薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2023.12.25公開日:2023.11.14 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師の勤務先別のやりがいとは?やりがいを感じられないときの対処法も解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

薬剤師の就業先は多岐にわたり、それぞれ異なったやりがいや魅力が存在します。しかし、実際に働いているうちに、就職前に思い描いていたイメージと違う面ばかりが気になり、仕事へのやりがいや情熱を失うことがあるかもしれません。能力を発揮してイキイキと働くためには、就職前に各勤務先の特徴を把握しておくことが大切です。今回は、病院・薬局・ドラッグストア・企業で働く薬剤師のやりがいや魅力、そして大変なことを紹介するとともに、やりがいがないと感じたときの対処法をお伝えします。

1.病院薬剤師のやりがい・魅力とは

病院薬剤師は、病院における全ての医薬品の取り扱いを担い、入院処方箋の調剤に加えて注射や輸液の混注、抗がん剤の調製、院内製剤の製造、外来や病棟での服薬指導や治験業務などに取り組みます。厚生労働省が発表した「2020年度薬剤師統計の概況」によると、2020年時点で病院や診療所に勤めている薬剤師は、全体の約20%でした。
 
参照:令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省

 

1-1.病院薬剤師のやりがい・魅力

病院薬剤師のやりがいは、チーム医療の一員として患者さんの治療に積極的に携われることです。治療方針を決定するカンファレンスでは、薬学的な立場からの意見を求められ、薬の専門家であると実感できるでしょう。高度医療や急性期を取り扱う病院であれば、希少疾病などの症例に触れることができ、薬剤師としての経験値を上げることやキャリア形成にも役立ちます。
 
昨今は外来で抗がん剤治療を行うケースも少なくありませんが、このような場面で活躍しているのが、認定資格となるがん専門薬剤師です。抗がん剤治療の症例が多い病院では専門薬剤師の存在はより重要視されており、これまで学んできた専門知識を存分に生かせます。そして、入院患者さんの症状が落ち着いて退院していくときや、患者さんに「ありがとう」と言われたときにやりがいを感じる人も多いようです。

 

1-2.病院薬剤師の大変なこと

重篤な疾患や希少疾病の治療に関わる機会も多く、薬学知識のアップデートが常に欠かせません。また、入院患者さんへ対応するため、当直や土日の出勤が求められます。そして、さまざまな職種の医療従事者が在籍するチーム医療を円滑に進めるため、適切なコミュニケーションスキルが求められます。働き方や人間関係の構築などにおいて、大変と感じる点があるかもしれません。とはいえ、最先端医療の中で薬剤師としてのスキルを高めたい方にとっては、大きな学びとなるでしょう。

 
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2.薬局薬剤師のやりがい・魅力とは

同じく「2020年度薬剤師統計の概況」によると、就業先として薬局に勤務する薬剤師が最も多く、全体の約60%となっています。薬局薬剤師は処方箋を基に調剤・服薬指導するほか、服薬期間中のフォローアップやトレーシングレポート(服薬情報提供書)の作成、そして在宅訪問管理指導などを行います。

 

2-1.薬局薬剤師のやりがい・魅力

薬局薬剤師のやりがいは、患者さん一人一人を継続的にサポートできることです。慢性疾患の患者さんの場合は長い付き合いとなるパターンも多く、服薬指導の際も薬の説明だけでなく患者さんの趣味や生活の話を聞く場面も少なくありません。
 
以前、筆者が服薬指導する中で、患者さんが薬を飲まずに捨てていたと発覚したことがあります。理由を聞くと「飲むタイミングが難しく、自分には要らない薬と思ったが、先生には言いづらくて相談できなかった」と話してくれました。本人の了承を得た上で医師に報告したところ、医師と患者さんが改めて相談を行い、生活背景や症状経過から処方中止に。患者さんからは「薬をゴミ箱に捨てるのは罪悪感があったがどうしたらよいか分からなかった。先生としっかり話し合えてよかった。ありがとう」という言葉をもらい、お役に立てたとうれしく思ったことを覚えています。患者さんと密なコミュニケーションを取りつつ、薬学知識を生かして健康に貢献できるのは薬局薬剤師の魅力でしょう。

 

2-2.薬局薬剤師の大変なこと

患者さんを待たせずに薬を渡すために、薬局薬剤師はスピーディーで正確な調剤スキルが求められます。患者さんは病院受診後に来局するため、医師に聞かれた内容と重複する質問をすると気分を害するケースもあり、話し方にもテクニックが必要です。こうした多忙さや患者さんとの人間関係が大変だと感じることもあるでしょう。その一方で、調剤スキルの向上につながったり、患者さんとのコミュニケーションスキルを高める機会が増えたりと、患者さん個々の健康を支える薬剤師としてのスキルアップが可能です。

 
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3.ドラッグストア薬剤師のやりがい・魅力とは

ドラッグストア薬剤師の主な仕事は、第一類医薬品などの販売をはじめ、OTC薬や健康食品についての相談対応です。調剤併設店では処方箋調剤も行います。厚生労働省の報告ではドラッグストアに勤務する薬剤師数は発表されていませんが、ドラッグストアは近年ますます市場が拡大し続けている業界です。多くの人にとって健康情報へアクセスできる最も身近な場所であり、店舗数増加にともないドラッグストア薬剤師のニーズもますます高まると予想されます。
 
参照:時系列データ|商業動態統計(METI/経済産業省)

 

