”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2024.09.10 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

 第106回 「金針菜(きんしんさい)」の効能 花のつぼみの薬膳食材!血虚や気分の落ち込みに

花のつぼみを食材にすることは意外とあります。世界的にはロマネスコ・花ズッキーニ・アーティチョーク・ドラゴンフルーツ、日本ではブロッコリー・カリフラワー・菜の花・フキノトウ・ミョウガなどが有名でしょうか。今回は、花のつぼみのなかでも、薬膳でよく用いられる「金針菜(きんしんさい)」をご紹介します。

1.金針菜(きんしんさい)とは

金針菜は、中国が原産の本萱草(ほんかんぞう)という植物の花のつぼみです。黄色く(=金)、針のような姿かたちをした(=針)、花菜類(=菜)のため、その名がついたようです。ユリのようなオレンジ色の花が咲くことから「黄花菜」、憂いを忘れさせてくれる効能から「忘憂草(ぼうゆうそう)」とも呼ばれます。
 
日本では乾燥品が比較的に手に入りやすく、中華食材店(東京は池袋や上野のほか、外国人が多く住む駅によくあります)やインターネット通販のほか、漢方薬局でも入手できます。生の金針菜は有毒なため、必ず加熱し多食は控えます。
 
いろいろな花のつぼみは、漢方薬(中薬・日本では生薬という)としても、使われます。例えば、解毒作用や抗ウィルス作用がある“金銀花(キンギンカ:スイカズラのつぼみ)”、胆汁の分泌を助ける“茵陳蒿(インチンコウ)”、お腹を温める“丁子(チョウジ)”などが挙げられます。

 
🔽 丁子の効能について解説した記事はこちら

 

さて、薬食(中薬や食材)はどれも必ず、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質か、温めもせず冷やしもしない・寒熱の偏りがない「平(へい)」の性質のいずれかに分類されます。今回紹介する金針菜は「涼性」に分類されます。

 

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

生薬や食べ物の「四気(四性)」

金針菜の四気五味(四性五味)は「涼性、甘味」なので、ざっくりと次のような性質や作用があることが予想できます。

 

● 涼性=やや冷やす性質・冷たい性質。「寒性」ほどは冷やさない。
● 甘味=補う性質。

 

また、金針菜は「肝・腎のグループ」に作用し、これを中医学では「肝経・腎経に作用する(帰経する)」と表現します。

2.金針菜はどんな時に用いられるのか(使用例)

金針菜を調理する際には肉や中薬とともに煮て、汁ごと食すことが多いようです。薬膳の書籍をひもとくと、金針菜には以下のような効果があることがわかります。

 

金針菜(きんしんさい)の効能

 

 

(1)鉄分豊富、血虚の改善に:「補血(ほけつ)」作用

金針菜は鉄分を多く含み、その量はほうれん草の20倍ともいわれます。「鉄欠乏性貧血」にはもちろん、「貧血ではないが血虚体質」という人にもよいでしょう。
 
血液検査上は貧血がなくとも、全身の症状が血虚を示している人はけっこう多いように思います。「血虚」とは読んで字のごとく「血が空虚」「血が不足している」という意味で、金針菜は血を補う「補血作用」を持ちます。
 
血虚の症候としては、唇や爪の色がうすい、動悸、不眠、多夢、健忘、手足のしびれ、髪や皮膚の乾燥、髪が抜ける、髪が細い、爪が割れやすい、二枚爪、眼が疲れる、目が乾く、舌淡、脈細弱、顔色が蒼白あるいはくすんだ黄色でツヤがない(萎黄・いおう)などが挙げられます。
 
女性の場合は、上記に加えて、経血量が少ない、経血の色が薄い、月経後に痛む、経血が出ると頭がフラフラする(頭が空っぽになる)、生理中とても疲れる・頭が働かない、乳汁の量が少ない、乳汁の色や質が薄い、子宮内膜が薄い、早期閉経、卵子が育たない、赤ちゃんの育ちが悪いなども血虚の症候です。
 
これらの原因が血虚であるならば、金針菜の補血作用を活用するとよいでしょう。老若男女問わず用いることができ、血虚がある老年性の眩暈・貧血・耳鳴などにもよいです。

 

(2)心身にこもった熱を冷まして胸苦しい感じをスッキリ:「清熱涼血(せいねつ りょうけつ)」「清熱除煩(せいねつ じょはん)」「寛胸利膈(かんきょう りかく)」作用

金針菜は血にこもった熱を冷ます「涼血作用」があります。これにより心身にこもった熱を取り除き、胸の違和感・胸苦しい感じをスッキリさせてくれ、胸のザワザワ感・ソワソワした落ち着かない感じがとれて、気持ちが安定し、眠りも深くなります。

