
知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第123回 「花椒(かしょう・ホアジャオ)」の効能 冷えによる腹痛・嘔吐・下痢に
お気に入りのスパイスはありますか? 私はいくつかお気に入りのスパイス・ハーブがありますが、「花椒」もそのひとつです。ホール(粒状)で用意してお料理に使うと、とても香りがたちますし、花椒オイルは仕上げの香りづけに便利です。今回は、「花椒」の中医学的な効能についてお話しします。
1. しびれるスパイス「花椒」とは?
花椒は中国山椒のことで、日本でウナギの蒲焼にかけられる山椒は和山椒(日本山椒)のことです。
『中医臨床の中薬学』(東洋学術出版社)によると、花椒は「ミカン科 Rutaceae のサンショウ属植物 Zanthoxylum bungeanum MAXIM.、イヌザンショウ Z. schinifolium SIEB. et ZUCC. などの成熟した果実の果皮。日本産はサンショウ Z.piperitum DC. に由来する。」とあります。
つまり、花椒と和山椒は基原植物が異なりますが、仲間・親戚といった感じの、同属異種の関係です。和山椒も中国山椒(花椒)も、効能は同じです。中国では後者を用いてきたと思われますが、花椒の別名に蜀椒や山椒も存在します(後述の処方薬名を参照ください)。
花椒は、「麻婆豆腐」や「麻辣湯」に入っているスパイスとして知られ、麻辣(マーラー)味の「麻」味を担当しています。「麻」とは舌がじんじんしびれる感覚です。なお、「辣」は舌がヒリヒリ痛くなる感覚で、唐辛子が担当しています。
花椒の四気五味(四性五味)とは
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。花椒は「熱性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」

花椒の四気五味(四性五味)は「熱性、辛味」なので、次のような作用があることがわかります。
・辛味=「通」「行」のイメージ。「通す」「行かせる」「巡らせる」「散らす」。「活血(かっけつ)」「行気」「発散」する作用。
また、花椒は「脾・胃・腎のグループ」に作用し、これを中医学では「脾経・胃経・腎経に作用する(帰経する)」と表現します。
花椒の分類:温裏散寒薬(おんり・さんかん・やく)
中薬学の書籍では、花椒は「温裏散寒薬(おんり・さんかん・やく)」に分類されます。温裏は内臓(=裏:内側)を温めること、散寒は寒邪を散らすことを指します。「温裏薬」「散寒薬」「祛寒薬(きょかんやく)」「温裏祛寒薬」などとも言います。
附子(トリカブト)・肉桂(桂皮)・乾姜・丁子(丁香)・艾葉(ヨモギ)なども温裏散寒薬です。温裏散寒薬の性味は辛熱(辛味+熱性)~辛温(辛味+温性)で、以下のような作用があります。
【温裏散寒薬の作用】
・健運脾胃(けんうん・ひい):脾胃(ひい≒消化器系)の働きを助けること
・散寒止痛(さんかん・しつう):寒邪(かんじゃ:冷え)を散らして痛みを止めること
一部には以下の作用もある。
・助陽(じょよう):陽気を助けること
・回陽(かいよう):陽気を回復させること
温裏散寒薬は「外寒」と「内寒」の両方に用いる
温裏散寒薬は内蔵を温め、寒邪を散らす薬であり、裏寒証を治療します。ここでいう“寒”は、外寒と内寒の両方を指し、温裏散寒薬はその両方に用いるということです。
外寒(外寒入裏・がいかんにゅうり):外来の寒邪=実証
外寒とは外部から人体に寒邪が侵入することを言い、「外寒入裏」は、寒邪がさらに体の奥(内臓)まで入り込んだ状態を指します。
外来の寒邪が体内に入り込んで、もともと人体に備わっている脾胃などの陽気(陽のパワー・温める力)の働きを妨げてしまうと、脘腹冷痛(かんぷくれいつう:胃やお腹が冷えて痛む)・嘔吐・下痢などの症候があらわれます。
内寒:陽虚による冷え=虚証
