薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.09.06公開日:2024.07.25 薬剤師のためのお役立ちコラム

ハイリスク薬とは?特定薬剤管理指導加算の算定要件や服薬指導のポイントを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

ハイリスク薬は、一般的な薬剤に比べると副作用などのリスクが高いイメージがあります。薬局薬剤師として、ハイリスク薬について患者さんへ指導するとなると、身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、ハイリスク薬の特徴や指導するときのポイントを理解すれば、自信をもって患者さんの治療を支援できるでしょう。本記事では、ハイリスク薬の概要や特徴、特定薬剤管理指導加算の算定要件・点数についてお伝えするとともに、「ハイリスク薬の服薬指導が苦手」という人に向けて、服薬指導・薬歴記入のポイントやヒヤリ・ハット事例についても解説します。

1.ハイリスク薬とは

ハイリスク薬とは、医薬品の中でも特に、副作用や医薬品に関する健康被害などに対する安全管理が必要な薬剤を指します。日本薬剤師会が2020年(令和2年)4月に改訂した『「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)』では、ハイリスク薬の定義について、以下の3つの分類に含まれるものとしています。

 

■ハイリスク薬の定義(3分類)
1. 厚生労働科学研究『「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月)』において「ハイリスク薬」とされているもの
2. 投与時に特に注意が必要と考えられる「治療領域」の薬剤
3. 投与時に特に注意が必要と考えられる「性質をもつ」薬剤

 

なお、以下に解説するハイリスク薬は、特定薬剤管理指導加算の対象外となる医薬品も含まれています。特定薬剤管理指導加算などの算定対象となる薬剤の一覧については、厚生労働省の「診療報酬情報提供サービス」に掲載されているので、算定の可否を確認したい場合は活用しましょう。

 

1-1.分類1:厚生労働科学研究『「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月)』において「ハイリスク薬」とされているもの

「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月)』では、ハイリスク薬を「特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)例」としており、以下の特徴をもつ医薬品をハイリスク薬としています。

 

■ハイリスクとされる医薬品
1. 投与量等に注意が必要な医薬品
2. 休薬期間の設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品
3. 併用禁忌や多くの薬剤との相互作用に注意を要する医薬品
4. 特定の疾病や妊婦等に禁忌である医薬品
5. 重篤な副作用回避のために、定期的な検査が必要な医薬品
6. 心停止等に注意が必要な医薬品
7. 呼吸抑制に注意が必要な注射薬
8. 投与量が単位(Unit)で設定されている注射薬
9. 漏出により皮膚障害を起こす注射薬

参照:「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月)|厚生労働省

 

なお、「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルは平成30年改訂版が作成されており、上記と同様の内容が記載されています。
 
参照:「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成 30 年改訂版)|厚生労働省

 

1-2.分類2:投与時に特に注意が必要と考えられる「治療領域」の薬剤

特に注意が必要と考えられる治療域の薬剤については、以下の薬効分類に含まれる医薬品をハイリスク薬とするとされています。

 

■特に注意が必要と考えられる治療域の薬剤
1. 抗悪性腫瘍剤
2. 免疫抑制剤※
3. 不整脈用剤※
4. 抗てんかん剤※
5. 血液凝固阻止剤
6. ジギタリス製剤※
7. テオフィリン製剤※
8. 精神神経用剤(SSRI、SNRI、抗パーキンソン薬を含む)※
9. 糖尿病用剤
10. 膵臓ホルモン剤
11. 抗HIV剤
※特定薬剤治療管理料対象薬剤(TDM対象薬剤)を含む

参照:「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)|日本薬剤師会

 

「特定薬剤治療管理料」とは、医科診療報酬の特定疾患治療管理料のひとつで、特定薬剤治療管理料1・2があります。

 

■特定薬剤治療管理料1・2の違い
区分 主な要件 算定回数
特定薬剤治療管理料1 血中濃度を測定して投与量を精密に管理した場合
(ジギタリス製剤や抗てんかん剤など)
月1回
特定薬剤治療管理料2 サリドマイド製剤やその誘導体の処方・調剤を実施した場合に、患者さんや製薬企業などに対して必要な対応を行った場合

 

病院だけでなく薬局でも、治療領域に注意が必要な薬剤を扱うケースは少なくありません。1から11に該当する薬剤を扱う場合は、治療領域を意識した指導や管理が求められます。

