DI業務というと、医薬品の情報を集めて、問い合わせに対応するというイメージがあるかもしれませんが、それらの仕事以外にもさまざまな役割を求められることがあります。本記事では、病院などの医療現場でDI業務を担当する薬剤師の仕事内容について詳しく解説するとともに、やりがいや大変なところ、必要なスキルなどもお伝えします。
- 1.薬剤師のDI業務(医薬品情報業務)とは?
- 2.DI業務を担当する薬剤師の仕事内容
- 2-1.収集した医薬品情報の評価と整理・保管・加工
- 2-2.医薬品情報の伝達と周知
- 2-3.問い合わせ対応
- 2-4.委員会への参画
- 2-5.病棟薬剤師などとの連携と支援
- 2-6.適切な安全性情報の入手と整理・活用
- 2-7.医薬品の製造販売後調査への関与
- 2-8.医療従事者や医療関連分野の学生への教育
- 2-9.薬剤師や薬学生の教育と訓練
- 2-10.DI関連の情報科学に関する研究
- 2-11.医薬品や家庭用品、農薬などの中毒情報の収集と伝達
- 2-12.地域におけるDI業務の連携
- 3.薬剤師のDI業務に必要なスキル
- 4.薬剤師のDI業務のやりがいと大変なところ
- 5.DI業務の仕事内容はさまざま
1.薬剤師のDI業務(医薬品情報業務)とは?
薬剤師のDI業務とは、医薬品情報を管理する業務のことです。DIはDrug Informationの略称で、薬剤師が行う業務のひとつという意味で使われたり、製薬企業などの職種として扱われたりします。
病院薬剤師が行うDI業務では、まず、医薬品の最新情報や研究結果などを集めて、専門的な評価を行います。信頼性を確認した医薬品情報については、医師や薬剤師などの医療従事者や患者さんの求めに応じて情報提供します。
そのほかにも、院内の委員会や地域におけるDI業務への参画、医薬品の製造販売後調査への関与、医療従事者の教育といった業務があります。
DI業務は、安全で効果的な医薬品の使用を促進し、患者さんの健康を守れるよう努めることが重要な目的です。
2.DI業務を担当する薬剤師の仕事内容
日本病院薬剤師会が公開している「医薬品情報業務の進め方2018」では、DI業務の仕事内容を12項目に分類しています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

2-1.収集した医薬品情報の評価と整理・保管・加工
DI業務を担当する薬剤師は、医薬品情報の信ぴょう性や情報が発信された時期などを考慮しながら情報収集をして、専門的な評価を行います。
収集する情報は、医療機関が扱う医薬品が中心となりますが、関連する医薬品についての情報も効率よく収集していかなければなりません。
情報収集後は医療機関内で活用しやすいように整理・保管を行い、必要に応じて資料の作成やネットワーク上への公開のために加工します。
2-2.医薬品情報の伝達と周知
集めた情報を医療機関のスタッフへ伝達して周知に努めることは、DI業務を担当する薬剤師の必須業務です。
イエローレター(緊急安全性情報)やブルーレター(安全性速報)といった緊急性の高い情報ほど、速やかに伝達・周知する必要があるでしょう。
緊急性の低い医薬品情報については、問い合わせ時などに対応できるように準備をします。
2-3.問い合わせ対応
DI業務では、医師・薬剤師などの医療機関のスタッフや患者さんからの問い合わせへの対応を行うことも、重要な仕事のひとつです。
回答の内容や緊急性に合わせて、口頭や文書など回答方法を選択し、なるべく根拠となる資料を提示しましょう。また、迅速に対応できたか、医療機関全体に周知する必要はないかといった評価をすることも求められます。
比較的ニーズの高い情報については、再度問い合わせがあった場合に迅速に対応できるように整理したり、院内へ積極的に発信したりすることも大切な仕事です。
2-4.委員会への参画
医療機関には、医薬品の適正使用や安全管理などに関する委員会があります。新規採用医薬品を審議・決定する委員会では、DI業務を担当する薬剤師などが医薬品の安全性や有効性、経済性などについての資料を作成したり、新規採用医薬品の選定に関わったりします。
また、医療安全に関する委員会では、インシデントやアクシデントの事例、有害事象などを把握して、リスクマネージャーなどと協働して対策を検討するでしょう。
DI業務を担当する薬剤師は、院内の委員会へ積極的に参加し、医療に貢献することが求められます。
2-5.病棟薬剤師などとの連携と支援
DI業務を担当する薬剤師は、特定の患者さんについて薬物治療などの問い合わせを受けた場合は、患者さんの背景を把握した上で対応するよう努めなければなりません。そのため、病棟薬剤師と密に連携できる体制を整えておかなければならないでしょう。
また、有害事象や副作用の発生などを把握するために、病棟薬剤師とのカンファレンスを定期的に行ったり、医師や看護師などを含めたカンファレンスに参加したりすることが大切です。
副作用情報などを把握し、必要に応じて医薬品・医療機器等安全性情報制度に報告したり、マニュアルなどで職員に周知・啓発したりすることも求められます。
2-6.適切な安全性情報の入手と整理・活用
医薬品の安全性情報には、厚生労働省やPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)などの公的情報、製薬企業から提供される情報、テレビや週刊誌、インターネットなどから得られる情報があります。
DI業務では、信頼性のある情報の収集を心がけることが大切ですが、テレビやインターネットなどの情報についてもアンテナを張っておくことが必要です。マスメディアの情報は根拠が不十分なものや、話題性が高いため患者さんの不安をあおるものも少なくありません。
DI業務を担当する薬剤師は、テレビやインターネットなどの情報の裏付けを確認し、患者さんや医師などからの問い合わせに対応できるようにしておく必要があります。