一方で内寒とは、「その人がもともと持っているはずの温める力(=陽のパワー)が弱いこと(=虚)」=「陽虚」によって起こる冷えを意味します。陽気が衰弱すると、温める力が足りなくなります。
そうすると、寒がる・手足が冷たい・顔色が蒼白・小便清長(尿が多くて薄い)・舌淡苔白・脈沈細(深く押さなければ脈が触れず、細く弱い)、さらにその程度がひどいと、大汗亡陽(大汗をかく)・四肢逆冷(手足がとても冷える)・脈微欲絶(脈が弱くて今にも絶えそう)などの症候があらわれます。
温裏散寒薬は状態に合わせて適当な配合をして用いる
温裏散寒薬は状況に合わせて、ほかと組み合わせて用います。例えば…
・外寒による内侵に加え、表証もともなうとき
→温裏散寒薬+解表薬(げひょうやく)
・寒凝気滞([かんぎょう・きたい]寒邪が凝り固まり、気の滞りがある状態)
→温裏散寒薬+行気薬(こうきやく)
・寒湿([かんしつ]寒邪と湿邪同時にあるとき)
→温裏散寒薬+健脾化湿薬(けんぴ・かしつ・やく)
・脾腎陽虚([ひじんようきょ]脾と腎の陽が不足して冷えているとき)
→温裏散寒薬+温補脾腎薬(おんほ・ひじん・やく)
・亡陽気脱([ぼうようきだつ]陽気が抜けて気脱しているとき)
→温裏散寒薬+大補元気薬(だいほ・げんき・やく)
のように配合して用います。
温裏散寒薬の使用上の注意
温裏散寒薬は、辛熱で乾燥させる性質を持つため、間違って用いると、津液を消耗させてしまう可能性があります。なお、料理に使用されるスパイスの多くは温裏散寒薬ですので、気をつけましょう。
およそ熱証に属すもの・陰虚があるもの・妊婦に対しては、避けるか、慎重に用います。また、季節や気候の寒暖に応じて、用いる量を加減する必要があります。

2. 花椒はどんな時に用いられるのか(使用例)
花椒は、主に以下の4パターンで用いられます。具体的な例を見ていきましょう!
(2)回虫など腸内寄生虫による腹痛・嘔吐に
(3)肺や腎を温めて痰・咳・呼吸困難に
(1)おなかを温めて腹痛・嘔吐・下痢に
中国語は、英語のように動詞の後に目的語がきます。そのイメージで漢字を目で追うとなんとなく、意味が分かります。
<花椒の効能>
・温中止痛(おんちゅう・しつう):「中≒おなか」を温めて、痛みを止める
・暖脾止瀉(だんぴ・ししゃ):脾(≒消化器系)を暖め、瀉(=下痢)を止める
・行気(こうき):気滞(気の滞り)に対して、気を行かせる、気を通す
・燥湿(そうしつ):湿邪(水のダブつき)を乾燥させる
<花椒の使いどころ>
・脾胃虚寒(ひいきょかん):脾胃(≒消化器系)の陽気が不足(不足=虚)して冷えているとき
・脘腹冷痛(かんぷくれいつう):脘(胃)やおなかが冷えて痛いとき
・泄瀉(せっしゃ):軟便や下痢
脾胃虚寒・脘腹冷痛・嘔吐には、人参・乾姜・飴糖を配合して治療します。
(方剤例)大建中湯(だいけんちゅうとう)
なお、大建中湯は、日本では術後イレウス(腸閉塞)予防に用いられることが非常に多いようです。しかし、中医学的に分析してみると、大建中湯単品がドンピシャに合う人は少ないように思います。長く服用する際は、温裏散寒薬の使用上の注意(前述)を意識して用いた方が安全でしょう。
以前、「お腹が冷える」という理由で、大建中湯などを処方されたものの、飲み続けても改善せず、連れてこられた小学校低学年の子がいました。その子の舌は驚くほど真っ赤で(熱証)、舌苔は無く(陰虚)、本当に気の毒に感じたことを覚えています。
使用上の注意に当てはまる体質でありながら、どうしても服用が必要な場合には、個人的な考えではありますが、大建中湯と小建中湯を組み合わせて「中建中湯」くらいのバランスにするか、小建中湯から膠飴を抜いた桂枝加芍薬湯などのほうが無難ではないかと思います。
また、陽虚による慢性的な水様性下痢・腹痛・冷えには、附子・乾姜(乾燥した生姜)などと用います。
(方剤例)椒附丸
寒湿による腹痛・冷え・水様下痢・吐き気・嘔吐などに、蒼朮・厚朴・陳皮などを配合して治療します。
