薬剤師国家試験過去問 公開日:2019.05.13 薬剤師国家試験過去問

薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!

第35回 自覚なく進行する視野傷害…。緑内障をコントロールするには?

厚生労働省研究班の調査によると、緑内障は、我が国における失明原因の第1位を占めており、日本の社会において大きな問題として考えられています。2000年から2001年にかけて日本緑内障学会が行った大規模な調査(以下多治見スタディ) によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は約5.0%であることが判明しました。自覚症状に乏しいまま徐々に視野が狭窄もしくは部分的に視野が欠損していく緑内障に対して、現在、多種類の作用機序を有する点眼薬が使用されているほか、新規の薬剤も発売されています。それらの薬剤も含めて第102回薬剤師国家試験問298から緑内障に使用される点眼薬を確認しましょう。

【過去問題】

第102回 薬剤師国家試験 問298-299のうち問298から出題

問 298-299

56歳男性。一般用医薬品を購入するため薬局を訪れた。現在使用している処方薬について薬剤師が確認したところ、持参したお薬手帳から、以下の点眼薬を使用していることが判明した。
ラタノプロスト点眼液 0.005%(2.5mL/本) 1本
1回1滴 1日1回 両目点眼
カルテオロール塩酸塩点眼液2%(持続性)(2.5mL/本) 1本
1回1滴 1日1回 両目点眼
また、お薬手帳には、点眼薬による治療開始前に測定された眼圧が記載されていた。
(眼圧)右 28mmHg、左 27mmHg

問 298(病態・薬物治療)

この患者の病態とその治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • 1この患者は正常眼圧緑内障である。
  • 2眼圧コントロールが不良となり視神経が高度に障害されると、その機能は薬物治療によっては回復しない。
  • 3ラタノプロストは、毛様体における房水の産生を抑制し眼圧を低下させる。
  • 4ラタノプロストの副作用に虹彩色素沈着がある。
  • 5カルテオロール塩酸塩は、ぶどう膜強膜流出経路からの房水の流出を促進し眼圧を低下させる。

<解答>2,4

解説

  • 1:
    眼圧の基準値は10~21mmHgである。該当患者は眼圧が右28mmHg、左27mmHgとのことから緑内障であるといえます。
  • 2:
    視神経は一度高度に障害されると、不可逆であるため、薬物療法によってその機能を回復させることはできません。
  • 3:
    ラタノプロストはプロスタグランジンF2α製剤であり、ぶどう膜強膜流出路からの房水の流出を促進させることで眼圧を低下させます。
  • 4:
    ラタノプロストをはじめとするプロスタグランジン製剤は、副作用として虹彩や眼瞼への色素沈着を起こすことがあります。
  • 5:
    カルテオロール塩酸塩はアドレナリンβ受容体遮断薬です。毛様体のβ2受容体を遮断することで血管を収縮し、毛様体における房水の生成を抑制することで眼圧を低下させる房水の産生を抑制し、眼圧を低下させます。

– 実務での活かし方 –

自覚症状が少ない緑内障

上記で掲げた多治見スタディを詳細に検証すると、緑内障有病率約5.0%(40歳以上)とのことから、20人に1人の割合で緑内障の患者がいるということになります。
この調査のなかで、自覚症状の欠如を表すデータが記されています。緑内障を指摘された患者のなかで、既に緑内障と診断されていたのは、全体の1割しかおらず、残りの9割の人が緑内障でありながら未治療であった、というものです。緑内障の有病率は、年齢とともに増加傾向にあり、急速に高齢化を迎えている日本において、今後ますます患者の数は増えていく可能性が考えられます。

緑内障の原因「眼圧」

緑内障の原因となるのは眼圧ですが、眼圧とは、房水の循環(図1) によって一定の圧力が眼内に発生し、眼球の形状を維持している圧力のことを指します。

緑内障とはこの眼圧が上昇して眼球が硬くなると、視神経が障害され視野が狭窄され、やがて失明する可能性があるという疾患です。患者の高齢化、初期の症状変化に対しての自覚症状が乏しい緑内障ですが、早期発見・早期治療によって失明という危険性を減少させることが可能性です。

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表1:緑内障の分類

分類 原因 特徴など 多治見スタディにおける発症割合
広義 狭義
原発緑内障 原発開放隅角緑内障 房水流出障害が起因 隅角正常・眼圧 3.9%
正常眼圧緑内障 不明 隅角正常・高眼圧・視神経障害
原発閉塞隅角緑内障 房水流出の遮断 隅角正常・眼圧正常・視神経障害 0.6%
続発緑内障 他の眼疾患・全身疾患・薬物使用 外傷・手術・副腎皮質ステロイド使用 0.5%
発達緑内障 胎生期の隅角形成異常 早発型と遅発型、他の先天異常併発 0%

