第83回 道下 太英子先生
薬局にも個の医療を提供する時代がやってきた!?
遺伝子検査を通し、患者さん一人ひとりに適した最良の薬物療法、運動療法、食事療法を提供できる薬局を目指す「ハーティ薬局」。
今回は、ハーティ薬局を経営する女性薬剤師、道下太英子社長に薬局と遺伝子検査のコラボレーションによる患者さんへの新しい服薬指導の在り方についてうかがいました。
遺伝子検査事業を始めて10年。これからは、遺伝子検査事業をはじめたきっかけの一つである「糖尿病の予防」や、生活習慣の改善を通した健康サポートをさらに推進していきたいと考えています。なぜなら、糖尿病予防は、食事療法、運動療法の指導という形で薬剤師や栄養士が積極的に関与していける分野だからです。私にとって、そして他の薬剤師や栄養士にとっても、やりがいにつながるのではないでしょうか。
糖尿病に関する遺伝子については、国が立ち上げたミレニアムプロジェクトにおいて日本人特有の糖尿病発症に関する遺伝子がいくつか同定されました。病気の発症に関わる遺伝子のため、遺伝子検査の結果の扱い方を誤ると、前にも述べたように差別につながる可能性もあるので、その点に留意しつつ、糖尿病予防に関するサポートを推し進めたいです。
現在、糖尿病予防とともに進めたいと考えているのが認知症治療への早期介入です。
実は、認知症に関しても近年「認知症にかかりやすい遺伝子ApoEε4」という遺伝子が見つかりました。
認知症は早期に発見・治療介入すると進行を抑え、重症化を防ぐことができるというデータもあることから、今後開発を進めていきたいと考えています。ただ、認知症にかかりやすい遺伝子を持っていることを知ることが良いことばかりとは限りません。「あなたはアルツハイマーのリスクが高いですよ。両親から遺伝子を引き継いでいるようです。早く治療したほうが良いですよ」と言われたらどう思いますか。
「ありがとうございます、じゃあ早く対処しなくてはならないですね」と前向きに受け止められる人もいれば、そうではない方もいます。海外では自殺してしまったという例もあります。ですから、一歩ずつ段階を踏んで進むのが大切と考えます。
例えばアルコール検査キットのように食道がんの予防ができたり、アルコールの摂取量を抑えられたりというところからスタートして、遺伝子検査に対する認知度を徐々に高めながら進めて、地域の人たちの健康に役立てていきたいと考えます。そして、既存の薬局の枠を超え、患者さんたちの疾病予防、治療のための情報やツールを提供する、地域包括ケアの中でなくてはならない「かかりつけ薬局」を目指していきたい。そう考えています。
「調剤薬局事業」と「遺伝子分析事業」が効果的に結びつくことで、一人ひとりの患者さんが安心して、自分自身の体質に基づいた薬を服用することができるテーラーメイド医療の確立を目指す。また、自分の体質を正確に把握することで、健康で快適な生活を一日でも長く続けるためのサービスの提供に尽力している。