外用の治療法として、炒って熱くした花椒を布で包み、痛む患部に当て、温めて止痛する方法もあります。
(2)回虫など腸内寄生虫による腹痛・嘔吐に
花椒は殺虫止痛(さっちゅう・しつう)の効能を持ち、回虫などの腸内寄生虫が引き起こす腹痛・嘔吐・吐蛔に用います。単品で、あるいは、烏梅・乾姜・黄連などと配合して治療します。
(方剤例)烏梅丸(うばいがん)
(3)肺や腎を温めて痰・咳・呼吸困難に
花椒は辛熱性なので、辛さで体内を駆け巡り、温め、寒湿邪を散らします。
≪本草綱目≫には、花椒について以下のような記述があります。
“寒湿を散らし、鬱結を解き、宿食を消し、三焦を通し、脾胃を温め、右腎命門を温め、回虫を殺し、泄瀉を止める。”
“椒は純陽の物、その味は辛くて麻(しびれ)、その気は熱い。肺に入って散寒して咳嗽を治す。脾に入って除湿し、風寒湿痹・水腫瀉痢を治す。右腎に入って補火し、陽の衰え・足の弱り・慢性下痢などの証を治す。”
まとめると、花椒は肺と腎を温めて寒湿邪を除くため、寒湿が関係する痰・咳・喘(呼吸困難)にも用いることがあります(→益火止喘(えきか・しぜん))。腰痛・足の冷えなどにも用います。
(方剤例)椒苓丸
3. 花椒の効能を、中医学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学の書籍で紹介されている花椒の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。
花椒(カショウ)
【分類】
温裏薬 『中薬学』(上海科学技術出版社)
散寒薬 『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
【処方用名】
蜀椒・山椒・川椒・花椒・椒紅・椒皮・巴椒・サンショウ。
【基原】
ミカン科 Rutaceae のサンショウ属植物 Zanthoxylum bungeanum MAXIM.、イヌザンショウ Z. schinifolium SIEB. et ZUCC. などの成熟した果実の果皮。日本産はサンショウ Z.piperitum DC. に由来する。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
ミカン科の低木または小木の花椒 Zanthoxylum bungeanum MAXIM. あるいは青椒 Z. schinifolium Sieb. et ZUCC. の乾燥した成熟果皮。我が国のほとんどの地域に流通しているが、四川省産がより良い。秋に果実が割れたら、共通のヘタの上部をハサミで切り、果実のヘタ、不純物、種子を取り除き、天日で乾燥させる。生用。
『中薬学』(上海科学技術出版社)
【性味】
辛・熱。小毒。
【帰経】
脾・胃・腎。
【効能】
温中(おんちゅう)・止痛(しつう)・殺虫(さっちゅう)。
【応用】
1. 脾胃虚寒・脘腹冷痛・嘔吐・泄瀉などに用いる。花椒は、温中止痛・暖脾止瀉することができる。脾胃虚寒・脘腹冷痛・嘔吐には、人参・乾姜・飴糖を配合し、大建中湯で治療する。また、炒って熱くした花椒を布で包み、痛む患部にあて、温めて止痛する。もしくは、寒湿による泄瀉に、蒼朮・厚朴・陳皮などを配合して治療する。
2. 回虫が引き起こす腹痛・嘔吐・吐蛔に用いる。花椒は殺虫止痛の効能をもつ。単品あるいは他の中薬と配合して用い、よく烏梅・乾姜・黄連などと配合して烏梅丸にする。
【文献摘要】
≪本草綱目≫“寒湿を散らし、鬱結を解き、宿食を消し、三焦を通し、脾胃を温め、右腎命門を温め、回虫を殺し、泄瀉を止める。”“椒は純陽の物、その味は辛くて麻(しびれ)、その気は熱い。肺に入って散寒して咳嗽を治す。脾に入って除湿し、風寒湿痹・水腫瀉痢を治す。右腎に入って補火し、陽の衰え・足の弱り・慢性下痢などの証を治す。”
【用量・用法】
・2~5g。外用適量。…『中薬学』(上海科学技術出版社)
【使用上の注意】
陰虚火旺には禁忌。
■椒目(しょうもく):花椒の種子。
【性味】苦・寒。
【帰経】脾・膀胱。