 

(3)「忘憂草」の名の如く!ストレス対策や悲しみが多すぎるときに:「通結気(つうけっき)」「解鬱(かいうつ)」作用

別名「忘憂草」が示すように、金針菜は気の流れを通し、気分の落ち込みや憂鬱感を解消して、精神を安定させる働きがあります。不眠、ため息が多い状況にもよいでしょう。抗ストレス作用があるためストレス対策に用いられます。
 
西洋栄養学的には、メラトニン様物質(自律神経調整、不眠、抗ストレス)やトリプトファン(ストレス緩和)が含まれます。

 

(4)炎症や化膿などの消炎に:「清熱解毒(せいねつ げどく)」「清熱利湿(せいねつ りしつ)」「清熱涼血(せいねつ りょうけつ)」作用

炎症や化膿の消炎作用も期待でき、眼が赤いときや関節が腫れて痛いとき、尿路感染症などに用いられます。
 
また、夏季の暑さ負けしているときにも、少しひんやりさせて熱のこもりを解消してくれるでしょう。

 

(5)産後の乳汁分泌不全に母乳の出をよくする:「下乳(かにゅう・げにゅう)」作用

妊娠により赤ちゃんに営養がとられたり、出産による出血で血虚が進んだり、乳汁をあげるせいでますます血虚になったりと、女性は「月経・妊娠・出産・授乳」の、どの過程においても血虚(血が不足している状態)に陥りやすい傾向にあります。
 
下乳(げにゅう)とは乳汁を分泌させることです。血虚があると、産後の乳汁の量が少ない・乳汁の色が薄いなど、母乳の“質”や“量”がイマイチになります。漢方薬局には、なんらかの原因で母乳がつまって炎症が起き、産後の乳腺炎に悩む方もよくいらっしゃいます。
 
金針菜は、血虚による乳汁分泌不足には補血が働くほか、化膿・炎症している状態には清熱解毒が働いて消炎してくれます。
 
血虚による「乳汁の質量低下&乳腺炎」のケースはよくみられるため、両方に効能がある金針菜は一石二鳥です。授乳中の「肉(脂っこくない)・野菜・大豆スープ」に「金針菜」をプラスしてみてください。

 

(6)水分の代謝をよくする:「利水消腫(りすいしょうしゅ)」作用

金針菜には水分代謝を改善して、たまっている余分な水の出をよくする利水作用があります。
 
水腫(むくみ)や尿の出が悪いとき、また、血虚が関連する営養不良性水腫にも向いています。

 

(7)さまざまな出血に:「止血(しけつ)」作用

金針菜はいろいろな部位の出血に対して使われます。痔出血・尿血・喀血・嘔血・便血・鼻血、さらには胃・十二指腸潰瘍の少量の嘔血や、肺結核の喀血の補助療法としても金針菜を用います。
 
金針菜は「涼血作用(りょうけつさよう:血の熱を冷ます作用)」があるため、これらの出血がなんらかの「熱」によるケースも対応できる上、出血により損なわれた血を補う「補血作用(血を補う作用)」もあって、非常に扱いやすい食材といえます。

 

(8)胃腸の調子を整える:「利腸胃(りちょうい)」作用

そのほか、金針菜には便通を改善する作用もあります。

3.金針菜(忘憂草・黄花菜)の効能を、中医営養学の書籍をもとに解説

ここでは中医営養学の書籍で紹介されている金針菜の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

金針菜(キンシンサイ)

【基原】
ユリ科の植物の萱草(かんぞう)Homerocallis fulva L.、黄花萱草H. flava L.、あるいは小萱草H.minor MILLの花の蕾。

【別名】
黄花菜、萱草花、忘憂草。

【性味帰経】
甘、涼。肝・腎。

【効能】
養血・止血。

【応用】
1.血痔:金針菜60g、黄精45g、煎じて服用。 ≪食物療法精萃≫
2.月経少、貧血、胎動不安、老人性頭暈、耳鳴、営養不良性水腫:金針菜30〜60gを豚肉(または鶏肉)と煮込んで食す。 ≪雲南中草薬≫

【使用上の注意】
金針菜を食べる場合は、中毒を防ぐため、生のカンゾウや腐ったものは食べず、単品で炒めて食べず、乾燥加工品を食べるのがよいでしょう。

【注意】
金針菜は水に浸して洗った後、煮たり傷めたりして加熱調理して食すのに適している。養血・補虚作用がある。肉と一緒に煮込むと、虚(欠乏)を補って母乳を出し、貧血や胎動不安を治す。精神不安や、煩熱により眠れない人は、常食すると清熱除煩して眠れるようになる。