 

参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

1-3.分類3:投与時に特に注意が必要と考えられる「性質をもつ」薬剤

投与時に特に注意が必要と考えられる「性質をもつ」薬剤については、日本病院薬剤師会の薬剤業務委員会において指定したハイリスク薬で、以下の特徴をもつ医薬品が挙げられています。

 

■特に注意が必要と考えられる「性質をもつ」薬剤
1. 治療有効域の狭い薬剤
2. 中毒域と有効域が接近し、投与方法・投与量の管理が難しい薬剤
3. 体内動態に個人差が大きい薬剤
4. 生理的要因(肝障害、腎障害、高齢者、小児等)で個人差が大きい薬剤
5. 不適切な使用によって患者に重大な害をもたらす可能性がある薬剤
6. 医療事故やインシデントが多数報告されている薬剤
7. その他、適正使用が強く求められる薬剤(発売直後の薬剤など)

引用:「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)|日本薬剤師会

 

なお、「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)では、入院経験のある患者さんについては、病院薬剤師から入院中の指導内容を確認することが求められています。

2.特定薬剤管理指導加算の算定要件・点数

服薬管理指導料の加算である特定薬剤管理指導加算は、2024年度の調剤報酬改定で3区分に見直されました。それぞれの点数は以下の通りです。

 

■特定薬剤管理指導加算の点数
区分 主な算定要件 点数
特定薬剤管理指導加算1 新規処方 10点
● 用法用量の変更
● 副作用の発現・服用状況などの変化 など
5点
特定薬剤管理指導加算2 抗悪性腫瘍薬などを調剤する薬局薬剤師が服薬管理や情報提供などを行った場合 100点
特定薬剤管理指導加算3 ● RMPに関する資料を使った説明
● ジェネリック医薬品への変更や、医薬品の供給状況による銘柄変更についての説明
5点

参照:調剤報酬点数表|厚生労働省

 

2024年度の調剤報酬改定で、特定薬剤管理指導加算1が見直され、特定薬剤管理指導加算3が新設されました。それぞれの算定要件について見ていきましょう。

 
🔽 2024年度診療報酬改定について解説した記事はこちら

 

2-1.特定薬剤管理指導加算1の算定要件

特定薬剤管理指導加算1は、ハイリスク薬など特に安全管理に関する説明が必要な医薬品が患者さんに処方されている場合、以下のケースにおいて必要な指導を行うことで算定できます。

 

■特定薬剤管理指導加算1を算定するケース
● ハイリスク薬などの新規処方
● ハイリスク薬などの用法や用量の変更
● 副作用の発現 など

 

複数のハイリスク薬が処方されている場合には、全ての薬剤に対して薬剤ごとの特徴を踏まえた服薬指導を行う必要があります。
 
しかし、ハイリスク薬であっても、特定薬剤管理指導加算の対象範囲外の疾患に対して使用する場合は、加算の算定ができません。薬剤がハイリスク薬かどうかだけではなく、患者さんがその薬剤をどの病気に対して使用するかも確認した上で算定する必要があるでしょう。
 
参照:平成22年度調剤報酬改定に関するQ&A|日本薬剤師会

 

2-2.特定薬剤管理指導加算2の算定要件

特定薬剤管理指導加算2は、連携充実加算を届け出ている医療機関で抗悪性腫瘍剤を注射された患者さんに対して、抗悪性腫瘍薬などを調剤する薬局薬剤師が、以下を実施した場合に、患者さん1人につき月1回まで算定できます。

 

■特定薬剤管理指導加算2の算定で必要な業務
● 患者さんのレジメンの確認と薬学的管理・指導
● 電話などにより服用状況や体調変化などの確認
● 医療機関へ情報提供

 

「特定薬剤管理指導加算1」に比べると算定要件のハードルは高いですが、患者さんへの支援が評価される加算となっています。

 
🔽 特定薬剤管理指導加算2について解説した記事はこちら

 

2-3.特定薬剤管理指導加算3の算定要件

特定薬剤管理指導加算3は、安全性などの説明を必要とする医薬品が処方された患者さんに対して以下の対応を行った場合に、当該医薬品が最初に処方された1回に限り算定できます。

 

