1.Do処方とは?
薬剤師はDo処方となった背景や、Do処方の問題点を理解することが大切です。総合的な視点を持つことで、服薬指導時にどのような視点で患者さんから情報を聞き取ればよいのか、考えることができるでしょう。まずは、Do処方の「Do」とは何か、Do処方が続く要因や問題点、課題について解説します。
1-1.Do処方の「Do」の意味とは?
Do処方とは、前回と同じ処方内容を指すものです。Do処方の「Do」は、英語のdo(~をする)から名付けられたと思っている薬剤師もいるかもしれません。実際には、「前と同じ」を意味するラテン語の「Ditto」の略語であり、「前」という意味が含まれています。処方箋を取り扱う際には、「前回Do」といった使い方は避けた方がよいでしょう。
1-2.Do処方が続く要因
定期的に検査を行っており、検査データや自覚症状などに変わりがない場合は、薬物治療によって症状が安定していると判断されるため、基本的にはDo処方が続きます。検査データに異常や改善が見られれば、処方変更となるでしょう。
また、検査データに問題がなくても、自覚症状などが増減している場合には処方変更が検討されます。
1-3.Do処方が続くことの問題点
Do処方では、不要な薬が処方され続け、適切な薬物治療ができていない可能性があるという問題点があります。処方変更の必要があると思われる患者さんに対して、Do処方が続いている場合には、患者さんからしっかりと聞き取りを行い、医師へ情報提供をするとともに、処方内容の確認や変更の提案などを行うべきでしょう。具体的には、次のようなケースが挙げられます。
● 副作用症状があることを患者さんが医師に伝えていない。
● 気になる点があるものの、患者さんが医師に伝えていない。
● 他医療機関で処方薬をもらっていることを患者さんが医師に伝えていない。
● オンライン診療により患者さんの体調変化を医師が察知できなかった。
処方変更の必要がある患者さんにDo処方が続く要因のひとつとして、患者さんから医師へ自覚症状などについて十分に伝えられていないケースが挙げられます。薬剤師は「症状に変化がないのか」「他医療機関の処方薬と重複していないか」「医師に伝えそびれたことはないか」といったことを確認する必要があります。
1-4.Do処方における課題
不適切なDo処方が続くと、不要な薬剤を服用し続けることになるため、ポリファーマシーが起こる可能性があります。
ポリファーマシーとは、多剤併用することで副作用や有害事象のリスクが高まったり、服薬間違いや服薬アドヒアランスの低下などが起こったりしやすい状況になることです。
ポリファーマシーは、患者さんの不利益になるだけでなく、医療費の増大といった日本の経済にも影響があるため、薬物治療における課題のひとつといえます。
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2.Do処方での服薬指導が難しいと感じる理由
Do処方が続いている患者さんは体調が安定しています。そのため、薬物治療に対する「悩みや不安の有無」や「薬局に求めるもの」が、他の患者さんと異なります。新規の患者さんや処方変更となった患者さんと同じような服薬指導を行っていると、十分な情報が得られにくく、「服薬指導が難しい」と感じるかもしれません。
そんなときは、Do処方の患者さんの心境を理解した上で服薬指導を行う必要があるでしょう。ここでは、Do処方での服薬指導が難しいと感じるケースについて詳しく見ていきましょう。
2-1.毎回同じような質問をしている
毎回、同じような質問を繰り返していると、変化のない薬歴が続いてしまい、Do処方の服薬指導が難しく感じるかもしれません。
状態が安定している患者さんは、長期間、同じ薬を服用しています。処方薬の薬効や用法用量などについて理解を深めている人が多いかもしれません。また、検査値や自覚症状の変化がなく、薬物治療への悩みや不安が少ない患者さんがほとんどでしょう。
そのため、薬剤師が「体調変化」や「気になることがないか」といった漠然とした質問をすると、「特にありません」と返答されてしまい、同じような内容の薬歴が続く傾向にあります。薬剤師は患者さんの心境を踏まえて服薬指導を行うことが大切です。
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2-2.患者さんのニーズをくみ取れていない
Do処方が続く患者さんが病院を受診する理由には、次のようなものが挙げられます。
● 予約日だから
● 検査日だから
風邪などの一時的な症状や体調変化がある場合とは異なり、Do処方が続く患者さんは、治療に対する不安や悩みがないまま、上記のような理由で病院を受診している傾向にあります。薬局に行く目的は薬を受け取ることにあり、「なるべく早く」「なるべく安く」薬を受け取ることが患者さんのニーズといえます。