緑内障の治療法

緑内障の治療法としては、薬物療法、レーザー療法、手術療法など多彩な手段があります。そのなかでも薬物療法としての点眼剤は、その効果の高さと重篤な副作用発現の低さで重要視されています。主な作用機序は①房水の産生抑制、②房水の排出促進です。

表2:各薬剤の作用機序

薬剤 作用機序 房水流出促進 房水産生抑制原因 注意事項
    線維柱帯-シュレム管を介した流出路(90%) ぶどう膜強膜を介した流出路(10%)    
プロスタグランジン製剤 プロスタノイドFP受容体を刺激し房水の排出を促進 〇(プロストン系) 〇(プロストン系)   子宮収縮・乳汁移行・眼瞼部多毛・色素沈着・上眼瞼溝深化
α1遮断製剤 眼局所の交感神経α1受容体を選択的遮断     術中虹彩緊張低下症候群
α2作動製剤 眼局所の交感神経α2受容体を選択的刺激   めまい・眠気
非選択性β遮断製剤 眼局所の交感神経β受容体を遮断     気管支攣縮・気道閉塞
β1選択性β遮断製剤 眼局所の交感神経β受容体を遮断     心筋収縮力低下
非選択性交感神経刺激製剤 交感神経刺激 閉塞隅角緑内障
ROCK阻害製剤 Rhoキナーゼ阻害     結膜充血
副交感神経刺激製剤 副交感神経刺激作用にて毛様体筋収縮により隅角を広げる     刺激感・霧視
参考/参天製薬株式会社、ファイザー株式会社、アルコンファーマ株式会社、千寿製薬株式会社  各社医薬品インタビューフォーム

事例

プロスタグランジン系薬剤を確認!

多種類が存在する緑内障治療の点眼剤ですが、強力な眼圧降下作用と全身性の副作用の少なさから、プロスタグランジン系製剤が第一選択とされています。現在の主なプロスタノイドはPGE2、PGI2、TXA2、PGD2、PGF2αであり、それぞれに対応するプロスタノイド受容体は8種類(FP、EP1~EP4、DP、IP、TP)が同定されています。

表3:プロスタグランジン系薬剤一覧

  プロスタノイド プロスタノイド受容体 薬剤名(代表的薬剤)
イオンチャネル開口系(プロストン系)     イソプロピルウノプロストン(レスキュラ®)
プロスタグランジン誘導体系(プロスト系) PGF2α FP ラタノプロス(キサラタン®)
トラボプロスト(トラバタンズ®)
タフルプロスト(タプロス®)
ビマトプロスト(ルミガン®)
EP受容体作動系 PGE2 EP2 オミデネパグ イソプロピル(エイベリス®)
参考/参天製薬株式会社、ファイザー株式会社、アルコンファーマ株式会社、千寿製薬株式会社  各社医薬品インタビューフォーム

新規プロスタグランジン系薬剤の登場

表3に示したように、代謝型PG 製剤であるプロストン系とPGF2α誘導体への作用を持つプロスト系薬剤と、2018年に約10年ぶりに新規作用機序としてPGE2誘導体への作用を持つ薬剤が発売されています。これまでの各PG 誘導体は、カルボン酸体として生理活性を有しているものの、眼表面で生理活性化した場合、結膜充血や眼痛などの眼刺激症状が強く発現します。そのため、薬剤構造内のカルボキシル基をイソプロピルエステル化し、薬剤が角膜を透過するときに、角膜内のエステラーゼによりカルボン酸体に加水分解されることで、本来持つ生理活性を発揮する薬剤となっていました。

2018年に発売されたオミデネパグ イソプロピルは、PG系薬剤に分類はされていますが、構造内にPG骨格を持さない非PG骨格系薬剤です。作用受容体も異なり、平滑筋に広く分布しているEP2受容体に作用し既存のPG製剤では、主に線維柱帯-シュレム管を介した流出路か、ぶどう膜強膜を介した流出路のどちらかでした。しかし、この薬剤はその両方の経路を使って、房水流出促進を促すことができます。患者への使用にあたり、併用禁忌としてタフロプロスト製剤、既存のPG製剤と異なる点としては、重要な副作用として黄斑浮腫があり、他の緑内障治療薬との併用には注意が必要となること。ただ現時点では虹彩色素沈着の注意事項はないので、既存のPG製剤を使用しているけれども、虹彩色素沈着の副作用発現に留意が必要な患者のニーズには応えることが可能な薬剤の一つと思われます。

高齢化に伴い、今後増加が予想される緑内障患者への啓蒙活動が必要です。薬局内の待合などに閲覧用として何気なく視野確認のポスターや冊子を常備することで、促進もできます。これを機会に、ぜひ皆さんの薬局にも置いてみませんか?

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橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター。

ファーマブレーングループ オフィス・マントル:http://mantle-1995.com

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター

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