■特定薬剤管理指導加算3の算定に必要な説明・指導
1. 特に安全性などの説明が必要な医薬品について医薬品リスク管理計画(RMP)に基づき製造販売業者が作成した当該医薬品に関する安全管理などの資料を患者さんに対して最初に用いた場合
2. 調剤前に医薬品の選択に係る情報が特に必要な患者さんに説明および指導を行った場合

 

1については、適正使用や安全性などについて十分な指導・情報提供を行うこととされています。
 
2については、ジェネリック医薬品がある先発医薬品について先発医薬品を選択する患者さんや、供給状況が安定していない医薬品について銘柄変更を行う患者さんへ説明を行ったケースが該当します。
 
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 
🔽 特定薬剤管理指導加算3について解説した記事はこちら

3.ハイリスク薬の薬学的管理指導のポイント

薬剤師がハイリスク薬の薬学的管理指導を行うときは、医師からの説明内容を患者さんから聞き取り、治療に関する理解度を確認する必要があります。患者さんの情報(体質や既往歴、併用薬、アレルギー歴など)を収集し、処方内容に疑義が生じた場合は、医療機関に照会、情報提供を行うことが求められます。
 
特に外来患者さんの場合、医師や薬剤師などの医療従事者が服薬管理を常に行えるわけではないため、ハイリスク薬による副作用の初期症状や対処法について、患者さんに理解してもらえるよう指導することが重要です。

4.ハイリスク薬の服薬指導時における注意点と聞き取り例

「特定薬剤管理指導加算1」を算定できるハイリスク薬について、薬学的管理指導を行うときに注意すべき事項があります。服薬指導の注意点とともに、具体例を挙げて解説します。

 

4-1.ハイリスク薬の服薬指導時に注意すべき項目

「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)』では、ハイリスク薬の服薬指導を行う際に注意すべき項目について紹介されています。薬効群によって異なる事柄はあるものの、共通する項目は以下の5つです。

 

1.患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
2.服用患者のアドヒアランスの確認(飲み忘れ時の対応を含む)
3.副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育
4.効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
5.一般医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事との相互作用の確認

参照:「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(薬局版)|日本薬剤師会

 

4-2.ハイリスク薬の服薬指導時の聞き取り例

上記の5つの注意点を踏まえて、例えば、抗悪性腫瘍薬を処方された患者さんに対して服薬指導を行うケースでは、以下のような聞き取りが考えられます。

 

● 「病院で点滴治療はしてきましたか?」
聞き取りにより、治療中のレジメンが分かります。処方内容の妥当性を判断するときに役立つほか、点滴治療で使用した薬剤の副作用もフォローアップできるでしょう。
 
● 「前回のお薬は余っていませんか?」
アドヒアランスの確認を行います。アドヒアランス不良だと判断した場合、患者さんの生活に合った服薬マネジメントを行いましょう。
 
● 「吐き気や下痢、手足のしびれなど日常生活に支障をきたす副作用はないですか?」
副作用の確認です。服薬指導で伝えるべき副作用対策が明確になります。
 
● 「腫瘍マーカーはいかがでしたか?」
● 「画像検査の結果については医師より説明されましたか?」
抗悪性腫瘍薬の効果判定ができ、がんの進行度が確認できます。
 
● 「別に飲んでいる薬はありますか?」
飲み合わせのチェックを行います。抗悪性腫瘍薬の副作用に対して、どのような対応をしているかを確認できます。

 
🔽 アドヒアランスについて解説した記事はこちら

 

4-3.ハイリスク薬の服薬指導が難しいとされる要因

ハイリスク薬は薬効群や薬剤ごとの特徴を理解し、幅広い視野をもって服薬指導をする必要があります。この点において通常の医薬品と比べて、ハイリスク薬の服薬指導は難しいといえるでしょう。
 
例えば、抗悪性腫瘍薬の服薬指導では、前述した内容に加え、薬剤や病気に対する不安など、患者さんの治療に対するメンタルサポートの必要性についても考えなければいけません。また、副作用に対して支持療法の提案をする機会が多い点も、ハイリスク薬である抗悪性腫瘍薬の服薬指導の特徴でしょう。
 