【効能】行水・平喘。水腫脹満・痰飲喘咳などに用いる。用量2~5g。
※【分類】【処方用名】【基原】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【分類】【基原】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量・用法】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの
花椒は料理をおいしくするスパイスであるとともに、本格的な薬効を持つ中薬でもあります。お腹の強い冷えを取り除き、冷えによる胃痛・腹痛・下痢・嘔吐のほか、回虫などの治療に活用されます。
温裏散寒薬の中でも特に辛熱薬は作用が強めで“気合が入った”薬物ですので、温裏散寒薬に共通する使用上の注意は頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
4. 花椒の注意点(温裏散寒薬の使用上の注意)
温裏散寒薬全般に言えることですが、温裏散寒薬は温めつつ乾燥させる性質を持ちます。したがって、使い方を誤ると津液を消耗させてしまう可能性が多分にあります。特に、辛熱薬は注意が必要です。
熱証に属す(西洋医学の発熱ではないことに注意が必要)場合、陰虚がある場合や、妊婦に対しては、使用を避けるか、慎重に注意して用います。また、季節や気候の寒暖によって心身の状態は変化するので、それに応じて使用量を加減しつつ用いることが大切です。
また、花椒の項の『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)の【使用上の注意】に、
“陰虚火旺には禁忌。“
とあります。「陰虚火旺」とは、体を潤し冷ます“陰”が不足(陰虚)すると、相対的に身体を温める“陽”が多くなり、「ほてり」や「のぼせ」が現れやすくなること。これを「陰虚火旺」とか「虚熱」と言います。
例えば、「熱証」である皮膚の炎症や痒みがあるとき、更年期障害で「陰虚火旺」によるホットフラッシュがひどいとき、そのほか、「陰虚」や「陰虚火旺」による乾燥・ほてり・のぼせ・舌紅・舌苔が少ない~無苔・裂紋舌…などあるときは、使わないことが望ましいです。
5. 花椒はどこで購入できる?
中薬の花椒・山椒は漢方薬局で販売されています。漢方問屋が扱うものと、スーパーで手に入るものは、ざっくばらんに言えば同じものです。ただ、おそらく漢方問屋の花椒・山椒は基原植物どおりということになると思います。
お料理に使うときにはホール(粒状)で購入して、炒めものをつくる時にはまずフライパンに油と花椒ホールをそのまま入れて、油に香りを移して使います。あるいは、使う直前にミルでひいてお料理に使うと、格段に香りが良いです。花椒オイル(花椒油)は、インターネット販売や中国系スーパーで見かけますし、自作もできます。
花椒は果皮ですが、その中にある黒い種は椒目(しょうもく)といって、花椒とは真逆の寒性(冷やす性質)を持っています。水分代謝をよくし、むくみ・痰・咳・呼吸困難などの治療に用います。
すいぶん昔の話ですが、椒目をたまに購入される常連のおばあさまがいらっしゃいました。新米だった私は、「いったい何のために、どう使っているだろう?」と興味津々でしたが、結局聞けずじまいで、そのことを今でも少しだけ後悔しています。
花椒・山椒を含む製品は、【使用上の注意】があるように、それなりに体質や状況を選びます。まずは中医学の専門家にご相談するのがおすすめです。
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年
・ウチダ和漢薬『生薬の玉手箱』
・西正暁(著)、島田光生(著)et al.『大建中湯による周術期管理のサポート』
・犬塚央(著)『大建中湯は腸閉塞再発予防に有効?【長期投与に関する明確なエビデンスこそないが,経験的に再発の減少へ寄与している】』日本医事新報社