2-7.医薬品の製造販売後調査への関与
DI業務では、医薬品の製造販売後の調査に関わることがあります。
製造販売後調査(PMS:Post Marketing Surveillance)の契約やプロトコル確認、使用状況調査、副作用報告などを行います。
2-8.医療従事者や医療関連分野の学生への教育
医療機関では、さまざまな部署に医薬品を保管しているため、医師や看護師など薬剤師以外の医療従事者も、医薬品の正しい取り扱いを把握しておかなければなりません。そのため、薬剤師以外の医療従事者やその実習生に対して医薬品についての教育を行うのも、DI業務のひとつです。
医薬品の適正使用に関するもののほかに、医薬品医療機器等安全性情報報告制度や医薬品副作用被害救済制度といった制度についても教育します。
2-9.薬剤師や薬学生の教育と訓練
DI業務に携わっていない薬剤師であっても、基本的なDI業務を行えるよう知識やスキルを備えておく必要があります。DI業務を担当する薬剤師は、若手の薬剤師や薬学部の実習生に対して、基本的なDI業務について教育を行うことも大切な業務です。
そのため、医薬品情報の評価能力やICTを活用するスキル、電子カルテなどの病院情報システムなどに精通しておくことが求められます。
臨床における知識や経験、統率力などもDI業務には必要なため、こういったスキルを持つ薬剤師を養成することも期待されています。
2-10.DI関連の情報科学に関する研究
DI室には、医薬品関連のさまざまな情報が集まります。DI担当の薬剤師は、これらの情報を評価し、周知の徹底と共有することに加えて、AI技術の活用による研究などに貢献することが期待されています。
昨今は処方データを含む医療ビックデータの利活用が注目されており、医療機関との間で情報共有ができるようになると、さまざまな統計解析が可能になるでしょう。
医療ビックデータの統計結果は、新薬開発などのさまざまな医療分野で活用できます。そのため、DI室はDI関連の情報科学に関する研究へ貢献することも求められています。
2-11.医薬品や家庭用品、農薬などの中毒情報の収集と伝達
DI室では、医薬品や家庭用品、農薬などの誤飲、誤用による中毒について、対処法や処置方法などに関する情報を集めておく必要があります。日本中毒情報センターなども活用して、救急部門に情報提供することも重要な役割です。
また、国内で生物兵器や化学兵器によるテロが発生した場合、その治療方法の問い合わせが、院外問わず寄せられるかもしれません。そういった場合の対応や情報発信の体制を整えておくことも求められます。
2-12.地域におけるDI業務の連携
地域ごとに大学病院や中核病院が中心となって、さまざまな規模の病院や診療所と連携したDI組織網を整備することも、DI担当薬剤師として望まれる役割のひとつです。
また、都道府県病院薬剤師会が開催するDI業務に関する研修会などに参加・協力して、各地域の取り組みなどを学習するとともに、薬局とも連携して広域での協力体制を構築することが期待されています。
3.薬剤師のDI業務に必要なスキル
DI業務を行う薬剤師に求められるスキルには、以下のようなものがあります。
● コミュニケーション力
● 臨床経験
● 複数タスク処理能力
DI業務を担当する薬剤師は、情報提供を行う相手が医師や看護師などさまざまです。それぞれの専門性に合わせた説明を行ったり、資料を作成したりする必要があるでしょう。相手に合わせたコミュニケーションができる能力や、相手の状況を具体的にイメージするための臨床経験も求められます。
また、DI業務では、問い合わせ対応などその場で完了する業務のほか、確認作業や資料作成などに数カ月を要する業務もあります。納期の異なる仕事を同時進行するには、複数のタスクを処理する能力も必要です。
4.薬剤師のDI業務のやりがいと大変なところ
DI業務では、医師や薬剤師などの医療従事者の問い合わせに迅速かつ的確に対応することが求められます。そのため、実際に情報提供した内容が役立った場合には仕事へのやりがいを感じられるでしょう。
また、日進月歩の医療業界において、医薬品の情報はどんどん更新されます。知識の習得に終わりはないため、自分のやる気次第でスキルアップができるのもDI業務のやりがいといえるでしょう。
ただし、誤った情報を提供しないよう最大限の注意を払う必要がある点は、DI業務の大変なところです。誤った情報提供が患者さんの命に関わる可能性もあるため、DI業務は責任を持って務めなければなりません。

5.DI業務の仕事内容はさまざま
DI業務というと、情報収集や問い合わせ対応が主な業務と思われがちです。もちろん大切な業務ではありますが、それ以外にも得られた情報を最大限活用できるよう、さまざまな業務を行うことが期待されています。臨床現場や企業などでの経験が役立つ職種でもあるため、興味のある薬剤師はDI業務担当薬剤師を目指してみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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