薬剤に対して画一的な指導をするのではなく、ハイリスク薬の服薬指導では、一つひとつの薬剤の特徴を理解し、目の前の患者さんに必要な指導を行うことが大切です。

 
🔽 服薬指導について解説した記事はこちら

5.ハイリスク薬の薬歴の書き方

服薬指導で確認、指導した内容を薬歴に記録することは、患者さんを継続的に支援するために重要な業務のひとつです。
 
ハイリスク薬の薬歴のポイントとして、服薬状況や体調変化、副作用の有無など「調剤管理料」の算定要件を満たすように記載することが挙げられます。加えて、経過や治療上の問題点を誰が読んでも分かるように、具体的に記録することを意識するとよいでしょう。

 
🔽 調剤管理料について解説した記事はこちら

 

例えば、糖尿病薬の場合には、副作用である低血糖発生の有無だけではなく、「副作用の頻度」「どのように対応しているか」「具体的な症状」「食事の回数や量」など具体的な内容を記録することで、次回以降の服薬指導の際、副作用の経過や食事量の変化に気づくことができます。
 
服薬指導で患者さんの経過を細かく確認し、ハイリスク薬による治療上の課題や今後想定される体調変化を継続的にフォローできるよう薬歴に記録しましょう。

 
🔽 薬歴について解説した記事はこちら

6.ハイリスク薬のヒヤリ・ハット事例を紹介

患者さんに健康被害は発生しなかったものの、見逃すと大きな被害を招いたかもしれない「ヒヤリ・ハット事例」のうち、10%程度がハイリスク薬に関するものであったという報告があります。実際にあったハイリスク薬に関するヒヤリ・ハット事例を見てみましょう。
 
参照:【3】ハイリスク薬に関するヒヤリ・ハット|日本医療機能評価機構

 

6-1.糖尿病薬の追加による事例

2週間前に2種類の糖尿病薬が追加となったが、低血糖のため緊急入院となり、追加薬剤のうち1種類中止となった。しかし、次の受診の際に中止となった薬剤も処方されており、これまでの経緯を把握していた薬局薬剤師が医療機関へ疑義照会を実施し、正しい処方へと変更された。

 

6-2.抗悪性腫瘍薬の服薬スケジュールに関する事例

抗悪性腫瘍薬を1週間服用、1週間休薬するプロトコルにて治療中のはずが、処方箋には連日服用するよう指示があった。患者さんに確認したところ医師からの説明はなかったとのことで、疑問を感じた薬局薬剤師が疑義照会し、正しい服薬スケジュールに変更となった。
 
服用後のリスクが高いハイリスク薬で調剤過誤を起こしてしまうと、患者さんに大きな健康被害を生じる可能性があります。今回紹介した事例のように、患者さんの経過を聞き取り、疑義が生じた場合は医療機関に確認することが大切です。

 
🔽 疑義照会について解説した記事はこちら

7.ハイリスク薬を扱う上で薬剤師に求められることとは

患者さん個々に合った服薬指導をするには、服薬状況や体調変化、副作用の有無などの患者情報を収集する必要があり、患者さんや医療機関とのコミュニケーションが必要となります。
 
特に間違った服用が重大な有害事象につながりやすいハイリスク薬に対しては、服用中の注意点を正確に伝えたり、服薬状況の詳細を聞き取ったりする必要があるため、高いコミュニケーションスキルが求められるでしょう。
 
また、ハイリスク薬は投与量や相互作用に注意が必要な薬剤が多いため、各薬剤に関する知識を身につけ、さまざまな視点から処方内容の評価を行う知識や経験も求められます。
 
コミュニケーションスキルを生かして得られた患者情報と薬学的知識をもとに、薬剤師が処方を評価・薬学的管理指導を行うことが、患者さんの最適な治療につながります。

8.薬剤師による薬学的管理指導がハイリスク薬の安全管理につながる

ハイリスク薬は副作用などの健康被害に対する安全管理が必要な薬剤であり、薬剤師が適切な管理、薬学的管理指導を行わなければいけません。患者さんにとって安全な治療を進めるためには、薬剤師として患者さんや医療機関から患者情報を集めるためのコミュニケーションスキルと、薬学的知識が求められます。
 
また、ハイリスク薬の調剤過誤を起こさないために、普段からヒヤリ・ハット事例に目を通すことも重要です。ハイリスク薬の服薬指導に自信をもって臨めるように、日々自己研鑽しましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。