる、とっても簡単なデザートのレシピをご紹介します。有機栽培の温州みかんをよく洗い、鍋に皮つきのみかん丸ごと・糖分・水を適量いれて、好みの感じになるまで適当に煮詰めます。余っている果物や、なつめ・くこの実・竜眼肉があれば一緒に煮るとさらにおいしいです。

一般的に柑橘類の果肉の部分はたいていお腹を冷やすので、胃腸が弱い人や冷え性の人は気をつけますが、火を通して温かくいただくと胃腸や冷えに対してもやさしくなります。

糖分は黒糖・氷砂糖・蜂蜜など好きな甘みで構いませんが、個人的には黒糖がおすすめ。色は黒っぽくなりますがコクが出ますし、女性にはうれしい補血作用があります。蜂蜜も補う作用があるのでおすすめです。糖分も薬膳的にそれぞれ効能があります。興味のある方は調べてみてください。

私は、以前紹介した「白きくらげのお粥」とコンポートを一皿に盛って、デザートにして頂きます。柔らかくなった皮も一緒にまるごと食べられておいしいですよ!

生薬の「かんきつシリーズ」に限らず、柚子・グレープフルーツ・夏ミカンなどの身近な柑橘類は、一般的にリラックスさせる作用(理気作用)をもっています。ストレスがあるとき、イライラやうつうつとした気分の時、なんとなく気分がスッキリしない時には柑橘類の精油成分がオススメです。皮をお風呂に浮かべたり、アロマテラピーを楽しんだり、アールグレイティーを飲んだりするとよいでしょう。

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・惠木弘(著)、戴銘錫(著)、(株)東洋薬行(監修)『地道薬材』樹芸書房 2007年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、 医学気功整体師 、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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