3-1.ドラッグストア薬剤師のやりがい・魅力

ドラッグストア薬剤師のやりがいは、患者さんの症状や生活背景に合った商品を医師の処方によらずに提案できることです。近年では、スイッチOTC薬の種類も増えつつあり、セルフメディケーションをサポートする薬剤師がより求められるようになりました。健康に悩みを抱えて来店した方へのカウンセリングによって、自分の持つ知識を基に数多くの薬の中から適切なものを提案することは、やりがいにつながります。
 
また、「あなたに相談してよかった。ありがとう」と声をかけられることもあり、職務を全うできていると感じられるでしょう。そのほか、商品販売の工夫で売上アップにつながることもあり、達成感を得られます。

 

3-2. ドラッグストア薬剤師の大変なこと

患者さんに適切な薬を薦めるには、日々新しく発売されるOTC薬の特徴を把握することが大切です。毎日の業務における品出しやポップ作成など、薬と直接関わらない仕事もあり、モチベーション維持が難しいときもあるでしょう。日々の学びや、薬剤師としての在り方に悩むことがあるかもしれません。その一方で、幅広い薬学知識を利用して地域の人の悩みを解決できる機会を得るチャンスも得られます。

 
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4.企業薬剤師のやりがい・魅力とは

医薬品関係企業に勤めている薬剤師は、全体の約12%。内訳としては、研究開発職、医薬品の営業を行うMR(医薬情報担当者)、治験に関わるCRC(治験コーディネーター)やCRA(臨床開発モニター)などです。また、食品メーカーや化粧品メーカーで製品の品質管理などを担う管理薬剤師、自社製品の医薬品情報をMRや医療関係者に提供する学術職など企業薬剤師の仕事はさまざまです。

 

4-1.企業薬剤師のやりがい・魅力

企業薬剤師のやりがいは、業種によって異なります。例えば、研究開発職などの仕事では、新薬開発によってこれまで治療できなかった患者さんの助けになるというやりがいがあります。患者さんから直接「ありがとう」という言葉をもらう機会は少ないものの、開発に関わった医薬品が世に出て、多くの人の命や健康を救ったときに、これまでの苦労が報われたと感じるのではないでしょうか。
 
また、MRであれば、流通や情報提供に関わる企業薬剤師は正しい情報の共有や、必要なときに必要な場所へ薬を届けることで、安全で適切な薬物治療が行えるようにサポートするという大切な役割があります。創薬や薬の流通、情報提供という立場からより多くの人々の健康を守る非常にやりがいのある仕事です。

 

4-2.企業薬剤師の大変なこと

企業薬剤師の仕事は、調剤薬局や病院といった臨床薬剤師に比べると募集自体が少ないため、就職するのは簡単ではありません。研究開発では、有機合成化学や創薬化学などの高度な知識や経験を求められ、博士号もしくは修士号取得者のみ応募が可能とされている企業もあります。また、ノルマが存在する職種では、計画を達成できないと社内評価へ影響するシビアな世界です。実力や経験が問われる点で、大変さを感じるかもしれません。その反面、実力が重視されるため、自分の力を試したいと考える人には、大きなやりがいに変わります。

 
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5.薬剤師の仕事にやりがいを感じられなくなったときの対処法

薬剤師として日々の業務を行っていると、さまざまなきっかけでやりがいややる気を失うことがあります。気持ちをリフレッシュさせると改善できる場合もありますが、原因によっては自分らしく働くためにも適切な対策が必要です。

 

5-1.やりがいを感じられなくなる主な原因

どのような職場であっても、人間関係の悩みでやりがいを見失う人は少なくありません。例えば、薬局内では同じメンバーと仕事をする場面が多いため、対人問題が生じると大きなストレスとなり、仕事が苦痛になりがちです。
 
さらに、給与や待遇、労働環境もモチベーションに関わる要素です。給与と仕事内容が見合っていないと転職を検討する薬剤師もいるでしょう。また、一人薬剤師や24時間開局している店舗など、自分の希望するペースでの勤務が難しいと自分の生活スタイルに合った職場で働きたいと感じることもあります。
 
そのほか、自分の知識・技術不足を感じる、毎日同じような仕事が続くのも、やりがいをなくす原因として挙げられるでしょう。

 
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5-2.やりがいを感じられなくなったときの対処法

人間関係や労働環境、待遇などが原因となる場合は、同僚や上司に相談すると改善できるケースがあります。店舗内での解決が難しいときは部署異動をお願いすることで、自分らしく働ける環境を整えることもできるでしょう。実力不足や単調な毎日に悩んでいる人はスキルアップのための勉強に取り組むのもおすすめです。認定薬剤師や専門薬剤師の取得は、より専門的な業務を任されるきっかけになります。
 
そして、今の職場や職種が自分に合っていないと感じる人は、転職を検討するのも一つの方法です。自分がどのような薬剤師を目指すのか、どのような働き方をしたいのかなどを明確にして、自分らしく働ける転職先を探しましょう。

6.薬剤師としてのやりがいを見失ったときは広い視野で考えてみよう

薬剤師はさまざまな場所で働いており、職種によってやりがいや魅力、大変なことが異なります。仕事を続けていると自分の想像と違うなど、やりがいを感じられなくなることもあるかもしれません。仕事へのモチベーションを上げるには、原因に応じた対策を行うとともに、今の職種を選んだときの初心やかけられてうれしかった言葉を思い出してみましょう。それでも今の仕事に魅力を感じられない場合は、転職も含めた広い視野で「自分に合った仕事とは何か」を考えてみてはいかがでしょうか。

 
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執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。