【参考文献】
1.≪日華子本草≫:“煮て食すと、小便赤渋や身体煩熱を治療し、アルコール依存症を除く。”
2.≪本草綱目≫:“甘、微苦微寒、無毒。通結気、利腸胃。”
3.≪雲南中草薬選≫:“鎮静、利尿、消腫。頭昏心悸、小便不利、水腫、尿路感染、乳汁分泌不足、関節腫痛を治療する。”
 
※『高等医薬院教材 中医飲食営養学(上海科学技術出版社)』を意訳。

4.金針菜の使い方・調理法

日本では乾燥した金針菜が入手しやすく、いわゆる乾物なので長期保存が可能です。単に乾燥させたものと、蒸して乾燥させたものがあります。
 
漂白したものもありますので、漂白した食品を避けたい人は確認しましょう。虫がつかないように燻蒸したものは茶色っぽくなっているようです。
 
金針菜はシャキシャキ食感が楽しく、そこまでクセがないため(やや乾物臭いくらいです笑)、和洋中いろいろな料理に使える便利な食材です。乾燥品はいわゆる“乾物”ですので、保存食としても優秀です。私もいつも常備していて、冷蔵庫の食材が少ないときにはとりあえず金針菜で間に合わせたりします。

使い方は干し椎茸と一緒です! さっと水洗いして、なるべく少量の水に30分以上浸し(硬ければ浸水時間を追加)、柔らかくなったら軽く水を切って、片端の硬い部分を切り落とします。戻し汁に成分が出ていますので、戻し汁も余す所なく使うとよいでしょう。
 
春雨サラダ、スープ、酸辣湯、中華炒め、味噌汁、佃煮、炒飯、中華風マリネ、高野豆腐と黒キクラゲと金針菜の卵とじ…など色々なお料理に活用できます。

 

【簡単レシピ】金針菜の中華風マリネ

私がよく作る「金針菜と黒きくらげの中華風マリネ」のレシピをご紹介しましょう。
 
手抜きなので鍋もまな板も使いません。ガラス製の耐熱容器とキッチンばさみをご用意ください(お酢を使うのでプラ容器保存は避けると安心です)。

 

1.金針菜と黒きくらげ(乾燥)を、それぞれ水で戻します。金針菜はざっくり洗って少量の水で戻し、黒きくらげはたっぷりの水で戻します(私は寝る前に用意して、翌日まで冷蔵庫に放置します。金針菜は水と一緒にチャック付きのビニール袋に入れ、黒きくらげは調理に使う予定の耐熱容器で水に浸します)。

2.戻した黒きくらげは流水でしっかり洗って臭みをとります。水を切って、耐熱容器にそのままの形か、キッチンばさみで細切りにして入れます。

3. 金針菜の戻し汁を2の耐熱容器に入れます。 戻した金針菜は片端の固い部分をキッチンばさみで切って、同じく耐熱容器に入れていきます。

4.電子レンジで加熱します。好みできのこ類をプラスしてもOKです。加熱時間は量によります。雑菌を殺せたらいいので、ここは野性のカンでやりましょう。

5.加熱が終わったら、マリネ液の材料を入れていきます。オリゴ糖(ハチミツなど好みの甘みでいい):醤油:酢:ごま油=大1:大1:大1:小1くらいです。お好みで調整してください。よく混ぜたらできあがりです。

 

仕上げに黒胡椒、花椒、花椒オイル、白ごまなどをかけてもおいしいです。おいしさ重視の私は、さらにザーサイを入れることもあります(笑)
 
私は、今回ためしに、乾燥黒きくらげ30g、金針菜50g、ぶなしめじ2パック、醤油大さじ2半、米酢大さじ1、中国黒酢大さじ1、オリゴ糖大さじ2、胡麻油小さじ1、花椒オイル適量、花椒粉末適量、黒胡椒適量、すり胡麻、ザーサイ味付き50gで作りました。
 
脾胃が弱い人は、キノコやザーサイなどの繊維質が強めの食材は摂り過ぎ注意です。金針菜も黒きくらげも同様です。もっと本格的なおかずにしたければ、旬の野菜を焼いたり、電子レンジで加熱したりして、マリネ液に一緒に漬け込むといいでしょう。
 
保存もできて、なにかと便利な金針菜。ぜひ、じょうずに活用してみてください。

 
 
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪 (著)、小金井 信宏 (翻訳)『中薬の配合』 東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健 (編集) 『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年

 
 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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