そうした患者さんに対して、目的と異なる話を薬剤師が長々としてしまうと、患者さんの反応も悪くなるものです。薬剤師は、患者さんのニーズを満たしつつ、服薬アドヒアランスや副作用の有無などについて簡潔に服薬指導を行わなければなりません。患者さんと薬剤師の目的が異なるのが、Do処方での服薬指導が難しいと感じる要因でしょう。
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3.Do処方が続く患者さんへの服薬指導のポイント
薬剤師の中には、Do処方が続く患者さんに対して、服薬指導時にどんな話をすれば、変化のある薬歴を作成できるのか悩んでいる人もいることでしょう。Do処方は、処方薬の薬効や用法用量の説明を簡単に済ませられるという利点もあり、基本情報の更新ができる絶好のチャンスです。副作用の有無や服薬アドヒアランスの確認についても、いつもと異なる視点からアプローチし、情報を得てはいかがでしょうか。
ここでは、Do処方が続く患者さんへの服薬指導のポイントについてお伝えします。
3-1.患者さんの基本情報を更新する
患者さんの基本情報は定期的に更新することが大切です。食事や排便の回数、生活リズムや睡眠状況などを確認することで、薬の副作用やアドヒアランスなどにつなげた指導ができます。
例えば、1日3食食べる習慣があった患者さんが朝食を抜くようになったとしましょう。その背景には、生活リズムや睡眠状況、心境の変化などがあるかもしれません。
● 睡眠剤を服用しても寝つきが悪く、朝起きられなくなった。
● ダイエットで朝食を食べないようにしている。
「朝の薬の服用はどうしているのか」「睡眠剤の服用タイミングは適切か」「低血糖を起こしやすくなったなど、栄養バランスの乱れによる治療の影響はないか」など、確認すべき項目が明確になります。基本情報の更新は、Do処方が続く患者さんへの服薬指導に変化をつけるきっかけになるでしょう。
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3-2.処方薬の副作用からアプローチしてみる
服薬指導では、「体調に変わりないですか?」と漠然とした質問をするのではなく、副作用のイメージができるように伝えることで、患者さんは自身の体調について具体的に考えることができます。
例えば、降圧剤を服用している場合には、めまいやふらつき、歯肉炎、空咳などといった薬剤特有の副作用症状を挙げて、体調を確認するとよいでしょう。特徴的な副作用がない場合は、胃腸障害や眠気、発疹といった、多くの薬で起こり得る副作用を確認するのも一案です。Do処方が続く患者さんへの服薬指導では、より具体的な例を挙げて確認してみましょう。
3-3.季節の変化による注意点を伝える
薬剤の中には、季節の変化によって副作用が出やすくなるものがあります。例えば、気温が上がり、汗をかきやすい春や夏には、利尿作用のある薬の服用で脱水症状を起こす可能性が高まります。そのため、水分補給をこまめにするよう伝えることが大切です。水分制限がある患者さんには、医師から日に摂取できる水分量について指示があるかを確認しましょう。
季節ごとに気をつける点を伝える過程で、いつもと異なる角度から服薬指導を行えます。
3-4.患者さんとの雑談を大切にする
服薬指導では、患者さんとの雑談から得られる情報もあります。例えば、「庭でガーデニングをやっているから夏は手入れが大変」「スポーツジムに通い始めた」といった情報から、服薬指導につなげることもできるでしょう。
薬剤師は、何げない日常会話をただの雑談と捉えず、服薬指導につながる情報を得るチャンスと考えることが大切です。
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4.Do処方で薬剤師に求められる役割
Do処方が続く患者さんへの服薬指導は、副作用や有害事象などの有無をチェックしたり、服用時の注意点を再確認したりすることが大切です。また、患者さんの基本情報の更新や、季節に合わせた注意事項の説明をすることも、Do処方が続く患者さんへの重要なアプローチとなります。その過程で、処方に対する疑問や違和感を持ったら、医師に連絡・相談し、連携を強化することが薬剤師に求められる役割です。
薬剤師には、患者さんからさまざまな情報を得られるようアプローチの幅を広げて、より多くの情報を得ることが求められています。
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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